勤務医通信

ウィズコロナ雑感

市立福知山市民病院 副院長 整形外科

中村 紳一郎

 今年は新型コロナ肺炎のパンデミックというこれまでにない地球規模の大きな試練に見舞われています。早いもので医師になっていつのまにか38年ほどの月日が経過し,その間には自然災害や原発事故,テロなど種々の危機的な出来事もありましたが,今回の事象は私にとっては社会や医療に関する最大のパラダイムシフトであったような気がします。当院も3月上旬に病棟勤務職員の感染が判明し,しばらく病院機能を一部停止する事態になりました。当院は京都北部唯一の地域救命救急センターにも指定されておりましたが,透析,化学療法,出産,かかりつけの緊急対応を除き,通常の外来や救急を含めて新規入院の受け入れを2週間にわたり休止しました。すでに退院していた患者も含めて接触者の洗い出しとPCR検査,リスクに応じた入院患者の個室管理,当該病棟のゾーニングを行いました。また,入院予約,外来検査および受診予約の方には連絡を取り,入院や検査の中止や延期,受診予約の方には電話診察を行い,近隣薬局へ処方箋をFaxする対応をとりました。当時はPCRの検査数も限られており,保健所との調整も大変でした。これらの対応だけでも多くの職員が忙殺されましたが,当時はまだウイルスの情報も少なく,治療や対応も手探りで,病院や職員,家族に対する批判や風評被害も厳しく,職員間でも立場や意識の違いによる感情的対立がしばしば起こり,職員の精神的ストレスも相当なものだったと思います。幸い当院の感染は発端となった職員を含めて,職員2名,患者1名の計3名で収まりましたが,未知の脅威に対する危機対応の大変さを強く実感させられました。ただ,地域の皆さんからは,激励や感謝の言葉をいただいたり,物資を提供していただいたりと,癒されることも多々ありました。

 世界の状況をみると今後も長期にわたりこの感染症の収束は困難で,再度院内感染などの重大な危機に見舞われる可能性も十分ありそうです。今後どのようにこのウイルスと対峙ないしは付き合っていくのかはウイルスに関する様々な情報,社会の動向や地域の感染状況を注視しながら常に考えていかねばなりません。この原稿を書いている9月上旬の状況は第2波が少し落ち着く気配をみせていますが,まだまだ予断をゆるさない状況かと思われます。今後秋冬にむけてインフルエンザとの鑑別やどこまでの医療機関がPCR検査を担うかということが問題になっています。また,無症状の人にスクリーニングをどこまで行うのかということもよく議論になります。当院では現在全麻手術予定患者にスクリーニングとしてPCR検査を行っており,緊急手術や手術以外の入院予定患者にも適応を拡大することを検討していますが,検査能力,検査をすることにともなって発生する手間やストレス,コスト等を考えると,どこまで対象を拡大するかは本当に難しい問題だと感じています。

 生活習慣も大きくかわり,オンライン,リモートワーク,ソーシャルディスタンス,マスク,アクリル板,消毒液なども社会の当たり前のアイテムとなりました。会議や学会活動もオンライン化が急速に進み,これは便利である反面,対面の接触が減り,本音の話し合いや新たな人間関係の構築には障害になるのではと危惧します。コロナの騒動で議論がお休みになっていますが,少子高齢化や人口減少にともなう社会構造,疾病構造の変化にともなう地域医療構想,医療資源の偏在,医療費の増大にともなう財政問題,働き方改革などとても個人の努力では解決しない諸問題も山積しています。これだけ変化の速い現代社会が5年,10年後にどうなっているのか全く想像ができませんが,コロナの早期収束を祈りつつ,感染制御と経済活動という大きなジレンマの中で,新しい生活習慣に慣れ,ウイルスと上手に付き合いながら,目の前の課題に一つずつ対応していくしかないのかと考えています。

Information

病院名 市立福知山市民病院
住 所 京都府福知山市厚中町231番地
電話番号 0773-22-2101
ホームページ https://www.city.fukuchiyama.lg.jp/site/hosp

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