第46回京都医学会をWeb開催

 今年46回目となる京都医学会は,新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の情勢を鑑み,全プログラムをWeb開催した。
 学会のWeb開催は府医にとって初めての試みであったが,新たな生涯教育研修の形態としての可能性を感じるよい機会となった。

 令和2年,新型コロナ禍は人と人の繋がりを翻弄し社会に塗炭之苦をもたらした。第46回京都医学会もまた多大な影響を受け企画の段階から紆余曲折,史上初めての虚空間でのWeb開催となった。反省点は多々あるが,ネット社会の進歩と諸氏のご尽力のおかげで内容は今までと遜色がないものに仕上がったと思う。この場をお借りしてお骨折りいただいた関係各位に心から御礼申し上げる次第である。無論実際の学会場での熱い討論に参加できない寂しさは極めて大きいものの,天候にも左右されず何処からでも比較的自由なタイミングで参加できるというメリットは大きいと前向きに捉えたい。
 さて今年の特別演題は『消化器外科領域におけるロボット手術の最前線』というテーマで藤田医科大学・総合消化器外科主任教授の宇山一朗先生にお話を賜り,シンポジウムは『がんゲノム医療の現状と展望~府内の連携体制と医療倫理について~』というタイトルで京都大学腫瘍薬物治療学教授武藤学先生を総括者に同医療倫理学・遺伝医療学教授小杉眞司先生,京都桂病院腫瘍内科山口大介先生という豪華顔ぶれで討論が交わされた。会員の皆様が後で視聴しなおしてさらに理解が深まるよう約1か月間アクセスできるように設定させていただいたがご活用いただけただろうか。残念ながら当日の参加(視聴数)は例年に及ばなかった。これは告知方法が不十分であったかと次回に向けて深く反省する点である。

一般演題

 今回,一般演題は広く府内から57題の応募をいただいた。残念ながら例年よりかなり少ない演題数であったのは従来と違いコンピューターを介しての申し込みが故だったのか遣る瀬ない気持ちである。内容としては循環器系,消化器系,内分泌・代謝系,呼吸器系,血液研,免疫・アレルギー系,腎尿路系,産婦人科系,耳鼻咽喉科系,運動器系,皮膚・形成外科系,在宅医療,医療連携,その他に加え,初期研修医セッションを新たに設け,賞を新設した。この初期研修医のセッションは9題の応募をいただき希な症例報告だけではなく海外の医療情報共有の話題もあり楽しむことができた。これを切掛けに勤務医の先生方が府医に入会していただければと願う。賞の授与についてはWeb開催でもあり盛り上がりに欠けることは否めないが,最終結果が視聴いただいた先生方の心にある順位と近いもので有れかしと想う。
 さて来年はどうであろう。新型コロナが収束し来年の医学会が通常開催できることを祈るが,依然としてWeb開催を強いられるのか否か。今後,学術・生涯教育委員会での振り返りを通して次回開催方法の検討を重ねていきたい。来年も多数のご参加を仰ぎたい。

(髙橋 滋 記)

一般演題 視聴ページ

特別講演

『消化器外科領域におけるロボット手術の最前線』

藤田医科大学 総合消化器外科学講座 主任教授
宇山 一朗 氏

 20世紀は医学史の中でも外科の世紀とされ,その進歩により多くの命が救われた時代であった。技術は歩みを止めることなく21世紀に入りロボット支援手術が登場した。なかでもZEUSとda Vinciが承認され,後者のみ生産が続き世界的に普及している。一方日本でも国産のhinotoriが新たに承認されたところであり,今世紀がロボットの世紀と評される日が来そうな勢いである。ロボット支援手術が従来の腹腔鏡手術に比べ優れた点は高精細画像で立体視できる,手の震えが伝わらない,2軸により人の手の入らない場所での自由な操作が直感的に行いうるという3点である。これに加えて近年改良を施し触感が伝わらないという欠点についても解決しつつあるという。今後は様々なセンサー技術の改良,AIの進歩とともに整形外科や心臓血管外科手術に広がっていくことが予想される。ただし保険収載されたものの病院にとっては大変な維持費がかかるのは大きな欠点である。このような流れの中で今回はリクエストの多かった『消化器外科領域におけるロボット手術の最前線』というテーマで藤田医科大学総合消化器外科学講座主任教授の宇山一朗先生にお話を伺うことができた。

宇山 一朗 先生

座長・髙橋 滋 先生

 宇山先生は『当初は腹腔鏡補助下手術による術創を最小限にすることが低侵襲になると考えていました。しかし理想の手術を追求するうちに合併症を無くすことが予後に直結すると考えるようになり,da Vinciを日本で初めて導入することを決意したのです。使いこなすことにより胃癌では進行度Ⅱまでの根治切除例でリンパ節郭清にともなう膵液瘻を腹腔鏡手術の2.7%からロボット手術で0.8%まで減らすことができました。また食道癌では反回神経周囲の郭清で誤嚥性肺炎を来し予後が悪くなるという日本のデータベースを基に,その原因はパワーデバイスによる熱損傷ではなく神経そのものを緊張させたためと考えました。そこでNIM(刺激法)を併用するロボット手術により反回神経に可能な限り触れないことで劇的に合併症を軽減できたのです。これらの結果として術式の保険収載に至りました。技術を広めるために昨年篤志献体を使わせていただいたトレーニングセンターを開設させていただきました。今後はさらに費用対効果のある手術を開発していこうと考えています。』とロボット支援手術の優位性と将来の展望について語られた。今後もロボット支援手術の第一人者としての益々の活躍が期待される宇山先生の講演は大変貴重なもので会員諸氏の知見を深めるのに役立ったと思う。

(髙橋 滋 記)

シンポジウム

「がんゲノム医療の現状と展望〜府内の連携体制と医療倫理について」

 がんは遺伝子(ゲノム)の異常でおきる病気と言われている。2019年6月に次世代シークエンサー(NGS)を用いた2つのがん遺伝子パネル検査(OncoGuideNCCオンコパネル,FoundationOneCDx)が保険収載された。本シンポジウムはがんゲノム医療の現状と課題について会員の先生がたに情報提供することを目的として企画された。総括者は京都大学大学院医学研究科腫瘍薬物治療学講座教授の武藤学先生が担当された。

武藤 学 先生

 最初に武藤先生から「保険診療下でのがんゲノム医療と課題」についての講演があった。遺伝子パネル検査が保険適応となるのは,標準治療のない固形がん(特に原発不明がん,希少がん)や,標準治療が終了した,あるいは終了が見込まれる固形がんとなっている。しかしながら検査をしても治療に結びつくのは10%程度であり,そのほとんどが自費診療になること,また標準治療が効かなくなった患者さんは状態が非常に悪い場合が多く,検査を行って治療までたどりつけるのかという問題があると述べられた。諸外国では初回から検査が可能となっているが,京都大学で初回診断時にパネル検査を行った場合,消化器系のがんでの検討では23%の患者に何らかの薬剤の提供ができることがわかったという。約4分の1の患者さんに,初回治療として標準治療ではなく,その人に合った治療ができる可能性があり,何らかの制度改正が必要ではないかと提起された。最後に,遺伝子パネル検査の診療報酬は56,000点であるが,検査を申し込んだ時に8,000点,エキスパートパネルを行って患者さんに説明した場合に4万8,000点が算定できることになっている。京都大学では患者さんに説明できるまでに約1ヶ月半かかっており,それまでに病状が悪化して説明できなかったケースが約3%あるとのこと,これらは病院の持ち出しとなってしまうことから診療報酬上の問題についても言及された。

小杉 眞司 先生

 京都大学大学院医学研究科医療倫理学・遺伝医療学教授の小杉眞司先生は「がんゲノム医療と遺伝医療の連携」との題で,検査結果の二次的所見としての遺伝性腫瘍の問題について講演され,代表的な遺伝性腫瘍として遺伝子乳がん・卵巣がん症候群を取り上げられた。また一連の過程で重要な役割を担っている認定遺伝子カウンセラーの職務についても紹介された。パネル検査を実施するにあたっては,家族等の同伴者に検査前説明を一緒に聞いてもらうことが望ましいこと,数%の確率で二次的所見が見出される可能性があり,それが本人のみならず血縁者にも影響を与えうることを説明すること,二次的所見に関する事前説明は本来の検査目的の説明とバランスに配慮して行うこと,検査前に二次的所見について開示希望の確認をすること,二次的所見が家族の健康管理に役立つ可能性がある場合,結果を伝えたい家族を同意書に記載してもらうことが重要であると話された。

山口 大介 先生

 京都桂病院腫瘍内科医長の山口大介先生は「一般市中病院におけるがんゲノム医療の現況と問題点」について講演された。京都桂病院は京都大学と連携する「がんゲノム医療連携病院」に指定されている。遺伝子パネル検査については,検査説明,申し込み,京大病院とのエキスパートパネル参加,検査結果説明まですべて腫瘍内科が一括して行っており,常勤の遺伝子カウンセラーも配置されているとのことであった。これまで12例の検査が行われ,治療関連遺伝子は11例(91.7%)に認めたが,治療に到達できたのは3例(25%)で,これらはすべて治療効果があったと報告された。二次的所見は2例(16.7%)に認められ,遺伝カウンセリングが行われている。現在の問題点として,データ登録,エキスパートパネルの準備,二次的所見への対応などにかなりの手間を要するため多職種連携による対応が必要であること,治療関連遺伝子が見つかっても治療到達可能性が低く,治療も保険診療外になってしまうこと,シークエンスを成功させるためには品質の高い検体採取が不可欠であり,それにはLiquid Biopsyが有用であるが,本邦では未だ保険収載になっていないことをあげられた。
 総合討論では,武藤先生からがんゲノム医療の府内の連携体制についての現状報告の後,「がんゲノム医療に期待すること」,「がんゲノム医療に関わる人材育成について」,「保険外診療の問題」,さらに「がん医療は我が国に根付くのか」について演者間で活発な討論がなされた。がんゲノム医療については遺伝子を調べて,それに合った治療を行うという程度の知識しかなかったが,本シンポジウムを拝聴して,現場のご苦労や様々な問題点について理解を深めることができた。ご講演いただいた3名の先生がたに感謝申し上げます。

(西村俊一郎 記)

ディスカッション

学術賞・学術研鑚賞の表彰

 令和2年度学術賞および学術研鑚賞の表彰者は京都医学会ホームページ上で発表した。
 府医学術賞は過去1年間に「京都医学会雑誌」に掲載された一般応募論文の中から,学術・生涯教育委員会委員と勤務医部会正副幹事長の投票によって選定された論文に授与されるものである。1位論文1編に30万円,2位論文1編に20万円,3位論文2編に10万円,症例報告賞2編に10万円,新人賞3編に5万円の賞金と賞状が授与された。
 学術研鑚賞は前年度中に学術講演会等に率先して出席し,日医生涯教育講座の取得単位数の多い会員を表彰するもので,京都市内および乙訓・宇治久世会員は60単位以上,亀岡市,南部(綴喜・相楽),北部(船井・綾部・福知山・舞鶴・与謝・北丹)地区会員は30単位以上の取得者を対象とし,京都市内・乙訓・宇治久世より56名,亀岡市より4名,北部より28名,南部より16名の計104名が選ばれた。
 学術賞および学術研鑚賞の受賞者は以下のとおり。(敬称略)

学術賞

原著論文賞 1位

◆「京都府の医療的ケア児実数調査からみた病診連携の課題」

代表:はせがわ小児科  長谷川 功
藤田 克寿,石丸 庸介,吉岡  博,高屋 和志,有本 晃子,徳永  修,中井  茂,堀部  勉,十一 英子,
辻󠄀  幸子,河井 昌彦,吉田 路子,桑原 仁美,松田 義和,北川  靖

原著論文賞 2位

◆「高齢者の睡眠障害とその対応について」

代表:大森医院  大森 浩二

原著論文賞 3位

◆「高齢化社会における急性胆嚢炎の治療戦略~抗菌薬適正使用を含めた検討~」

代表:市立福知山市民病院 消化器内科 原   祐
岡  浩平,岩井 直人,稲田  裕,辻󠄀  俊史,奥田 隆史,小牧 稔之,香川 惠造

◆「MCT(中鎖脂肪酸)オイル経口投与で観察された重症認知症中核並びに行動・心理症状の改善効果」

代表:花友いちはら介護老人福祉施設 川西 秀徳
芦澤 菜月,高橋有紀子,冨林かおり,滝川 浩二,堀  晃史,垣木 憲一

症例報告賞

◆「Lamotrigine多量内服による急性中毒として遷延する意識障害と悪性症候群が疑われた一例」

代表:京都中部総合医療センター 小児科 松村うつき
大内 一孝,瀬野 真文,浅妻 正道,田浦 喜裕,小田部 修,伊藤 陽里

◆「外科手術周術期のDOAC中止期間に発症した急性脳主幹動脈閉塞に対して血栓回収術を施行した2例」

代表:康生会武田病院 脳卒中センター 脳神経外科  定政 信猛
稲田  拓,山名 則和,滝  和郎

新人賞

◆「伝染性単核症を契機とした両側同時性顔面神経麻痺の1症例」

代表:京都岡本記念病院 医師臨床研修センター  斉藤 隼一
岡野 博之

◆「巨大食道裂孔ヘルニアの心臓圧排によって閉塞性ショックをきたした1例」

代表:医仁会武田総合病院 総合診療科 大前  凌
土井 哲也,堤   惟,大石  健,武田 拓磨,森村 光貴,中前恵一郎,松原 英俊,杉江  亮,野村 幸哉,
藤田 益嗣,中谷 壽男

◆「ビスホスホネート製剤を18年間服用後に大腿骨転子下非定型骨折を来たした一例」

代表:京都桂病院 整形外科  室谷 好紀
原田 豪人,冨永 智大,片岡 正尚,奥谷 祐希,藤田  裕

学術研鑚賞

京都市内・乙訓・宇治久世
森島 正樹(中 西),八木 晴夫(宇 久),中川 卓雄(伏 見),金山 政喜(山 科),川西 秀徳(左 京),
竹中  健(西 陣),笹部 恒敏(西 京),倉田  正(下 西),岡江 俊二(右 京),靑木 繁明(下 東),
松田 恒知(宇 久),杉原みどり(西 陣),金井塚敏弘(中 西),藤原 俊成(中 西),上田 通章(宇 久),
内藤 元康(東 山),野見山世司(中 西),舟木  亮(西 陣),坂東 一彦(伏 見),佐々木善二(伏 見),
髙橋  守(西 陣),田中 進治(中 西),松田 辰雄(下 西),井上  治(下 西),野浦  素(伏 見),
島田  正(宇 久),藤井 崇知(宇 久),金  泰希(左 京),平田 俊幸(西 陣),徳岡 武夫(宇 久),
目片 秀祀(伏 見),伊藤 照明(右 京),紀田 康雄(宇 久),藤田 祝子(下 西),荒垣 晨二(下 西),
岸田  進(伏 見),角水 正道(乙 訓),福州  修(右 京),伝  俊秋(左 京),西川 昌之(左 京),
藤森 千尋(伏 見),丸山 恭平(宇 久),岡﨑 仁志(下 西),柴垣 一夫(中 西),木村 繁男(下 西),
嶋田  裕(左 京),八田 隆志(西 陣),角谷 真二(下 西),鎌野 孝和(西 京),稲掛 英男(西 京),
景山 精二(右 京),関   透(下 西),十倉 孝臣(左 京),濱田 春樹(京都北),吉岡 秀幸(中 西),
西川 昌樹(伏 見)

亀岡市
村上 貞次(亀岡市),河辺 泰德(亀岡市),十倉 佳史(亀岡市),中川 裕隆(亀岡市)

北部(船井・綾部・福知山・舞鶴・与謝・北丹)
肥後  孝(舞 鶴),西𠩤  寛(与 謝),牧野 吉秀(福知山),大槻  匠(綾 部),中江 龍仁(北 丹),
西村  茂(福知山),木村  茂(船 井),瀬古  敬(北 丹),上田  誠(北 丹),宮地 高弘(与 謝),
渡邉 一郎(舞 鶴),齊藤 治人(北 丹),冨阪 静子(福知山),髙塚光二郎(舞 鶴),大西 勇人(福知山),
味見 真弓(与 謝),大久保茂樹(綾 部),稲葉 弘二(福知山),岡所 明良(与 謝),伊藤 邦彦(与 謝),
岩破 康二(与 謝),松山  徹(福知山),石井 靖隆(与 謝),西垣 哲哉(福知山),竹下 一成(福知山),
飯田 泰成(北 丹),木村  進(与 謝),大西 克実(舞 鶴)

南部(綴喜・相楽)
髙橋  宏(綴 喜),飯田 泰啓(相 楽),田路 吉朗(相 楽),三好 雅美(綴 喜),藤川 正代(相 楽),
飯田 泰子(相 楽),山口 泰司(相 楽),吉村  陽(相 楽),河村  允(相 楽),安積 正作(綴 喜),
西村 完生(綴 喜),安積 裕美(綴 喜),岸田 秀樹(相 楽),小出 操子(相 楽),桑原 洋史(相 楽),
柳澤  衛(相 楽)

2020年11月15日号TOP