委員会だより – 社会保険研究委員会〈答申〉

 井口福一郎(上京東部)
 池田 栄人(東山)
 北川 昌洋(福知山)
◎出木谷 寛(左京)
 丹生 智史(中京西部)
 福州  修(右京)
○米林 功二(右京)

(敬称略,順不同,◎=委員長 ○=副委員長)
担当副会長 濱島 高志 / 担当理事 山下  琢

給付と負担について―日本の将来,医療と国民の融和点は

 6月17日(木),出木谷委員長から松井府医会長へ社会保険研究委員会答申が提出された。
 社会保険研究委員会は今期,諮問事項「給付と負担について―日本の将来,医療と国民の融和点は」を受け,令和元年10月から本年5月にかけて計15回の協議を行った。少子高齢化が進行し,医療を含む社会保障の給付と負担のあり方については待ったなしの課題となっているが,国民的議論の盛り上がりには至らず,未だに解決への道筋が見えてこない。さらに令和2年初め以降,コロナ禍の直撃により医療提供体制の危機が顕わとなり,これまでにない大規模な財政出動が行われるなど,我が国の医療をめぐる状況は緊急の度を増している。

松井府医会長に答申書を提出する出木谷委員長(右)と
山下前府医理事(中央)

 当委員会の議論は当初,令和2年6月に政府から示される予定であった「骨太の方針」に照準を合わせ,医療の立場からの対案を探っていたが,コロナによる情勢の変化を受け,大幅な軌道修正を行った。結果的には給付と負担に係る本質的な議論を敷衍しつつ,新興感染症への対応や次世代の技術発展など新たな状況にも目配りの効いた答申書となっている。
 以下,本答申のまとめにあたる部分を抜粋する。

 1961年に制定された国民皆保険制度の発展により,我が国の平均寿命は世界最高レベルに達している。近年では高額医薬品や高額な医療技術の登場で,その恩恵を受ける一方で,医療費はますます増大し医療財政がひっ迫している。
 この財源を確保するために,収入面では景気を良くして税収を上げ,社会保険料も含めて確実に徴収し,支出面では必ずしも適切とは言えない受療行動を制限して理不尽な抜け穴をふさぐことも必要である。また,空気のようにあたり前に存在する社会共通のインフラである医療を提供するには,当然ながらコストが発生する。現在のフリーアクセス制度の下で行われる,救急医療機関へのコンビニ受診。今後専門医シーリング・医師の働き方改革の議論が進む中で,医療資源を有効に活用するには,国民の医療機関への上手なかかり方も必要になる。また,高齢化が進む中で本人や家族の意思に沿わない医療を回避するには,普段から個人の意思を家族で共有することも重要である。
 本来,給付すべき保険診療の範囲はどうあるべきか。特定の患者層に対して高額な医療財源を投入することに軸足が偏るあまり,標準的な医療を提供することができなくなることはないのか。従来の治療法以上にADLを追求するあまり,高額な分子標的薬まで皆保険制度でカバーする必要はあるのだろうか。一方で前内閣において閣議決定されている「ゲノム医療」をいち早く整備することによって,世界に先駆けて我が国がイニシアティブを取り,国家繁栄の知的財産を得なければならない。
 今回諮問を受けた後,未曾有のCOVID-19感染症の問題が発生した。全世界を襲うこの情勢の中で,我が国の医療提供体制の長所・短所も見え始めている。感染症対策においては,必ずしも十分とは言えなかったこれまでの体制については,今後の感染拡大の状況を的確に把握し,今後起こり得る新興感染症に備えられる体制を構築することが喫緊の課題となっている。入院治療を要する患者を受け入れる医療機関を中心として,今後の医師の働き方改革の問題と合わせて十分な検討が必要である。新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)が構築され,また京都独自で空床状況や治療内容を共有するCOVID-19重症医療機関病院長会議が立ち上がり,医療機関同士また行政との間でのスムーズな情報交換が可能になったという側面もある。災い転じ,こういった取組みを糧として,今後の地域医療構想を進めていく上で,感染症以外の分野でも医療提供体制を強化する方策を構築していかねばならない。一方,元々は時限的措置であった初診からのオンライン診療を恒久化する方針が政府によって掲げられているが,この方向性は本当に正しいものなのであろうか。確かに有用な部分も認められるが,無秩序に施行されることの危うさについても指摘しておきたい。各項目の中で,COVID-19感染症が拡大することによって給付と負担に与える影響についても,可能な範囲で言及する。

 答申書の全文は府医HPの各種委員会答申・報告書のページ
https://www.kyoto.med.or.jp/member/committees_report/index.shtml)に掲載されているので是非ご参照されたい(下記QRコードからアクセス可)。

2021年7月15日号TOP