2020年8月15日号
2020年7月31日
京都府医師会新型コロナウイルス感染症対策チーム
1.はじめに
新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)対策としての緊急事態宣言が5月に解除された後も,6月は首都圏や各地で新たな感染者が増え続けた。特に6月19日に都道府県を跨ぐ移動制限が解除されてからの増加は右肩上がりであった。6月下旬に京都府内で発生した新たなクラスターにより連日陽性者が増え,京都府では感染拡大対策の独自の基準を見直したが,その直後に「警戒基準」となった。その後も感染は拡大し続け29日に「特別警戒基準」となった。
感染者増加によって,京都府の宿泊療養施設は7月に再稼働し,京都府医師会(府医)からの出務を再開した。京都府・医師会京都検査センター(府医PCR検査相談センター)は7月も継続して運営し,一時期減少傾向にあった依頼数が漸増した。また,京都南部で新たな検査センターを開設し,稼働がはじまった。唾液採取でのPCR検査を希望する会員医療機関を7月から募集を開始し,府医がとりまとめて京都府との集合契約を結ぶことで,医療機関でPCR検査を行うことが始まった。
7月の1か月間の動向について述べる。
なお,本文中に記載した数値や対応策等は,7月31日時点でのものであり,今後の動向により変化することを予めお断りしておく。
2.COVID-19の流行状況とその対策の経緯
緊急事態宣言解除後,東京都では連日2桁の陽性者を発表していたが,7月からは3桁になり,9日から200人以上が4日間続いた。東京都でのPCR検査数を,特に夜の繁華街で働く人たちへの検査勧奨により増やしたことが陽性者増加の一因でもある。年齢別では20代30代の若年層が半数以上を占め,70代以上の高齢者は少なかったが,その後増える傾向にある。7月下旬には40代50代の感染者が増えてきた。夜の繁華街関係が多いという点だけをマスコミは主に取り上げていたが,職場内や家庭内感染はその2倍以上で,また感染経路不明はさらに多い。若い世代からその親世代や高齢の祖父母への感染,幼児などの低年齢層への感染が増えつつある。実際,京都で若年層から家族である幼児へ感染している。
京都では,新規陽性者が続き6月25日に「注意喚起基準」の適用となったが,30日に飲食店で発生したクラスターにより,積極的疫学調査で濃厚接触者の陽性者が増え,同時に感染経路不明者も増えた。京都府はそれまでの基準を見直し,7月8日に新たな三段階の基準を発表した(表1)。14日に府内で新たな陽性者12人が確認されたことを受けて,「新規陽性者7日間平均7.86人」と「感染経路不明者同2.29人」となり,ともに警戒基準の指標を超えた。年齢層は20代が半数近くを占め,20代未満から30代までを合わせると全体の3/4となる。感染経路の判明しているもののうち,30代以下では6割近くが飲食をともなう会合である。6月25日以降20日連続での感染者発生であり,14日に京都府はそれまで発令していた「注意喚起」から「警戒基準」への引上げを発表した。15日に京都府新型コロナウイルス感染対策本部会議(府本部会議)を開き対応策を検討した。西脇知事は会見で,感染状況,警戒基準の適用の説明と,府民へのお願いとして「新しい生活様式の徹底(身体的距離の確保・マスク着用・こまめな手洗い+3密を避ける)」,「飲食機会等の感染防止」,「大規模イベントの感染防止」,「接触確認アプリの活用」を訴えた。同時に「京ころな検査システムの拡充」としてそれまでの府医PCR検査相談センターへの流れに加えて,唾液検体PCR検査(後述)が約140医療機関(7月15日時点,集合契約済み)で導入され20日から始まることを説明した。6月下旬のクラスター以外に,医療機関や飲食店がクラスターとなり,その濃厚接触者が陽性者となり家族内あるいは職場感染を引き起こしていること,また感染経路不明の陽性者が増加していることから,連日の感染者数は減ることなく,29日には1日あたりで過去最多の41人で,28日までの1週間で平均20人超となった。またこの1週間のPCR検査陽性率が平均6%であったが,29日は9%となり上昇傾向にあり,「特別警戒基準」に達した。感染経路が明らかなものでは「接待をともなう飲食店」と「会食」がそれぞれ33.2%,11.3%,と半数近くが「飲食店」であり,宴会や飲み会の開き方に関する京都府独自のルールとして,31日に西脇知事は,「きょうと5(ファイブ)ルール」の5項目を発表した:「大人数は避ける」,「2時間でお開き」,「深夜は控える」,「ガイドライン遵守店舗を利用」,「緊急連絡サービス『こことろ』で利用登録」。これ以外に,病院や福祉施設の面会自粛を求めた。
(表1) 京都府における新たな基準(概要)
政府の新型コロナウイルス感染症対策本部は,2月14日に発足させた「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(専門家会議)を7月に廃止した。政府の「新型インフルエンザ等対策閣僚会議」の下に設けられた「新型インフルエンザ等対策有識者会議」(有識者会議)に「新型コロナウイルス感染症対策分科会」(COVID-19対策分科会)を設置することを決定した。なお,有識者会議には分科会として「医療・公衆衛生に関する分科会」,「社会機能に関する分科会」が設置されているが,これらはCOVID-19感染拡大後には一度も開催されていない。COVID-19対策分科会は7月に第1回~4回を開催した。
専門家会議では,議事録が残っていない,具体的な発言者と発言内容が不明などの点が国会でも追及されたが,これに関しては曖昧な内に廃止となった。COVID-19対策分科会での議事・会議の記録の取り扱いは次のようになった。
1.特定の個人や企業などに関する感染状況を取り扱うことが想定され,また構成員の間における自由かつ率直な議論が妨げられることのないよう,議事は非公開とする。
2.会議後速やかに議事概要を取りまとめ,各構成員の確認・校正を受けた上で,公表する。議事概要には発言者名を記入する取り扱いとする。
3.議事概要とは別に速記録を作成し,各委員の確認・校正を受けて保存する。速記録については非公開とする。なお,保存期間は10年とし,歴史的緊急事態に該当するため,保存期間満了後は国立公文書館に移管することとなる。移管後は原則公表扱いとなる。
COVID-19対策分科会では,感染状況と当面の対応,COVID-19対策の現状と課題,「Go To トラベル事業」の進め方,国際的な人の往来,イベント開催制限のあり方,検査体制,ワクチン接種について協議された。22日に「直近の感染状況等の分析と評価」がCOVID-19対策分科会により公開された。
1.社会経済と感染対策の両立のための目標と基本戦略として政府への提言は以下のとおりである。
(ア)目標:医療・公衆衛生・経済が両立しうる範囲で
①十分に制御可能なレベルに感染を抑制し,死亡者・重症者数を最小化
②感染レベルをなるべく早期に減少に転じさせる
(イ)基本戦略:1.個人・事業者:ともに協力し,感染拡大しにくい社会を作る
2.社会:集団感染の早期封じ込め
3.医療:重症化予防と重症者に対する適切な医療の提供
2.現時点で早急に取組むべき対策として政府に提案されたのは次の5点である。
① 合理的な感染対策のための迅速なリスク評価:各自治体がリスク評価に基づいて効率的リソースの配分を行い,優先順位をつけて対策を迅速に実施
② 集団感染(クラスター)の早期封じ込め:徹底した院内・施設内などにおける集団感染の未然防止と早期検知,陽性者の入院等の迅速な対応,接触者の調査と対応
③ 基本的な感染予防の徹底(3密回避等):事業者はガイドラインを適宜見直し・遵守を徹底,個人は3密回避を遵守した「新しい生活様式」の徹底に向けた注意喚起,感染者の多い「若年層」で感染リスクの高い行動を取る対象者への効果的な情報発信
④ 保健所の業務支援と医療体制の強化:人材や物資(PPEなど)の確保,効率的な業務執行への支援,宿泊療養施設・入院患者受入病床の拡充
⑤ 水際対策の適切な実施
また31日にCOVID-19対策分科会は,地域の感染状況レベルを0~3の4段階に分けて対策を講じる案を政府に提言した(表2)。7月末の時点で,東京や大阪はレベル1に相当すると考えられた。
(表2)感染状況分類
岐阜県は県独自の「第2波非常事態」を,沖縄県では県独自の「緊急事態宣言」を発令した。政府は重症者が少ないなどを理由に,4月の緊急事態宣言とは異なるとして再発令は行わなかった。
実効再生産数でみると,全国では7月4日の1.86をピークに右肩下がりで31日には1.37まで減少してきた。東京都では第1波の3月下旬に3.5前後であったものが徐々に減少し,緊急事態宣言解除後は1未満を維持していたが,その後5月下旬から急速に上昇して1.8になり,7月中旬までが1.5前後,その後漸減し7月末には1前後まで下がってきた。神奈川県は7月初旬に2.8まで上昇したが25日以降1前後に減少,大阪府も同様の傾向で7月初旬の3.72から25日以降は1.5前後となっている。京都府の実効再生産数は,6月下旬のクラスター発生で7月2日に4.8に急増したが,7月7日には1.51まで急速に減少,その後1.5~1.7であったが,22日1.73から28日1.01まで減少した。しかし7月31日に1.52へ漸増している。7月末に増加したのは,7月下旬の連休の影響が出ていることが推察される。京都府での感染者数はまだしばらくは減少に転じない可能性がある。
一方,PCR検査実施人数でみると,第1波の緊急事態宣言発令時には全国で1日4,000前後からゴールデンウィーク(GW)明けに1万3,000まで増え,7月27日には1日に2万4,000人余りとなった。同時期に東京都では350前後からGW開けに1,200人余り,6月下旬から夜の繁華街を中心に検査を進め7月13日に4,000人以上,27日には5,200人余りまで増やしてきた。京都府での同時期の検査数は,緊急事態宣言発令の4月7日211人,GW開け5月7日795人,感染再拡大の7月6日461人,27日は1,483人と最多であったが概ね400人前後の実施となっている。
全国の重症者数は,4月15日の1日25名をピークに減少し,5月以降新規重症者はほぼゼロであったが,7月4日の新規1人以降は一桁台で推移している。また1日あたりの死亡者数は,5月8日49人をピークに減少し6月下旬にはゼロないし1名であったが,7月下旬には数人となるものの31日には5人に微増した。
マスコミは連日の感染者数の増加のみを強調して報道しているが,PCR検査実施数を増やした結果であり,またクラスター対策として濃厚接触者への検査も増えている現状で陽性者数が増えるのは自明の理である。第1波の際には,緊急事態宣言発令前の3月31日に実効再生産数2.26から発令の4月7日には1.81まで漸減,19日に0.95と1未満となり5月28日0.98まで1未満を維持していた。このことを考慮すると,7月末の時点では実数としての感染者数は多いが,近いうちに減少に転じることが推察される。ただし,重症者数と死亡者数が微増していることは,若い世代から高齢世代への感染拡大となる可能性がある現状では予断を許さない。特に,介護関係者への感染によって,介護施設,高齢者施設あるいは在宅医療の高齢者への感染拡大は何としても阻止しなければならない。そのためには医療従事者のみならず,一般市民の感染対策への高い意識の維持が必須である。
3.府医の7月の活動
⑴ 会議等(表3)
7月も府医の定例理事会,各部会,庶務担当理事連絡協議会はWeb会議での開催となった。また,府医の常任委員会では,担当役員の判断および委員の参加状況により,Web会議あるいはWebと合議体のハイブリッドで開催した。
地域ケア委員会は,定時の会議以外で,COVID-19が在宅医療に及ぼす影響についてその問題点と課題を協議するため委員からの要請があり25日にも開催(Web会議)して,意見交換が行われた。
緊急事態宣言解除で一旦休止していた日医の都道府県医新型コロナ感染症担当理事連絡協議会は7月31日から再開となった。一か月に1回の開催予定で,TV会議システムで行う。
8月以降の対外的な会合等も,Web開催への変更あるいは中止が決定された。京都府が主務地である本年度の近畿医師会連合(近医連)の各協議会・委員会等も例外ではない。7月の近医連常任委員会および近医連保険担当理事連絡会議はTV会議で開催された。8月の常任委員会もTV会議で開催予定である。9月6日開催予定の近医連定時委員総会は日医のTV会議システムを利用して近畿2府4県が各府県単位で参加するが,分科会は行わず総会と特別講演のみの開催とすることが決まった。近畿ブロック衛生主管部長・府県医師会長合同連絡会議は中止となった。
(表3) 7月府医COVID-19関連会議
8月予定の関西医師会連合(関医連)常任委員会(主務地奈良県)および10月予定の全国医師会勤務医部会連絡協議会(主務地京都府)は中止が決定した。後者は府医勤務医部会幹事会で2年近く協議を重ねて準備してきただけに至極残念である。また10月16日~18日開催予定の十四大都市医師会連絡協議会(主務地大阪府)は,分科会・懇親会を中止しテーマをCOVID-19 対策に絞って協議しTV会議による1日だけの開催形式に変更となった。
また,日医理事に就任した松井府医会長は,日医理事会や執行委員会はTV会議での参加をしている。
⑵ 宿泊療養健康管理について
6月2日に第1波の最後の1名が退所し,宿泊療養者は約1か月間ゼロであった。6月6日に緊急事態宣言後で京都府内での感染者が再度出始め,増加傾向のため7月15 日より宿泊療養が京都平安ホテルにて再開された。府医役員が,毎日午後2時から3時の間に宿泊施設に訪問し,詰所にて療養者の状況を確認し,タブレット端末または電話にて新入所者と有症状者の健康状態を診察する。4月5月の入所者に比し,7月の入所者は20歳代30歳代の若者が多く(全体の67%),接待をともなう飲食店関係の感染者が大半である。味覚嗅覚障害はあるものの,発熱はほとんどなく,薬を処方することはほとんど無かった。
有症状者に関する退院基準について,WHOの基準が短縮(14日→10日)されたことを踏まえ,6月12日に厚労省は,COVID-19患者の退院基準の一部改正を発表した(表4)。京都府でも退院基準を次のように改訂した。
1.有症状者の場合は,発症日から10日間経過し,かつ,症状軽快後72時間経過した場合,退院可能とする。
2.無症状病原体保有者の場合は検体採取日から10日経過した場合,退院可能とする。
宿泊療養等の解除基準も退院基準と同様とするとされた。つまり2回のPCR検査陰性を確認することなく退所可能となる。
7月25日から二つ目の宿泊療養施設であるホテルヴィスキオ京都が開所し,毎日入所者数は増加している。飲食店関係の若年者が半数であるが,小中高生やその家族の入所見られる。また中高年も増加傾向である。
7月31日現在の2つのホテルの総入所者数は106名,退所者は71名である。
年代別では20歳代53名,30歳代18名,40歳代15名,50歳代6名,19歳以下14名であった。居住地では京都市内76名,京都府内が30名である。自宅からの入所は85名,医療機関からの入所は21名,平均入所日数は約6.6日,ヴィスキオで4.4日である。
症状のある者は49名,無症状は57名であり,症状の内容は,発熱,咳,咽頭痛,味覚・嗅覚障害,倦怠感,である。
8月7日から京都平安ホテルは施設の点検・整備のため一時的に閉鎖し,8月21日から再開予定である。再開と同時に内科医会のご協力をいただき,8月3日からホテルヴィスキオ京都は地区医(下西・下東・伏見)のご協力をいただく予定である(註:8月3日に三地区医師会からの出務が始まった)。
(表4)
⑶ 府医PCR検査相談センターの運営
開設が延期されていた京都府南部での新たな検査センターの候補地が確定し,7月から運営開始となった。会員からの検査依頼は現在の府医相談センターで一括して受け,検査実施会場の京都市内分と京都府南部の分を振り分けることになった。
7月は感染拡大に並行して,かかりつけ医から有症状者の検査依頼が漸増した。7月の相談件数は453(妊婦143)で,7月下旬には4月29日の開設以来3か月間で累積相談が1,000件を超え,7月末には1,108件(妊婦439)となった。7月の実施件数は400(妊婦128)で,妊婦以外の272件の内の陽性者は11件(4.0%)であった。7月までの陽性者数に比べて明らかに増加傾向にあった。府医PCR検査相談センターでは妊婦以外は基本的に有症状者のみを受け付けているので,感染経路不明の有症状者の陽性率である(感染者の濃厚接触者には行政が検査を行う)。
後述する,PCR検査が鼻咽頭ぬぐい液以外でも承認されていることから,今後は府医PCR検査センターでの検体採取方法について,議論を重ねる予定である。
PCR検査で陰性の場合は,偽陰性の可能性があるため,陰性であっても一定期間の自宅療養と健康観察期間をお願いしていたが,前述の表4と同じく,陰性者は発症日から10日を経過し,かつ症状消退後の72時間を経過するまでを自宅待機と健康観察期間とするよう変更し,かかりつけ医にはその旨をお願いすることになった。
⑷ 健診等
令和2年度特定健診については緊急事態宣言発令中できる限り行わないようにしたため,受診者数が少なかった。例年6月開始の舞鶴市,木津川市,精華町が8月開始となり,それにともなって実施期間は2か月ほど延長となる。南丹市では例年5~9月実施であるが今年度は11月まで延長となった。乙訓,綴喜地区は例年通り7月から開始した。
府医と京都市で検討した結果,今年度の京都市集団健診は中止となった。次年度の集団健診については特定健康診査委員会で検討を行ってゆく。
乳児健診(4か月前期,8か月後期)が6月から個別健診となった市町で,COVID-19のために受診控えをする人が多い中で,どれほどの健診率になるのかまだ把握し切れていない。虐待の早期発見にも繋がる健診であり,不安の残るところである。幼児健診(1歳半,3歳児対象)は7月から再開されたが,中断していた分を十分カバーしきれないのが現状である。
産業医研修は,緊急事態宣言解除後,6月18日から再開となった。30名~50名の少人数で開催した。
4.COVID-19の検査について
今後も続く感染拡大の局面を見据えて,検査体制が強化されねばならない。①検査が必要な者に,より迅速・スムーズに検査を行う,②濃厚接触者の検査など感染拡大防止対策を強化,③患者・入所者や医療従事者等を守るため,院内・施設内の感染対策を強化,が基本的な考えとなる。
無症状者へのPCR検査等では,検体採取は鼻咽頭ぬぐい液のみが認められていた。その後の検討で,唾液を用いたPCR検査,LAMP検査および抗原定量検査と,鼻咽頭ぬぐい液PCR検査を比較し,高い一致率を確認することができたとして,7月17日から無症状者(空港検疫の対象者,濃厚接触者等)に対して唾液を用いたPCR検査,LAMP法検査および抗原定量検査を活用すると厚労省が発表した(表5)。これを受けて,厚労省母子保健課は,7月20日付けでQ&Aを発出し,妊婦へのPCR検査について唾液を用いてのPCR検査を認めることが示された。
(表5) 無症状者の唾液を用いたPCR検査等について
無症状かつ事前確率の低い人に対しても検査を行うべきという声が依然として根強い(特にマスコミに出てくる「専門家」と称する人)。COVID-19 感染への「不安」が先行しているために,検査を受けることが「安心感」につながるためと推察されるが,現在の流行状況では諸外国で実施している『あらゆる人に検査を』は,得るものは偽物の安心感(偽陰性の存在と偽陽性の存在によって引き起こされる諸問題)であり,検査の実態(人材・機器・試薬等の確保)の理解不足とコスト無視の言い分である。検査は万能でもなければ,安心のためにするものではないこと,必要な検査を適切に行うことが肝要である。事前確率の高い人への検査(例,東京都や大阪府の夜の街を対象にしたPCR 検査)は,確定診断目的の検査であるが,COVID-19 対策分科会の発表したように対象を分けて考えることは妥当と思われる。無症状かつ事前確率の低い人に対する検査数が増えることにより必要とされる人への検査ができなくなる事態を引き起こしてはならない。
⑴ 抗原検査
イ)抗原検査(簡易キット)
5月13 日に承認された。迅速検査であり,検査時間が30 分と短く,検体送付の必要がない,特別な検査機器が不要,その場で結果判定可能という利点がある。発症2日目~9日目以内の有症状者(症状が消退した者も含む)が対象となる。陰性の場合でも確定診断として扱うことが可能である。PCR 検査と比べて一定以上のウイルス量が必要であるため,PCR 検査よりも感度が劣る。発症から10 日以降での使用は可能であるが,陰性の場合は鼻咽頭PCR 検査を行う必要がある。検体採取は鼻咽頭からであり,唾液検体は認められていない。
ロ)抗原検査(定量)
6月16 日に導入が決定した。分析機器を用いてウイルスのタンパク質(抗原)に反応する抗体を用いて測定する。30 分程度の短時間で結果が得られる。発症から9日以内の有症状者が対象で,鼻咽頭および唾液検体のいずれも可能である。発症から10 日目以降は,唾液検体は不可であるが,鼻咽頭検体での使用は可能となる。検体は専門技師による前処理が必要であり,専用の試薬と分析機器も必要である。簡易キット抗原検査よりも感度が高く,LAMP 法と同程度の感度である。PCR 検査と同様に確定診断・陰性診断および治療経過のフォローに用いる。ただし,現時点では,民間検査機関でこの検査を実施する体制が整っていない。
⑵ PCR 検査
イ)唾液検体
京都医報7月1日号に府医が取りまとめて集合契約を結ぶための「新型コロナウイルス感染症に係る行政検査(PCR 検査)の委託契約締結に関する委任状」,同7月15 日号には唾液検体の採取法やレセプト提出方法などについて掲載した。7月14 日に京都府が「警戒基準」となり,15 日に西脇知事から唾液PCR 検査が契約締結した一般医療機関で開始することが発表された。これを受けて府内の集合契約をした医療機関での唾液検体PCR 検査が7月20 日から一斉に開始となった。集合契約をした医療機関は7月29 日時点で288 施設となった。全国の民間検査機関でPCR 検査を実施可能な施設のうち,所在地が京都府・京都市は4か所である。その他にも複数の検査機関がPCR 検査実施機関として認可を受けているが,認可は受けたもののPCR 検査体制ができていない,あるいは検体は他県へ送付するところもある。集合契約をした医療機関から個別に検査機関に,検体採取容器や梱包資材および集荷方法等について事前に協議と依頼をしていただきたい。採取方法等の詳細は7月15 日号に詳しいので参照されたい。
また,無症状の感染者では,鼻咽頭ぬぐい液と比較して唾液でのウイルス検出率も比較的高いことが示されている。なお,発症後10 日目以降の唾液については,ウイルス量が低下するため,検体としては推奨されない。
7月の京都市感染症審査協議会の諮問・答申170 例(7月19 日まで71 例;20 日以降69 例)のうち,唾液検体PCR 検査で陽性が判明したのは14 例であった。その内7月20 日以降は11 例と増えていた。京都府内の集合契約医療機関から民間検査機関に7月に依頼された唾液検体PCR 検査数は,ファルコ173,ビケン181,島津101,と三機関で450 余りであった(エスアールエルは主に病院からの依頼を扱っていたためこの数には入れなかった)。
ロ)鼻咽頭検体と鼻腔検体
従来,鼻咽頭ぬぐい液がPCR 検査で用いられてきたが,鼻腔ぬぐい液でもPCR 検査が可能となった。米国で実施された臨床試験では,リアルタイムRT-PCR 法による498 名からの検体を用いた評価において,医師採取の鼻咽頭ぬぐい液を100%としたときの患者自己採取の鼻腔ぬぐい液の感度は94.0%であることが報告された。これを受けて「2019-nCOV(新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル」が改訂され,鼻腔ぬぐい液を用いても検出できる,とした。鼻腔(前鼻孔)ぬぐい液を自己採取する場合は医師等の監視の下で採取するが,綿棒の2-3cm 程度を前鼻孔に挿入し,5~ 10 秒ほどかけて鼻粘膜に沿って綿棒を5回転させる;もう一方の前鼻孔も同じ綿棒で同様に採取し,鼻咽頭ぬぐい液と同様に1-3ml のウイルス輸送液が入った滅菌スピッツ管に入れる(ぬぐい終わった綿棒は滅菌スピッツ管に入れる前に触れない・置かないよう注意する),と手順が明記された。必ずしも自己採取でなくとも,医師による検体採取が鼻咽頭から鼻腔とするだけでも,感染する率は低くなることが期待される。なお,7月末の時点で,この鼻腔検体のPCR 検査は,唾液PCR 検査の集合契約を行った医療機関での実施は認められていない。
このことから今後のPCR 検査は,PPE フル装着の医師が鼻咽頭ぬぐい液を採取するだけでなく,より安全に採取できる唾液検体や鼻腔採取変更する可能性がある。先にも述べたが府医PCR 検査センターでの検体採取方法について改めて協議を行う予定である。
<資料>
# 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における新型コロナウイルス感染症患者の退院及び就業制限の取扱いについて(一部改正)」(6月12 日,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症に係る行政検査の取扱いの一部改正等について」(6月25 日,厚労省健康局)
#「在宅医療における新型コロナウイルス感染症対応Q&A」(4月30 日,日本在宅医療連合学会)
#「新型コロナウイルス感染症に係る行政検査の取扱いについて(再周知)」(7月17 日,厚労省対策推進本部)
# 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における新型コロナウイルス感染症患者及び無症状病原体保有者の退院の取扱いに関する質疑応答集(Q&A)について」(7月17 日,厚労省健康局)
# 「新型コロナウイルス感染症に係る検査の技術的事項に関する質疑応答集(Q&A)について」(7月21 日,厚労省対策推進本部)
#「「2019-nCOV(新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル」の改定について」(7月22 日,厚労省対策推進本部)