2021年1月15日号
2020年12月31日
京都府医師会新型コロナウイルス感染症対策チーム
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,11月から第3波として感染拡大を呈してきたが12月には新規感染者が急速に増え続け,累計感染者は20万人を超えた。感染は都市部から全国に広がった。各地で病床の逼迫度が増し,政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(分科会)の示す指標のステージ3(感染急増)は半数以上の都道府県に及んだ。12月下旬には京都府の新規感染者数も連日過去最多を更新した。四師会等の医療関連団体の連名で医療緊急事態宣言が出された。松井府医会長・西脇京都府知事・夜久府立医大病院長は,医療崩壊を防ぐために新規陽性者を減らすよう緊急メッセージを発表した。
英国の感染拡大は深刻で都市封鎖に踏み切り,欧州の各国・地域は英国との国境封鎖を行った。感染力が高いCOVID-19変異種によると報告された。日本は英国・南アフリカだけでなく,28日から全世界からの新規入国停止を決めた。
COVID-19ワクチンは,臨床試験段階から実用段階に入った。ファイザー社のmRNAワクチンが英国で承認され接種開始となった。その後アメリカ,EU 諸国等で順次接種が始まった。日本でも接種体制整備の準備が始まったものの思うようには進んでいない。早ければ年度内に接種が開始される予定となった。接種体制の早急な整備が今後の課題のひとつである。
府医として,府医相談センターの業務の拡大,年末年始の診療・検査体制の確保のため京都市急病診療所に年末年始限定の発熱外来の設置,入院あるいは宿泊療養ができない自宅待機者への対応等を行ってきた。
12月の1か月間の動向について述べる。
なお,本文中に記載した数値や対応策等は,11月30日時点(一部1月3日時点)のものであり,今後の動向により変化することを予めお断りしておく。
⑴ 全国の感染者数の推移
11月から本格化した第3波の流行は衰えることなく,12月に入って新規感染者数は「過去最多」を連日更新し,最大の警戒が必要な状況が続いた。特に,北海道,首都圏,関西圏,中部圏を中心に新規感染者数の増加がみられた。気温の低下など感染増加の要因が強まると考えられていた中で,これまで大きな感染がみられなかった地域での感染拡大の動きがあった。3週間程度の短期間で感染拡大を鎮静させるため,11月25日に分科会から出された政府への提言(第16報(12月15日号))は,完全には実行されず,特にGoToトラベル事業の一時停止については決定が遅く,結局この短期間での感染拡大鎮静は効果が上がらなかった。
第3波の新規感染者数の規模は大きく,増加スピードが速い。国内での初のCOVID-19感染者が確認されてから累計5万人に達するのは約7か月足らず(第2波の半ばの8月),累計10万に達する期間は約9か月半(第3波始まり10月下旬)と早まり,その後15万人超えが12月1日,20万人超えは12月21日と,この2か月で累計感染者数が倍増した。それにともなって高齢者の絶対数が増えており,入院者数,重症者数の増加が続くことで医療提供体制と公衆衛生体制(保健行政)への負担がかなり増大してきた。重症者数は,新規感染者数の動きから遅れる傾向があり,重症者数の増加がしばらく続く可能性が高く,すでに多数の入院患者・重症患者等への対応を続けている医療提供体制に影響が出てきた。一部の地域では他地区からあるいは自衛隊からの看護師の派遣・応援が始まった。また,認知症や透析等が必要な人などの入院調整に困難をきたす事例が増え,予定された手術や救急の受入等の制限,病床確保のための転院の事例の増加があり,各地でCOVID-19の診療と通常の医療との両立が困難な状況に陥ってきた。また都市部を中心とした保健所では,保健所の負担が増加してきた結果,感染防止のために感染源を特定する「後ろ向きのクラスター調査」を行う余裕がなくなってきている。
一方,日本看護協会は看護師や准看護師の離職についての調査結果を22日に公表した。調査は第3波が始まる前の9月に実施されたアンケート調査であるが,COVID-19感染拡大にともなう労働環境の変化や感染リスクなどの理由で,看護師らの離職があった病院が15.4%,感染症指定医療機関や受け入れ協力医療機関では21.3%であった。また看護師等が働く介護老人保健施設,訪問看護ステーションなどでも4%前後の離職があったと発表した。これらの離職の理由としては家族の理解が得られないことが多かったこと,看護師らへのアンケート調査では差別や偏見があったと約2割が回答していた。これらの数字が事実であるとすれば,第3波でさらなる離職に拍車がかかっていることが考えられ,少なくとも医療機関への強力な財政支援を国が行わねば,医療提供体制の内部から崩壊の危険性が高まることになる。
感染者の検知が難しい,見えにくいクラスターが感染拡大の一因となっていることが考えられる。社会活動が活発な20~50歳台で移動歴のある人による二次感染がその他の世代と比べて多くなっており,この世代は感染しても無症状あるいは軽症であることが多いために,本人の自覚無しに家庭内感染や職場感染などでの感染拡大に繋がっていることが想定される。ここから医療機関や高齢者施設等での感染にも繋がっていることが考えられる。第3波で感染者数が急速に増加しているのは,この世代の行動様式に因るところが大きく,この世代への対策が感染拡大抑止の鍵となる。
全国の実効再生産数は,12月は1.0~1.1の横ばい状態で,感染者数の急速な増加を反映して26日には1.1をわずかに超え31日に1.18となった。感染者数の多い東京都では1.15前後で推移し31日に1.24,北海道は15日以降に1.0を下回っていたが下旬に微増し31日に1.00,また大阪府でも17日から1.0を下回っていたが24日0.87以降は微増し31日は0.99であった。
(註:実効再生産数はデーターからシミュレートして計算された数字であり,実証研究によるものではなく,また無症状者を念頭に入れた数字ではない。したがって,あくまでも感染拡大状況を示す指標のひとつであり,感染状況を過少評価している可能性は否定できない)
英国(COVID-19ゲノム解析プロジェクトCOG-UK)で確認された変異種による感染拡大のスピードは極めて速く,英国では1日の感染者数が5万人を超える日が続いた。変異種は実効再生産数を0.4~0.7程度押し上げると言われている。すでに日本でも変異種の感染者が確認されている。COG-UK等の調査では14万人分のゲノムを解析し,既知のウイルスに比べ10箇所以上の変異を確認した。変異の多くはヒトの細胞に感染する際のスパイクで起きており,5箇所あるスパイクの重要部のひとつに変異が起きていることが判明した。このことによって感染力が変わった可能性がある。現時点では,正確な感染力や病原性については不明で,実験などでの検証でウイルス自体を詳細に調べるには数か月かかると思われる。また,現在英国などの欧米諸国等で始まったCOVID-19ワクチンの効果との関係も判っていない。ただしワクチン接種によってウイルスの様々な部位に対する免疫を獲得する可能性があるため,変異種で効果が大きく損なわれる可能性は低いとの見方がある。
⑵ 京都府の感染者数の推移
京都府の特別警戒基準はそのまま継続中であり,府内の感染者数は右肩上がりに増加し,連日のように過去最多を更新してきた。新規陽性者数の7日間平均は,12月初旬に20名台前半であったが,漸増して中旬には50名を超え,下旬には70名から90名超えとなり,12月31日時点では99.7名になった。人口あたりの陽性者数でみると京都府は全国で3番目に多い府県となった。感染経路不明者数の7日間平均は,12月上旬に10名前後,中旬に20~30名,下旬には40名前後になった。集団感染の発生が第3波では多く,11月に有料老人ホーム,特別養護老人ホーム,複数の医療機関でのクラスター発生があったが,12月になってもこれらに加えて大学寮や飲食店での会食,ホームパーティーのクラスターが発生した。感染経路が判明している陽性者は全体の6割を占めており,このうちの4分の1が会食・接待飲食により感染しており,会食の場所は95%が京都市内であった。二次感染まで含めると,陽性者の25%が会食を起因とした感染となる。
年代別では,京都府・京都市ともに同様の傾向がみられ,第2波以降に増加した20歳台はその後も感染者の比率では多くを占めているが,40歳台50歳台および70歳台の3つのピークがある。また未就学児や10歳台での感染者数が多くなっているが,学校や保育現場のクラスターよりも家庭内感染での増加が目立っていた。
京都府陽性者
京都市陽性者
京都府の実効再生産数は,12月1日に0.86で上旬は1を下回っていたものの,中旬から急増し11~13日は1.79が続いた後,下旬には漸減し年末には1.0近くまでになった。隣接する滋賀県は12月上旬までは1を下回っていたが中旬から微増し下旬から漸増して1.8以上となり年末には1.69となってきた。このまま増加ないし高止まりの状態が続くと思われる。
京都府内の医療機関において,急速な感染拡大の影響で感染症治療以外の医療が甚大な影響を受け,救急患者の受け入れに支障をきたし,予定の入院や手術の延期等を余儀なくされている状況となってきた。このことから京都府内のCOVID-19感染症重症患者受入医療機関の14医療機関(京大・府立医大・第一日赤・第二日赤・京都医療センター・宇治徳洲会・市立病院・桂・康生会武田・医仁会武田総合・洛和会音羽・三菱京都・京都岡本記念・舞鶴共済)の病院長の連名で「重症新型コロナウイルス感染症による医療の逼迫について」が発表された。ここでは,COVID-19重症患者が京都府において30名(京都市は15名)に達すると,がん・脳卒中・心臓病あるいは救急医療などの通常の医療がほとんど停止し医療崩壊に繋がることになると警鐘を鳴らした。確保病床数として公表されている数(86床)と,実際に運用可能な病床数は異なることは,すでに他府県や日医からも指摘されていた。公表されている重症病床数と重症患者受入医療機関の現実との間には乖離があり,他の診療を抑制して重症受入病床を増やすことは現実的には限界があるとした。この発表に従い,京都府では重症患者病床数を30床と改めた。同時にこの発表において,一般市民に対して政府のGoTo政策にかかわらず不要不急の外出・多人数での会食を控えることを依頼した。
府医から京都府民・市民向けに府医ホームページで,これ以上の重症者を出さないためには感染者を増やさないことが必要であることを述べ,年末年始に以下の協力依頼を発信した。飲食店の営業時間短縮・ガイドライン遵守,府民・市民の慎重な帰省・初詣を控える・飲食機会を減らす・感染拡大地域への往来を控える・職場内の感染対策の徹底を,また万一の体調不良時などでは「きょうと新型コロナ医療相談センター」に連絡することを呼びかけた。
⑶ 国内外のCOVID-19対策
1.政府の対応
11月25日の第17回分科会の提言を踏まえて,特にステージⅢ相当の対策が必要となる地域において短期間で感染拡大を沈静化させるための強い対策が求められた。いくつかの地域で,酒類を提供する飲食店等への営業時間短縮要請,GoTo関連事業の見直し,国民に対する外出自粛要請等の措置が12月中旬までの予定で行われてきたが,感染拡大の歯止めがかからず,これらの対応の対象を全国に広げ,かつ1月11日までの延長とした。12月11日第18回分科会から政府へ出された提言は,3つのシナリオ(感染減少地域,感染高止まり地域,感染拡大継続地域)の提言であるが,このシナリオに関わらず共通して実施すべき以下の施策を十分に実施するよう求めた。
(1) マスクの着用(飲食時含む),「5つの場面」等に係る情報発信
(2) 飲食店をはじめとした業種別ガイドラインの徹底
(3) 保健所の負担を勘案した効率的な感染対策の実施
・地域の感染状況を踏まえ重症化リスクがある人々に重点的に積極的疫学調査を実施
・COCOAの積極的な活用に向けた情報発信
(4) 財政的支援を含め,医療提供体制および保健所の強化を進める
(5) 高齢者施設・医療機関等における積極的な検査によるクラスターの早期の封じ込め
①地域での連携および支援
・感染が疑われた場合には事業者・地方公共団体・医療従事者で素早く情報共有し連携する
・地方公共団体による高齢者施設の訪問により対策の支援を進める
・以上の対応を国や都道府県が支援する
②検査
・高齢者施設等において利用者や従事者に発熱などの症状がある場合は迅速に検査を行い,一例でも陽性者が出た場合には施設内の検査を徹底する
・クラスターが複数発生している地域では,クラスター発生の施設と関係のある施設において,上記条件に合致していなくても積極的に検査を行う
・院内感染時においても医療機能を維持・早期再開するため,濃厚接触者以外は検査を実施した場合であっても陰性であれば14日間の自宅待機の対象外であり,引続き従事可能であることの徹底
・感染者の入院期間については,症状軽快後72時間経過している場合は,発症日から10日経過した時点で検査をせずに退院可能であることの周知の徹底
・濃厚接触者の健康観察期間は,現在14日間となっているが,その期間を短縮できるか否かについて,科学的知見を踏まえて早急に検討する
(6) 感染症に強い社会の構築
この提言を受けて,14日に管首相からGoToトラベル事業の全国一斉停止が表明された。これによる効果の評価は年明け1月になるが,少なくとも12月25日以降にその効果は現れていない。
21日の西村経済再生相と尾身分科会会長の臨時記者会見で,両者は年末年始に向けた感染対策の徹底を呼びかけた。この会見で,尾身分科会会長が述べたのは次のとおりである。
・「勝負の週間」の期間が終わり効果を判断する時期になった。北海道は少しずつ下火になってきたが,東京都は人々の動きがあまり減らず,感染は高止まりというより,むしろ増えてきている。
・首都圏から都市部へ,都市部から地方に広がっていることが続いており,首都圏の感染が抑えられないと全国の感染拡大を下火に向かわせることは難しい
・感染拡大の要因の1つとして飲食店での会食がある。英国のデーターではレストランが感染拡大に寄与しているという結果が出るなど,海外でも飲食の場で感染が広がっている。東京都の感染者の6割は経路不明となっているが,これまでの傾向からかなり多くの人が飲食店で感染していると考えられる。
・現時点では緊急事態宣言を出す状況ではないが,今の状況が続けば医療はさらに逼迫するのは明らかである。
・COVID-19対策では会食・飲食による感染リスクを徹底的に抑えることが感染拡大を防ぐための急所であり,この急所を抑えることができれば年末年始に向けて感染を下火にもっていくことが可能。
政府から「夜の繁華街」,「アルコールを提供する飲食」に注意をするよう発信されてきたことが,かえって裏目に出ていたと思わざるを得ない。昼間なら大丈夫,アルコールを摂らなければ心配ない,という安易な気持ちから,明るいうちに会食をする,特にクリスマス前後にこういった食事会などが行われていたことが推察される。英国のデーターでは「レストラン」が感染拡大に繋がっていることを公表しており,「夜」,「アルコール」が強調されて一般市民の頭から離れていない結果ではないかと思われる。飲食店での時短要請を行っているものの,これだけでは不十分であり,今後の感染拡大の状況によっては営業停止等の措置が必要になる可能性があるが,政府としては避けたいところであろう。
一方,水際対策強化として,12月28日から翌年1月末まですべての国・地域からの外国人の新規入国を停止した。決断までにやや遅きに失した感が否めないが,効果は期待される。一方,日本人らの帰国者は11月1日から条件付きで認めていた14日間の待機緩和措置を取消し,11の国・地域とのビジネス関係者らの往来は引続き認めるとしたが,これらが感染拡大にどのような影響を及ぼすかは判らない。英国で確認された変異種の感染者確認が発表された国・地域からの帰国者らは30日~翌年1月末まで,出国前72時間以内の検査証明を求め,入国時の検査実施をすることとなった。
12月8日に厚労省対策推進本部から,医療機関,高齢者施設等の検査について以下の内容で事務連絡が発出された。
・医療機関,高齢者施設等でCOVID-19の陽性者が確認された場合,14日間の健康観察対象となる濃厚接触者の範囲の特定は,陽性者の行動歴等に基づき保健所が行うものであり,一律に,医療・介護従事者全員を14日間の健康観察の対象とすることを求めていない
・濃厚接触に該当しない医療・介護従事者に対して,幅広く検査を実施する場合,個別具体的な検査対象者の感染の疑いに着目して行う検査ではないため,検査対象者は濃厚接触者として取り扱わない(14日間の健康観察の対象としない)。この場合,検査対象者は,健康観察の対象外であり,引続き,従事可能である。
・原則として,医療機関でCOVID-19の陽性者が確認された場合,医療従事者が感染予防策を適切に講じていれば,濃厚接触者には該当しない
・重症化リスクの高い集団に接種する医療・介護従事者で,発熱,呼吸器症状,頭痛,全身倦怠感などの症状を呈している場合,検査実施にむけて,とりわけ積極的な対応をしていただきたい
12月21日に「医療緊急事態宣言」を,日医・日本歯科医師会・日本薬剤師会・日本看護協会・日本病院協会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・東京都医師会の9団体の連名で発表した。この中で,松井府医会長をはじめ全国の都道府県医会長が各々にメッセージを発出した。
厚労省の令和2年度第三次補正予算案は12月15日に閣議決定された。この第三次補正予算を活用した「COVID-19に対応した医療機関等への更なる支援」が行われることとなった。この支援のうち感染拡大防止策等支援に関しては,新たに診療・検査医療機関に対し,100万円までの実費補助(二次補正予算による感染拡大防止等支援事業や発熱外来診療体制確保支援補助金の補助を受けた医療機関も対象)を行うことや,医療機関・薬局等の感染拡大防止等支援のための実費補助(二次補正予算による感染拡大防止等支援事業の補助を受けた医療機関等も対象であるが,上記の診療・検査医療機関への実費補助との重複は不可)を行うこととなった。また,この三次補正予算では,未就学児の外来患者への診療報酬の特例評価(6歳未満,+100点),COVID-19ワクチンの接種体制の整備・接種の実施,も含まれている。
厚労省の専門部会はCOVID-19の治療薬候補であるファビピラビル(アビガンⓇ)の承認判断が先送りされた。開発した富士フイルム富山化学は10月に治験結果を基に厚労省に承認申請をしていた。この治験では,重篤な患者以外の156人を対象に実施されたが,手法が単盲検(シングル・ブラインド・テスト)であったため,投与した医師が事前にアビガンとプラセボの別を知っており「プラセボは効かないという先入観」から適切な判断ができていない事例が含まれているとして「有効性の判断は困難」とする承認審査の報告書が12月にまとめられた。審査機関である医薬品医療機器総合機構(PMDA)は,治験の手順や症状が改善したしたかどうかの判定の際の条件設定などが不明瞭であることを問題視した形になり「企業の治験からは有効性の判断は困難」とした。一方,治療薬が限られていることや,投与する際の安全管理の観点からは,承認は社会的に一定の意義がある,とも指摘しており,これを受けて厚労省の承認判断が先送りとなった。今後の治験結果によっては,いずれ承認されることに期待がかかる。
2.COVID-19ワクチンの状況
ファイザー社のmRNAワクチンの臨床試験の結果はプレスリリースでその有効性の高さについて報告されていた(第16報)が,正式な論文が12月22日にNew England Journal of Medicine(NEJM)の速報版で,31日には誌面掲載された。NEJMの論文内容は基本的にはプレスリリースと大きく異なることはないが,臨床試験の手法の詳細や副反応などの記載がある。これらの内容は,「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の手引き(初版)」および「COVID-19ワクチンに関する提言(第1版)」に反映されているので,参照されたい。
12月に入って英国でファイザー社ワクチン接種が開始され,その後米国やその他の各国が承認して接種開始となった。モデルナ社のmRNAワクチンを承認した国も増えてきた。ウイルスベクターワクチンであるアストラゼネカ社ワクチンについても英国は承認した。アストラゼネカ社ワクチンは保管条件が2~8℃であり超低温でなくてもよいことから,アフリカ諸国をはじめ熱帯・亜熱帯の地域の国での接種が行われることが想定されている。
3.日本国内でのワクチン接種の体制
第16報に記載したように12月18日に厚労省が各自治体向けにCOVID-19ワクチン接種体制についての研修会を行った。この際の説明資料は行政から公開され,府医メーリングリストを通じて周知した。ここに各ワクチンの詳細,国の基本的な方針および都道府県・市町村の役割,医師会・医療機関の立ち位置についての記載があり,熟読していただきたい。今後,各地区の事情に合わせて,各市町村と地区医と,接種体制についての協議が行われることになる。12月の時点では京都府内の市町村単位で行政との協議に入っている地区医は少ないのが現状である。
優先接種対象者は,医療従事者,高齢者,基礎疾患を有する者とされており,高齢者施設等で高齢者に接する職員も上位の優先順位となる。最終的な優先順位は国が決定するので,その結果待ちの状況である。妊婦と小児(16歳未満)については臨床試験での安全性が確認されていないため,現時点では優先接種対象者に含まれないと思われる。接種体制は,医療従事者と高齢者等と住民接種では異なることが考えられる。これらを同じ接種体制でできるかどうかも含めて早急に体制整備ついて各市町村で検討しなければならない。
日本で接種開始するCOVID-19ワクチンはファイザー社のものになると考えられるが,-75℃の超低温での保管・輸送を含めて,解決すべき問題は少なくない。国から各自治体に支給されるディープ・フリーザーの設置場所,そこからのワクチンの配送方法,どのような規模の接種会場をどのくらい確保するか,特にファイザーのワクチンの最小搬送単位が195バイアル(1バイアル5接種分)であり集団接種の可能性が高くなる。その場合の接種医の確保をどのようにするのか等々を市町村との協議で決めてゆかねばならない。またワクチン接種についてはワクチン接種円滑化システム(V-SYS)を用いて接種実績登録などを行う必要があり煩雑であることと,ワクチン保管の問題などから開業医の診療所などで行うことが現実的に実施できるかどうかも課題である。いずれファイザー社以外のCOVID-19ワクチンが流通すれば,各診療所単位での接種は容易になる可能性がある。
まず医療従事者の接種から始まるが,臨床試験の報告での有害事象発生率をみると,発熱・頭痛・倦怠感・筋肉痛などの出現率が他のワクチン(季節性インフルエンザや肺炎球菌ワクチンなど)に比べて高いことから,ひとつの医療機関で医療関係者の全員が一斉に接種すると,接種後数日間に前述の有害事象のために出勤できなくなる者が一定の割合でみられることが予想されるため,接種する者の組み合わせを配慮する必要がある。またCOVID-19ワクチンの臨床試験での有害事象での発熱は38℃以上としているため,37.5℃以上を発熱と捉える日本の場合は臨床試験報告よりも発熱者が多くなる可能性が高い。従来から他のワクチン接種で発熱などの症状が出た場合,その発熱がワクチン接種によるものかどうかの判断は難しい。COVID-19ワクチン接種後に発熱があれば,診療から外れる必要が出てくるので,この点も十分に考慮した上で,接種に望まねばならない。
⑴ 会議
京都府新型コロナウイルス感染症対策本部会議(府対策本部会議)は,第3波の感染拡大への対策を協議するため11月19日,25・26・27日に引続き,12月9日と17日に開催された。いずれの府対策本部会議には松井府医会長が議長として参加した。
12月の地区医との懇談会は,中京東部,綴喜,下京東部とWebで開催し,主としてCOVID-19関連,マイナンバーカードによるオンライン資格確認等について意見交換を行った。
府医の定例理事会,総務担当部会,保険医療部会などの各部会は,府医会館4階の理事会室でWebとのハイブリッド形式で行っている。常任委員会もハイブリッド形式で行っている。
後述する年末年始の医療体制,COVID-19ワクチン接種体制,入院できない自宅待機者への対応等について,府医コロナチームと京都府・京都市とで協議を重ねた。
⑵ 宿泊療養健康管理について
12月に入り,陽性者は急増し,新入所者数は12月4日頃から10名を超え,9日には同志社大学のクラスター12名を含む25名が入所,10日も27名の入所があった。同日の総入所者数は102名となった。これにともない急遽出務医師を増員し,府医会員のご協力を得て,会員2名体制を基本とし,新入所者が16名以上の時に府医役員1人が補佐に入り,新入所者が22名以上で府医役員2人が補佐に入ることとなった。大学や病院クラスター以外にホームパーティーのクラスターと家族内感染が増加し続けて,親子や兄弟での家族入所が増えた。
入所中の症状増悪時には,京都府入院医療コントロールセンターに連絡することにより,転院がスムーズにできていたが,病院病床の逼迫により,40度の発熱があっても解熱剤の投与で凌ぎ,SpO2が低下し始めて急いで転院した者が2名いた。
新規陽性者の中で,38度以上の発熱者でも入院できない状況となり,ホテル入所が増えた。ホテル入所基準は軽症で酸素投与が不要であること,生活が自立しており,介護が不要であること,LINE電話ができること等を考えて65歳以下としていたが,入院が必要な高齢の有症状自宅待機者が,自宅で死亡することを防ぐために70歳を超えていてもホテル入所となることがあった。
さらに,医療提供体制が脆弱となる年末年始の感染拡大に対応するため,12月29日から1月3日までは,新規入所者数にかかわらず,常時出務医師2~3名体制を確保して,宿泊施設入所者の健康管理に万全を期した。あらためて会員各位のご協力に深く感謝申し上げたい。
1月中旬には3つ目のホテル(アパホテル)が開所される予定である。ホテルヴィスキオとアパホテルでできるだけ多くの軽症者を受け入れることにより,病院には中等症以上の患者を受け入れていただき,宿泊療養と病院の棲み分けを進め,病床の逼迫を解除できれば良いと考える。
⑶ 京都府・医師会 京都検査センター(府医PCR検査相談センター)の運営
府医PCR検査センターの12月のドライブスルーでのPCR検査実施は330件(申し込み343件)で陽性は31件(陽性率9.0%)であった。詳細については別稿を参照されたい(2月1日号掲載予定)。
かかりつけ医のある発熱者は,かかりつけ医に受診の相談をしてから,診療や検査に繋げてもらうことになる。かかりつけ医を持たない,あるいは夜間・休日に症状の悪化した発熱者は「きょうと新型コロナ医療相談センター」(新コロセンター)に電話相談をする。この場合,原則として新コロセンターから接触者外来の医療機関へ紹介する流れになるが,入院が必要な状態以外では実際には発熱者の受診を受け入れてもらえる医療機関は多くはない。そのため府医相談センターでは,11月16日から新コロセンターからの発熱者の情報を受け入れ,そこから会員の医療機関へ紹介することを始めた。新コロセンターから府医相談センターには,新たに作成した情報提供用紙に記入された情報が送付されてくる。受けたその情報は府医相談センターから診療・検査医療機関へ伝え,受け入れが可能かどうかの問い合わせと紹介をすることに発熱者の受診調整を行う。他からの紹介を受け入れることを意向調査で回答していた診療・検査医療機関であっても,必ずしも府医相談センターからの紹介を受け入れていただけないことが少なからずあり,府医相談センターからの紹介が一部の診療・検査医療機関に集中する危惧,また患者の住居から離れた場所の医療機関への紹介を余儀なくされるなどの不具合を生じる可能性があった。そのため府医は改めて府医相談センターからの紹介患者を受け入れ可能か,また自院のみとしていた診療・検査医療機関であっても紹介患者を受け入れ可能かどうかの意向調査を行った。これについては12月7日付けで松井府医会長から集合契約医療機関に対して「発熱等患者への診療へのご協力について(お願い)」を発出することで協力依頼をして回答を得た。今後の患者増加等により,現状の手挙げの診療・検査医療機関だけでは患者の受け入れが補えなくなった際のバックアップ医療機関を登録させていただいた。
府医相談センターは日曜以外の月曜から土曜に開設しているが,12月1日から28日までの平日24日間で579の相談を受け付け,そのうち新コロセンターからの情報提供は462件(79.8%)であった。診療・検査医療機関等へ紹介したのが491件で紹介率は84.8%であった。調整がつかず保留となったものは12件,受診調整に至らなかったあるいはキャンセルとなったのは74件であった。理由としては,ドライブスルーのPCR検査に回ったものが21件,相談者自身で医療機関をみつけて受診あるいはかかりつけ医を受診したのが19件,相談者の都合によるのが17件,無症状あるいは症状が軽減したのが5件であった。なお,従来から行っている会員医療機関からのドライブスルーPCR検査の申し込みは引続いて受けている。
(註:12月14日現在,集合契約医療機関693,診療・検査医療機関568(接触外来57,集合契約511),紹介受け入れ診療・検査医療機関当初97→1回目調査67,バックアップ診療・検査医療機関33)
(表1)相談センター12月
⑷ 京都市急病診療所の発熱外来
年末年始は休診する医療機関が多いため,発熱者の行き場が減ること,COVID-19感染拡大の中でCOVID-19検査をいかに確保するかが重要課題であった。これらの解決策等について,府医コロナチームと行政とで協議を重ねた。最も問題となるのは京都市内であり,年末年始にインフルエンザ流行による京都市急病診療所(急病診)に発熱者が殺到するが,これと同じ事態を生じて混乱することが懸念された。協議の結果,急病診に12月29日~1月3日の6日間に限り,発熱外来を設置することになった。
発熱者は原則として事前に電話で予約するよう広報するが,直接受診する者も少なくはないと考えられ,またどの程度の人数の受診になるのか(極めて多数か,受診控えで少ないか)事前には全く予想が立たなかった。発熱外来は,次のような体制とした。
1.10:00~14:00と14:00~18:00の2交代制;医師および看護師ならびに発熱外来受付の事務職,薬剤師等は予め2階急病診事務所前でPPE装着,各時間帯の開始前に出務の府医役員からオリエンテーションを行う
2.1階受付前をトリアージスペースとし,発熱者は府医会館の2階へ誘導して受け付けを行う(発熱者以外は1階の急病診で従来どおりの診察)
3.2階会議室を発熱者の待合室にする(十分な間隔を確保して椅子2脚×18組)
4.隣接する西側の診察・検査ブースには南側の扉から入る:患者は受診終了後は診療ブースの北側扉から出ることにより一方通行で移動
5.診察ブースは3つ,検査ブースは2つ;南西の扉を開放してサーキュレーター2台で換気
6.受診者数などを考慮して4名の医師で診察と検査を適宜分担する:少なくともひとつは小児科用で,受診状況で2つに増やす
7.診察医が必要と認めた場合,COVID-19抗原定性検査,インフルエンザ抗原検査をいずれか片方あるいは両方を同時に行う
8.検体採取は鼻腔ぬぐい液を出務医が採取
9.検査結果が出るまで,北側廊下に設置したビニールカーテンでパーティションした座席で待機
10.COVID-19陽性者は2階西側の非常階段で移動するよう誘導
11.医療者が診察ブースから出る場合(トイレ休憩など),南西の扉の外でPPE着脱し感染性廃棄物ボックスに入れる(再入室の際は同じ場所で新たにPPE装着):医療者の休憩スペースは3階に設定
発熱外来の設置を決定してからの準備期間が短かったため,出務をお引き受けいただいた会員の先生方と府立医大と京大の急病診出務医に加えて,府医役員も出務することにした。各グループには1名以上の役員が加わりオリエンテーションを担当した。6日間で2回出務していただいた会員の先生もおられた。
6日間の発熱外来の受診者数と検査数は表2に示す。結果的には処理しきれないほどの大人数は受診しなかった。待合スペースに入りきれないこともなかった。抗原定性検査でCOVID-19陽性は23名で,検査を実施した人数での陽性率は14.9%,発熱外来受診者数全体での陽性率は5.5%であった。
なお,年末年始に発熱患者等を受け入れて診療を行う医療機関に対して一定の支援金を出すことを京都市・京都府が発表したが,年末近くの遅い時期に広報されたため,対応した医療機関は多くなかったようである。
(表2)発熱外来 受診者・検査
⑸ 自宅待機の陽性者への府医の対応
京都府内のCOVID-19の新規感染者は,12月24日に過去最多となる107人となり,病床利用率も約35%となるなど,感染が急速に拡大している中,12月29日時点で,京都府内における入院先等を調整している方は380名となった。症状や年齢等からハイリスクで入院療養が相当と考えられるものの,宿泊療養では十分な対応ができない等の理由で自宅待機を余儀なくされた方である。COVID-19検査の陽性が判明すると,感染症法にしたがって入院勧告となるが,その時点で行政の取り扱いとなり,かかりつけ医の手を離れることになる。入院勧告を受けた陽性者が,入院か宿泊療養か自宅療養か,あるいは自宅待機になっているかは,かかりつけ医には知らされない。この自宅待機者の健康管理は保健所等に委ねられているが,感染拡大の中で逼迫した保健行政体制下では実際には自宅待機者が孤立した形になりかねない。特に年末年始の医療機関が手薄になる状況で,自宅待機者が悪化することをいち早く察知する必要がある。
そこで府医コロナチームは,京都市と協議を行った結果,府医と京都市が連携して,入院先等を調整している陽性者のうち,医師の健康観察を要するハイリスク者に対して,年末年始(12月30日~1月3日)に本人への電話による健康観察・相談を府医コロナチームのメンバーが行い,さらに府医コロナチームと京都市とでカンファレンスを実施した。23名は入院加療が必要と考えられた。
結果,延べ48名の方に対して健康観察・相談を実施した。症状等により速やかに入院を必要とする方については「京都府入院医療コントロールセンター」へ入院または宿泊施設への入所の要請を行った。しかしながら,この期間中に自宅待機者で2名の死亡があったことは極めて残念なことであった。
連日の感染者数の増加により,自宅待機者も増え,1月3日には546名に達した。
京都府・京都市との協議の中で,入院療養の患者は可能な限り「下り」方向に持って行く必要があることを府医は主張してきた。例えば重症患者で人工呼吸器から離脱できれば重症病床から一般感染病床へ,中等症患者が軽快すれば早期に宿泊療養にする,といった「下り」を増やすことが,重症病床の回転を上げ,宿泊療養への移行によりCOVID-19受入医療機関の病床数を増やすことになる。このことが入院待ちの自宅待機者数を減らすことに結びつく。また,自宅療養者あるいは自宅待機者に対しては,かかりつけ医が健康管理・電話相談あるいは遠隔診療を行い,必要ならば保険診療での投薬ができる体制が必要であろう。
今後の感染拡大,また第4波に備えて,医療提供体制の根本的な見直しが必要であり,府医としては京都府・京都市に強く申し入れを行う予定である。
<資料>
#「小児の外来診療におけるコロナウイルス感染症2019(COVID-19)診療指針」(11月30日,日本小児科学会・日本小児感染症学会・日本外来小児科学会)
#「年末年始に向けた医療提供体制の確保に関する対応について」(事務連絡,12月2日,厚労省対策推進本部,厚労省医政局)
#「発熱等患者への診療へのご協力について(お願い)」(12月7日,府医松井会長)
#「医療機関,高齢者施設等の検査について」(事務連絡,12月8日,厚労省対策本部)
#「予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律等の施行について」(12月9日,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症の院内感染によりクラスターが発生した医療機関等への財政的な支援及び医師・看護師等の支援について」(12月14日,厚労省医政局・健康局)
#「新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの迅速な接種のための体制確保に係る医療法上の臨時的な取り扱いについて」(12月17日,厚労省医政局)
#「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の手引き(初版)」(12月17日,厚労省健康局)
#「年末年始に向けた医療提供体制の確保に係る診療時間等の変更に関する医療法上の取扱いについて」(事務連絡,12月11日,厚労省医政局)
#「新型コロナウイルスワクチンの接種耐性・流通体制の構築について」(12月18日,厚労省自治体向け説明会資料)
#「第三次補正予算等を活用した「新型コロナウイルス感染症に対応した医療機関等への更なる支援」について」(12月18日,日医)
#「厚生労働省医療計画の見直し等に関する検討会「外来機能の明確化・連携,かかりつけ医機能の強化等に関する報告書」及び「新型コロナウイルス感染症対応を踏まえた今後の医療提供体制の構築に向けた考え方」について」(12月18日,日医)
#「重症新型コロナウイルス感染症による医療の逼迫について」(12月18日,京都府 新型コロナウイルス感染症重症患者受入医療機関,14病院長)
#「医療緊急事態宣言」(12月21日,日医・日歯・日薬・日看等)
#「Safety and Efficacy of the BNT162b mRNA COVID-19 Vaccine」(F.P.Polack, et al, NEJM,383:27:2603-15, Dec. 31,2020)
#「英国及び南アフリカ共和国に滞在歴がある入国者の方々の健康フォローアップおよびSARS-CoV-2陽性と判定された方の情報及び検体送付の徹底について」(事務連絡,12月23日,厚労省対策推進本部)
#「COVID-19ワクチンに関する提言(第1版)」(12月28日,日本感染症学会ワクチン委員会)