「レセプトのオンライン請求義務化」,「マイナ保険証に係る課題」,「医療関係の人材派遣」,「特定健診(集団)」,「次期診療報酬改定」等について議論

 中京西部医師会と府医執行部との懇談会が10月27日(金),府医会館にて開催され,中京西部医師会から16名,府医から9名が出席。「レセプトのオンライン請求義務化」,「マイナ保険証に係る課題」,「医療関係の人材派遣」,「特定健診(集団)」,「次期診療報酬改定」をテーマに議論が行われた。

〈注:この記事の内容は10月27日時点のものであり,現在の状況とは異なる場合がございます〉

レセプトのオンライン請求の義務化について

 レセプトのオンライン請求に関して,返戻再請求が原則オンライン化されたが,以前の紙による返戻再請求の方が医療機関にとってはシンプルでよかったというご意見もいただいている。また,オンライン請求が開始された際,請求が集中したためにサーバー側が対応できず,期限内にレセプトが受付できなかったという事案も発生している。
 政府は医療DXを進めているが,現場を無視して強引に進めると国民にも多大な迷惑がかかるということは,オンライン資格確認,マイナ保険証の一連の騒動を鑑みれば一目瞭然であり,会員の先生方がオンライン請求の義務化に関しても同じ問題が潜んでいるのではないかと感じるのも至極当然のことである。
 レセプトのオンライン化に関する政府の方針については,光ディスク等で請求している医療機関については令和6年9月までに原則としてオンラインへ移行することとしているが,「移行計画」を提出することにより1年単位で経過措置的な猶予が与えられ,また,紙レセプトの医療機関については改めて届出を行うことで引続き紙レセプトでの請求が可能となっている。日医としても,オンライン化が困難な医療機関には免除措置の届出漏れがないよう十分な周知が必要であるとしているが,今後,原則義務化の例外対象となった医療機関に不利益が生じないよう厚労省に働きかけることが必要であると考えている。
 府医としては,政府が国策としてオンライン請求の義務化を推進するのであれば,オンライン資格確認のような強引な進め方は厳に慎むべきであることは当然として,政府にはオンライン請求システムが全医療機関,すべてのレセコンでスムーズに問題なく使えるようにする責任と義務があるという認識を日医とも共有し,今後の議論を注視していきたいと考えている。また,オンライン請求への移行にあたっては,実際のところ,レセコンのベンダーによる医療機関へのサポートが重要となるため,この点についても日医と認識を共有し,厚労省が業者をしっかりと指導・監督するよう働きかけていくことが必要だと考える。

 その後の意見交換では,今後の医療DXの進め方について懸念が示された。
 府医としても,医療DXの推進に反対するものではないが,その過程で起こる様々な問題に国がきちんと対応しないまま,なし崩し的に前へ進み,それについていけない人,取り残される人が出ないかをしっかり見守り,対応していく必要があるとの認識を示した。

マイナ保険証に係る課題について

 在宅医療におけるオンライン資格確認については,国から「居宅同意取得型」という方法が示され,初回のみマイナ保険証をモバイル端末等で読み取ることで,2回目以降は当該医療機関との継続的な関係のもと訪問診療等が行われている間,被保険者証番号をもってオンライン資格確認ができるとされている。しかし,この方法においても患者がマイナ保険証を作ることを前提としているため,在宅療養中の患者にはマイナ保険証の取得が困難であるという根本的な問題が解決されるわけではない。当面は,マイナ保険証がない患者に発行される「資格確認証」での対応が現実的だと思われる。
 なお,「居宅同意取得型」の利用にあたっては,マイナ保険証の読み取り・資格確認のためのモバイル端末等の導入やレセコンの改修に対する費用の補助が併せて示されている。
 2026年度中の導入が検討されている次期マイナンバーカードについては,今年6月9日に閣議決定された「デジタル社会の形成に関する重点計画」の記載を見る限り,医療現場にどのような影響を与えるのか,まだ詳細は不明である。
 府医としては,医療DX全般には反対しないが,オンライン資格確認の義務化の経緯でも明らかなように,拙速な進め方では医療現場に大きな負担がかかるため,日医とともに監視し,医療現場を無視した仕様変更等がなされないよう政府を正していくべきと考えている。

 その後の意見交換では,地区からマイナンバーカードについて,家族が代理で取得の手続きをしたとしても,受取りは本人でなければならない等,在宅患者にとって取得のハードルが高いシステム自体に問題があると指摘があり,モバイル端末を使った「居宅同意取得型」の本人確認システムの導入が予定されているが,当初からの導入が検討されるべきであったとして,国の拙速な進め方に疑問が投げかけられた。また,モバイル端末による本人確認においても,暗証番号の入力など在宅療養中の高齢者には対応が難しいことに加え,資格確認にはマイナンバーカードの取得が前提になるという根本的な問題の解決には至らないことから,在宅医療の現場での実用性に懸念が示された。今後は在宅医療だけでなく,救急医療や災害時にも活用できる資格確認システムの構築と一体的に進められるべきであるとの意見が挙がった。

医療関係の人材派遣について

 医療・介護・保育分野において,人材紹介会社が,内定・就職の際に就職お祝い金を支給することを謳って転職希望者を募集する例は以前より見受けられ,厚労省としても,人材不足に付け込んで紹介手数料を稼ぐ悪質な業者を取り締まるために,以下のような対応が行われている。

  • 平成29年改正職業安定法や関係指針において,手数料等の情報開示義務や返戻金制度の推奨,就職後2年間の転職勧誘の禁止などを規定し,平成30年1月1日から施行。
  • 令和3年4月1日から職業安定法に基づく指針が改正され,就職お祝い金の支給が原則禁止。
  • 令和2年度には医療・介護・保育の各分野の職業紹介事業に係る協議会を開催し,適正な職業紹介事業者の基準を策定。同基準をもとに,令和3年度に適正な事業者を認定する制度を創設し,令和5年3月現在で49社を認定し公表(※同認定制度の創設には日医も参画)。

 令和5年2月からは,職業紹介事業者の法令違反の疑いについて,都道府県労働局に医療・介護・保育求人者向け特別相談窓口を設置し,相談を受け付け,寄せられた情報を基に必要な対応が行われている。しかし,実際には,厚労省が令和3年度に人材紹介業の約4,300事業者に行った定期的な調査では,お祝い金に関する違反が8件見つかるなど,引続き問題も指摘されている。
 内閣府の規制改革会議でもこの問題が取り上げられており,厚労省は実態調査を実施し,今年度内に紹介事業者への集中的指導監督の実施や規制強化を検討することとしており,今後の動向を注視していきたいと考えている。問題があった場合には,労働局の相談窓口にご報告いただきたい。

 その後の意見交換では,府医より,悪質な紹介業者に対する自衛的な手段として,府医が従来から取組んでいるドクターバンクの充実を図るとともに,女性医師の復職支援などに取組んでいく必要があるとの考えを示した。また,今後,医療に携わる人材の確保には賃上げも必要になるとの認識を示し,その財源となる診療報酬アップをしっかりと要望していきたいとした。

特定健診(集団)について

 府医では,特定健診は市民が病気を早期発見するきっかけとして欠かすことのできない事業であり,より多くの市民に受診いただけるよう特定健診委員会等で検討していきたいと考えている。
 現在,京都市内の小学校を会場とした健診が中止されていることにともない,市民は予約をした上で,所定の日に区役所・支所へ出向かなければならず,受診の敷居が高くなっていると考えられる。市民の立場で受診しやすい環境を整えるためには,小学校での健診等,より多くの選択肢を用意することが必要であると考えている。
 実施主体である京都市が小学校での健診再開に難色を示している以上,以前のようにすべての小学校で健診を開催することは難しいが,府医としては少しでも受診機会を増やすことができるよう引続き,粘り強く京都市との協議を続けていく考えである。
 特定健診委員会からの意見に対し,京都市の回答には,11月に各地区医への協力依頼と併せて,区役所・支所か小学校かの二者択一ではなく,折衷案を含めた詳細な意向確認のアンケートを実施する考えが示されており,その回答を踏まえて特定健診委員会および地区特定健診担当理事連絡協議会において協議していきたい。

 その後の意見交換で,地区からは,京都市とは書面でのやりとりのみで顔を合わせて議論ができておらず,一方的に決定されている印象であると指摘があり,普段あまり医療機関にかからず,健康への関心が低い人が気軽に近くで健診を受けられる環境を整備することが要望された。

次期診療報酬改定の展望について

 令和6年度診療報酬改定について,9月29日に厚労省から社会保険審議会医療保険部会,医療部会に基本方針のたたき台が提出されており,その内容は,①物価高騰・賃金上昇,経営の状況,人材確保の必要性,患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応,②全世代型社会保障の実現や,医療・介護・障害福祉サービスの連携強化,新興感染症等への対応など医療を取り巻く課題への対応,③医療DX等の推進による質の高い医療の実現,④社会保障制度の安定性・持続可能性の確保,経済・財政との調和―という基本認識が示されている。
 すでに中医協において8月に第1ラウンドの議論が終了し,10月から第2ラウンドとして本格的な議論が始まっている。第1ラウンドの議論の内容については,京都医報9月15日号の保険医療部通信に「令和6年度診療報酬改定の論点<その1>」にて既報のとおり,最も影響があるのは,改定の時期の変更であると考えている。
 従来,4月改定であったものが6月改定に後ろ倒しとなった。これまで3月上旬に示される告示・通知を受けて,4月までの約1カ月という短期間で医療機関やベンダーが改定作業を余儀なくされ,非常に大きな負荷がかかることが課題であった。そこで,3月上旬の告示・通知は従前のまま,6月に改定となったことで,改定内容の周知や作業期間に余裕が生まれることになる。さらに,日医はベンダーが大きな恩恵を受けることから,保守費用やリース料などを引下げるべきだと主張している。なお,薬価改定は従来の4月改定となるため,留意が必要である。
 次に,6月には外来医療に関する議論の中で,かかりつけ医機能と生活習慣病対策について議論されている。かかりつけ医機能については,支払側から機能強化加算など既存のかかりつけ医機能を評価する点数を整理すべきとの意見が出されている。一方で診療側の日医の委員は,かかりつけ医機能では複数の医療機関が連携して地域医療を面で支えることが重要であると強調し,その評価を求めている。
 生活習慣病対策では,支払側からは高血圧や糖尿病の患者に特定疾患療養管理料が多く算定されている一方で,生活習慣病管理料の算定が少ないことを挙げ,整理を求めており,特定疾患療養管理料の算定要件に患者への診療計画書の交付を追加することも提案されている。診療側の日医の委員からは,面としてのかかりつけ医機能の強化という観点から,特定疾患療養管理料の対象疾患の拡大を求める意見が出されており,今後の議論を注視していきたいと考えている。
 診療報酬改定に向けて,府医では基本診療料の引上げを近医連などの場で強く訴えかけており,日医にも提言しているところである。松本日医会長も,今回の診療報酬改定は従来の改定に加えて,物価高騰や賃金上昇への対応,新型コロナへの対応という三つの論点があるとの認識を示しているが,府医としても物価高騰や光熱費の上昇等が医業経営を圧迫しており,スタッフの賃金上昇への対応も含めて,医業経営を安定させるためには基本診療料の引上げが不可欠であり,また,新型コロナに限らず新興感染症への対応も含め平時からの感染症への対策が重要であることから,多くの医療機関が適切な感染対策を講じるためにも基本診療料の引上げが必要だと考えている。
 なお,財源の問題から基本診療料を引上げることは困難との意見もあるが,平成22年度改定で財源の制約を受けて,診療所の再診料が71点から69点(消費税対応で現在は73点)に理由なく引下げられたまま,現在に至っていることを一貫して問題視しているところであり,元の点数に戻すことを強く主張している。
 しかしながら,財務省はトリプル改定への厳しい対応を求めていることから,日医は10月10日に医療・介護42団体で構成する国民医療推進協議会を開催し,国民の生命と健康を守るため,医療・介護分野における物価高騰・賃金上昇に対する取組みを進め,国民に不可欠,かつ日進月歩している医療・介護を提供するため,適切な財源の確保を求めることを盛り込んだ決議を採択するとともに,日医から各都道府県の医療推進協議会において集会を開催し,同様の決議を採択すること等を要請した。これを受けて,京都においても,11月19日(日)に京都府医療推進協議会を構成する31団体とともに「府民の生命と健康を守るための総決起大会」を府医会館で開催することを決定した。
 京都においても日医と同様の決議を採択し,医療機関等の厳しい状況を訴え,改定財源確保を強く求めるとともに,賃上げの実現が可能となる財源の確保が,ひいては患者の療養環境等にもつながることに理解を求めていきたいと考えているため,地区医にも是非ご協力をお願いしたい。

保険医療懇談会

 基金・国保審査委員会連絡会合意事項について解説するとともに,個別指導における主な指摘事項について資料提示した。また,療養費同意書の交付(マッサージ,はり・きゅう)に関する留意点を解説し,慎重な判断と適切な同意書の発行に理解と協力を求めた。

2023年12月1日号TOP