2021年12月15日号
第60回十四大都市医師会連絡協議会が10月30日(土)・31日(日)の両日,神戸市医師会主管(会長:置塩 隆)のもと,新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点からWEB会議システムを利用して開催された。全国十四の政令指定都市から総勢344名が参画し,政令指定都市が抱える医療を取り巻く諸問題について,活発な意見交換が行われた。
初日は,会長会議,総務担当理事者会議,事務局長会議が行われ,2日目は,第1分科会「COVID-19と救急について」,第2分科会「介護(高齢者施設,在宅での対応)について」,第3分科会「医療情報(ICT)について」の各分科会において,それぞれ直面する課題について協議が行われ,府医からも各担当理事が発言した(各分科会の状況は後述参照)。
最後に,次年度の主管である千葉市医師会・斎藤博明会長から,次年度は2022年11月12日(土)・13日(日)にホテルニューオータニ幕張にて開催すると報告され,盛況裡に終了した。
第1分科会では,①大都市におけるCOVID-19の感染状況と課題,②COVID-19感染拡大時における入退院調整をはじめとした救急医療体制,③休日・夜間の応急診療所でのCOVID-19患者対応をテーマとして,事前アンケートをもとに協議・情報共有が行われた。
COVID-19の感染状況と課題
第6波に備えて病床を逼迫させないためには,今まで以上に行政を含めて関係団体との連携が必要との認識が共有された。横浜市からは,病床逼迫改善に向けた入院調整の仕組みとして,入院にあたって医学的な視点による入院優先度判断スコアを取り入れた「神奈川モデル」と横浜市のY-CERT(横浜市感染症医療調整本部)の取組みについて紹介された。
髙階府医理事は,入院の必要性をスコア化することについて,「感染状況に応じて大きく変わってくるため,ある程度のタイミングまでの運用でないと難しいのではないか」と指摘。実際に第5波による患者急増にあたっては,横浜市でもスコアによる運用が困難になり,酸素飽和度で入院を判断する形で対応したことが報告された。
COVID-19感染拡大時における救急医療体制
髙階府医理事より,新型コロナウイルス感染症に対する府医の取組みとして,下記スライド①〜⑨を紹介した。
新型コロナ患者受入病院,後方支援病院のグループ化については,感染対策業務をベースに地域の病院を24グループに分け,感染対策の相談や患者の受け入れが促進されるよう体制構築に取組んだとし,平時の連携体制,機能別分類,密な連携・情報共有が重要であるとの考えを示した。
休日・夜間の応急診療所でのCOVID-19患者(疑い含む)対応
各都市より,PCR検査および抗原検査実施状況,応急診療所における発熱者への対応状況について報告がなされた。
十四大都市医師会においても今回のような感染症を「災害」と捉えて検討し,備えていくことが重要との認識が共有され,釜萢日医常任理事からは,従来のステージの考え方など,基本的対応方針の改訂作業を進めており,11月中には考えが示される予定との情報提供がなされた。
第2分科会は,高齢者施設や在宅における新型コロナウイルス感染症の影響をテーマに,高齢者施設において陽性患者が出た場合の対応や自宅療養中の患者への対応などについて意見交換が行われた。
高齢者施設においてコロナ陽性患者が出た場合の対応
①保健所の対応,②認知症入所者への対応,③入所者の家族へのケアについて,各都市の状況が報告された。
西村府医理事は京都の状況について,保健所が把握した陽性患者の入院先などは,京都府が設置した入院医療コントロールセンターが府全域を一元的に管理していることを説明した上で,特に第3波では,病床が逼迫し,施設で療養せざるを得ない事態が生じたと報告。その際,保健所が感染症の専門医などと連携し,施設に対してゾーニングや隔離などの指導を行ったほか,感染症指定医療機関の専門医や看護師などで構成する京都府新型コロナウイルス感染症施設内感染専門サポートチームの支援が行われたことを紹介した。
施設内での療養中の課題として,ハード面で隔離が困難な施設があることや,職員が少ない施設では,職員が複数フロアの入所者の食事や排せつの介護をし,感染を拡大させた可能性があったと指摘した。また,施設内でクラスターが発生し職員が減少した場合の対策として,京都府,京都市と老人福祉施設の関係団体が介護施設等職員相互応援派遣システムの協定を締結し,相互に職員を派遣できる体制が整備されたことを報告した。
認知症入所者の対応では,行動制限が困難なため,デイルームやトイレなど共有スペースでの感染リスクが高く,施設内感染が長期化したケースがあったとし,普段からの施設内移動の行動パターンを踏まえて,クラスター対策を想定し,他の入所者を隔離するなど感染機会を減らすことを提案した。
第5波では,施設において感染症対策の意識の向上,WEB研修の受講など感染防止策に取組んだことから陽性患者が発生した場合も,迅速に対応ができ,感染の拡大を比較的早期に抑え込むことができたとした。
また,入所者の家族へのケアについては,急変時や看取り時の立ち合いを希望する家族と外部からのウイルス侵入の対策を徹底する施設との間で意見の相違が生じたとし,普段からの丁寧な情報提供の必要性を指摘した。
東京都から,医師会と高齢者施設間で連携に係る会議を開催し,施設内対応フロー図などを作成したことが報告されたほか,各都市からは,施設内での酸素投与や点滴治療などにより生じた施設配置医の負担や認知症入所者の受け入れ施設の確保,PPE着用時の介護の負担などが課題として挙げられた。
コロナ陽性患者の在宅診療に関して支障を来した事(医療・介護関係職種との連携を含む)
各都市で保健所の業務が多忙を極め,陽性患者の健康管理が不十分になったことから,行政と医師会が連携して往診やオンライン診療の提供体制が整備されたことが報告された。約20年前から続く保健所の統合・縮小により,機能が弱体化したことが問題との指摘もあり,江澤日医常任理事は,国は第6波に備え,自宅療養者の健康管理を保健所に加え受診した地域の医療機関も活用する方針を示し,日医も賛成しているとした。
自宅または宿泊療養施設等でコロナ陽性患者の健康管理
各都市から電話診療や専用外来などそれぞれの支援体制が示され,かかりつけ医の関与が有効との意見があった。宿泊療養施設については,稼働率が低いとの問題提起があり,医療資源の有効活用の観点からも病院と施設間の上り・下り搬送が重要とされた。
また,新型コロナウイルス感染症の二類感染症から五類感染症への変更の見込みについて尋ねられた江澤日医常任理事は,インフルエンザよりも病態が複雑で,自宅での突然死などが懸念されることから,日医として現段階では変更に慎重な姿勢を示した。
第3分科会は,医療情報(ICT)をテーマに,「BCP(事業継続計画)の作成および運用」,「WEB会議の運用や行政多職種とのWEB会議の問題点」について意見交換が行われた。
BCPの作成および運用について
災害発生時や新興感染症流行期においても医師会活動を継続する上で重要となる事業継続計画(BCP)(以下,BCP)について,各都市の策定状況や運用上の課題等が報告された。
松田府医理事
松田府医理事は,府医ではBCP未策定であるものの,新型コロナウイルス感染症に対応する中で,ICTを活用して会務運営の遂行にあたってきたことを報告。従来,ハードウェアに依存したテレビ会議システムを使用していたが,新型コロナウイルスの感染拡大を契機に,Cisco WebexやZoom等のWEB会議システムの利用を開始し,現状では会内の会議をすべてハイブリッド形式で開催するなど,基幹インフラとして運用している状況であると説明した。また,複数のWEB会議システムを利用することでWEB会議システムのトラブルに備え,保全を図っていることや,文書等の共有にはグループウェアの活用とともに,役員を中心とした専用の文書管理システムを構築して冗長化を図っていることを紹介した。最後に,今後もセキュリティレベル,利便性,復旧のバランス等を総合的に考慮し,臨機応変に対応していく必要があるとの認識を示した。
すでにBCPを作成・運用している都市からは,厳格なBCPでは会務運営が停滞すると同時に,実務とのミスマッチが生じるため,シンプルな指針を策定し,状況に応じて柔軟に見直していくことが重要であると指摘があった。
各都市からは,組織単独のBCPでは実効性が確保できないため,日医や国レベル,各都道府県,近畿ブロックなど,広域かつ多組織にわたるBCPを策定すべきとの意見や,今後,各都市でBCPの策定が検討される中,ある程度スタンダードとなる指針の作成を要望する声も見られた。
長島日医常任理事は,今回の経験を踏まえて,利用可能な資源が制限される緊急時に備え,事業継続と早期復旧に向けたBCPの策定がますます重要になると総括し,地域特性や組織規模に応じて策定することが望ましく,今後,各都市のBCPを全国で共有できる仕組みを検討していく考えを示した。医療分野においては,オンライン資格確認の開始をはじめ,今後さらにICTの重要性が増すとして,サイバーセキュリティや感染症等も含めた対策が必要であり,外部クラウドのセキュリティの保持についても国に要望していきたいと述べた。
WEB会議の運用や行政多職種とのWEB会議の問題点について
各都市からWEB会議の導入・運用にあたって,使用できる機器や場所の確保,利用者の通信環境,音声の調整,セキュリティ対策への不安等が共通の課題として挙がった。一方で,WEB会議の活用により,遠方の会員にも研修機会が確保されることや,研修会の参加者が増えるといったメリットも報告された。対面での開催とWEB開催それぞれの特性を踏まえ,うまく使い分けることで,会議等の充実が図れるようノウハウを積み上げていく必要があるとの認識が共有された。