2021年12月15日号
伏見岡本病院 副院長
木戸岡 実
オリンピックの体操などで解説された難易度ではありません。脳神経外科手術の難易度の高さです。外保連試案2020(医学通信社)の手術試案の中で,脳神経外科が主に関与する228手技が掲載されています。228手技の技術度の分布は,A0%,B3%,C8%,D64%,E25%。難易度の高い手術が89%にもおよびます。さらに,手術時間が6時間以上の手技が228手技中59手技(26%)あり,脳神経外科手術が長時間の集中力を要するものであることも示されています(「医師の働き方改革 日本脳神経外科学会の提言」日本脳神経外科学会ホームページより)。
また,上記提言では,救急対応についても触れられています。特に急性期血栓回収療法は件数が急増し,治療までの時間が結果を左右するため,24時間365日の体制が求められています。他にも早急な手術対応が必要な疾患として,頭部外傷,くも膜下出血などがあります。これ以上書くと脳神経外科を選択していただける専攻医が減少しそうなので,先の提言のタイトルを記載させていただきます。
1.労務管理
2.人材育成
3.タスクシフティング
4.脳神経外科における応招義務
5.働き方改革と保険診療
6.働き方改革の具体例の情報提供
7.処遇改善
1.はタイムカードの導入などすでに始まっています。
2.の人材育成については,専門医制度(医師免許取得後3年目から5年目の医師の教育)が関与しています。その制度設計について多くの問題を抱えながら,ほぼ見切り発車的に動き出しています。今年10月に京都で開催された令和3年度全国医師会勤務医部会連絡協議会の2つのシンポジウムの1つは,「専門医制度の行方 ~理想と現実,目的と結果の齟齬~」でした。多くの関係者から早期の見直しが提言されていました。一部の演者は,「専門医教育の質への取組みを怠る10年の暗黒は,若い世代の将来を確実に潰す」と結論されていました。
3.については,約40年前医師になりたてのころ,医師の少ない病院では,経鼻胃管の挿入や点滴,創処置などは看護師さんがされていたこと,また,米国の手術見学の際,手術の最終段階での創の縫合は専門のテクニシャンが専攻医や研修医とともに行っていたことを思い出します。
4.は令和元年の「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応のあり方等について」(厚生労働省医政局長から各都道府県知事あての通知)で詳述されています。
5.は,7.で補足されていますが,財政保障の裏付けは,保険診療改定で行われていますので,密接に関連します。
6.については,ITの活用が挙げられます。医療者間の情報共有手段があるもののその普及は遅々としてすすみません。TVで個人のバイタルサインを腕時計で経時的に測定できることが放映されているのに医療現場への導入への強い気運は感じられません。また,職場での保育園設置はどうでしょうか。20年くらい前にサイパンのホテルでベビーシッターを使った際に,ホテルの従業員の保育園へ案内され,ホテルの従業員の保育と共用されていました。勤務先に必ず保育園を設置することを各企業に義務化することは困難なのでしょうか。出勤とともに預け,退勤時に迎えに行くとすれば効率が良いように思うのですが。
7.は最も記載が多い項目です。ヒトが休もうとすれば,ヒトを増やす必要があり,そのためには処遇改善による原資が必要です。また,ヒトを増やせない場合は,インセンティブを求めていくことになりますが,そのためにも原資が必須です。
首相の主導でスマホ料金が下がったように,2024年4月の医師の時間外労働規制を機会に医療界のシステムの多くに改革・新規導入があることを期待したい。
2021年11月22日
Information
病院名 伏見岡本病院
住 所 京都市伏見区京町9-50
電話番号 075-611-1114
ホームページ https://www.okamoto-hp.or.jp/oka1/