2021年6月1日号
昨年度全5回にわたり,府医が主務担当として開催した近畿医師会連合の保険担当理事連絡協議会において鋭意協議を重ね,「次期診療報酬改定への提言~基本診療料の適正な評価のために~」をとりまとめ,日医へ送付しました。
新型コロナウイルスの感染拡大によって,平時の感染症対策の重要性をあらためて認識することになり,これまで医療機関が担ってきた役割やその評価,今後の感染症対策を踏まえた対応,さらにはその前提となる財源の問題などを「次期診療報酬改定への提言」というかたちでとりまとめたものです。
次期診療報酬改定への提言
~基本診療料の適正な評価のために~
今回の新型コロナウイルス感染症への対応により,医療機関は経営のみならず,マンパワー的にも疲弊している。これは新型コロナウイルスの感染拡大に伴う患者の受診行動の変容による影響とは別に,これまでの医療費削減政策による経営コストの余力がなくなっていたことも大きい。
今後の医療提供体制を確保し続けるためにも,以下提言する。
薬価引き下げ財源は診療報酬本体に充当されることが大原則であり,今後も強く主張し続けなければならない。薬剤治療は言うまでもなく他の様々な治療と関連して検討すべきもので,ことさら薬剤費のみを医療費と切り離して議論することは極めて不自然である。
安定的に財源を確保するためには,消費税増収財源の使途を見直して医療費への割り振りを再検討するとともに,地域医療介護総合確保基金はその執行状況を精査し,適切に配分されていない場合は本来組み込まれるべきであるはずの診療報酬に確実に戻さなければならない。
医療機関の経営を恒久的に維持するための唯一の原資は診療報酬であり,その中には,医師や看護師の技術料,医療従事者の人件費,設備関係費などが含まれ,すべてが医療機関の収入になっているわけではない。最新の医療技術の修得,人的資源の確保,設備投資はすべて患者に最善の治療を提供するためのものであるということを国民に理解してもらうことも重要である。
診療報酬点数表では,基本診療料を「医療という一連のサービスを初・再診及び入院診療の2つの基本的関連においてとらえ,その際に行われる基本的な診療行為の費用を一括して支払うもの」と位置付けている。つまり診療行為の根幹を総合的に評価した報酬であり,上述のコストが基本診療料において適切に充当されていなければ,医療機関の経営は安定しない。
我が国では,多くの開業医が一定の専門性をもって開業していることにより身近な診療所でも専門的な治療が受けられることを可能にし,X線撮影装置やCTを備えることなどにより疾病の早期発見や早期治療に大きく貢献し,平均寿命を世界トップレベルにまで押し上げた実績がある。
これだけをみても,日本の診療所のレベルが先進諸外国に比べて高いことは明らかであるが,欧米諸国における受診1回あたりの医療費と比較すると,日本はアメリカの10分の1以下,スウェーデンの7分の1以下,OECD平均の2分の1以下(2011年時点)である。
このような中で,医療者に要求される知識・技術は10年前よりも格段に進歩し,かつ人件費も大幅に上昇している。診療所の経営にはその他の様々なコストがかかっているにもかかわらず,それに対応するべき初・再診料は据え置かれたままである。
これまで感染症対策に十分な手当てがなされず,医療機関には通常業務を超えて対応できる余力がなかった。1年以上にわたり新型コロナウイルス感染拡大を抑え込むことができず想定外の事態に直面しているが,この経験は平時の感染症対策の重要性をあらためて認識させる契機となった。医療従事者は今後,日常的にこのリスクに晒されながら診療を行うことになり,患者の受診行動も変わるため,中医協において有事における診療報酬体系を議論していくことが重要である。
(付記)
初・再診料等の基本診療料のあり方を検討することについては,平成28年度改定以降,答申書の附帯意見からも消滅している。特に診療所の再診料は,平成22年度改定で財源の制約を受けて,理由なく引き下げられたまま,現在に至っていることを付記しておきたい。