勤務医通信

HPVワクチンで子宮頸がんを歴史的書物の疾病に!

京都第二赤十字病院 産婦人科 副部長
衛藤 美穂

 コロナ禍の中,コロナウィルスに対する人類史上初のmRNAワクチン接種が開始しました。と同時に長期成績のないこのワクチンの副作用と効果がとても話題になっています。その陰であまり目立っていませんが,子宮頸がんに対する4価HPVワクチンが2020年に男性への接種も適応に,そしてそして9価HPVワクチンが2021年2月24日に発売開始されました。
 子宮頸がんはHPV(ヒトパピローマウィルス)が子宮頸部に感染して生じるがんです。性交経験のある女性は一生に一回は感染するとも言われる,ごくありふれたウィルスです。HPVワクチンは,日本においては2013年に定期接種化されました。しかし,そのわずか2ヶ月後に接種の積極的勧奨の差し控えが発表される!という事態になったことが皆様のご記憶にあるかと存じます。接種後の広範な疼痛・運動障害などの報道が大々的に報じられたためです。結果的に,定期接種であるはずなのに2002年以降の日本女子の接種率はなんと1%未満…。
 HPVワクチンを積極的に接種している国スウェーデンでは,ワクチン接種を受けた世代の女性における子宮頸がんの発生数は約90%が減少したことが報告されています。子宮頸がんは数少ない予防できるがんなのです。今では80カ国以上でHPVワクチンは定期接種になっています。ところが一方,日本では子宮頸がんはなんと近年増加傾向で,毎年約1.1万人が罹患し,約2,800人が死亡する疾患です。また,罹患年齢が若年化し,若い世代が罹る疾患となりました。30代までに約1,200人が子宮摘出を強いられます。働き盛り・出産子育てを担う世代の女性が,子宮や命を失う現状があります。
 定期接種の4価ワクチンは子宮頸がんハイリスクのHPV16/18型と尖圭コンジローマのHPV6/11型を予防します。9価ワクチンはHPV6/11/16/18/31/33/45/52/58の感染を予防し,子宮頸がんのみならず腟がん・外陰がん,男女ともに肛門がん・中咽頭がんの減少に寄与することがわかっています。男女ともに接種することで男女間の感染も予防できます。
 自分の大事な子供たちにこのHPVワクチンを接種するか迷っているという声を耳にしました。
 もちろんワクチンには副作用も生じます。報道にあったようなHPVワクチンの副反応に対する不安に対しては,国内では2018年に名古屋スタディーが報告されています。名古屋市で行われた約3万人が回答した無記名アンケート調査で,ワクチン接種をしても報道されている様なさまざまな症状24項目との因果関係は認められませんでした。また,2007年(未接種)と2013年(HPVワクチン接種率が高い世代)の15~19歳女子の国民生活基礎調査でも同様の症状の有意な増加は認められませんでした。ワクチン接種の既往が無くても,副反応とされるのと同様の症状が生じている女子が一定数存在することが確認されたのです。ISRR(接種後ストレス関連反応)という概念も提唱されてきています。HPVワクチンは筋肉注射のため,注射部位の痛みや腫れは80%以上に生じます。痛みや不安で迷走神経反射を起こす例が少ないながらも報告されています。最新の接種者へのリーフレットにはHPVワクチンの副反応のリスクは0.005%と記載されています。どんなワクチンもリスク(副反応)とベネフィット(有効性)があり,ベネフィットがはるかに勝る場合に推奨されます。社会的なベネフィットがリスクを上回るという科学的根拠に基づいて推奨されていますので,私たち産婦人科医だけでなく,接種を受ける側も知識を共有していただき,接種するかを選択していただければと考えています。
 さて,皆様のお子様たちに接種しますか?大人になってから自分で決めさせる?推奨されている時期(10代)に接種を済ませる方が予防率は高まります。私個人としては,息子二人には自費でも接種させようと思ってます。コロナワクチンは16歳以下対象外ですが,小学校6年〜高校1年相当女子が定期接種対象であるHPVワクチンについても少しご家族で話題にしてもらえたら幸いです。

Information
病院名 京都第二赤十字病院
住 所 京都市上京区釜座通丸太町上ル春帯町355番地の5
電話番号 075-231-5171
ホームページ https://www.kyoto2.jrc.or.jp/

2021年3月15日号TOP