地域医療部通信 – 新型コロナウイルス感染症関連情報 第22報

新型コロナウイルス感染症対策  ~京都府医師会での対応,2021年2月~

2021年2月28日
京都府医師会新型コロナウイルス感染症対策チーム

1.はじめに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大第3波は,11都道府県への緊急事態宣言発令後から次第に感染者数が減少し,緊急事態宣言は2月7日に栃木が解除,2月末日で東海2県,関西3府県,福岡が解除となったが,首都圏4都県の緊急事態宣言は継続された。首都圏の感染者減少は高止まりの状態であること,COVID-19変異株の感染者が全国各地で確認され徐々に増えていること,年度末で卒業・入学・就職などにともなう人の移動や交流の機会が多くなること等により感染拡大のリバウンドが懸念される。
 ファイザー社の新型コロナウイルスワクチン(コロナワクチン)の接種体制整備について厚労省からの通知が昨年秋から発せられていたが,1月から接種体制について京都府医師会(府医)は京都府・京都市との協議を繰り返してきた。基本型接種施設へのディープフリーザーの配置が始まったが,医療従事者優先接種段階から個別接種ができる方向で検討し,個別接種をする医療機関に集合契約の案内を行った。
 ファイザー社のコロナワクチンが特例承認され,日本国内へ第1便として空輸され,医療従事者先行接種が開始となった。しかしながらワクチンの納品数は当初の予定をかなり下回り,医療従事者優先接種や高齢者への接種の開始が遅れることになった。
 2月の1か月間の動向について述べる。
 なお,本文中に記載した数値や対応策等は,2月28日時点のものであり,今後の動向により変化することを予めお断りしておく。

2.COVID-19の流行状況とその対策

⑴ 全国の感染者数の推移と政府の対策
 新型コロナウイルス特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言が11都道府県に発令されていたが,全国の新規感染者数は1月上旬以降から減少がみられ,実効再生産数は1を下回ってきた。不要不急の外出自粛や飲食店の営業時間短縮(時短)などが一定程度の効果を発揮したと思われる。2月2日には,栃木県のみ当初の期限である7日をもって解除し,10都道府県(東京・埼玉・千葉・神奈川の首都圏4都県,岐阜・愛知の東海2県,京都・大阪・兵庫の関西3府県および福岡)は3月7日までの延長することを政府が発表した。感染状況によっては3月7日を待たずに順次解除することも示唆された。飲食店の休業要請の必要性は否定し,時短等の対策を継続することとなった。この時点では,減少傾向にあるものの感染者数は高水準が続いており,病床使用率は高止まりで,緊急事態宣言の対象地域では8都府県で政府対策分科会のステージ4(爆発的感染拡大)相当であった。政府のCOVID-19感染症対策分科会(分科会)は2日に「緊急事態宣言下での対策の徹底・強化についての提言」を出し,分科会の尾身会長は「できるだけ早くステージ3に下げ,さらにステージ2まで下げることが重要」と言及した。しかしながら政府が分科会の専門家の意見を正面から受け止めて戦略を練り直したようには見えず,出口戦略を巡っての専門家の意見と政府の対応のずれが目立つことになった。
 一方,COVID-19感染対策の実効性を高めるためという名目で,罰則を導入する改正特措法と改正感染症法が3日の参議院本会議で可決成立し,即日公布され,13日からの施行となった。改正特措法では,知事が事業者に営業時短などの命令ができること,緊急事態宣言の前段階に当たる「蔓延防止等重点措置」を新設,知事の命令を拒んだ事業者に対し緊急事態宣言下で30万円以下,蔓延防止措置下で20万円以下の過料を科すこととなり,私権権限を強化した。但し,新たな措置は法律に要件の規定がないため,運用には懸念が残っている。改正感染症法では,入院拒否者あるいは入院先からの逃走者等には50万円以下の過料を,疫学調査拒否者に30万円以下の過料を科すこととなった。また病床不足の解消のために臨時に医療施設を開設できるのは緊急事態宣言発令前から可能となる。期間限定で指定感染症の扱いであるCOVID-19感染の法的位置づけが改められ,現在と同等の対策を恒久的に実施可能とする「新型インフルエンザ等感染症」に分類することも盛り込まれた。
 12日に政府のCOVID-19対策本部会議で「基本的対処方針」の変更を決定した。新設した「蔓延防止等重点措置」の適用判断については国の基準ステージ3(感染急増)を踏まえることが明記された。また「感染者の減少傾向はみられるが多くの地域で病床逼迫が続いている」として10府県に発令中の緊急事態宣言は解除を見送った。
 その後,京都・大阪・兵庫の関西3府県の緊急事態宣言解除要請の独自基準を各府県とも7日以上達成を継続し,新規感染者の減少や医療提供体制の改善状況から,3府県の知事は23日に共同で,3月7日の期限を待たず2月末に前倒しでの解除が可能,と政府に要請した。これを受けて専門家の意見も踏まえた上で,政府は東海を含めた6府県での2月末解除を決定した。首都圏の解除は見送られた。関西圏と首都圏で判断が分かれたのは,感染者数の推移や医療現場での逼迫度による。ステージ4の目安のひとつである病床利用率が関西圏では50%を下回ったが,首都圏の千葉54%,埼玉50%と高かった。首都圏の病床利用率の高止まりがあるため,西村経済再生相らは感染状況のさらなる好転を目指すべきとの慎重論であったが,管首相は3府県知事らの要請を盾にして押し切ったことになる。尾身分科会会長は6府県の先行解除によって国民の気の緩みによって感染リスクが再度増大する「リバウンド」に警戒すべきであると主張した。特に3月は人の移動が多いこと,卒業式等の謝恩会をはじめ花見シーズンの宴会等の交流の場が感染リスクになるため,注意を要する。
 緊急事態宣言を発令された10都府県の実効再生産数の推移をみると,首都圏では1未満であるものの2月1日よりも28日の値が高く,宣言解除された関西圏でも大阪は微増傾向があり油断できない。

緊急事態宣言発令10都府県における実効再生産数

 感染症法の一部改正で,COVID-19患者の退院および就業制限の取り扱いが変更となった。
 退院に関する基準<有症状者の場合>は次のとおりである。
 ⑴ 有症状者であって,人工呼吸器等による治療を行わなかった場合
  ①発症日から10日間経過し,かつ症状軽快後72時間経過した場合,退院可能とする
  ②症状軽快後24時間経過した後,24時間以上間隔をあけ,2回のPCR検査または抗原定量検査で陰性を確認できれば,退院可能とする
 ⑵ 有症状者であって,人工呼吸器等による治療を行った場合
  ①発症日から15日間経過し,かつ症状軽快後72時間経過した場合,退院可能とする
   ※ただし,発症日から20日間経過するまでの間は,適切な感染管理を行う
  ②症状軽快後24時間経過した後,24時間以上間隔をあけ,2回のPCR検査または抗原定量検査で陰性を確認できれば,退院可能とする

 COVID-19治療薬候補の「アビガン」は2020年3月から9月に行った臨床治験が二重盲検法ではなかったため有効性の判断が難しいとして,12月の検討で国内承認が見送られた。開発した富士フィルムホールディングスは,「アビガン」の新たな治験を4月から開始する方針とした。二重盲検法での治験内容を厚労省と調整中である。現時点では「アビガン」は観察研究の枠組みの中ですでに約1,000の医療機関で実質的にCOVID-19治療薬として使用されている。この治験で承認されれば,「アビガン」は診療所を含めて一般医療機関で広く使用できることになる。自宅療養や宿泊療養の軽症者に対して「アビガン」が早期に投与できれば,入院措置解除後も症状が遷延・長期化する後遺症の解決に繋がる可能性があり,期待が持たれる。

⑵ 京都府の感染者数の推移と対策
 政府が10都府県に発令中の緊急事態宣言を1か月延長したことを受けて,京都府は3日開催の対策本部会議で病床の見直しを行い,すぐに使える病床を330床から20床上積みして350床とした。また最大確保病床は720床から416床へ大幅に減らした。1月19日に720床のうちすぐに使用可能な病床を実質330床と発表していたが,中等症や高齢者患者の急増でマンパワー不足となっていたため,院内感染のリスクと人手不足から,多くの医療機関で複数患者用の病室を個室使用としている実態を考慮して416床にした。
 京都府の病床使用率は政府分科会が示すステージ4であった。5日に西脇京都府知事は政府への解除要請をする目安として,「1日当りの新規感染者数が7日平均で50人未満」,「重症者病床38床の使用率50%未満」が7日間連続で満たすことを示した。また,この目安をクリアすれば自動的に解除要請をするのではなく,府の専門家会議と対策本部会議での検討により,総合的に判断することを明言した。また,解除要請は京都府独自で行わず,大阪,兵庫と協議を行い,関西3府県で要請することを示した。12日時点で京都府が政府に解除を要請する独自の目安を満たす見通しとなった。その後,前項での記載どおりに3府県から解除要請を行い,政府は2月末日での解除を決定した。
 解除決定を受けて,26日の府のCOVID-19対策本部会議では,3月1日から飲食店等の営業時短要請を午後9時までに1時間繰り上げる方針を決めた。段階的に区切って要請を緩和することで,府民への感染予防の呼びかけの効果が期待される。府民への外出自粛要請は継続するが,年度末で大学の卒業・入学式の分散開催を促し,同時に学生に対しては卒業旅行や歓送迎会の自粛を求めた。また,感染の再拡大を早期に探知するため,無症状者のモニタリング調査を3月から開始することも決めた。対象は大学生繁華街の店舗従業員で,唾液によるPCR検査を1日あたり500~1,000件を実施する予定とした。

政府の分科会モニタリング指標の状況

 2月上旬に発症した府内の女性が,英国型変異株の感染であったことが判明したことを16日に厚労省と京都府が発表した。府内の変異株感染の初めての確認であったが,この女性に海外滞在歴はなく,軽症であった。その後,別の男性でも変異株感染が判明した。いずれも不特定多数の接触はなかった。
 京都の1日あたりの陽性者数は,1月12日の561名をピークに減少し,2月1日に247名であったが,8日の99名以降は二桁台で推移し漸減した。年齢別の相対的な分布でみると府内は40代が多いが,市内は70代以上の高齢者に多かった。2月の陽性者の多くは,接触者感染であった。
 実効再生産数は,1月31日の0.90から2月9日に0.47と0.5を下回った。その後はやや右肩上がりで18日に0.88をピークとして,28日の0.65まで減少してきた。

京都府陽性者

京都市陽性者

 第3波のピーク時での1日当りのCOVID-19検査数は,1月15日の4,332人が最大であったが徐々に減ったものの2月1日時点では4,214人と再び多くなったが,その後は陽性者数の減少に合わせて実施数も減り,15日2,489人で,その後は平均1,000人未満の実施となっていた。
 1年前,COVID-19の検査は鼻咽頭拭い液でのPCR検査のみであったが,その後,検査法と検体採取方法の選択肢が増え,集合契約をした一般医療機関での検査実施が可能となってきた。京都市内の陽性者に限ってみると,1月の実施分の内訳は,核酸検出検査(PCR,LAMP等)は79%抗原検査21%(すべて抗原定性)であり,検体採取方法別では鼻咽頭拭い液55%,鼻腔拭い液22%,唾液17%となっていた。PCR検査での検体採取は,鼻咽腔拭い液49%,咽頭拭い液7%,鼻腔拭い液22%,唾液21%で,鼻腔と唾液で4割以上となっている。また抗原定性検査では,鼻咽頭拭い液76%,鼻腔拭い液23%を占めていた。唾液PCR検査の実施数よりも鼻腔拭い抗原定性検査の方が約1.3倍多くなっており,鼻腔拭いによる抗原定性検査が集合契約あるいは診療・検査医療機関で増加してきたことがわかる。
 一方,抗原検査キットのうち,診断目的とせず研究用と称する製品が,ドラッグストアやインターネットなどで広告・販売されている事例が散見されるようになった。厚労省は,これらの研究用抗原検査キットはCOVID-19感染の罹患の有無を調べる目的で使用すべきではないと注意喚起した。これらのキットは医薬品医療機器等法に基づく承認を受けておらず性能などが確認されていないと指摘した。罹患の有無を調べるために必要な検査の種類や検査結果の取り扱いは医学的に判断する必要があるとし,消費者が自己判断で使用すべきでないとした。
 京都府の2021年度当初予算案が5日に発表された。一般会計は,前年度当初比14.8%増の1兆350億7,900万円で,初めての1兆円超えとなった。COVID-19感染対策費は総額2,041億300万円で,一般会計歳出の1/5を占めた。医療体制整備として,病床確保に358億600万円,宿泊療養施設確保に56億3,400万円,PCR検査に7億1,100万円,ワクチン接種関連として1億5,100万円を計上した。

3.府医の2月の活動

⑴ 会議等
 松井府医会長は,2月2日「京都市ワクチン接種会議」,3日「京都府新型コロナ感染症対策専門家会議」,「京都府新型コロナ感染症対策本部会議」に出席し,新型コロナワクチン接種体制整備について医師会の立場での意見を述べた。同日の府医総務担当部会で松井府医会長からこれらの会議での協議内容の説明があり,今後の方向性について議論した。また翌4日の定例理事会でも協議をした上で,5日に京都府と京都市の新型コロナワクチン担当者との会議に臨み,京都での接種体制についての現状と課題について話し合った。翌6日に地区医感染症担当理事連絡協議会を開催した。前半で京都府から医療従事者の接種および府内市町での高齢者・住民接種について現状の説明を行った後に質疑応答となった。後半は京都市からの現時点での体制作りについての現状と課題の説明があり,その後で質疑応答を行った。事前に各地区医から出された質問については,近日中に,Q&Aで回答することとした。12日に京都府・京都市の担当者との協議で,医療従事者の優先接種の段階から個別接種の併用とすることを確認し,そのためのワクチンの保管・移送方法について検討した。15日には京都市域の地区医感染症担当理事連絡協議会を開催し,接種体制整備の進捗状況について,京都府と京都市から現状と今後の方向について説明を行った。16日に開催された日医の都道府県医COVID-19感染対策担当理事連絡協議会では,14日に特例承認されたファイザー社ワクチン(「コミナティ筋注」)の説明があった。20日に厚労省のワクチン接種についての説明会がWebで開催され,全国で約16,000名の医師が視聴した。この説明会の内容としては,厚労省担当者からは現時点での接種体制の考え方の説明と,ファイザー社担当者から「コミナティ筋注」の説明があったものの,ワクチンそのものの具体的な溶解・希釈方法の説明はなかった。またファイザー社が制作した筋注の方法についての動画が流されたが,この動画の内容は満足すべきものではなく,誤解を生じかねないものであった。厚労省あるいは日医が責任をもって適切な研修用動画を作成すべきであろう。参加者の多い説明会ではあったが,厚労省がファイザー社に半分丸投げした感が否めなかった。24日の地区医庶務担当理事連絡協議会で,医療従事者優先接種から集合契約による個別接種を開始すること,ワクチンの保管・分配・配送を京都府が行うことを説明し,できる限り多くの医療機関が集合契約を行うことで個別接種を中心とする接種体制の構築し,次の住民接種での接種体制の整備に繋げられるよう依頼した。
 京都府と府内市町村,医療関係団体において,2月19日に新型コロナワクチン接種の実施に向けての協定(「新型コロナウイルス感染症に係るワクチン接種の円滑な実施に関する協定」)が締結された。加わった団体は,京都府,京都府市長会,京都府町村会,京都府消防長会,京都府医師会,京都府病院協会,京都私立病院協会,京都府薬剤師会,京都府看護協会。協定では,医療団体が接種業務の適切な実施,医療従事者の派遣や医療従事者向けの研修などを行い,府・市町村は接種会場の確保やワクチンの配送,相談体制の構築などを行うこととしている。
 定例理事会,各部会はハイブリッド形式で開催した。地区医との懇談会は,山科と舞鶴とで開催し,新型コロナワクチン接種体制について意見交換を行った。第3波が収まりつつあるものの,Webあるいはハイブリッド形式での会議は今後も引続き行われると思われる。Web開催はメリットとデメリットがある。合議体の会議では欠席になる場合でもWebなら出席できる,移動時間を気にしなくてもよい,というメリット面の意見が多く聞かれるものの,対面/合議体の方が活発に意見交換・協議ができるという意見もある。

⑵ 宿泊療養健康管理について
 1月下旬から新規陽性者が減少し始め,2月からの宿泊施設への新規入所者はホテルヴィスキオとアパホテルを合わせて1日12人を最高に徐々に減少した。
 ホテルヴィスキオには有症状者や基礎疾患のある者が多く入り,出務医による保険診療が毎日のようにあった。アパホテルには無症状に近い者が入所したが,保険診療が必要なこともあった。
 2月20日にはアパホテルの入所者はゼロとなり,それ以降の新規入所者はホテルヴィスキオに集約された。ヴィスキオの入所者も減少を続け,2月28日現在の総入所者は6人となった。
 入所者の減少にともない,ヴィスキオの出務医は会員の先生と府医役員3名体制から1名体制まで前日の入所者数によって臨機応変に対応いただいた。
 アパホテルは1名体制の出務をお願いし,入所者の健康管理に万全を期すこととした。
 2月の新規入所者数は,ヴィスキオで72名(1日平均2.6名),アパホテルで48名(1日平均1.7名)で,入所中の症状増悪などにより転院した者が4名いた。
 2月中に新規入所した120名のうち,退所者は114名(転院者4名含む),入所中の者は6名であった。年代別では,10歳未満が3名,10歳代8名,20歳代24名,30歳代16名,40歳代30名,50歳代29名,60歳代9名,70歳代1名であり,居住地では京都市内75名(62.5%),京都市以外が45名(37.5%)であった。自宅からの入所は120名(100%),医療機関からの入所は0名(0%)で,平均入所日数はヴィスキオで約6.9日,アパホテルも約6.9日であった。

(3)京都府・医師会 京都検査センター(府医PCR検査相談センター)の運営
 第3波の緊急事態発令後2週間頃から府医PCR検査センターでの実施数は減少傾向となっていた。1月の府医PCR検査センターでの実施数は500余であったが,2月は半分以下の200余に減っていた。実施の詳細は別項を参照されたい。
 府医PCR相談センターでの,かかりつけ医のない発熱患者等を診療・検査医療機関に紹介する業務は昨年11月から開始し,第3波の1月の受付は800件を超えていたが,2月になって減少傾向となり682件であった。きょうと新型コロナ医療相談センター(新コロセンター)からの紹介は全体の88%を占めていたが,新コロセンターが受けた相談のうち,新コロセンターから接触者外来の医療機関への誘導がどの程度なのかは明らかにされていない。受け付けた682件のうち,診療・検査医療機関等への受診調整など発熱患者を府医相談センターから繋いだのは89%で,府医PCR検査センター(ドライブスルー検査)になったのは2%弱であった。キャンセルは全体の9%で,81%が患者の都合による理由で,行政対応となったもの10%,救急対応は9%であった。

4.COVID-19ワクチン

⑴ ファイザー社コロナワクチン(コミナティ筋注)
 ファイザー社のコロナワクチンについて,医薬品医療機器総合機構(PMDA)は緊急時であること,海外での承認実績などを条件として,ファイザー社の臨床試験結果から安全性や有効性に特段の問題はないとして,審査手続きを簡略化した「特例承認」をして差し支えないとする審査報告書をまとめ,政府に提出した。日本での接種開始に向けて,日本への供給第1便が12日にベルギー(ファイザー社の主力工場)から成田空港に到着した。この第1便のワクチンは約40万回分であった。同日に厚労省の専門部会はPMDAの報告を踏まえて特例承認することを了承した。
 「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2),コミナティ筋注,COMIRNATY intramuscular injection」は,有効成分「トジナメラン」,容量は0.45ml(含量0.225mg)で,生理食塩水1.8mLで希釈して,1回0.3ml通常3週間の間隔で2回筋肉内に注射する。接種のための生食希釈の直前は2~8℃で最大5日間の保存が可能であるが,希釈後は6時間以内に使用する。生食希釈で1バイアルが2.25mlになるが,デッドボリュームが少なくなるシリンジ(ロー・デッドボリューム・シリンジ)であれば6回分が採取できるとしていた。しかし,この特殊シリンジが不足しているため通常のシリンジ使用を考慮して5回分と改められた経緯がある。「ニプロ」と「テルモ」が特殊シリンジの増産を急いでいる。テルモは2009年の新型インフルエンザ(当時)流行時に,薬液の残量が少なくなる特殊シリンジを開発した実績がある。
 ファイザー社はマイナス60~80℃の超低温冷凍庫(ディープフリーザー,DF)で最大6か月の保管(ドライアイス使用の輸送では最大30日)を原則としてきたが,一般的な冷凍庫で対応が可能なマイナス15~25℃で2週間の保管を可能とするデータを添えて米国食品医薬品局(FDA)に19日に申請した。
(註:厚労省はコミナティ筋注の添付文書にマイナス15~25℃で2週間の保管と追記した)

 一方,厚労省は,ファイザー社コロナワクチンは移送時の振動を避けるよう自治体に求めてきた。DFから接種会場に移送する際には冷蔵状態になるが,この時に壊れやすいと言われているワクチンに振動を与えると悪い影響を及ぼすとされたためである。これにより,当初接種会場へ移送をバイク便や自転車便を利用することを考えていた自治体は変更を余儀なくされた。

⑵ ワクチン供給
 2日に管首相が医療従事者への接種開始を当初の予定の「2月下旬」から「2月中旬」に前倒しを表明したが,この時点でまだ届かないワクチンの供給の確かな情報が政府首脳にどこまで得られていたのかは分からない。この前倒しのために,全国自治体の受け入れ準備,接種体制構築などを急ピッチで進めねばならないことに加えて,前述の1バイアルの接種量の変更,移送時の振動を避けることなど,情報が二転三転したことで現場の混乱を招き,各分野で大きなストレスとなった。
 12日の第1便に次いで,第2便は21日に45万回分が到着した。欧州連合(EU)は,EU域内で製造したワクチンの輸出管理を強化したことにより,日本へのワクチンの輸出承認はされているものの具体的な数量や出荷時期などの詳細は明らかになっておらず,また日本へ空輸の航空機1便ごとにEUの承認を得る必要があることなどが,日本での接種の円滑な運用に影を落としている。
 厚労省は医療従事者優先接種の対象者を当初370万人分と見込んでいたが,さらに100万人程度増え470万人となるとし,医療従事者向けの都道府県別の出荷計画を19日に公表した。3月中にまず117万人分に当たる234万回分を全国の自治体に分配する計画であるが,470万人の医療従事者の2割強に留まることになる。ここで示されたのは,2回接種のうちの1回目を3月1日と8日の週に58万5千回分ずつ,計117万回分を供給し,2回目接種分は3週間後の22日と29日の週にそれぞれ1回目分と同数を出荷する計画である(京都府への分配は後述)。河野規制改革相は,医療従事者に接種しながら4月に高齢者の接種も重なるように始めたい,とした。しかし医療従事者の接種が順調に進まなければ高齢者の接種を確実に始めることは難しくなる。ファイザー社の出荷状況に左右されるため,極めて不安定な計画である。
 26日に政府は,65歳以上の高齢者を含めて4千万人超のワクチンを6月末までに配布する方針を打ち出した。世界中でのワクチン争奪戦の中で,わずか4か月で確保することが可能ならば,という話しであるが,遅れることになれば一般住民接種の時期に大きな影響が出る。65歳未満の一般住民接種は,早くても7月以降となる見通しとなった。
 仮に3月と同じペースで日本にワクチンが届いた場合は,医療従事者と高齢者のうち4月以降に確保が必要なのは3,895万人分である。現状のペースであれば19か月(週1便1回最大50万人分の供給とすると約78週)かかることになる。6月完了とするには4~6月の13週に毎日43万人分が届かなければならない。河野氏の発言の根拠が曖昧なだけに,この計画通りに進むとは考えにくい。政府が従来示していた「高齢者接種は4月開始6月終了」というスケジュールに合わせるためのこじつけに過ぎない。河野氏は,自らの発言が毎回のように変化することも現場の混乱に拍車をかけていることを知るべきである。

供給と配送のスケジュール

⑶ ワクチン接種体制整備に向けての準備
 行政による市民・府民からのワクチン電話相談は,京都市が19日にコールセンター(075-950-0808)を,京都府は26日に「京都新型コロナワクチン相談センター」(075-414-5490,9時~午後7時(土日祝日を含む))をそれぞれ開設した。京都市のコールセンターは民間企業に委託して運営され,京都府の相談センターは府庁内で薬剤師や看護師が府民からの相談に応答する。
 ワクチン接種体制整備に向けて,京都市は庁内の「ワクチン接種班」を10名増員し部長級を含めて19人とし,また各区の副区長ら部長級24名にワクチン担当を兼職させることとした。京都府は,健康対策福祉部に「ワクチン接種対策室」を設置していたが,同じく増員を図った。
 京都府内へのDFの搬入は5日から始まり,京都医療センターと南京都病院に各1台が納品された。マイナス60~80℃でワクチン2万5千回分を冷凍保管できる。これらの医療機関には18日にファイザー社ワクチンが届けられ,19日から先行接種が開始となった。この先行接種で残ったワクチンは,次の優先接種のワクチンとして保管される。
 2月末時点で京都府内にDFを設置する医療機関は,先の2施設以外に29箇所である。政府の示した医療従事者優先接種のためのワクチン分配は,京都府には3/1と3/8の週にそれぞれ1回22箱(1箱975回;10,725人分×2回分),3/22の週に16箱(7,800人分×2回分)が入荷する(合計60箱)が,3/1と3/8と3/22の週の入荷分の半分を1回目接種し,残りを1回目の3週後に2回目接種を行うことになる。このワクチン量で行える人数は29,250人(58,500接種)となる。京都府内での優先接種希望の対象者は97,000人弱であり,約3割に留まる。COVID-19患者受け入れ病院での優先接種者は30,000人強であり,まずこの医療機関での自院対象者の接種になる。一般医療機関や診療所の優先接種は,4/12の週以降に入荷するワクチンでの接種になるが,この時期は高齢者接種開始時期と重なってくる。
 京都府では,医療従事者優先接種の時点から,自院での個別接種を可能としたが,詳細は医報3月1日号第21報を参照していただきたい。また個別接種をするためには,集合契約を行う必要があるが,この詳細は2月15日号第20報に記載したのでご覧いただいて,集合契約に手挙げをしていただきたい。

⑷ その他のコロナワクチン
 アストラゼネカ社は,5日に厚労省へ同社のワクチンの承認申請を行った。承認申請はファイザー社に次いで2例目で,ファイザー社と同じように審査手続きを簡略化する「特例承認」の適用を希望している。政府はアストラゼネカ社と1億2千万回分(6千万人分)のワクチンの供給を契約しているが,承認されればこのうちの9千万回分の原液を日本国内(JCRファーマ,兵庫県芦屋市)で製造することになる。アストラゼネカ社コロナワクチンは,他のワクチンと同様に2~8℃の保管となり,また国内生産となるため輸送と供給面での利点がある。
 諸外国では,モデルナ社やジョンソン・アンド・ジョンソン社(JJ社)のワクチンが承認されている。
 特にJJ社は1回接種であること,有効性が確認されていること,アナフィラキシーなどの重大な有害事象がみられていないこと等から,今後の動きに注目したい。

<資料>

#「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(1.1版)」(1月15日,厚労省)
#「新型コロナウイルスワクチン接種円滑化システム(V-SYS)使用のための情報提供の依頼について」(1月21日,日医)
#「高齢者施設への新型コロナウイルス感染症に係る予防接種について」(1月28日,事務連絡,厚労省老健局)
#「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業に関するQ&A(第14版)について」(1月28日,厚労省医政局/健康局)
#「新型コロナワクチン接種について」(2月1日,厚労省)
#「新型コロナウイルスワクチン接種後の副反応を疑う症状に対する診療体制の構築について」(2月1日,厚労省)
#「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に当たり教育委員会等の所轄する施設等を利用することについて」(2月1日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症に係る医療法上の臨時的な取扱いについて」(2月2日,事務連絡,厚労省医政局)
#「予防接種(筋肉注射)における個人防護具の使い方(初版)」(2月2日,(一社)職業感染制御研究会)
#「新型コロナウイスル感染症の予防接種に係る委託契約書について」(2月3日,日医)
#「接種順位が上位に位置づけられる医療従事者等の範囲について」(2月3日,厚労省健康局)
#「感染書の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の改正について(新型インフルエンザ感染症等対策特別措置法等の一部を改正する法律関係)「(2月3日,厚労省健康局)
#「高齢者施設の従事者等の検査の徹底について(要請)」(2月4日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「感染症の予防及び感染症の安邪に対する医療に関する法律の一部改正に伴う医療機関における新型コロナウイルスに感染する危険のある寝具類の取扱いについて」(2月8日,厚労省医政局)
#「新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの接種について」(2月9日,内閣官房,厚労省)
#「新型コロナワクチン接種により健康被害が発生した場合の責任および日医医賠責保険の定容について」(2月9日,日医)
#「新型コロナウイルスワクチンの接種体制の構築にかかる薬剤師の協力について(依頼)」(2月10日,厚労省健康局/医薬・生活衛生局)
#「改正後の感染症法に基づく新型コロナウイルス感染症に関する自費検査を提供する者に対する協力要請等について」(2月10日,厚労省医政局/健康局)
#「高齢者施設における感染制御及び業務継続の支援のための都道府県における体制整備や人材確保等に係る支援について」(2月10日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査における検体提出等について」(2月12日,日医)
#「新型コロナウイルス感染症の予防接種に係る集合契約の締結について」(2月12日,日医)
#「「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する医療機関向け手引き」の改訂について」(2月12日,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する医療機関向け手引き(1.1版)」(2月12日改訂,厚労省)
#「新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律の施行に伴う宿泊療養・自宅療養に関する事務連絡の改正について」(2月12日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「「新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律」及び「新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令」の交付について(新型インフルエンザ等対策特別措置法関係)」(2月12日,事務連絡,内閣官房対策推進室)
#「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針変更について」(2月12日,事務連絡,内閣官房対策推進室)
#「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養のための宿泊施設確保・運営業務マニュアル(第5版)」(2月12日改訂,厚労省)
#「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(コミナティ筋注)の使用に当たっての留意事項について」(2月14日,厚労省医薬・生活衛生局)
#「新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正を踏まえた臨時の医療施設における医療の提供等に当たっての留意事項について」(2月15日,事務連絡,厚労省対策推進本部/医政局/保険局)
#「新型コロナウイルス感染症の医療提供体制の整備に向けた一層の取組の推進について」(2月16日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「接種順位が上位に位置づけられる医療従事者等の範囲について」(2月16日,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施について」(2月16日,事務連絡,厚労省健康局)
#「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(2.0版)」(2月16日,厚労省)
#「「定期の予防接種等による副反応疑いの報告等の取扱いについて」の一部改正について」(2月16日,厚労省健康局/医薬・生活衛生局)
#「「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(コミナティ筋注)の使用に当たっての留意事項について」の一部改訂について」(2月16日,事務連絡,厚労省医薬・生活衛生局)
#「新型コロナウイルス感染症の研究用抗原検査キットに係る留意事項について(周知依頼)」(2月25日,事務連絡,厚労省対策推進本部)
#「BMIからアセスメントする筋肉内注射時の適切な注射針刺入深度の検討」(J. Jpn, Acad. Nurs. Sci., Vol.34, pp36-45, 2014)

2021年3月15日号TOP