保険だより – 民法の一部を改正する法律等の施行について(診療報酬請求権の時効期間の扱い等)

  4月1日より民法の一部を改正する法律が施行されたことにともない,健康保険法等についてもその一部が改正されるとともに,施行にともなう留意点として,診療報酬請求権の時効期間の扱い等が示されました。

  具体的には従来3年間とされていた診療報酬請求権の時効期間が4月1日以降は5年間とされる等の扱い等が示されています。詳細は下記をご参照ください。

1.診療報酬請求権等の時効期間について

(1)総論

  改正前の民法では,「医師,助産師又は薬剤師の診療,助産又は調剤に関する債権」は,3 年間の短期消滅時効の対象とされていたが,当該短期消滅時効が廃止され,保険医療機関等の診療報酬債権等についても,権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間,権利を行使することができる時(客観的起算点)から10 年間で消滅時効が完成することとされた。

(2)保険医療機関等による診療報酬請求権について

  保険医療機関等による診療報酬請求権の消滅時効については,債権者たる保険医療機関等が当該請求権を行使することができることを知っていることが通常であると考えられることから,当該保険医療機関等が診療報酬請求権を行使できることを知らなかったと考えられる特段の事情がない限り,原則として診療月の翌月1日(国民健康保険の場合は翌々々月の1日)から起算して5年間で消滅時効が完成すると解して差し支えない。

  なお,上記取扱いは,改正民法の施行日(令和2年4月1日)以降の診療により発生した診療報酬請求権から適用される。

(3)診療報酬の過払いにかかる保険者の不当利得返還請求権について

  診療報酬の過払いにかかる保険者の不当利得返還請求権の消滅時効については,原則として保険者による診療報酬の支払いが行われた日の翌日から起算して10 年間の消滅時効が適用されることとなるが,保険者が当該請求権を行使することができることを知ったと考えられる特段の事情がある場合には,当該事情に照らし,その事情が認められる時(当該請求権を行使することができることを知った時)から5年間で消滅時効が完成することとなる。

  詳細については,「保険医療機関等に係る返還金の回収状況の把握について」(平成30 年保保発0427 第1号・保国発0427 第1号・保高発0427 第1号)も参照されたい。

(4)保険者の申出による再審査査定に対する保険医療機関等の増額に係る請求権について

  保険者の申出による再審査査定により保険医療機関等に対する診療報酬の支払いが請求額よりも減額されて行われた場合における,保険医療機関等が保険者に対して有する診療報酬増額に係る請求権については,原則として当該減額後の診療報酬の支払いが行われた日の翌日から起算して10 年間の消滅時効が適用されることとなるが,当該保険医療機関等が当該請求権を行使することができることを知ったと考えられる特段の事情がある場合には,当該事情に照らし,その事情が認められる時(当該請求権を行使することができることを知った時)から5年間で消滅時効が完成することとなる。

2.審査請求及び再審査請求と消滅時効の関係について

  審査請求及び再審査請求については,時効の完成猶予及び更新(時効期間のリセット)と整理された。

3.損害賠償請求権の時効期間について(参考) 

  人の生命・身体の侵害及び人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権の時効期間について,特則が設けられた。

  まず,人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権においては,権利を行使することができることを知った時から5年間,権利を行使することができる時から20 年間とされた。

  また,人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権においては,損害及び加害者を知った時から5年間,権利を行使することができる時から20 年間とされた。

  なお,不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は,民法の一部を改正する法律附則第35 条第2項により,施行日の時点で時効が完成していない場合には,改正民法第724 条の2の規定に基づき,損害及び加害者を知った時から5年間又は権利を行使できる時から20 年間となる一方で,施行日の時点で時効が完成している場合には,なお従前の例による(損害及び加害者を知った時から3年で消滅時効が完成する)ものとされた。

2020年6月1日号TOP