2021年1月15日号
全世代型社会保障検討会議が令和2年12月14日,医療や少子化対策に関する最終報告を取りまとめ,翌15日,政府は臨時閣議で,「全世代型社会保障改革の方針」を決定した。医療については,後期高齢者の自己負担割合2割の導入や,紹介状なし大病院の受診時定額負担拡大などの方針が盛り込まれた。
後期高齢者の自己負担割合については,「課税所得が28万円以上かつ年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は後期高齢者の年収合計が320万円以上)」の人を2割に引上げる。それ以外は1割のまま変わらない(従来の現役並み所得者も3割で変更なし)。なお,2割の導入時期は,令和4年度(2022年度)後半(令和4年10月から令和5年3月までの各月の初日を想定)までの間で,政令で定めるとされている。
また,紹介状なし大病院受診時定額負担については,今後,地域の実情に応じて明確化される「紹介患者への外来を基本とする医療機関」のうち一般病床200床以上の病院まで拡大する。また,より外来機能分化の実効性が上がるよう「保険給付の範囲から一定額(例:初診の場合,2000円程度)を控除し,それと同額以上の定額負担を追加的に求めるよう仕組みを拡充する」とされた。
府医としては,社会保障制度の持続可能性を考えると,負担能力がある後期高齢者の一定の引上げはやむを得ない部分があるものの,本来は税や保険料を優先すべきであり,結論ありきで十分な議論が尽くされていない面があると考えている。
方針の全文は以下のとおり。
1.これまでの検討経緯
政府は,昨年9月に全世代型社会保障検討会議(以下「検討会議」という。)を設置し,人生100年時代の到来を見据えながら,お年寄りだけではなく,子供たち,子育て世代,さらには現役世代まで広く安心を支えていくため,年金,労働,医療,介護,少子化対策など,社会保障全般にわたる持続可能な改革を検討してきた。
検討会議は昨年12月に第1回目の中間報告(以下「第1次中間報告」という。)を行った。当該中間報告に基づき,第201回国会では労働や年金分野等で所要の改革が実現した。本年6月には第2回目の中間報告を行い,医療について,第1次中間報告で示された方向性や進め方に沿って,更に検討を進め,本年末の最終報告において取りまとめることとした。
本年9月の菅内閣の発足後,検討会議の検討を再開し,10月15日に少子化対策,11月24日に医療改革について議論を行った。
これまでの検討会議の検討や与党の意見を踏まえ,全世代型社会保障改革の方針を定める。
2.全世代型社会保障改革の基本的考え方
菅内閣が目指す社会像は,「自助・共助・公助」そして「絆」である。まずは自分でやってみる。そうした国民の創意工夫を大事にしながら,家族や地域で互いに支え合う。そして,最後は国が守ってくれる,セーフティネットがしっかりとある,そのような社会を目指している。
社会保障制度についても,まずは,国民1人1人が,仕事でも,地域でも,その個性を発揮して活躍できる社会を創っていく。その上で,大きなリスクに備えるという社会保険制度の重要な役割を踏まえて,社会保障各制度の見直しを行うことを通じて,全ての世代の方々が安心できる社会保障制度を構築し,次の世代に引き継いでいく。
まず,我が国の未来を担うのは子供たちである。長年の課題である少子化対策を大きく前に進めるため,本方針において,不妊治療への保険適用の早急な実現,待機児童の解消に向けた新たな計画の策定,男性の育児休業の取得促進といった少子化対策をトータルな形で示す。
一方,令和4年(2022年)には,団塊の世代が75歳以上の高齢者となり始める中で,現役世代の負担上昇を抑えることは待ったなしの課題である。そのためにも,少しでも多くの方に「支える側」として活躍いただき,能力に応じた負担をいただくことが必要である。このため,本方針において高齢者医療の見直しの方針を示す。
このような改革に取り組むことで,現役世代への給付が少なく,給付は高齢者中心,負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し,切れ目なく全ての世代を対象とするとともに,全ての世代が公平に支え合う「全世代型社会保障」への改革を更に前に進めていく。
少子化の問題は,結婚や出産,さらには子育ての希望の実現を阻む,様々な要因が絡み合って生じている。これまで,政府としては,待機児童の解消と併せて,幼稚園,保育所,大学,専門学校の無償化のほか,仕事と育児の両立支援,結婚・妊娠・出産支援などの総合的な取組を進めてきた。
我が国の未来を担うのは子供たちである。長年の課題である少子化対策を大きく前に進めるため,以下の取組を進める。
その上で,安心して子供を産み育てられる環境をつくるとともに,女性が健康で活躍できる社会を実現していく。
1.不妊治療への保険適用等
子供を持ちたいという方々の気持ちに寄り添い,不妊治療への保険適用を早急に実現する。具体的には,令和3年度(2021年度)中に詳細を決定し,令和4年度(2022年度)当初から保険適用を実施することとし,工程表に基づき,保険適用までの作業を進める。保険適用までの間,現行の不妊治療の助成制度について,所得制限の撤廃や助成額の増額(1回30万円)等,対象拡大を前提に大幅な拡充を行い,経済的負担の軽減を図る。また,不育症の検査やがん治療に伴う不妊についても,新たな支援を行う。
同時に,不妊治療のみならず,里親制度や特別養子縁組等の諸制度について周知啓発を進める。また,児童虐待の予防の観点から,地域で子供を見守る体制の強化や児童福祉施設による子育て家庭への支援の強化を着実に推進する。さらに,不妊治療と仕事の両立に関し,社会的機運の醸成を推進するとともに,中小企業の取組に対する支援措置を含む,事業主による職場環境整備の推進のための必要な措置を講ずる。
<工程表>
2.待機児童の解消
政権交代以来,72万人の保育の受け皿を整備し,今年の待機児童は,調査開始以来,最小の1万2千人となった。待機児童の解消を目指し,女性の就業率の上昇を踏まえた保育の受け皿整備,幼稚園やベビーシッターを含めた地域の子育て資源の活用を進めるため,年末までに「新子育て安心プラン」を取りまとめる。
具体的には,安定的な財源を確保しながら,令和3年度(2021年度)から令和6年度(2024年度)末までの4年間で約14万人分の保育の受け皿を整備する。その際,保育ニーズが増加している地域,マッチングの強化が必要な地域など,地域の特性に応じた支援に取り組み,地域のあらゆる子育て資源の活用を図る。
新プランの財源については,社会全体で子育てを支援していくとの大きな方向性の中で,公費に加えて,経済界に協力を求めることにより安定的な財源を確保する。
その際,児童手当については,少子化社会対策大綱(令和2年5月29日閣議決定)等に基づき,高所得の主たる生計維持者(年収1,200万円1以上の者)を特例給付の対象外とする。
児童手当の見直しの施行時期については,施行に要する準備期間等も考慮し,令和4年(2022年)10月支給分から適用する。
これらのために,令和3年(2021年)の通常国会に必要な法案の提出を図る。
また,少子化社会対策大綱等に基づき,安定的な財源を確保しつつ,ライフステージに応じた総合的な少子化対策に向けた取組を進める。その際,児童手当について,多子世帯等への給付の拡充や世帯間の公平性の観点での世帯合算導入が必要との指摘も含め,財源確保の具体的方策と併せて,引き続き検討する。
3.男性の育児休業の取得促進
男性の育児参加を進めるため,今年度から男性国家公務員には1ヶ月以上の育児休業等の取得を求めているが,民間企業でも男性の育児休業の取得を促進する。
具体的には,出生直後の休業の取得を促進する新たな枠組みを導入するとともに,本人又は配偶者の妊娠・出産の申出をした個別の労働者に対する休業制度の周知の措置や,研修・相談窓口の設置等の職場環境の整備等について,事業主に義務付けること,男性の育児休業取得率の公表を促進することを検討し,労働政策審議会において結論を取りまとめ,令和3年(2021年)の通常国会に必要な法案の提出を図る。
少子高齢化が急速に進む中,現役世代の負担上昇を抑えながら,全ての世代の方々が安心できる社会保障制度を構築し,次の世代に引き継いでいくことは,我々の世代の責任である。こうした観点から,以下の取組を進める。
1.医療提供体制の改革
第1次中間報告では医療提供体制の改革の方向性が示されたところであるが,今般の新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえ,有事に必要な対策が機動的に講じられるよう,都道府県の医療計画に新興感染症等への対応を位置づけるとともに,地域医療構想については,中長期の医療需要の変化を見据え,各医療機関の役割分担を継続的に協議する基本的枠組みは維持し,その財政支援等を行う。
外来医療においては,大病院における患者の待ち時間や勤務医の外来負担等の問題に鑑み,かかりつけ医機能の強化とともに,外来機能の明確化・連携を図る。このため,まずは,医療資源を多く活用する外来に着目して,医療機関が都道府県に外来機能を報告する制度を創設し,地域の実情に応じて,紹介患者への外来を基本とする医療機関を明確化する。
あわせて,安全性・信頼性の担保を前提としたオンライン診療を推進するとともに,医師の健康を確保し医療の質・安全の向上を図るための医師の働き方改革,医療関係職種の専門性を生かした医療提供体制の推進,医師偏在に関する実効的な対策を進める。
2.後期高齢者の自己負担割合の在り方
第1次中間報告では,「医療においても,現役並み所得の方を除く75歳以上の後期高齢者医療の負担の仕組みについて,負担能力に応じたものへと改革していく必要がある。これにより,2022年にかけて,団塊の世代が75歳以上の高齢者となり,現役世代の負担が大きく上昇することが想定される中で,現役世代の負担上昇を抑えながら,全ての世代が安心できる社会保障制度を構築する。」とされた上で,「後期高齢者(75歳以上。現役並み所得者は除く)であっても一定所得以上の方については,その医療費の窓口負担割合を2割とし,それ以外の方については1割とする。」としたところである。
少子高齢化が進み,令和4年度(2022年度)以降,団塊の世代が後期高齢者となり始めることで,後期高齢者支援金の急増が見込まれる中で,若い世代は貯蓄も少なく住居費・教育費等の他の支出の負担も大きいという事情に鑑みると,負担能力のある方に可能な範囲でご負担いただくことにより,後期高齢者支援金の負担を軽減し,若い世代の保険料負担の上昇を少しでも減らしていくことが,今,最も重要な課題である。
その場合にあっても,何よりも優先すべきは,有病率の高い高齢者に必要な医療が確保されることであり,他の世代と比べて,高い医療費,低い収入といった後期高齢者の生活実態を踏まえつつ,自己負担割合の見直しにより必要な受診が抑制されるといった事態が生じないようにすることが不可欠である。
今回の改革においては,これらを総合的に勘案し,後期高齢者(75歳以上。現役並み所得者は除く)であっても課税所得が28万円以上(所得上位30%2)かつ年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は,後期高齢者の年収合計が320万円以上)の方に限って,その医療費の窓口負担割合を2割とし,それ以外の方は1割とする。
今回の改革の施行時期については,施行に要する準備期間等も考慮し,令和4年度(2022年度)後半3までの間で,政令で定めることとする。
また,施行に当たっては,長期頻回受診患者等への配慮措置として,2割負担への変更により影響が大きい外来患者について,施行後3年間,1月分の負担増を,最大でも3,000円に収まるような措置を導入する。
「1.」及び「2.」について,令和3年(2021年)の通常国会に必要な法案の提出を図る。
3.大病院への患者集中を防ぎかかりつけ医機能の強化を図るための定額負担の拡大
第1次中間報告では,「外来受診時定額負担については,医療のあるべき姿として,病院・診療所における外来機能の明確化と地域におけるかかりつけ医機能の強化等について検討を進め,平成14年の健康保険法改正法附則第2条を堅持しつつ,大病院と中小病院・診療所の外来における機能分化,かかりつけ医の普及を推進する観点から,まずは,選定療養である現行の他の医療機関からの文書による紹介がない患者の大病院外来初診・再診時の定額負担の仕組みを大幅に拡充する」とする方向性を示したところである。
現在,特定機能病院及び一般病床200床以上の地域医療支援病院について,紹介状なしで外来受診した場合に定額負担(初診5,000円)を求めているが,医療提供体制の改革において,地域の実情に応じて明確化される「紹介患者への外来を基本とする医療機関」のうち一般病床200床以上の病院にも対象範囲を拡大する。
また,より外来機能の分化の実効性が上がるよう,保険給付の範囲から一定額(例:初診の場合,2,000円程度)を控除し,それと同額以上の定額負担を追加的に求めるよう仕組みを拡充する。
<対象範囲拡大のイメージ>
現役世代への給付が少なく,給付は高齢者中心,負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し,切れ目なく全ての世代を対象とするとともに,全ての世代が公平に支え合う「全世代型社会保障」の考え方は,今後とも社会保障改革の基本であるべきである。本方針を速やかに実施するとともに,今後そのフォローアップを行いつつ,持続可能な社会保障制度の確立を図るため,総合的な検討を進め,更なる改革を推進する。
1 子供2人と年収103万円以下の配偶者の場合
2 現役並み所得者を除くと23%
3 令和4年(2022年)10月から令和5年(2023年)3月までの各月の初日を想定。