2022年1月15日号
令和3年12月22日,政府は,令和4年度の診療報酬について,改定率を診療報酬本体+0.43%とすることを決定した。うち0.4%は看護の処遇改善や不妊治療の保険適用のための特例的な対応に充てることとされる一方,リフィル処方箋の導入や小児の感染防止対策加算(50点)の3月末での廃止により▲0.2%となり,これらを除く改定率は+0.23%となる。薬価・材料価格は▲1.37%(薬価▲1.35%,材料価格▲0.02%)となり,全体ではマイナス,本体はプラスの構図となった。
内訳は,医科が+0.26%,歯科が+0.29%,調剤が+0.08%で配分比率は従来どおり「医科:歯科:調剤=1:1.1:0.3」である。
また,改定率だけではなく,7対1入院基本料の評価の適正化やかかりつけ医機能に係る診療報酬上の措置の実態に即した適切な見直し,薬剤給付の適正化の観点からの湿布薬の処方の適正化などを改革事項に挙げ,引続き中医協で議論を行うことが定められた。
改定率の決定に至るまで,今回も財務省と日医で激しい攻防が繰り広げられた。
財務省は,診療報酬改定が医療提供体制改革に寄与してこなかったとし,コロナ禍で医療提供体制の課題が浮き彫りになっている今,「医療提供体制の改革なくして診療報酬改定なし」と主張。報酬体系そのものを見直し,包括払いの推進などを求めるとともに,「躊躇なくマイナス改定すべき」と放言した。さらに,かかりつけ医の制度化や薬剤の保険給付範囲の見直しなど医療分野の各論にも細かく注文を付けた。
こうした財務省の主張に中川日医会長は即刻反論し,地域の医療提供体制の厳しい状況からマイナス改定はありえず,「躊躇なくプラス改定にすべき」と強調。所管である財政の問題を超えて細かく医療の各論に踏み込んでくることにも「領空侵犯」と批判した。
11月下旬に示された医療経済実態調査の結果から医療機関の厳しい状況が明らかとなり,12月上旬には,医師会,歯科医師会,薬剤師会の三師会の会長が厚労大臣にプラス改定を要望。自民党内の厚労部会や多数の議員が参加する国民医療を守る議員の会からも「プラス改定」を求める声が上げられた。その後,政府の方針により今回の改定で盛り込まれることとなった不妊治療の保険適用と病院看護職の処遇改善のための財源は,いずれも医療機関の収入増につながるものではないことから,感染症対策や働き方改革などに充てるさらなる財源の上積みが焦点となった。
以降,改定率を巡る攻防は一進一退を繰り返し,財務省が+0.32%,厚労省は+0.48%を主張し,最終的には岸田首相がその間の+0.43%とすることを決断したと言われている。
中川日医会長は改定率決定を受けた会見で,「必ずしも満足するものではないが,厳しい国家財政の中,プラス改定となったことについて,率直に評価させていただきたい」との見解を示し,岸田首相はじめ関係大臣,国会議員などに謝辞を述べた。医科・歯科・調剤の配分比率がこれまでと同様だったことについては,「このままでいいとは思わないが,この比率を変えることはなかなか難しい」とした。また,リフィル処方箋の導入についても触れ,不適切な長期処方は是正すべきと指摘した上で,患者にとって何がベストか,ベターかという視点で中医協で議論が行われるとの見解を示した。
府医としても本体プラスとはいえ,不妊治療の保険適用や救急病院の看護師等の処遇改善への対応分を除くと+0.23%で,決して満足できるものではない。また,小児科の厳しい医業経営を踏まえると小児の感染予防策加算の期限通りの廃止は到底納得できないところである。コロナ禍で平時からの感染症対策の重要性があらためて認識され,すべての医療機関において感染対策が行われていることから,その評価が適切に行われるよう引続き近医連などを通じて日医に要請していく(近医連から日医へ提出したコロナ禍における平時からの感染症対策を踏まえた「次期診療報酬改定への提言」は2021年6月1日号保険医療部通信参照)。また,リフィル処方箋の導入や7対1入院基本料の適正化,かかりつけ医機能に係る評価の見直し,湿布薬の処方の適正化などが今後中医協で議論される見通しであり,その状況を注視していく。
改定率の決定を受けて,いよいよ中医協で具体的な点数配分の議論が始まるが,これまでの議論では,外来ではかかりつけ医機能の評価を巡って,診療側と支払い側が対立している。支払い側や財務省は,かかりつけ医機能の制度化を主張し,現行の点数をゼロベースで見直すことや点数の包括化のほか,患者の事前登録,いわゆる人頭割を狙った提案をしている。対して,診療側委員の城守日医常任理事(府医顧問)は,制度化には真っ向から反論するとともに,現行の点数のさらなる評価を求めた。また,平時からの感染症対策が重要なことから,外来においても感染症対策加算などでその対策を評価することを要望している。
入院では今回も支払い側が重症度,医療・看護必要度の見直しに強く固執し,城守日医常任理事が,改定ごとに評価項目の見直しによる医療現場の負担感を指摘し,コロナ禍で精緻なデータが検証できないことから,見直しに明確に反対したものの,支払い側は議論の俎上に載せることにこだわり,厚労省から項目の見直しによるシミュレーションなどが示され今後議論される見込みである。
12月10日に厚労省が公表した令和4年度診療報酬改定の基本方針では,「改定に当たっての基本認識」と「改定の基本的視点と具体的方向性」,「将来を見据えた課題」で構成されている。基本認識として,①新興感染症等にも対応できる医療提供体制の構築など医療を取り巻く課題への対応②健康寿命の延伸,人生100年時代に向けた「全世代型社会保障」の実現③患者・国民に身近であって,安心・安全で質の高い医療の実現④社会保障制度の安定性・持続可能性の確保,経済・財政との調和の4つを掲げ,基本的視点では「新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築」と「安心・安全で質の高い医療の実現のための医師等の働き方改革等の推進」を重点課題に位置付けた。
具体的方向性では,当面,継続的な対応が見込まれる新型コロナウイルス感染症への対応として,感染症患者の診療について実態に応じた評価を行いつつ,外来,入院,在宅における必要な診療体制を確保することや従来の改定と同様にかかりつけ医の機能の評価や外来医療の機能分化,医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価などが示されている。
2022年度(令和4年度)診療報酬改定率および診療報酬改定の基本方針は以下のとおり。
診療報酬改定について
12月22日の予算大臣折衝を踏まえ,令和4年度の診療報酬改定は,以下のとおりとなった。
1.診療報酬 +0.43%
※1 うち,※2~5を除く改定分 +0.23%
各科改定率 医科 +0.26% 歯科 +0.29% 調剤 +0.08%
※2 うち,看護の処遇改善のための特例的な対応 +0.20%
※3 うち,リフィル処方箋(反復利用できる処方箋)の導入・活用促進による効率化 ▲0.10%(症状が安定している患者について,医師の処方により,医療機関に行かずとも,医師及び薬剤師の適切な連携の下,一定期間内に処方箋を反復利用できる,分割調剤とは異なる実効的な方策を導入することにより,再診の効率化につなげ,その効果について検証を行う)
※4 うち,不妊治療の保険適用のための特例的な対応 +0.20%
※5 うち,小児の感染防止対策に係る加算措置(医科分)の期限到来 ▲0.10%
なお,歯科・調剤分については,感染防止等の必要な対応に充てるものとする。
2.薬価等
① 薬価 ▲1.35%
※1 うち,実勢価等改定 ▲1.44%
※2 うち,不妊治療の保険適用のための特例的な対応 +0.09%
② 材料価格 ▲0.02%
なお,上記のほか,新型コロナ感染拡大により明らかになった課題等に対応するため,良質な医療を効率的に提供する体制の整備等の観点から,次の項目について,中央社会保険医療協議会での議論も踏まえて,改革を着実に進める。
・医療機能の分化・強化,連携の推進に向けた,提供されている医療機能や患者像の実態に即した,看護配置7対1の入院基本料を含む入院医療の評価の適正化
・在院日数を含めた医療の標準化に向けた,DPC制度の算定方法の見直し等の更なる包括払いの推進
・医師の働き方改革に係る診療報酬上の措置について実効的な仕組みとなるよう見直し
・外来医療の機能分化・連携に向けた,かかりつけ医機能に係る診療報酬上の措置の実態に即した適切な見直し
・費用対効果を踏まえた後発医薬品の調剤体制に係る評価の見直し
・薬局の収益状況,経営の効率性等も踏まえた多店舗を有する薬局等の評価の適正化
・OTC類似医薬品等の既収載の医薬品の保険給付範囲の見直しなど,薬剤給付の適正化の観点からの湿布薬の処方の適正化
看護における処遇改善について
看護職員の処遇改善については,「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)及び「公的価格評価検討委員会中間整理」(令和3年12月21日)を踏まえ,令和4年度診療報酬改定において,地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関(注1)に勤務する看護職員を対象に,10月以降収入を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げるための処遇改善の仕組み(注2)を創設する。これらの処遇改善に当たっては,介護・障害福祉の処遇改善加算の仕組みを参考に,予算措置が確実に賃金に反映されるよう,適切な担保措置を講じることとする。
(注1)救急医療管理加算を算定する救急搬送件数200台/年以上の医療機関及び三次救急を担う医療機関
(注2)看護補助者,理学療法士・作業療法士等のコメディカルの処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認める。