「オンライン資格確認」,「新型コロナ感染症における今後の保険診療等」について議論

 上京東部医師会と府医執行部との懇談会が11月9日(水)Webで開催され,上京東部医師会から9名,府医から6名が出席。「オンライン資格確認」,「新型コロナ感染症における今後の保険診療等」をテーマに活発な議論が行われた。
〈注:この記事の内容は11月9日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合がございます〉

オンライン資格確認について

・京都府内の導入状況
 10月30日現在の厚生労働省のデータより,京都府内で2,253診療所のうち,実際にオンライン資格確認システムの運用ができる「本番接続」に至った診療所は572件で25.4%,病院は164病院中,98病院で59.8%という状況を紹介した。

・オンライン資格確認に係るアンケート調査の結果について
 府医では,医療機関における対応の実情を把握するために,京都医報10月1日号に調査票を同封してアンケートを実施。300を超える医療機関から回答があり,先述の厚労省のデータから「本番接続」をしていない医療機関数1,681件を母数とした場合,回答率は約20%となった。
※アンケート結果については,伏見医師会との懇談会参照(詳細は京都医報11月15日号に掲載)
 オンライン資格確認の導入は,保険医療機関の責務を規定する「療養担当規則」にも規定され,原則義務化されていることを踏まえると,各医療機関が導入に向けて努力するしかない状況であるが,日医は各医療機関からの意見を集約した上で,やむを得ない事情で令和5年4月の稼働に間に合わない医療機関に対してペナルティが課されないよう,国に対して対応を要望するとしている。
 アンケートでは,「業者への導入の相談をしていない」,「カードリーダーの申込みをしていない」と回答した医療機関も約10%以上あり,全く対応されていない医療機関においては,まず業者に相談をしていただきたいと考えている。医療機関の責任を問われることがないよう,令和5年4月の稼働に間に合わなくとも,期限内にカードリーダーの申し込み等,必要な手続きを済ませておくことが重要である。

 最後に,今回のアンケート結果を日医にも報告し,業者の対応の部分で停滞しているという実態を中医協で提示していただくことで,義務化に関する緩和措置等の検討に繋げていく考えを示すとともに,オンライン資格確認システムの導入に係る補助についても,令和5年4月時点で稼働していることが条件となっているが,医療機関に責任が及ばない事由で間に合わないものについては補助が行われるべきであり,医療機関が導入に向けて努力している限り,不当なペナルティが課せられることがないよう府医としてもしっかり対応していく考えを示した。

新型コロナ感染症における今後の保険診療等について

 今夏の第7波以前には,新型コロナウイルス感染症の感染法上の分類を2類相当からインフルエンザ並みの5類扱いにすべきという議論が盛んに行われていたが,政府は慎重な姿勢を示す一方で,感染拡大に留意しつつ,社会経済活動を活性化させる「ウィズ・コロナ」の対応に舵を切り始めており,この方向性は新型コロナウイルス感染症の5類への引下げにつながる可能性があると考えられる。5類相当となり,インフルエンザと同等の扱いとなれば,検査,治療の公費対応はなくなり,予防接種も自己負担となる。東京都医師会長等が主張する2類相当と5類の間の取り扱いとなる可能性もあるが,未だ中央で本格的な議論は行われておらず,不透明な状況である。
 11月7日の財政制度等審議会・財政制度分科会では,財務省が新型コロナウイルス感染症にともなう医療分野への特例的な支援として,これまでに投入された国費が約17兆円にのぼることを報告するとともに,空床確保料についても制度のあり方や支援額の水準には引続き検討の余地があると主張している。また,医療機関の経営はすでに新型コロナ感染拡大前の水準を上回っていると分析し,医療機関への新型コロナ関連の特例的な補助金や診療報酬上の取り扱いは早期に縮小・廃止すべきと主張している。新型コロナワクチンの接種については,重症化率や他の感染症とのバランス等を見ながら,患者が費用の一部を負担する定期接種化を検討すべきと提言し,特例的な措置の廃止を求めている。今後,今回のような財務省からの提言によって政府の方針が決まっていく可能性もあり,引続き注視していく必要がある。

 財務省は「財政」の観点から新型コロナウイルス感染症5類相当への引下げを提言しているが,「感染症」の観点からは,季節性インフルエンザと「同等」になった場合,すなわち重症度や致命率が季節性インフルエンザと変わらないレベルになれば引下げについても容易に考えられるが,国立感染症研究所のデータ分析では,70歳以上の高齢者で有意差をもって重症度,致命率が高いことが示されている。今後,財務省が公衆疫学的な観点を度外視して5類引下げへの圧力をかけてくることが懸念され,場合によっては新型コロナワクチンについても特例臨時接種期間が延長されず,来年度からインフルエンザと同様に65歳以上は定期接種の扱いとなる可能性も否定できない。現時点では,5類へ引下げられた場合に入院や宿泊療養等をどのように取り扱うのかという重要な議論がなされておらず,今後はそのあたりの整理が必要になる。

 その後の意見交換では,期限までに医療側がオンライン資格確認の態勢を整えられるかどうか,また,マイナンバーカードの保有率がようやく50%を超えたという状況の中で,国民がすべてマイナンバーカードを取得し,保険証との紐づけができるのかを考えると,令和5年4月からの本格的な稼働は難しいのではないかとの意見が相次いだ。
 「本番接続」の環境にある医療機関からは,マイナンバーカードを持っていない,あるいは保険証と紐づけできていない等の理由で,実際にマイナンバーカードでオンライン資格確認ができたのは1件のみという運用状況や,導入にあたっては業者との調整等に苦慮したこと,また,マイナンバーカードと保険証がきちんと紐づけされていても,カードリーダーがうまく作動せず,資格確認できない事例もあること等が報告され,システムの正確な稼働が担保されなければ,認証できないときに保険資格がないとも言い切れず,窓口対応に混乱をきたす懸念が示された。
 地区からは,オンライン資格確認義務化の話が出てきた当初は,日医も明確に反対するとの立場であったが,現在は協力・推進の立場を示しており,この方針転換の背景を問う声があがった。
 府医としても,当初はマイナンバーカードの普及率や関連施策等の動向を見ながら,国の本気度を見定めようと様子見の立場をとり,各医療機関にはメリット,デメリットを勘案の上,慎重に判断いただくようお願いしていたが,是非はともかくとして今回,療担規則を改正してまで「義務化」されたことを契機として,各医療機関には本来の「リアルタイムで資格確認ができる」という利便性をしっかり享受できるよう導入の準備を進めていただき,改めて期限内に設置する努力をお願いするという立場をとるに至ったと説明した。結果として,ベンダーの対応等,物理的な理由で期限に間に合わなかったとしても,無計画に政策を推し進めようとした政府の責任であり,不当にペナルティが課されることを回避するためにも,医療機関としての義務を果たしておくことが重要であるとした。一方で国は,どうしても導入が難しい医療機関に対しては別の手段も検討するとしているが,義務化された以上,医療機関としても導入に向けて協力する姿勢を示す必要があるとの考えを示し,医療側としてやるべきことをやった上で問題点を指摘し,今後の対応を政府に求めていく意向を示した。
 また,政府が保険証を廃止する方向性を示していることについては,直ちに各保険者が保険証を廃止することは難しいとの見方を示しつつ,今後,国が強引に進める可能性もあり,各保険者に対してどのような働きかけが行われるか注視していく必要があるとした。

保険医療懇談会

※伏見医師会との懇談会

2022年12月15日号TOP