2021年1月15日号
令和2年12月17日,厚労大臣と財務大臣が令和3年度予算編成に関する大臣折衝を行い,薬価改定や新型コロナに対応する診療報酬上の臨時的な取り扱いなどについて合意した。
薬価改定では,その範囲を乖離率5%を超える品目とし,全17,550品目のうち69%に当たる12,180品目が対象となった。中医協では,日医が医療現場への影響が最小限になるよう配慮を求めてきたところであったが,政治決着により想定を超える大規模な改定となった。
一方で,12月15日付事務連絡で認められた6歳未満の乳幼児に対する加算(100点)について,令和3年度は未定となっていたものの,9月末まで延長することが決定し,10月以降(令和3年度末まで)は100点ではなく,50点を算定することとなった。
さらに,感染予防策を講じた診療を評価する臨時の診療報酬点数を設ける方針も決定。4月から9月末までの時限的ではあるものの,初・再診料に5点の加算,入院料には1日当たり10点を加算できることとなった。10月以降は延長しないことを基本方針としつつも,感染状況や地域医療の実態を踏まえて柔軟に対応することとされている。
4月以降の初・再診料への5点や入院料への10点の加算は,コロナ対応で喫緊の支援を必要とする医療機関の支えとなることから評価したい。ただし,府医としては,診療所の再診料は,平成22年度改定で財源の制約を受けて,理由なく引下げられたままであり,一時的な措置ではなく,「初・再診料の引上げ」を今後も強く主張していく。
なお,その他の新型コロナウイルス感染症の拡大にともなう診療報酬上の特例的措置については,現状の措置を当面の間継続することで合意した。
大臣折衝で合意した事項は以下のとおり(抜粋)。
大臣折衝事項(抜粋)
1.令和3年度社会保障関係費等
令和3年度の社会保障関係費の実質的な伸びは,2.の毎年薬価改定の実現等の様々な改革努力を積み重ねることにより,令和2年度社会保障関係費(新型コロナウイルス感染症の影響を受けた足元の医療費動向を踏まえ医療費にかかる国庫負担分を▲2,000億円程度減少させたベース)と比較し,+3,500億円程度とする。
なお,令和4年度以降の社会保障関係費については,新型コロナウイルス感染症による影響を含め医療費の動向を踏まえつつ,歳出改革努力を継続し,適切な水準となるよう毎年度の予算編成過程で協議する。
2.毎年薬価改定の実現
毎年薬価改定の初年度である令和3年度薬価改定について,令和2年薬価調査に基づき,以下のとおり実施する。
改定の対象範囲については,国民負担軽減の観点からできる限り広くすることが適当である状況のもと,平均乖離率8%の0.5倍~0.75倍の中間である0.625倍(乖離率5%)を超える,価格乖離の大きな品目を対象とする。
また,「経済財政運営と改革の基本方針2020」(令和2年7月17日)に基づき,新型コロナウイルス感染症による影響を勘案し,令和2年薬価調査の平均乖離率が,同じく改定半年後に実施した平成30年薬価調査の平均乖離率を0.8%上回ったことを考慮し,これを「新型コロナウイルス感染症による影響」と見なした上で,「新型コロナウイルス感染症特例」として薬価の削減幅を0.8%分緩和する。
これらにより,薬剤費の削減▲4,300億円程度(国費▲1,000億円程度)を実現する。
4.社会保障の充実
(1)「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)及び「経済財政運営と改革の基本方針2019」(令和元年6月21日)等を踏まえ,令和元年10月の消費税率の引上げによる増収分を活用し,4(2)の「全世代型社会保障改革の方針」(令和2年12月15日閣議決定)において取りまとめることとされた「新子育て安心プラン」の実施に伴う保育の受け皿整備,5(1)のうち小児の外来診療に係る診療報酬上の特例的な評価,4(3)の地域医療構想の実現を図るための病床機能再編支援等を実施するとともに,幼児教育・保育の無償化,高等教育の無償化等の経費を賄うため,公費2兆5,300億円程度を措置する。
なお,令和3年度においては,消費税収の動向を踏まえ,社会保障・税一体改革の一環として行う社会保障の充実のうち,消費税増収分を充当する分については,令和2年度において措置された水準を超えて措置しないこととする。今後,想定していた消費税増収分が確保されることを前提として,当初想定していた社会保障の充実(消費税率1%分税収,2.8兆円程度)を実施していく。
(2)「全世代型社会保障改革の方針」(令和2年12月15日閣議決定)において取りまとめることとされた「新子育て安心プラン」に基づき令和3年度~7年度に増加する保育の運営費等(3歳~5歳児相当分)については,令和3年度に限り,令和4年度から医療・介護分野において不妊治療の保険適用の財源として充当する予定の消費税増収分を1年限りで一時的に活用する。令和4年度以降については,児童手当制度の見直し等により,別途,安定財源を確保する。
(3)各地の地域医療構想調整会議における医療機能の分化・連携の議論を踏まえ,雇用や債務承継など病床機能の再編に伴い特に困難な課題に対応するための財政支援として,令和2年度に創設した「病床機能再編支援制度」について,令和3年度以降,消費税財源を充当し,引き続き病床機能の再編の支援を行うため,次期通常国会に関連法案を提出する。
5.その他
(1)新型コロナウイルス感染症に対応するため,令和3年度予算における診療報酬上の対応として,診療科ごとの地域医療の実態や感染拡大の影響から特にかかり増しの経費が必要となること等を踏まえ,令和3年9月末までの間,小児の外来診療に係る措置及び一般診療等に係る措置について,初診料及び再診料等に一定の点数を加算する特例的な評価を別紙のとおり行う。
同年10月以降については,前者の措置に関しては同年度末まで規模を縮小した措置を講じること,後者に関しては延長しないことを基本の想定としつつ,感染状況や地域医療の実態等を踏まえ,年度前半の措置を単純延長することを含め,必要に応じ,柔軟に対応する。
また,上記以外のこれまで令和2年度予備費等で措置してきた,新型コロナウイルス患者の診療等に対する診療報酬上の特例措置については,当面の間,継続する。
6.全世代型社会保障制度改革の推進
(後期高齢者の自己負担割合の在り方)
後期高齢者(75歳以上。現役並み所得者は除く)であっても課税所得が28万円以上(所得上位30%)かつ年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は,後期高齢者の年収合計が320万円以上)の方に限って,その医療費の窓口負担割合を2割とする。
施行時期は,施行に要する準備期間等も考慮し,令和4年度(2022年度)後半で,政令で定める。長期頻回受診患者への配慮措置として,外来患者について,施行後3年間,1月分の負担増を最大でも3,000円に収まるような措置を導入する。
上記について,令和3年の通常国会に必要な法案の提出を図る。
(大病院への患者集中を防ぎかかりつけ医機能の強化を図るための定額負担の拡大)
特定機能病院及び一般病床200床以上の地域医療支援病院に紹介状なしで外来受診した場合に定額負担(初診5,000円)を求めている制度について,地域の実情に応じて明確化される「紹介患者への外来を基本とする医療機関」のうち一般病床200床以上の病院に対象範囲を拡大するとともに,より外来機能の分化の実効性が上がるよう,保険給付の範囲から一定額(例:初診の場合,2,000円程度)を控除し,それと同額以上の定額負担を追加的に求める。
(更なる改革の推進)
現役世代への給付が少なく,給付は高齢者中心,負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し,切れ目なく全ての世代を対象とするとともに,全ての世代が公平に支え合う「全世代型社会保障」の考え方は,今後とも社会保障改革の基本である。今後も全世代型社会保障改革のフォローアップを行いつつ,持続可能な社会保障制度の確立を図るため,総合的な検討を進め,更なる改革を推進する。
7.「改革工程表」等に沿った医療・介護制度改革の着実な実行
団塊の世代が後期高齢者となる令和4年度を見据え,以下の改革項目について早急に取組み,具体的かつ明確な成案を得ることをはじめ,「新経済・財政再生計画 改革工程表」等に基づき改革を着実に実行する。
(医療)
○国民健康保険制度における,法定外繰入等の解消及び保険料水準統一に関する事項の国保運営方針の記載事項への位置づけや,国保制度の財政均衡を図るための在り方等について,実効性のある更なる措置を検討する。
○第4期の医療費適正化計画に向けて,地域医療構想の実現(病床機能の分化及び連携の推進等)や医療の効率的な提供の推進のための目標(後発医薬品の使用割合等)など,適正な医療を地域に広げるための計画における取組内容を見直すとともに,毎年度のPDCA管理を強化するため,医療費の見込みの改定や保険料算定に用いる医療費との照合など,医療費適正化計画の実効性を高める方策について,見直しに向けた検討を行う。
○国保連合会及び支払基金における医療費適正化にも資する取組を着実に推進するための業務の在り方や位置づけについて検討する。
○後期高齢者医療制度における一人当たり医療費の地域差縮減に寄与する都道府県及び知事の役割強化や在り方を検討する。
○医療扶助における適正化について,頻回受診の該当要件の検討を行うとともに,医療費適正化計画の医療費に医療扶助も含まれることを踏まえ他制度における取組事例も参考に推進しつつ,ガバナンス強化に向けた中期的な検討を行うほか,マイナンバーカードを用いた医療扶助のオンライン資格確認の実施に向け所要の措置を講じる。
○後発医薬品の使用を更に促進するため以下の取組を着実に進める。
◦バイオシミラーに係る新たな目標の在り方を検討し結論を得る。
◦「2020年9月までに後発医薬品使用割合を80%以上」の目標達成後の新たな目標について,これまでに分かってきた課題も踏まえつつ,その内容について検討する。
◦後発医薬品も含めた,医薬品の適正使用に資するフォーミュラリガイドラインを策定する。
◦後発医薬品使用割合の見える化や公表を医療機関等の別に着目して拡大することを検討する。
(別紙)
下記の措置は,新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って行う特例的な措置とする。
1.特に必要な感染予防策を講じた小児の外来診療等に係る対応
◦令和2年12月14日大臣合意の別紙の1.の対応(6歳未満の乳幼児に対する加算100点)について,令和3年9月末まで継続するとともに,同年10月以降,小児(6歳未満の乳幼児をいう。以下同じ。)の外来における診療等については,下記表の左欄の場合に応じ,それぞれ右欄の点数に相当する加算等を追加的に算定できることとする。
2.感染予防策を講じた一般診療等に係る対応
◦下記表の左欄の場合に応じ,それぞれ右欄の点数に相当する加算等を追加的に算定できることとする。