2022年2月15日号
京都第一赤十字病院 副院長・循環器内科 部長
沢田 尚久
2018年3月掲載「いよいよ始まる新専門医制度」に続く2度目の勤務医通信執筆となります。2020年初頭からはまさにコロナに明け暮れ翻弄された2年間でした。この期間に15編の勤務医通信が掲載されましたが7編がコロナ関連であり,衝撃の大きさが窺えます。ラグビーワールドカップで日本が初のベスト8・歴史的ホスト国大会を終えた2019年秋,誰が現在の激変を想像し得たでしょうか。
2019年12月に中国湖北省武漢市で発生した原因不明肺炎は瞬時に世界中に蔓延,翌2月11日に新型肺炎はCOVID-19,原因ウイルスはSARS-CoV-2と命名されました。日本では1月16日に1例目を確認,1月28日に感染症法に基づく指定感染症(2類相当)および検疫法に基づく検疫感染症に指定されました。2年間に第5波迄の感染蔓延が勃発し,緊急事態宣言や蔓延防止措置などの法体系整備と実施,医療提供体制の逼迫と再構築,大規模ワクチン接種,1年遅れのオリ・パラリンピックなど,数多くの経験をしました。本原稿執筆中の1月中旬にはオミクロン株の第6波が始まり,感染抑制と経済維持の両睨みの2月中旬を予想します。
COVID-19に関する論文は多数上梓され,公共の利益から大半が費用負担無しで閲覧可能です。一つだけ提示するなら,小生は「Bauchner H, et al. Excess Deaths and the Great Pandemic of 2020 (JAMA. 2020 ;324(15):1504-1505. doi:10.1001/jama. 2020.20016)」を挙げます。2020秋時点の米国COVID-19 pandemicを憂えたEditorial commentですが,風刺画が衝撃的です。米国内墓地に半旗が掲げられ,Great Pandemic of 2020の墓碑が設置されています。その手前に,右奥から左手前へと米国内犠牲者数を記した歴代墓標が並んでいます。「1918FLU, 675000 deaths」,「World War II, 405400」,「Korean War, 36600」,「Vietnam War, 58200」,「September 11, 3000」,「H1N1(2009-2010), 12500」。そして一番左手前に「COVID-19, 400000 Estimated excess deaths」として10万人を示す墓標が4段積み上がり,付近には使用済マスクが散乱,墓石が追加準備されています。本論文掲載の2020年10月はCOVID-19の米国死者数は23万人であり,WWII超え・1918FLUに匹敵する可能性を筆者は憂えています(2022年1月中旬の米国死者数は83万人超)。スペイン風邪の世界的流行から1世紀後に医学雑誌頂点のJAMAがこうした風刺画を掲載せねばならないことに畏怖を感じます。
コロナは我々の生活・教育・医療・政治・経済・文化・スポーツなど,すべての社会活動に影響を与え行動変容を促しています。学会・研究会等はWEB化が一気に進み,時間的・空間的制約から解放されました。職場の歓送迎会・忘年会など儀礼的宴会は皆無となり,コロナ禍が去っても不要かもしれません。感染爆発を題材とした小説・映画は「La Peste, Albert Camus, 1947」,「感染列島, 東宝, 2009」,「Contagion, Warner Brothers, 2011」,「World War Z, Paramount Pictures, 2013」など数多くあります。どれもシナリオは我々の現実と瓜二つですが,唯一異なる点は「波は何度も押し寄せる」ことです。コロナは社会的生物である人類に試練を与えていますが,「明けない夜はない」と信じて前進したいと思います。
Information
病院名 京都第一赤十字病院
住 所 京都市東山区本町15-749
電話番号 075-561-1121
ホームページ http://www.kyoto1-jrc.org