2020年11月1日号
毎年恒例の「夏の参与会」が,8月29日(土)ウェブ会議にて開催され,参与26名,府医から28名が出席した。
冒頭,「最近の医療情勢について」と題して,日医常任理事の城守国斗氏より講演があった。
続いて,府医からのテーマとして「新型コロナウイルス感染症」,「新型コロナウイルス感染症にともなう医療関連の支援」について報告を行った後,参与から意見・要望が出され,約2時間半にわたり活発な意見交換が行われた。
日本医師会 常任理事 城守 国斗 氏
~医療機関における新型コロナウイルス感染症への影響~
8月19日の中医協にて以下のデータが示された。
レセプトの確定件数を基に2月から5月の前年同月比と前々年同月比を機械的に算出したデータである。診療種類別,入院・外来別,病院・診療所別のいずれも減少が見られ,特に5月の減少幅が大きいことが分かる。診療科別では,小児科・眼科・耳鼻咽喉科が5割近く患者の減少がみられ,医療機関の経営もひっ迫していることが,日医のアンケート調査からも分かっている。地域別では,特別警戒区域に比べるとその他の区域の方が,やや落ち込みの割合は少なくなっているが,全体的な傾向としては同様である。
日本病院会,全日本病院協会,日本医療法人協会の四半期(4月~6月)のデータでも,入院・外来ともに前年度を大きく下回っており,5月の減少幅が大きく,6月には少し患者数が回復してきている。7月,8月がどのようになるかを厚労省,日医ともに注視している。手術・内視鏡等件数も定例の手術などは前年度より落ち込んでいるが,救急受入件数は,減少しているものの減少幅は比較的少ない傾向である。
~診療報酬上の臨時的な取り扱い~
厚労省より基本診療料等について,以下のとおり特別的な取り扱い(案)が示された。
・一定期間の実績を求める要件(年間の手術件数等)について,「新型コロナウイルス感染症患者を受け入れた医療機関」等に該当する場合は,施設基準に係る要件を満たさなくなった場合であっても,引続き,当該施設基準を満たしているものとして取り扱うこととする。
・「職員が新型コロナウイルス感染症に感染しまたは濃厚接触者となり出勤ができない医療機関」に該当する医療機関について,「新型コロナウイルス感染症患者等を受け入れた医療機関」と同様の取り扱いとする。
・緊急事態宣言の期間については,外出自粛要請等による患者の受療行動の変化等の理由により,施設基準を満たすことができなくなる可能性を鑑み,すべての医療機関を「新型コロナウイルス感染症患者等を受け入れた医療機関」に該当するものとみなすこととする。
~令和2年度診療報酬改定における経過措置の取り扱い~
診療報酬改定により要件が見直された一部の項目については,経過措置が設けられており,概ね半年を期限とすることが多いが,新型コロナウイルス感染症による各医療機関への影響等を考慮し,患者の診療実績に係る要件については,令和3年3月31日まで延期することが提案された。
~次回の診療報酬改定に向けて~
診療報酬改定は,中医協でエビデンスに基づく評価がなされ,さらには前回改定の医療現場への影響を調査・検証した上で,次回改定で修正するという流れが確立している。
中医協での検討の進め方としては,前回改定の「答申書」附帯意見を踏まえ,各項目の検討の場を決め,前回改定の影響等について,検証部会を中心に2年度に分けて調査・検証を行い,それ以外の事項については,それぞれの検討の場で議論を行い,それぞれを総会に上げて点数設定などを決定している。
令和2年度改定の結果検証に係る特別調査については,新型コロナウイルス感染拡大にともない,多くの医療機関等が影響を受けているため,これまでパターン化して行われてきた改定を例年どおりの流れで進めることが困難である。
~令和2年度の薬価調査~
2021年度の薬価改定については,骨太方針2018等の内容に新型コロナウイルス感染症による影響も勘案して,十分に検討し,決定する。
薬価調査を行うことを日医は了承したが,調査結果を踏まえて,内容によっては次年度の薬価改定を行わないことを踏まえた上での薬価調査であるということを申し入れ,抵抗している。
新型コロナウイルス感染症の動向について流行状況を振り返るとともに,府医の取組みを中心に説明した(詳細は,京都医報付録「新型コロナウイルス感染症関連情報」第7報から第12報参照)。
~府医PCR検査相談センターの運営~
4月29日に相談センターを開設し,4月30日から検査センターが稼働している。7月には南部の検査センターが開設された。8月28 日時点で延べ申し込み件数は1,504件(妊婦510件)であり,月別でみると,陽性者の減少にともない6月には申し込みも減っているが,7月には増加し始めていることが明らかである。7月の申し込み件数は453件(妊婦143件)であり,実施件数は400件(妊婦128件)であった。陽性者数は11人,妊婦以外の有症状者の4%に相当する。8月28日時点で8月の受付件数は396件(妊婦128件),実施件数は363件(妊婦121件),陽性者数は22人,妊婦以外の有症状者の8.3%である。
~新型コロナウイルスの検査について~
抗原検査(簡易キット)は,国内で厚労省が認可しているのは2社のみ。発症2日目から9日目以内の有症状者が対象となり,無症状者は対象外である。鼻咽頭ぬぐい液のみで,唾液検体は認められていない。
抗原検査(定量)は,鼻咽頭ぬぐい液と唾液検体のいずれも可能であるが,発症から10日目以降の唾液検体は不可となっている。LAMP法と同程度の感度である。検体は専門技師による前処理と,専用の試薬と分析機器も必要である。また,京都府内の民間検査機関では,PCRを回すのに手一杯であり,この抗原定量検査を実施できる状況でない。
PCR検査の唾液検査は,府医が取りまとめて集合契約を行った医療機関のみ実施可能であり,行政検査に準じており,PCR検査1,800点と微生物学的検査判断料150点の窓口負担分が公費負担となる。8月28日時点で集合契約している京都府内の医療機関は377件で,診療所が316件,病院が61件である。唾液検査の依頼数は,7月21日から8月26日時点で2,179件,陽性者数は134人であり,陽性率は6.1%である。民間検査機関は妊婦も含まれているので,有症状者だけだともう少し陽性率は高くなるのではないかと考える。
無症状者については,厚労省から海外渡航者の陰性証明と妊婦について唾液で可能と通知が出された。検査センターには有症状者の依頼が増えており,京都市の濃厚接触者の件数が増えているので,今後府医の検査センターで濃厚接触者の検査を請け負うことを現在協議している。そのためには妊婦の取り扱いを減らす必要があり,妊婦については集合契約により各産婦人科の医療機関で唾液を採取して実施していただくように産婦人科医会に依頼文を発出している。
鼻腔検体は,アメリカで実施された臨床試験で,鼻腔から数センチ綿棒を挿入して採取した鼻腔ぬぐい液を用いたリアルタイムRT-PCR法での検討である。鼻咽頭検体を100%としたとき94%の感度があることが報告され,これを受け新型コロナウイルス感染を疑う患者の検体採取・輸入マニュアルが改訂された。
集合契約で唾液検体検査を行う医療機関についは,唾液以外の検体での実施は現時点では認められていない。京都府から厚労省に鼻腔検体について問い合わせをしたところ,「届け出基準に記載されており,検体としては問題ないが,エビデンスとしては十分でないので推奨しない」との回答を得ている。
令和2年度第2次補正予算で国から示された医療関連への支援について説明。
~慰労金~
新型コロナウイルス感染症に対する医療提供に関し,都道府県から役割を設定された医療機関等に勤務し患者と接する医療従事者や職員に対し,慰労金として最大20万円を給付。その他病院,診療所等に勤務し患者と接する医療従事者や職員に対しては,慰労金として5万円を給付。
令和2年1月30日から6月30日までの間に10日以上勤務した者が対象で,主たる医療機関単位での申請となる。
~支援金~
令和2年4月1日から令和3年3月31日までに講じた感染拡大防止対策や,診療体制確保等に要する費用について,病院{200万円+(5万円×病床数)},有床診療所(200万円),無床診療所(100万円)を実費で補助。
慰労金・支援金いずれも京都府ホームページより申請書等をダウンロードし,京都府国民健康保険団体連合会に原則としてオンラインにより提出する。申請期間は令和2年8月17日から令和3年2月28日まで。問い合わせは,京都府慰労金・支援金コールセンター(TEL:075-708-7880)。
参与から事前に提出のあった意見・要望について府医の各担当役員が回答に応じた。詳細は以下のとおり。
~他府県における区民への情報発信の取組み~
地区医から区民への情報発信について,他府県の情報発信の取組みを紹介。特に,小金井市医師会(人口11万人)では,地域住民への注意喚起として,医師会からのメッセージや情報の整理,現状分析などの情報発信が行われていた。
地域住民に対しての情報提供は,秋からのインフルエンザと新型コロナウイルス同時流行の懸念もあり,医療機関受診時のお願いなどは非常に重要である。現在,日医や厚労省で検討がなされているが,感染拡大防止策について情報が錯そうしているので,医師会としては正しい情報発信が重要だと認識している。地域の実情を把握している地区医からの身近な情報発信は,良い取組みである。
~府医会員への情報発信~
医師会員向けの情報については,鍵付きの会員専用ページ内で発信されていることが多く,実態調査が出来ていない。府医では新型コロナウイルス関連特設サイト,FAX情報,会員メーリングリスト,京都医報などのツールを用いて会員への情報発信に努めている。地区には,ICTの苦手な会員を取り残さないよう配慮を求めた。
京ころなマップは,新型コロナウイルスを疑う患者を診療した場合に,診断年月日,発生人数,主症状,市区町村,中学校区を入力し,疑い例を含めリアルタイムに登録することで様々な対策の早期実践に役立つことを目的としている。
陽性者に関しては京都府・京都市ともに公表しているが,京都市内の区別の発生動向は個人情報の観点から報告されておらず,リアルタイムに把握できない状況である。また,会員から府医相談センターに紹介されたデータは持ち合わせているが,各医療機関で実施された唾液検査についての情報は把握していない。
京都府・京都市は確定患者の件数であるが,京ころなマップは疑い例で,PCR検査の実施状況をマッピングしているものであると回答した。
府医会員約80名の協力を得て,毎週月から土に実施している。京都府内5か所の設置を目標に,現在市内3か所,宇治市1か所で運営している。あと1か所設置を予定しているが,近隣住民からの反対や不安の声が多く,用地の確保が困難で,時期が未定である。
アクセスが良く,広さもあり,周辺から見えない立地で,地権者が当分使用しないという用地を利用しているが,用地が決まり次第詳細を報告すると回答した。
~治療薬について~
現在治験中のものがほとんどである。新型コロナウイルス患者を受け入れている感染症指定病院など,医療機関からの手上げ制度で行われており,これらの結果が集約され,新型コロナウイルスの治療薬としての検討がなされた後に,保険収載されるかどうかが決まる。
~唾液によるインフルエンザ検査~
2つの方式で開発が進められている。1つ目は鹿児島大学で開発された高感度ウイルス検出法。臨床研究が鹿児島大学微生物学の西順一郎氏によって開始されている。インフルエンザウイルスと結合力が強い糖鎖を固定化した金ナノ粒子で検体中のウイルスを処理し,遠心分離で濃縮,その後リアルタイムRT-PCR法を行う。発熱後12時間以内のインフルエンザ疑いの患者の唾液または鼻腔ぬぐい液を検体とする。試験期間の予定は平成28年10月1日から令和3年3月31日まで。現在,中間報告が出ているところである。
2つ目は日本大学,群馬大学,東京医科大学の共同研究チームが開発したこれまでにない全く新しい革新的核酸増幅法(SATIC法)によるウイルス迅速診断法。SATIC法は,特定の遺伝子のみならず,変異遺伝子,さらにはタンパク質や代謝物などの生体内分子も,簡便な手法で特異的かつ高感度に測定できる技術である。新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスの感染の有無を,検出機器を必要とせず目視で容易に判定可能,検体採取から25分程度で判定可能,偽陽性反応等の非特異反応がなく,PCR法と同等の高い感度,鼻咽頭ぬぐいの綿棒のみでなく,唾液や喀痰からの検出が可能で,塩野義製薬が実用化に向けて取組んでいる。
2つ目の方式は,特別な機器が不要なので,クリニックでの利用が可能であり,開発が待たれるところである。
高速道路の緊急車両や医師,医薬品,患者の搬送の交通に関してどのように認めるかは,各道路管理者の判断に委ねられている。消防車やパトカーであっても道路管理者がストップをかけると一切通行不可となる。事前の取り決めなどはなく,管理者の判断に従うしかないのが現状である。
地震であれば,被害状況を確認してその後通行可能とする判断はでき易いが,雨の場合は,管理者の判断も難しく,ある一定の基準を超えた段階で自動的にストップをせざるを得ない。道路の問題ではなく,崖など周辺の環境を含めて判断しなければならないので,判断は道路管理者に任されている。
災害時には,緊急交通路が指定されると,一般車両は排除され,緊急車両と規制外車両のみ通行可能となる。規制外車両については,事前に公安委員会へ車両の届け出が必要であり,原則公的な車両(個人所有ではない車両)を登録した上で,発災時には警察本部に出向き確認証を受け取って,車両が通行可能となるルールになっている。
原則は公的な車両となっているが,どこまで医師会として認められるか等は各警察署へ相談いただきたい。赤色灯がついている車両は問題ないが,赤色灯がついていない病院車両は色々な手続きを取った上で東日本でも熊本でも運行してきたので,局所の災害であっても手続きが必要である。
京都府・医師会京都検査センターの存在意義は,発熱患者の検査を補完するという意味である。唾液検査の手上げはできなくても,PCR検査センターの出務には協力するとの申し出は非常に有難い。検査センターの設置については,設置場所が決まっていないが,今後も感染拡大防止のためにもドライブスルー形式を維持しながら,どのように唾液検体を採取するかという検討している段階である。乳幼児や脱水症状の方で唾液検査が難しい場合もあるので,従来のぬぐい液と併用して実施していきたいと回答した。
京都府立医科大学医師会長より,重症患者受入医療機関の立場から京都府の現状と問題点について詳細な情報提供がなされた。
京都府では医療機関の役割分担がうまくいっているとし,今後も情報共有について,行政と医療機関側,医療者側の同士,連携・支援をオール京都として対応していかなければならないとの考えを示した。
状況が日々刻刻と変化する中,治療法などについて,医療機関同士の情報共有や勉強会を検討していきたいと述べられた。