2021年4月15日号
京都山城総合医療センター 外科
中田 雅支
昨年から,「コロナ」で社会がひっくり返っています。
コロナが流行りかけのころ,院外で医療関係者ゆえの体験を2つしました。一つは,4月のテニスの試合の時,「中田さんは医療関係者だったね。近づかないでおこう」と露骨に距離を取られました。もう一つは,クラブの練習会の時,「中田さん,今大変ですね。我々にできることがあれば何でもおっしゃってください」とありがたい激励を受けました。
生活様式も一変しました。私の場合は,宴会等のイベントがことごとくキャンセルになり時間を持て余すようになりました。
ゴールデンウイークのころ,「暇やったらギターでも弾けば」の家内の一言に反応し,納戸の奥からギターを引っ張り出してきました。中学生の時に買ってもらったクラシックギターです。ギターを弾くのは10年以上ぶりぐらいになります。
久々に弾いてみると,暗譜していたはずの曲も,まったく指が動かずショックでしたが,次の日には,音符やコードを見て,指が反応しかけるまでになりました。右指も左指も間違えだらけで曲にはなりませんが,楽譜を見て,指が勝手に動こうとするのは,脊髄反射のようで,ある意味感動もしました。脳梗塞の患者さんがリハビリで運動機能を少しずつ回復させるように,毎日の練習で少しずつ滑らかに指が動くようになってきました。
久々に見るギターは天板のひび割れが絶望的なぐらい進行していました(写真)が,それでも,甘く柔らかい音が響きました。それ以外にも,ペグが固くなって左指では回せなかったり,弦を抑える左指の先端が赤くはれてきたり,古い楽譜は見事なほど茶色に変色していたり,譜面台が見当たらず新たに購入したり…,弦も張り替えたり…,ギターを弾くたびに「新しく懐かしい発見」が新鮮でした。
毎日ギターを弾いていると,天板の割れが気になりだしました。割れがなければもっといい音かもしれない…,見た目も気になる…。
色々調べてみると,手持ちのギターは手工ギターで,現在では,20万円はくだらない代物であること,1970年代の手工ギターは,今では考えられないくらい良い材料を使っていること,表面板の破損は重傷で,修理するにしても10万円超見当の費用がかかること等々がわかりました。
修理は大掛かりで,修理がうまくいく保証はなく,しかも修理中の数週間は手元にギターがなくなる…,いろいろ考えてギターを買い替える決心をしました。
次はどんなギターを買うかです。
標準サイズで,表面板は杉(ceder)にするのはすぐ決まりましたが,問題は値段です。最初は安いギターで良いと思っていましたが,その気で調べるといろんなことがわかってきます。「あまり高いギターはだめよ」とくぎを刺されながらも,上には上があって,調べれば調べるほど高価なギターに目がいきます。家計を考えるとあまり高いギターは買いづらく,無理に高いギターを買っても,数週間で飽きてしまうかもしれません。「猫に小判」ということわざが頭をよぎりましたが,結局,コロナ給付金+毎月私のお小遣いから定額ずつ家計に返すレベル(私の一存でコントロールできるレベル)に設定しました。何ケ月ローンかは内緒ですが,しばらく宴会がないのが幸い,なんとかなるかなとの判断です。
新しいギターを手に入れた日,弾き比べをした後,粘りのある中音が魅力の古いギターは納戸にしまいました。50年ぶりのギター買い替えでした。新しいギターはいい香りがします。この数か月,出勤前と就寝前にギターを弾くのが日課になり,週10回以上の練習回数です。これだけのめり込めるなら,もっと高いのを買ってもよかったかな,との思いもありますが,コロナがなければ手にすることがなかった新しいギター。いまは新しい出会いにときめいています。
何事も良いほうに考えれば幸せです。
(京都府立医大卓球部誌原稿改変)
Information
病院名 京都山城総合医療センター
住 所 京都府木津川市木津駅前一丁目27番地
電話番号 0774-72-0235
ホームページ http://www.yamashiro-hp.jp/index.html