2020年11月15日号
京都府立医科大学附属北部医療センター 泌尿器科
沖原 宏治
最近の勤務医通信を拝読し,新型コロナウイルス感染症対策で,いかにご苦労されておられるかを痛切に感じました。わたくしも同じテーマを最初は念頭にあがりましたが,同じ感染症におきましても,細菌感染症に焦点をあてて,当院の取組みをご紹介したいと思います。各勤務医の先生方の専門性にあわせ,例えば,細菌感染症であれば,対象臓器(例えば,肺,胆道,尿路等)の培養結果に準拠して,至適抗菌剤を使用することは,臓器の如何に関わらず標準治療であると思います。ただし,重症化,特に菌血症をともなう重症例の場合,qSOFA,臓器障害評価,ICUに入室すれば,SOFA動向を判定する,いわゆる,敗血症診療ガイドラインに準拠した治療が展開されます。尿路感染症も例外ではなく,shock vitalの状況下で,患者をどのように迅速に加療体系を進めていくかが,きわめて重要です。幸い,一時問題となった,MRSAを代表とされる,院内発症敗血症は皆無となり,現在の主流の敗血症性尿路感染症は,市中発症敗血症であります。
ここで大きな分岐点となるのが,1)尿路閉塞機転の有無を評価し,合併症(特に悪性腫瘍)の状況・予後を勘案した上で,重症化した症例において,閉塞解除の外科的治療を可及的に施行するか?,2)抗菌剤の選択をどうするか?,の2点の判定です。1)に関しては,可能な限り,尿路の閉塞解除(特に結石性腎盂腎炎から派生した敗血症)を施行する指針となります。問題は,敗血症性尿路感染症のファーストラインの抗菌剤を,何を選択するかであります。直近のJAID/JSC感染症治療ガイドラインでは,いわゆるウロセプシスでは,腎排泄型薬剤で抗菌スペクトルが広く,抗菌力に優れているβ-ラクタム系薬やキノロン系薬を推奨されております(AⅡ)。具体的には第3セフェム,カルバペネムなどとなります。私自身当院に赴任するまで,当然のように,上記抗菌剤を選択してまいりました。ガイドラインに準拠しており,個々の症例を対象とした正しい選択であります。ただし,ご存じのように,丹後地域は,長寿圏であり,限られた地域の中で,高頻度に抗菌スペクトルが広い抗菌剤の選択を地域性の配慮もなく継続すると,一定の確率で多剤耐性菌の発生,超高齢者の入院患者に対して,ESBLを代表とされる,院内発症感染症のリスクが高まります。当院では,2013-2014年に血液培養陽性尿路感染症症例の分離菌ならびに,分離菌に対する薬剤感受性率の分析を行い,次の指針が確定しました。1)有熱性尿路感染症に対しては,第一選択の抗菌薬を第2世代セフェム系のセフォチアム(CTM)とする。2)血液培養陽性(菌血症)であった場合には10~14日間の抗菌薬(注射薬)投与を推奨する。3)培養結果が判明すれば感受性のある抗菌薬に変更する(症状や検査所見が明らかに改善している場合にはCTMを継続する)。4)第1世代セフェム系やペニシリン系薬でも感受性が認められた場合には,速やかにde-escalationを行う。
上記4つの指針に対して,後方視的に順守率・尿路閉塞解除の観点からみた転帰・治癒後の尿培養結果のアウトカム(多剤耐性菌の発生の有無),などの検証が必要です。私が赴任する前からの一貫した指針でありましたので,当院の感染症対策チームと共同で直近4年間の解析(尿路感染に起因する血液培養陽性+有熱性感染症204例)を行いました。特筆すべき結果として,諸家の報告と比較し,耐性菌検出率が極めて低く(4.9%),40例の結石性腎盂腎炎において,ドレナージ治療を施行した症例は抗菌剤の種類の如何に関わらず,全例治癒の転帰を得たことでした。指針に関して異論のある先生もいらっしゃるかと推察いたしますが,当院では上記指針を継続していくエビデンスを得ることができたことを,ここにご報告申し上げます。
Information
病院名 京都府立医科大学附属北部医療センター
住 所 京都府与謝郡与謝野町字男山481番地
電話番号 0772-46-3371
ホームページ https://nmc.kpu-m.ac.jp/