保険医療部通信(第344報)

政府が骨太の方針や規制改革実施計画などを閣議決定
社会保障関係費の伸びの抑制を継続
初診からオンライン診療を可能とする特例措置の恒久化を明記

 政府は6月18日,「経済財政運営と改革の基本方針2021」(いわゆる骨太の方針)と「規制改革実施計画」,「成長戦略実行計画」をあわせて閣議決定した。
 骨太の方針2021では,22年度から3年間の社会保障関係費の伸びへの対応について,「高齢化による増加分に相当する伸びにおさめる」との方針を継続することが明記された。いわゆる「目安」の達成に向けて,その財源探しが今後の焦点であり,来年度の診療報酬改定への影響が懸念されるところである。
 医療費適正化計画についても言及し,計画段階で設定した医療費の見込みを著しく上回る場合の対応を都道府県に求めており,直接的な記載はないものの,かねてから財務省が提唱している地域別診療報酬の導入などを目指していることが危惧される。
 また,包括払いの拡大も含めた医療提供体制の改革につながる診療報酬の見直しを提言しており,医療費削減を目指したものにならないか注視していく必要がある。
 初診からオンライン診療を可能とする特例措置の恒久化は,骨太の方針だけでなく,規制改革実施計画や成長戦略実行計画にも明記された。原則,かかりつけ医とされているものの,条件付きでかかりつけ医以外の場合も認める方向性が示されている。府医は,十分な検証もされないままに,政府主導で恒久化が決定したことを問題視しており,引続き反対の立場を主張していく。
 経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太の方針),規制改革実施計画,成長戦略実行計画の概要は以下のとおり


 骨太の方針2021は,第1章「新型コロナウイルス感染症の克服とポストコロナの経済社会のビジョン」,第2章「次なる時代をリードする新たな成長の源泉~4つの原動力と基盤づくり~」,第3章「感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革」,第4章「当面の経済財政運営と令和4年度予算編成に向けた考え方」で構成されている。
 社会保障改革については第3章で触れられており,①感染症を機に進める新たな仕組みの構築と②団塊の世代の後期高齢者入りを見据えた基盤強化・全世代型社会保障改革についての方向性が盛り込まれた。
 ①では,質が高く効率的で持続可能な医療提供体制の整備を進めるために,「かかりつけ医機能の強化・普及等による医療機関の機能分化・連携の推進」,「更なる包括払いの在り方の検討も含めた医療提供体制の改革につながる診療報酬の見直し」,「診療所も含む外来機能の明確化・分化の推進」などに取組むことを求めている。
 また,オンライン診療について,「幅広く適正に活用するため,初診からの実施は原則かかりつけ医によるとしつつ,事前に患者の状態が把握できる場合にも認める方向で具体案を検討する」とした。
 その他,OTC類似医薬品等の既収載の医薬品の保険給付範囲の見直しや症状が安定している患者について一定期間内に処方箋を反復利用できる方策の検討を求めている。
 ②では,効率的な医療提供体制の構築や一人当たり医療費の地域差半減に向けて,地域医療構想のPDCAサイクルの強化や医療費適正化計画の在り方の見直しを行うことを明記した。医療費適正化計画における医療費の見込みについて,「定期改訂や制度別区分などの精緻化を図りつつ,各制度における保険料率設定の医療費見通しや財政運営の見通しとの整合性の法制的担保を行い,医療費の見込みを医療費が著しく上回る場合の対応の在り方など都道府県の役割や責務の明確化を行う」などとした。
 財政健全化については,「経済あっての財政」との考え方の下,「デフレ脱却・経済再生に向け全力で取組むとともに,将来世代の不安を取り除くためにも,社会保障の持続可能性を確保し,全ての団塊世代が75歳以上になるまでに財政健全化の道筋を確かなものとする」と明記した。さらに,歳出の目安がこれまで財政規律としての役割を果たしてきたと評価し,22年度から24年度までの3年間の社会保障関係費については,「基盤強化期間(19年度から21年度)においてその実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目指す方針とされていること,経済・物価動向等を踏まえ,その方針を継続する」との目安に沿って予算編成を行うとした。

 規制改革実施計画の医療分野では,「オンライン診療・オンライン服薬指導の特例措置の恒久化」や「医療分野におけるDX化の促進」などの実施事項が記載されている。
 オンライン診療の特例措置の恒久化は,初診からの実施は,原則,かかりつけ医としつつ,かかりつけ医以外の医師が,あらかじめカルテや診療情報提供書等により患者の状態が把握できる場合を含むとした。さらに,健康な勤労世代等かかりつけ医がいない患者は,医師が,初回のオンライン診療に先立って,別に設定した患者本人とのオンラインでのやりとりにより,適切な情報が把握できる場合は認める方向も明記した。また,対面診療よりも低く設定されている診療報酬上の取り扱いの見直しも求めている。
 国の成長戦略をまとめた成長戦略実行計画では,「ワクチンの国内での開発・生産」,「医薬品産業の成長戦略」にかかる施策が盛り込まれた。

◇経済財政運営と改革の基本方針2021

日本の未来を拓く4つの原動力
~グリーン,デジタル,活力ある地方創り,少子化対策~
第1章 新型コロナウイルス感染症の克服とポストコロナの経済社会のビジョン

4.感染症の克服と経済の好循環に向けた取組
(1)感染症に対し強靱で安心できる経済社会の構築

 感染症への対応に当たっては,社会経済活動を継続しつつ感染拡大を防止し,重症者・死亡者の発生を可能な限り抑制することを基本に対策を徹底する。感染症対応の医療提供体制を強化し,相談・受診・検査~療養先調整・移送~転退院・解除まで一連の対応が目詰まりなく行われ,病床・宿泊療養施設が最大限活用される流れを確保する。
 緊急時対応をより強力な体制と司令塔の下で推進する。今後,感染が短期間で急増するような事態が生じた場合,昨冬の2倍程度等を想定した患者数に対応可能な体制に緊急的に切り替える。また,感染症患者を受け入れる医療機関に対し,減収への対応を含めた経営上の支援や病床確保・設備整備等のための支援について,診療報酬や補助金・交付金による今後の対応の在り方を検討し,引き続き実施する。都道府県の要請に基づき,公立・公的,民間病院の病床を活用できる仕組みや都道府県を超えて患者に対応できる仕組みを構築する。
 各地域の病床の効率的な運用を促すため,医療機能に応じた役割分担の徹底や補助も活用した医師等派遣,地域の実情に応じた転院支援等を進める。G-MISにより,重症度別の空床状況や人工呼吸器等の保有・稼働状況,人材募集状況等を一元的に把握し,迅速な患者の受入調整等に活用するほか,地域別や機能別,開設種別の病床稼働率など医療提供体制の進捗管理・見える化を徹底する。
 ワクチンについて,感染症の発症を予防し,死亡者・重症者の発生をできる限り減らすため,医療従事者等への接種を進め,大規模接種も活用して,希望する高齢者への接種を本年7月末を念頭に完了させる。また,希望する全ての対象者への接種を本年10月から11月にかけて終えることを目指す。引き続き,効果的な治療法,国産治療薬の研究開発・実用化の支援及び国産ワクチンの研究開発体制・生産体制の強化を進めるとともに,新たな感染症に備え,国内のワクチン開発・生産体制の強化のため,「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を着実に推進する。そのために必要な取組の財源を安定的に確保する。
 感染症を巡る状況を踏まえつつ,個々の医療機関の経営リスクに配慮しながら,病床や医療人材の確保に関する協力を国や地方自治体が迅速に要請・指示できるようにするための仕組みや,平時からの開発支援を含め治療薬やワクチンについて安全性や有効性を適切に評価しつつ,より早期の実用化を可能とするための仕組み,ワクチンの接種体制の確保など,感染症有事に備える取組について,より実効性のある対策を講ずることができるよう法的措置を速やかに検討する。あわせて,行政の体制強化に取り組む。
 今後も小さな流行の波は発生しうるが,これを大きな流行にしないよう,感染拡大期の経験や国内外の知見を踏まえ,効果的な感染防止策を継続・徹底する。感染リスクが高い飲食におけるガイドラインの徹底や第三者認証による認証制度の普及・活用,AIシミュレーション等の活用,QRコード等の積極的な活用,クラスターの大規模化等を防ぐ観点からの高齢者施設等や大学,高校等及び職場での抗原簡易キットの活用による軽症状者に対する検査及び陽性者発見時の幅広い接触者に対するPCR検査の実施,感染リスクを踏まえた繁華街や企業,学校等における無症状者へのモニタリング検査の推進,感染拡大の予兆を検知した場合の重点的なPCR検査の実施等のクラスター対策などの戦略的サーベイランスの推進を図りつつ,営業時間短縮要請等の措置を機動的に活用する。今後の感染拡大等に備え,検査需要に十分対応できるよう検査体制の整備を進める。変異株対策については,スクリーニング検査やゲノム解析を用いた全国的な監視体制やHER-SYSも活用した積極的疫学調査を一層強化するとともに,水際対策を強化する。
 人の流れを抑制する観点から,テレワーク活用等による出勤者数削減について,各事業者の実施状況の公表を促すとともに,幅広く周知することにより,見える化を進める。
 感染症に起因する偏見・差別等に係るSNSの活用等による人権相談や啓発を強化する。また,感染症に関するいわゆる後遺症についての症状等の回復に資する調査・研究を進める。

第3章 感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革

1.経済・財政一体改革の進捗・成果と感染症で顕在化した課題
(経済・財政一体改革の進捗と評価)

 「経済再生なくして財政健全化なし」との基本方針の下,骨太方針2018において策定された新経済・財政再生計画では,経済と財政の一体的な再生を目指し,全ての団塊世代が75歳になるまでに,財政健全化の道筋を確かなものとする必要があると示した。2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化と,債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す財政健全化目標を設定するとともに,「基盤強化期間」(2019年度~2021年度),歳出の目安,主要分野ごとの改革の基本方針・重要課題を策定・設定し,「改革工程表」による具体化を行うなどの取組を進めてきた。
 経済面では,感染症による危機前までは概ねプラス成長が続いたものの,世界経済の減速や生産性上昇率の低迷等により,財政健全化に必要とされた実質2%程度,名目3%程度を上回る成長は実現できていない。
 歳出面では,目安が目標達成のための財政規律としての役割を果たしてきた。消費税率引上げに伴う経済変動に対しては臨時・特別の措置で対応するとともに,感染症・災害に対し補正予算等により機動的なマクロ経済運営を行ってきた。このように政策の優先順位付けを厳正に行いつつ,時々の課題に迅速に対応する枠組みは,国民負担の抑制や需要変動の抑制等を通じ,持続的な経済成長に寄与したと考えられる。歳入面では,2019年10月に消費税率を8%から10%に引き上げた。国・地方税収は2018年度に過去最高の104.4兆円に達した。

(感染症の影響と顕在化した新たな課題)
 「基盤強化期間」の半ばに発生した感染症に対応するため経済対策を適時適切に講じた結果,失業率や所得水準などの面で,わが国経済の落ち込みは主要先進国に比べ小さなものとなったが,経済は依然として感染症前の水準を下回っている。財政面では,感染症後の税収減及び関連補正予算等の歳出増により,PB対GDP比は足元で改善軌道から大きく乖離する見込みである。ワクチン接種等を通じて経済の正常化が進み,税収が回復し一時的な歳出増が剥落すれば,感染症前の状況に近づくものの,感染症が中長期的な経済財政に与える影響は未だ不透明な状況にある。
 感染症は,経済・財政一体改革を進める上でも,緊急時・平時の間での医療人員・資源の配分の在り方,国民の必要とする行政のデジタル化やオンライン教育についての地方自治体間の格差,ルール・仕様等の標準化の必要性など様々な課題を浮き彫りにした。ポストコロナも見据えて,こうした課題に対応できる体制を構築・強化していくとともに,感染症の状況も見極めながら,地方財政も含め財政構造を平時モードに戻していく必要がある。

2.社会保障改革
(1)感染症を機に進める新たな仕組みの構築

 今般の感染症対応での経験を踏まえ,国内で患者数が次に大幅に増えたときに備えるため,また,新たな新興感染症の拡大にも対応するため,平時と緊急時で医療提供体制を迅速かつ柔軟に切り替える仕組みの構築が不可欠である。このため,症状に応じた感染症患者の受入医療機関の選定,感染症対応とそれ以外の医療の地域における役割分担の明確化,医療専門職人材の確保・集約などについて,できるだけ早期に対応する。
 あわせて,今般の感染症対応の検証や救急医療・高度医療の確保の観点も踏まえつつ,地域医療連携推進法人制度の活用等による病院の連携強化や機能強化・集約化の促進などを通じた将来の医療需要に沿った病床機能の分化・連携などにより地域医療構想を推進するとともに,かかりつけ医機能の強化・普及等による医療機関の機能分化・連携の推進,更なる包括払いの在り方の検討も含めた医療提供体制の改革につながる診療報酬の見直し,診療所も含む外来機能の明確化・分化の推進,実効的なタスク・シフティングや看護師登録制の実効性確保並びに潜在看護師の復職に係る課題分析及び解消,医学部などの大学における医療人材養成課程の見直しや医師偏在対策の推進などにより,質が高く効率的で持続可能な医療提供体制の整備を進める。オンライン診療を幅広く適正に活用するため,初診からの実施は原則かかりつけ医によるとしつつ,事前に患者の状態が把握できる場合にも認める方向で具体案を検討する。また,引き続き,地域の産科医療施設の存続など安心・安全な産科医療の確保及び移植医療を推進するとともに,希少疾病である難病の対策を充実する。
 加えて,現在限られたがん種において保険適用とされている粒子線治療の推進については,有効性・安全性などのエビデンスを踏まえた検討を進めるとともに,装置の小型化・低コスト化の潮流を踏まえ,病院の特徴や規模など,地域の状況に十分配慮した上で,診療の質や患者のアクセスの向上を図るため,具体的な対応策を検討する。
 コロナ禍で新たな健康課題が生じていることを踏まえ,重症化予防のため「上手な医療のかかり方」の普及啓発を引き続き行うほか,保険者努力支援制度等に基づく予防・重症化予防・健康づくりへの支援を推進する。また,がん,循環器病及び腎臓病について,感染拡大による診療や受療行動の変化の実態を把握するとともに,健診・検診の受診控え等に関する調査の結果を踏まえ,新しい生活様式に対応した予防・重症化予防・健康づくりを検討する。
 予防・重症化予防・健康づくりサービスの産業化に向けて,包括的な民間委託の活用や新たな血液検査等の新技術の積極的な効果検証等が推進されるよう,保険者が策定するデータヘルス計画の手引の改定等を検討する。また,同計画の標準化の進展にあたり,アウトカムベースでの適切なKPIの設定を推進する。革新的な医薬品におけるイノベーションの評価の観点及びそれ以外の長期収載品等の医薬品について評価の適正化を行う観点から薬価算定基準の見直しを透明性・予見性の確保にも留意しつつ図るとともに,OTC類似医薬品等の既収載の医薬品の保険給付範囲について引き続き見直しを図る。感染症を踏まえた診療報酬上の特例措置の効果を検証するとともに,感染症患者を受け入れる医療機関に対し,減収への対応を含めた経営上の支援や病床確保・設備整備等のための支援について,診療報酬や補助金・交付金による今後の対応の在り方を検討し,引き続き実施する。後発医薬品の品質及び安定供給の信頼性の確保,新目標についての検証,保険者の適正化の取組にも資する医療機関等の別の使用割合を含む実施状況の見える化を早期に実施し,バイオシミラーの医療費適正化効果を踏まえた目標設定の検討,新目標との関係を踏まえた後発医薬品調剤体制加算等の見直しの検討,フォーミュラリの活用等,更なる使用促進を図る。かかりつけ薬剤師・薬局の普及を進めるとともに,多剤・重複投薬への取組を強化する。症状が安定している患者について,医師及び薬剤師の適切な連携により,医療機関に行かずとも,一定期間内に処方箋を反復利用できる方策を検討し,患者の通院負担を軽減する。
 サプライチェーンの実態を把握し,平時からの備えと非常時の買い上げの導入など,緊急時の医薬品等の供給体制の確立を図る。緊急時の薬事承認の在り方について検討する。
 医療・特定健診等の情報を全国の医療機関等で確認できる仕組みや民間PHRサービスの利活用も含めた自身で閲覧・活用できる仕組みについて,2022年度までに,集中的な取組を進めることや,医療機関・介護事業所における情報共有とそのための電子カルテ情報や介護情報の標準化の推進,医療情報の保護と利活用に関する法制度の在り方の検討,画像・検査情報,介護情報を含めた自身の保健医療情報を閲覧できる仕組みの整備,科学的介護・栄養の取組の推進,今般の感染症の自宅療養者に確実に医療が全員に提供されるよう医療情報を保健所と医療機関等の間で共有する仕組みの構築(必要な法改正を含め検討),審査支払機関改革の着実な推進など,データヘルス改革に関する工程表に則り,改革を着実に推進する。
 日米首脳共同声明に基づく取組も視野に入れつつ,全ゲノム解析等実行計画及びロードマップ2021を患者起点・患者還元原則の下,着実に推進し,これまで治療法のなかった患者に新たな個別化医療を提供するとともに,産官学の関係者が幅広く分析・活用できる体制整備を進める。プログラム医療機器の開発・実用化を促進する。患者の治験情報アクセス向上のためデータベースの充実を推進する。
 医療法人の事業報告書等をアップロードで届出・公表する全国的な電子開示システムを早急に整え,感染症による医療機関への影響等を早期に分析できる体制を構築する。同様に,介護サービス事業者についても,事業報告書等のアップロードによる取扱いも含めた届出・公表を義務化し,分析できる体制を構築する。レセプトシステム(NDB)の充実,G-MISの今般の感染症対策以外の長期的な活用,COCOAの安定的な運営等について,デジタル庁の統括・監理の下,デジタル化による効率化,利便性の向上を図る。あわせて,医療・介護データとの連携や迅速な分析の環境の整備を図る。
 全身との関連性を含む口腔の健康の重要性に係るエビデンスの国民への適切な情報提供,生涯を通じた切れ目のない歯科健診,オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防にもつながる歯科医師,歯科衛生士による歯科口腔保健の充実,歯科医療専門職間,医科歯科,介護,障害福祉機関等との連携を推進し,歯科衛生士・歯科技工士の人材確保,飛沫感染等の防止を含め歯科保健医療提供体制の構築と強化に取り組む。今後,要介護高齢者等の受診困難者の増加を視野に入れた歯科におけるICTの活用を推進する。
 また,感染症による不安やうつ等も含めたメンタルヘルスへの対応を推進する。

(2)団塊の世代の後期高齢者入りを見据えた基盤強化・全世代型社会保障改革
 骨太方針2020等の内容に沿って,社会保障制度の基盤強化を着実に進め,人生100年時代に対応した社会保障制度を構築し,世界に冠たる国民皆保険・皆年金の維持,そして持続可能なものとして次世代への継承を目指す。
 2022年度から団塊の世代が75歳以上に入り始めることを見据え,全ての世代の方々が安心できる持続可能な全世代型社会保障の実現に向けた取組について,その実施状況の検証を行うとともに,その取組を引き続き進める。その際,全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築する観点から,給付と負担のバランスや現役世代の負担上昇の抑制を図りつつ,保険料賦課限度額の引上げなど能力に応じた負担の在り方なども含め,医療,介護,年金,少子化対策を始めとする社会保障全般の総合的な検討を進める。こうした対応について速やかに着手する。
 効率的な医療提供体制の構築や一人当たり医療費の地域差半減に向けて,地域医療構想のPDCAサイクルの強化や医療費適正化計画の在り方の見直しを行う。具体的には,前者について,地域医療構想調整会議における協議を促進するため,関係行政機関に資料・データ提供等の協力を求めるなど環境整備を行うとともに,都道府県における提供体制整備の達成状況の公表や未達成の場合の都道府県の責務の明確化を行う。また,後者について,都道府県が策定する都道府県医療費適正化計画(以下「都道府県計画」という。)における医療に要する費用の見込み(以下「医療費の見込み」という。)については,定期改訂や制度別区分などの精緻化を図りつつ,各制度における保険料率設定の医療費見通しや財政運営の見通しとの整合性の法制的担保を行い,医療費の見込みを医療費が著しく上回る場合の対応の在り方など都道府県の役割や責務の明確化を行う。また,医療費の見込みについて,取組指標を踏まえた医療費を目標として代替可能であることを明確化するとともに,適正な医療を地域に広げるために適切な課題把握と取組指標の設定や,取組指標を踏まえた医療費の目標設定を行っている先進的な都道府県の優良事例についての横展開を図る。都道府県計画において「医療の効率的な提供の推進」に係る目標及び「病床の機能の分化及び連携の推進」を必須事項とするとともに,都道府県国保運営方針においても「医療費適正化の取組に関する事項」を必須事項とすることにより,医療費適正化を推進する。あわせて保険者協議会を必置とするとともに,都道府県計画への関与を強化し,国による運営支援を行う。審査支払機関の業務運営の基本理念や目的等へ医療費適正化を明記する。これらの医療費適正化計画の在り方の見直し等について,2024年度から始まる第4期医療費適正化計画期間に対応する都道府県計画の策定に間に合うよう,必要な法制上の措置を講ずる。国保財政を健全化する観点から,法定外繰入等の早期解消を促すとともに,普通調整交付金の配分の在り方について,引き続き地方団体等と議論を継続する。中長期的課題として,都道府県のガバナンスを強化する観点から,現在広域連合による事務処理が行われている後期高齢者医療制度の在り方,生活保護受給者の国保及び後期高齢者医療制度への加入を含めた医療扶助の在り方の検討を深める。
 一人当たり介護費の地域差縮減に寄与する観点から,都道府県単位の介護給付費適正化計画の在り方の見直しを含めたパッケージを国として示し,市町村別にその評価指標に基づき取組状況を見える化する。また,調整交付金の活用方策について,第8期介護保険事業計画期間における取組状況も踏まえつつ,引き続き地方団体等と議論を継続する。

7.経済・財政一体改革の更なる推進のための枠組構築・EBPM推進
(財政健全化目標と歳出の目安)

 デフレ脱却・経済再生に向け全力で取り組むとともに,将来世代の不安を取り除くためにも,社会保障の持続可能性を確保し,全ての団塊世代が75歳以上になるまでに財政健全化の道筋を確かなものとする。そのため,骨太方針2018で掲げた財政健全化目標(2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化を目指す,同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す)を堅持する。ただし,感染症でいまだ不安定な経済財政状況を踏まえ,本年度内に,感染症の経済財政への影響の検証を行い,その検証結果を踏まえ,目標年度を再確認する。
 歳出の目安がこれまで財政規律としての役割を果たしてきたことを踏まえ,機動的なマクロ経済運営を行いつつ成長力強化に取り組む中で,2022年度から2024年度までの3年間について,これまでと同様の歳出改革努力を継続することとし,以下の目安に沿った予算編成を行う。
① 社会保障関係費については,基盤強化期間においてその実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目指す方針とされていること,経済・物価動向等を踏まえ,その方針を継続する。
② 一般歳出のうち非社会保障関係費については,経済・物価動向等を踏まえつつ,これまでの歳出改革の取組を継続する。
③ 地方の歳出水準については,国の一般歳出の取組と基調を合わせつつ,交付団体を始め地方の安定的な財政運営に必要となる一般財源の総額について,2021年度地方財政計画の水準を下回らないよう実質的に同水準を確保する。

◇規制改革実施計画

(14)医療分野におけるDX化の促進

(17)医療・介護分野における生産性向上

(18)オンライン診療・オンライン服薬指導の特例措置の恒久化

(19)健康保険証の直接交付

◇成長戦略実行計画

第13章 重要分野における取組
1.ワクチンの国内での開発・生産

 「ワクチン開発・生産体制強化戦略」(令和3年6月1日閣議決定)に基づき,ワクチンを国内で開発・生産し,速やかな供給ができる研究開発・生産体制を構築するため,世界トップレベルの研究開発拠点の形成,戦略性を持った研究費のファンディング機能の強化,治験環境の整備・拡充,薬事承認プロセスの迅速化のための体制・基準整備,ワクチン製造拠点の整備,ワクチン開発・製造産業の育成・振興等を進める。また,そのために必要な取組の財源を安定的に確保する。

2.医薬品産業の成長戦略
 ライフサイエンスは,デジタルやグリーンと並ぶ重要戦略分野であり,安全保障上も重要な分野である。
 革新的新薬を創出する製薬企業が成長できるイノベーション環境を整備するため,研究開発支援の強化,創薬ベンチャーの支援,国際共同治験の推進,国内バイオ医薬品産業の強化,全ゲノム解析等実行計画及びこれに基づくロードマップの推進と産官学の関係者が幅広く分析・活用できる体制の構築,医療情報を利活用しやすい環境整備,薬価制度における新薬のイノベーションの評価や長期収載品等の評価の在り方の検討,感染症に対するデータバンクの整備,臨床研究法に基づく研究手続の合理化等に向けた法改正を含めた検討,製薬企業の集約化の支援等を進める。
 医療上必要不可欠であり,幅広く使用され,安定確保について特に配慮が必要である医薬品のうち優先度の高いものについては,継続的な安定供給を国民全体で支える観点から,薬価の設定や抗菌薬等の安定確保が必要な医薬品の原料等の国内での製造支援,備蓄制度,非常時の買上げの導入などを検討する。また,ワンヘルスアプローチ(人間及び動物の健康並びに環境に関する分野横断的な課題に対し,関係者が連携してその解決に向けて取り組むこと)による薬剤耐性(AMR)対策を推進する。
 後発医薬品メーカーが品質確保・安定供給・データの信頼性確保に責任を持つ体制を構築するため,製造販売業者による適切な製造・品質管理体制の確保を図る。共同開発の場合であっても,承認審査時にデータの信頼性確保に関する確認を行う。
 バイオシミラー(国内で承認されたバイオ医薬品と同等の品質等を有する医薬品)の開発・利用を促進するため,今後の政府目標について速やかに結論を得る。バイオシミラーの利用を促進するための具体的な方策について検討する。
 オンライン診療は,安全性と信頼性をベースに,かかりつけ医の場合は初診から原則解禁する。
 薬局で市販されるOTC診断薬等の使用推進については,安全性等を確保することが必要であり,個別品目ごとにOTC化の検討を進めるなどセルフケア・セルフメディケーションを推進する。
 医療用医薬品の流通構造には,製薬メーカーが卸売業者に販売する価格が卸売業者から医療機関・薬局に販売する価格を上回る商慣行や,医療機関・薬局が購入する全品目の価格・割引率をまとめて交渉する商慣行が存在することから,これらの改善に向けて,流通改善ガイドラインの見直しを含めた対応策の検討を行う。
 コロナ禍で新たな健康課題が生じていることを踏まえ,保険者努力支援制度や介護保険の保険者機能強化推進交付金等に基づく予防・重症化予防・健康づくりへの支援を推進する。
 予防・重症化予防・健康づくりの健康増進効果等に関するエビデンスを確認・蓄積するための実証事業の結果を踏まえて,特定健診・特定保健指導の見直しなど,保険者や地方公共団体等の予防健康事業における活用につなげる。
 データヘルス改革を推進し,個人の健康医療情報の利活用に向けた環境整備等を進める。また,レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の充実や研究利用の際の利便性の向上を図る。
 治療用アプリ等のプログラム医療機器の開発・実用化を促進し,開発企業の予見可能性の向上に資するため,審査体制全般について不断の見直しを進める。
 漢方について,生薬の国内生産及び国内産業の競争力強化に資する国際標準化を推進する。
 医薬品産業のエコシステムを確立するため,政府の司令塔機能の確立を図る。

2021年7月15日号TOP