ケロ活とダイバーシティ

日本バプテスト病院 外科
大越 香江

 一昨年のある日,池でオタマジャクシに出会いました。子どもたちがせがむので,5匹だけ連れて帰ったのですが,最初は何のオタマジャクシかわかりませんでした。育てて上陸して初めてヒキガエルとわかりました。ヒキガエルの成体はかなり大きい(手拳大以上にもなる)のですが,上陸したての子ガエルは小指の爪先くらいの大きさしかありません。まず,アブラムシを採ってきて与えました。とても可愛かったのですが,残念ながら1匹減り,2匹減り,とうとう5匹とも死んでしまいました。京都はアズマヒキガエルとニホンヒキガエルの境界領域で,ほぼ交雑種しかいないことがわかっています。私が連れ帰ったのも交雑種なのでしょう。京都では,ヒキガエルは2-3月に繁殖しています。
 ヒキガエルが上陸し終わったころ,今度は池の縁の土の上に泡巣を見つけました。ほぼ水面と同じくらいの高さだったので,最初はシュレーゲルアオガエルかと思いました(結果的にはモリアオガエルでした)。ヒキガエルとは時間差で同じ池を繁殖に利用するわけです。次に,近くの木の枝にも泡巣ができあがりました。だいたい水面から2mくらいの高さです。しかし,その泡巣の下を見るとどう考えても水面には落ちそうもなく,岩の上に落ちそうな雰囲気でした。岩の上に落ちたらどうしようと,私は心配で毎日見に行きました。あるカンカン照りの暑い日,岩の上に泡巣が落ちてオタマジャクシがジタバタしていました。何ということでしょう。一部はすでに岩の上で干からびてアリがたかっていましたが,一部は運よく水の中に落ちていました。私は,ジタバタしているオタマジャクシに水をかけて池の中に入れてやりました。
 しばらくすると,今度は,7mくらいの樹の上に泡巣が出来上がりました。泡巣の真下は,どう見ても地面です。小さな池なので,うまく水面の真上に産卵することは難しい気がしました。そこで,なるべく泡巣の直下と思われる場所に水を入れたバケツを置きました。こうして,数日後に3匹のオタマジャクシを救出することができました。それ以外のオタマジャクシは無事に池の中に落ちたのか,地面に落ちたのか,わかりません。
 そうこうするうちに,今度は茶色のいぼいぼのあるカエルが白い卵を水草に産み付け始めました。小さくて,地味な卵です。これは,ツチガエルでした。小さな卵なので,小さなオタマジャクシで始まります。夏も終わりかけ,モリアオガエルと少し競合しながらゆっくり成長しました。モリアオガエルのオタマジャクシがツチガエルの卵を食べることもありました。9月中にはあらかた上陸したモリアオガエルを尻目に,ツチガエルのオタマジャクシはオタマジャクシのままでした。寒くなったらどうなるのかと思って調べたところ,何とツチガエルはオタマジャクシのまま越冬できるのだそうです。スゴイ戦略だと思いました。
 さて,カエルがいると,カエルを餌にする生物も集まってきます。ヘビや鳥はカエルを食べますし,ヤゴはオタマジャクシを食べます。ヘビが池でオタマジャクシを食べたり,生みたてのモリアオガエルの泡巣に頭を突っ込んで卵を食べたりしているところにも出くわしました。おかげで,私はヘビやヤゴにまで詳しくなってしまいました。毒蛇の咬症についてのオンライン講習会も受講しました。本業にも活かしています。
 ダイバーシティという言葉は最近では労働力に関する文脈で使用されることが多いのですが,もともとはbiodiversity,すなわち生物多様性について用いられることが多かったのです。この池で,空間と時間をシェアしながら様々な生物がドラマチックに生きているところに関心を持ちました。当院では,「北白川の自然環境を愛する友の会(Kitashirakawa Environment and Life Organization:KELO の会)という同好会を作って,病院周辺の自然環境を観察・保全しています。
 さらに私は,京都市内のカエルの棲息状況を調べようという大きな野望を抱いています。昔はどこにでもいたというカエルも,棲息場所を減らしつつあります。カエルを中心に,少し俯瞰的に生物界を見てみたいと思いました。皆様もカエルを見かけたら,場所と日時とともに,写真を撮ってお送りいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
kitashirakawa.kelo@gmail.com

モリアオガエル

Information
病 院 名   日本バプテスト病院
住   所   京都市左京区北白川山ノ元町 47 番地
電話番号   075-781-5191(代)
ホームページ https://www.jbh.or.jp/

2022年12月15日号TOP