2021年4月15日号
2021年3月31日
京都府医師会新型コロナウイルス感染症対策チーム
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大第3波では新規感染者が漸減したものの,3月には横ばい状態であったが下旬には首都圏4都県の緊急事態宣言が解除された。しかしながら新規感染者数は減ることなく微増し月末には急速に増え始めた。まん延防止等重点措置の適用を大阪,兵庫が政府に求めた。
新型コロナワクチンの日本への搬送が当初の予定より少なく,医療従事者優先接種(一般医療機関)の開始が遅れたが,京都府では4月19日の週から一般医療機関へのワクチン配布が決まった。同時に65歳以上高齢者の接種開始も遅れたが,開始になる。
3月の1か月間の動向について述べる。
なお,本文中に記載した数値や対応策等は,3月31日時点のものであり,今後の動向により変化することを予めお断りしておく。
⑴ 全国の感染者数の推移と政府の対策
全国の新規感染者数は,1月中旬以降減少が続いたが,3月上旬以降は横ばいから微増が続いた。全国の実効再生産数は,1月下旬から2月末まで1.0を下回っていたが,3月5日から1を上回り20日以降1.1前後と緩やかに増加してきた。首都圏1都3県では新規感染者数は解除基準となる分科会のステージ3になっていたため,菅首相は7日までに全面解除を表明していた。しかし4都県知事から,宣言解除を慎重にすべきという意見および2週間程度の延長を政府に求めた上で3月末までに解除を目指すとの提案があった。5日に政府は病床のひっ迫状況が続いていることを理由として21日までの2週間の再延長を決定した。知事らの声に押されて軌道修正した形と言える。延長の2週間は感染を抑え込みつつ状況を見極める期間とし,3月末までに約3万か所の高齢者施設での検査実施,大都市でのモニタリング検査,変異株に対する監視態勢強化について言及した。
2月末で緊急事態宣言解除となった関西圏・中京圏・九州の6府県では,新規感染者数,療養者数の減少にともない医療提供体制への負担の軽減が見られた。しかし大阪,兵庫,京都,福岡では3月上旬以降の横ばいから微増となっており,宣言解除前後からの夜間外出などの人の流れが増加しており,比較的若年層の感染水準が高い傾向となった。宮城県では,3月以降に急速に感染者数が増加し,実効再生産数は2.0を超えてきた。県独自の緊急事態宣言を発出し,期間は3月18日から4月11日までとした。感染者の多くは仙台市であり,リバウンドによる急増の可能性は否定できない。
感染リバウンドの兆しがある中で,首都圏4都県の緊急事態宣言は3月21日に解除された。しかしその後の10日間で新規感染者数の微増と,月末に急速な感染拡大がみられた。首都圏の実効再生産数は解除時に1.0を少し上回っていたがその後の10日間で1.1を超えている。全国の実効再生産数は1.09から微増して1.2を超えて,31日は1.28であった。年度末の人の移動の多い時期であること,国民・市民の「緊急事態宣言慣れ」,COVID-19感染で軽症者が多いこと(特に若い世代)による油断,春休みの影響で若い世代のコンパなどで感染が急速に拡大したと考えられる。
近畿では2月末の緊急事態宣言全面解除後から,3府県ともに新規患者数の増加がみられ,特に大阪府では明らかに増加し(実効再生産数は21日1.23→30日1.8に増加),また兵庫県では独自に重点的に変異株監視態勢を展開(神戸市)した結果で変異株感染者の比率が上昇していることが判明した。大阪府は政府に対して緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」(まん防措置)の適用を求めた。COVID-19感染症対策分科会(分科会)の尾身会長は31日の厚労省委員会で「ステージ4に近づきつつある。重点措置を検討すべき時期に来ている」と発言した。4月1日に政府対策本部で大阪,兵庫,宮城の3府県での適用を決定する。
(註:4月1日政府は宮城,大阪,兵庫の3府県に「まん防措置」の適用を決めた:期間は4月5日から5月5日までの1か月)
3月25日に全国知事会(西脇知事:COVID-19緊急対策本部副本部長)と厚労省との意見交換会が開催された。COVID-19感染対策に関して,感染状況の進展を見据えた体制移行の検討,患者数が大幅に増えたときに備えた入院医療提供体制等の整備,保健所の体制強化,感染状況を把握するための各種調査への協力,医師が必要と認めるPCR検査の確実な実施について,厚労省から各都道府県に対して協力の要請が出された。
第3波が治まりきらずに第4波へ急速に移行しつつあり,ロックダウンができない日本方式の「緊急事態宣言」には限界があると考えられる。政府は,経済と感染拡大防止の両立という基本姿勢を打ち出してきたが,片や政府内にデーター分析の専門的な組織がなく政策効果を検証して将来を予測することが十分にできていると言いがたい。厚労省は,新たに確認された感染者数,死者数,重症者数などは特設サイトで毎日公表しているが,年代別,性別の更新は1週間に一度で,感染経路不明の割合などは全国単位で毎日の変化がどうなっているかのデーターが示されていない。都道府県のホームページでは,年代別データーを毎日公表するところもある。しかし,公表されたデーターのファイルはPDFやエクセルなどと自治体ごとにバラバラで統一されていない。データーの分析や開示について大きな問題があることが露呈されたことになり「データー後進国」と言わざるを得ない。コロナワクチン接種も,初期の段階では人口で均等に分配する方式は仕方がないとしても,接種が始まってからは接種が行き届いていないところに分配計画の変更や周知の強化などの対策を行う必要があり,そのためには,しっかりしたデーター分析の結果によって素早く動くことが求められる。V-SYSを稼働させ,自治体が接種情報を入力したワクチン接種記録のデータベースを国が一元管理するが,単に管理をしているというだけで,データーが活用されないのであれば,政府の責任は大きい。スマートホンのCOVID-19感染情報提供の不具合,G-MIS/HER-SYS/V-SYS等の連携が不明瞭等々,日本のIT活用は,インド,中国,台湾,シンガポールなどの諸外国に比べて立ち後れが目立つ。SARSやMERSを経験した国はその時の教訓を今回のCOVID-19感染対策に活かしたことになるが,経験しなかった日本はすべての面で遅れをとった。この遅れを取り戻すための基本的な施策の抜本的な見直しは避けられないが,今後はどこまで政府が本腰を入れるのかは全く見えてこない。
⑵ 京都府の感染者数の推移と対策
2月末の緊急事態宣言解除後は,新規感染者数は3月第1週では一桁と少なく,2週に一時的に二桁になったものの3週は10名台で推移,4週後半から20名以上で27日32名,28日26名,5週にはさらに増加して30日30名,31日57名と急増した。3月の連休前後から,京都への観光客が増えたこと,卒業シーズンに関連する行事・歓送迎会・パーティーなど飲食による感染の場が増えたことの影響が大きい。これを裏付けるように3月上旬には少なかった20歳代の感染者が下旬から一気に増えた。
1日あたりの新規感染者数が直近1週間平均で30人を超え,京都府独自の目安の「厳重警戒期」に達し,第4波の入口にさしかかってきた。京都府は時短要請を3月21日に終えていたが,再度要請を行う予定とした。大阪・兵庫が政府に「まん防措置」の適用を求めた時点では,この2府県に比べて京都の感染者が少ないとして,適用要請段階ではないと判断したが,「まん防措置」適用に至るまでの措置としての時短再要請になる。
⑶ COVID-19の変異株(一部,NIID国立感染症研究所HPより)
国立感染症研究所は,感染クラスターに特有な遺伝子情報およびゲノム配列を確定し,この1年間の国内伝播の状況について発表してきた。2020年3月~4月に欧州系統(B.1.1.114)の流入が認められたが,第2波と3波の主流はこの欧州系統から派生したB.1.1.284とB.1.1.214による国内の感染拡大であったことが2021年1月に判明した。その後,英国で発生した変異株VOC-202012/01は,空港検疫検査のみならず,英国変異株によるクラスターが国内で複数報告され,海外との繋がりのない事例が継続して確認されてきた。厚生労働省は,COVID-19のゲノムを解析し,変異の状況を監視し,世界保健機関(WHO)や専門家との情報交換により,変異の分析・評価を行いつつ国内監視態勢を強化してきた。変異株事例が確認された場合は,検査や積極的疫学調査の強化により封じ込めを図っている。3月16日に神奈川県で死亡した2名の男性感染者から変異株が検出されたことが発表された。国内では変異株での初の死者であった。いずれも海外滞在歴がなく感染経路は不明であった。3月30日時点で,34都道府県で678人に変異株の感染が確認された。大阪が130人,兵庫は181人と,他の地域よりも多いが,このことが「まん防措置」の適用が速やかに決定された理由のひとつであった。
COVID-19のスパイクタンパク質の多重変異を特徴とする変異株は,発生国をもとに3系統が報告された(英国VOC-202012/01(B.1.1.7),南アフリカ501Y.V2(B.1.351),ブラジル501Y.V3(P.1))。
スパイクタンパク質はコロナウイルス表面を覆い,ヒト受容体(COVID-19ではACE2タンパク質)に結合する。その結合領域(RBD,receptor-binding domain)に親和性を示す中和抗体が感染防御に最も有効であることが知られている。変異株はRBD の2-3か所に特徴的な変異を有し(N501Y,E484K,K417T/N),特にアミノ酸484 番目のグルタミン酸(E)はRBD のACE2 結合に重要であり,かつ中和抗体の中心エピトープに配置されるアミノ酸残基である。グルタミン酸(E)は陰性荷電を示すが,リジン(K)は陽性荷電を示すため,E484K変異は極性を反転させる際立った変異である。E484K変異のある変異株は,従来株よりも免疫やワクチンの効果を低下させる可能性が指摘(この変異があることだけでワクチンが無効化されるものではなく,ファイザー社ワクチンの場合は,承認審査においてモデルウイルスを用いた非臨床試験を通じて種々の変異株にも一定の効果が期待できるとしているが,引続き検討が必要)されている。南アフリカ501Y.V2,ブラジル501Y.V3,フィリピンで確認された変異株もまた,このE484K変異を有している。
N501Yの変異のある変異株は,従来株よりも感染しやすい可能性があるとされ,急速に拡大するリスクが高い。英国変異株VOC-202012/01,南アフリカ501Y.V2,ブラジル501Y.V3,フィリピンで確認された変異株がこの変異を有している。また英国変異株については,重症化しやすい可能性も指摘されている。
N501Y変異の影響力が大きいため,それを抑制する対策として,①水際措置の強化,②国内の変異株のサーベイランス体制の早急な強化(民間検査機関や大学等とも連携。国は自治体の検査数等を定期的に把握),③変異株感染者の早期検知,積極的疫学調査による濃厚接触者および感染源の特定や速やかな拡大防止策,④変異株の感染性や病原性等の疫学情報についての評価・分析(N501Y変異以外のE484Kなどの変異を有する変異株についても実態把握を継続)と正確な情報の発信,⑤検体や臨床情報等の一体的収集・解析等の研究開発等の推進,が必要とした。
COVID-19ゲノムサーベイランス全国調査で,南アフリカ501Y.V2,ブラジル501Y.V3と同一のE484K変異を有するB.1.1.316系統が2021年2月に検出された。B.1.1.316系統は,感染性・伝播性が高まる可能性のあるN501Y変異は有しておらず,N501Y変異を有する変異株とは異なる表現型であることが推察される。このB.1.1.316系統は現在の国内の主流2系統の系譜ではなく,2020年3月~4月欧州系統(B.1.1.114)から13塩基変異(およそ7か月の時間差)を有していた。国内検体でこの13塩基変異の空白リンクを埋める検体は特定されておらず,国内で変異を獲得した系譜ではないと判断された。また国際的なゲノム情報データベースの検索では,この流入B.1.1.316の起源を示す発生国は特定できていない。一方,国内の主流2系統(B.1.1.284とB.1.1.214)からE484K変異を獲得した株は検出されていない。
コロナワクチンの接種が始まったが,ワクチン導入後のウイルスの適応変異に関して,十分に注意する必要がある。世界的に懸念される株の国内流入と国内での変異株の出現の早期探知も重要であり,体系的で継続的なゲノムサーベイランスの確率が重要である。
⑴ 会議等
松井府医会長は,3月5日・15日「京都府新型コロナ対策専門家意見交換会」,10日・18日「京都府新型コロナ対策本部会議」,17日・18日「京都府新型コロナ対策専門家会議」に出席した。
コロナワクチンに関する京都府・京都市との協議は週に1-2回行われた。10日に地区感染症担当理事連絡協議会と府医感染症対策委員会の合同会議を,24日に地区庶務担当理事・感染症担当理事合同連絡協議会を開催し,いずれも京都府および京都市のコロナワクチン担当者が同席の上,情報提供を行った。京都府から,一般医療機関での優先接種の開始時はワクチン供給がかなり制限されるため,過不足が生じないよう地区内で接種可能な医療機関(府の意向調査では接種可能と接種不可の医療機関は半々くらい)を中心としたグループを作って接種を始めていただきたいとの申し出があった。また高齢者向けの接種については,人口の多い医療圏域から順に接種を始める予定で,高齢者施設入所者・介護職員を対象とし,入所者の多い多床室のある施設から開始する予定であることの説明がなされた。
⑵ 宿泊療養健康管理について
2月20日にはアパホテルの入所者はゼロとなり,それ以降の新規入所者はホテルヴィスキオに集約された。ヴィスキオの入所者も減少を続け,2月28日現在の総入所者は6人となった。
2月末に京都府の緊急事態宣言が解除され,3月から人流が増え始めたために新規陽性者が増加し始めた。
3月1日から5日の宿泊施設への新規入所者は1日あたり0から2人であったが,6日から増え始め1日あたり5人以上入所の日が増えた。3月28日には20人の入所があり,総入所者数は58人となった。
府内でも変異株陽性者が出ている。変異株陽性の場合は感染力が強い上に重症化する可能性が高いので入院となるが,その結果が出るまでは症状が軽症であればホテル療養となり,変異株陽性と判明して転院した患者が9名いた。
第4波に向けて病床の逼迫が起こらないように,重症者と中等症以下を棲み分けて下り搬送を進め,宿泊療養と自宅療養の患者で重症化の兆しがある患者を「陽性者外来」へ誘導して,レントゲンやCT検査等により上り搬送(入院(転院))を速やかにしていく体制を整えなければならない。
入所者の増加にともない,4月5日からアパホテル再開となった。ヴィスキオの出務医は前日入所者が9名までは会員の先生1名にお願いし,入所者10名以上で府医役員が補佐に入ることとした。アパホテルは前日入所者の人数に関わらず会員または府医役員1名で対応することとした。
3月の新規入所者数は187名(1日平均6.0名)で,入所中の症状増悪などにより転院した者が17名(うち変異株9名)いた。
3月中に新規入所した187名のうち,退所者は154名(転院者17名含む),入所中の者は33名であった。年代別では,10歳未満が3名,10歳代12名,20歳代79名,30歳代35名,40歳代25名,50歳代22名,60歳代11名,70歳代0名であり,居住地では京都市内115名(61.5%),京都市以外が72名(38.5%)であった。自宅からの入所は186名(99.5%),医療機関からの入所は1名(0.5%)で,平均入所日数は約7.1日であった。
⑶ 京都府・医師会京都検査センター(府医PCR検査相談センター)の運営
府医相談センターでの,かかりつけ医のない発熱患者等を診療・検査医療機関に紹介する業務は昨年11月から開始し,第3波の1月の受付は800件を超えていたが,感染者数の減少にともない2月682件,3月639件と減ってきた。きょうと新型コロナ医療相談センター(新コロセンター)からの紹介は全体の88%を占めていた。受け付けた相談のうち,診療・検査医療機関等への受診調整など発熱患者を府医相談センターから繋いだのは89%で,府医PCR検査センター(ドライブスルー検査)になったのは1%であった。キャンセルは全体の7%で,そのうちの80%が患者の都合による理由で,行政対応となったもの13%,救急対応は7%であった。
3月の府医PCR検査センターの実績は,別項を参照されたい。府医会員からのドライブスルー形式PCR検査の依頼数も,感染者数減少にともなって減ってきた。3月の検査実施は1日一桁の日が続いた。集合契約医療機関/診療・検査医療機関での各医療機関で実施される唾液・鼻腔PCR検査/抗原定量検査と鼻腔抗原定性検査の実施数が増えており,府医PCR検査センターでの実施数の10倍以上が集合契約医療機関での実施となっている。また妊婦対象のPCR検査は,集合契約をされた産婦人科医療機関が増え自院での検査実施を行う体制に変わってきた。これらを踏まえて,府医コロナチームで検討し,ドライブスルー形式の府医PCR検査センターは4月2日(金)の依頼/3日(土)の実施分をもって一旦休止することが決まった(3月29日に府医メーリングリストで会員へ休止のお知らせを行った)。昨年4月からの府医PCR検査センターに出務いただいた会員の先生方には,この場をもって感謝と御礼を申し上げます。今後の会員からの検査依頼は,府医PCR相談センターを通じた診療・検査医療機関への紹介という形で対応することになる。また,感染拡大状況によって,再度ドライブスルー検査体制が必要と判断した際には,速やかに再開する予定である。
⑴ ワクチン供給
ファイザー社ワクチンの日本への搬送は,当初の予定よりもかなり遅れることとなった。2月に医療従事者先行接種が始まり,コロナワクチンの輸入第3便が3月1日に到着した。3月には先行接種の2回目の接種が始まり,また,基本型接種施設以外の連携型の医療機関(COVID-19患者の治療に当たる医療従事者)の優先接種も5日から始まった。しかし,ワクチン供給量が限定的であるため,その他の医療従事者優先接種の開始が大幅に遅れることとなった。同時に,高齢者対象の接種も遅れることとなり,診療所等の医療従事者優先接種と高齢者接種がほぼ同時期に始まることになる。全国の各自治体は,接種計画の変更を余儀なくされた。河野規制改革相は12日に6月分までのワクチン調達スケジュールを発表したが,その中で累計1億回分を超えるファイザー社ワクチンを確保し,医療従事者や高齢者向けの4,000万人分のワクチン供給に目処がついたとした。ただし,到着するワクチンスケジュールは確定した数ではなく「見込み」に過ぎず,自治体の関係者,医療従事者の不安は払拭できていない。4月以降のワクチン分配の予定については,京都医報4月1日号第23報を参照いただきたい。
3月1日にファイザー社は,同社のコロナワクチンが医療用冷凍庫(マイナス15~25℃)で最大2週間保管できるとし(米国FDAはすでに承認),国の審査機関もこれを認めて添付文書を改訂した。家庭用冷蔵庫の冷凍庫では,マイナス15℃以上マイナス10℃程度で変動することが多く,ワクチンの冷凍保管には適さないので注意を要する。ワクチンの分配・配送は原則としてドライアイス等を用いてマイナス20℃前後で行われるが,医療機関に納入された後は各医療機関の責任で保管することになる。
⑵ ワクチン接種体制整備に向けての準備
3月1日に京都府健康福祉部内に「ワクチン接種対策室」を新設し,兼務を含め21名で構成され,次長級の室長を筆頭に,府医などの医療関係団体や京都市との調整にあたる企画参事を置いた。医療従事者の優先接種および住民接種を行う府内市町村との調整や医療人材の確保,ワクチン分配などの業務を担う。毎週のように変わるワクチン情報のため,府医コロナチームはこのワクチン対策室担当者と,医療従事者の優先接種の体制について週に1回以上の協議の場を持ってきた。
京都市の住民接種のための集団接種模擬訓練を,3月28日に府医会館2階会議室で行った。門川市長,松井府医会長の挨拶のあと,模擬訓練が始まったが,市内を中心とした地区医から1~2名の府医会員の参加を得て,問診医,接種医,被接種者の役割を分担していただいた。その他の被接種者は市の職員で,受付,案内など事務的な役割は市職員が担い,京都府看護協会から看護師が複数名参加し,ワクチン調整,予診室・接種室の介助,接種後待機室の健康観察等を行った。体調不良者のシミュレーションもスムースに行われた。すべてが完璧ではなく,問題点や改善点が多々見えてきたことは,今後の実践の際に役立つであろう。
⑶ その他のワクチン
3月5日に武田薬品がモデルナ社ワクチンの製造販売承認を厚労省に申請した。コロナワクチンの申請は我が国では3番目である。承認は5月以降の見通しで,6月までに2,000万人(4,000万回)分の供給を目指している。米国での3万人規模の臨床試験では94.1%の有効性を確認している。「特例承認」の適用を求めているが,国内での臨床試験は武田薬品が担当しデーターが整うのは5月以降と思われる。
3月11日に欧州連合(EU)の欧州医薬品庁(EMA)が,アストラゼネカ社ワクチン接種後に血栓ができる複数の死亡症例がEU内で報告され,調査中であると発表した。ドイツやフランスなどの15以上の国が一時的に接種を見合わせた。18日にEMAは,指摘された血栓とワクチンとの因果関係はないとし,安全性を確認したと発表した。接種を見合わせていた各国は接種再開の方針を出した。
⑷ 変異株に対する今後の対応
変異株のうち最も感染力が高いとされる南アフリカ型501Y.V2は,ワクチンの有効性を弱める可能性があるとされている。変異型でのワクチンの有効性についてのデーターがいくつか出てきた。ノバックス社ワクチンは英国での有効性89.3%に対して変異株流行の南アフリカでは60%であった。同様にジョンソン・アンド・ジョンソンのワクチンも米国での有効性72%に対して南アフリカ57%と低かったことを報告した。モデルナとファイザーは南アフリカ型の流行前に臨床試験を終えているが,いずれも南アフリカ型で防御効果が下がると実験結果が示した。アストラゼネカ社ワクチンも,南アフリカ型には効果が低いと研究報告を発表した。世界保健機関(WHO)は,緊急使用許可を出しているが,一定の効果があるとして使用を推奨している。しかし,南アフリカ政府は購入済みのアストラゼネカ社のワクチンを使用しない方針とした。
モデルナ社は南アフリカ型に対抗できる新しいワクチンを開発し,米国立衛生研究所(NIH)向けに供給して臨床試験を始めることになった。既存のワクチンと組み合わせて接種して変異型に効果があるかどうかを確かめるが,試験期間が短期間で済めば,実用化が早まる可能性がある。
ファイザー社は,2回接種の現行ワクチンで3回目の追加接種を行う臨床試験を始めることを発表した。ファイザー社は南アフリカ型に特化した新しいワクチンの臨床試験について米食品医薬品局(FDA)と協議を始めた。新たな変異株が出ても,6週間でワクチンの製造が可能としている。
アストラゼネカ社も南アフリカ型に対応する新しいワクチン開発に取組み,今週までに生産を始める計画を立てている。
グラクソ・スミスクライン社は,複数の変異株に対応する次世代ワクチンを開発し2022年に実用化する方針を打ち出している。
国内のワクチン開発は,諸外国に比べて遅れており,変異型への対応はできていない。
変異株に対応する新ワクチンが出てきても,新たな変異株は次々と出てくるため,そのワクチン効果が薄れる可能性がある。かつての抗菌薬の開発と耐性菌の出現と同じ悪循環になりかねない。
<資料>
#「新型コロナウイルスSAR-CoV-2 Spikeタンパク質E484K変異を有するB.1.1.316系統の国内流入」(2月2日,国立感染症研究所)
#「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の区域変更について」(3月2日,日医)
#「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業に関するQ&A(第17版)について」(3月2日,事務連絡,厚労省医政局/健康局)
#「医療従事者等への新型コロナワクチン接種に関して医療機関において必要となる手続等について」(3月2日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業(都道府県実施・市町村実施)の上限額等について」(3月3日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針(第3.1版)及び唾液検体の採取方法について」(3月3日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「障害者支援施設等入所者及び従事者への新型コロナウイルス感染症に係る予防接種について(改正)」(3月3日,事務連絡,厚労省健康局/社会・援護局)
#「新型コロナウイルス感染症に係る行政検査に関するQ&Aについて(その4)」(3月8日,事務連絡厚労省対策推進本部)
#「新型コロナウイルス変異株流行国・地域に滞在歴がある入国者の方々の健康フォローアップ及びSARS-CoV-2陽性と判定された方の情報及び献体送付の徹底について」(3月8日改訂,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「離島等における新型コロナウイルスワクチン接種の取扱いについて」(3月9日,日医)
#「予防接種会場での救急対応に用いるアドレナリン製剤の供給等について」(3月9日,日医)
#「保険医療機関コード等が存在しない接種施設のV-SYS上の取り扱いについて」(3月9日,日医)
#「Immunogenicity of the Ad26.COV2.S Vaccine for COVID-19」(Mar 11 2021,KE Stephenson et al,JAMA)
#「新型コロナワクチンの今後の出荷予定について」(3月12日,厚労省健康局)
#「「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き」の改訂について」(3月12日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(2.1版)」(3月12日改訂)
#「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(コミナティ筋注)の接種にともなうアナフィラキシーの発生について(3月15日,厚労省健康局/)医薬・生活衛生局)
#「新型コロナワクチンの配分について(医療従事者等向け第3弾及び高齢者向け第2・第3クール)(3月17日,事務連絡,3月17日)
#「Neutralizing Antibodies Against SARS-CoV-2 Variant after Infection and Vaccination」(Mar 19 2021,VV Edara,et al, JAMA)
#「新型コロナウイルス感染症に係る後方支援医療機関の確保に関する自治体の実践例や,G-MISの調査項目追加について」(3月19日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「「令和2年度インフルエンザ流行期における発熱外来診療体制確保支援補助金」の終了について(「4月以降の当面の相談・外来診療体制について」の再周知)(3月19日,日医)
#「新型コロナウイルスワクチンの接種順位の上位に位置づける基礎疾患を有する者の範囲について」(3月19日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)における「現在のステータス」情報の入力徹底について(依頼)」(3月22日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「高齢者向け接種を実施するための新型コロナワクチンの配分手続きについて(第1クール(4月5日の週)の出荷分に係る対応)」(3月23日,事務連絡,厚労省健康局)
#「今後の感染拡大に備えた新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備について」(3月24日,厚労省対策推進本部)
#「{新型コロナウイルス感染症の予防接種を安心して受けるために}の送付について」(3月26日,日医)
#「「新型コロナワクチン 予診票の確認のポイント」について」(3月26日,事務連絡,厚労省健康局)
#「高齢者向け接種を実施するための新型コロナワクチン等の配分について(4月26日の週および5月3日の週)」(3月29日,日医)