府市民向け広報誌『Be Well』 第98号『アトピー性皮膚炎』

 府医では,府民・市民向け広報誌「BeWell」,VOL.98「アトピー性皮膚炎」を発刊しました(本号に同封)。
 各医療機関におかれましては,本紙を診療の一助に,また待合室の読み物としてご活用ください。
 本誌に関するお問い合わせは,府医総務課(電話:075-354-6102,FAX:075-354-6074)までご連絡ください。

VOL.98「アトピー性皮膚炎」(A3版,見開き4ページ)

解説

京都医療センター 皮膚科  十一 英子

 アトピー性皮膚炎は,皮膚病の中でも患者数が多く,年齢も乳幼児から中高年まで幅広く,皮膚科では毎日のように診察する疾患です。見た目や痒みから,日常生活に支障をきたしている場合もあります。しかし,この十数年で,新しい知見も出てきて,治療も進歩しています。

アトピー性皮膚炎の原因は?

 皮膚の重要な役割として,水分が皮膚から出ていく量を調節し,異物の皮膚からの侵入を防ぐ,というバリア機能があります。2006年に海外でアトピー性皮膚炎の約半数にフィラグリンの遺伝子変異があることが明らかになり,その後日本でも約30%に遺伝子変異があり,変異がない場合もTh2が産生するIL-4,IL-13の影響でフィラグリンが低下していることがわかりました。フィラグリンは分解されて皮膚の天然保湿因子として,角層の水分保持やpHの低下に働きます。そのためフィラグリンが減少すると皮膚バリア機能が低下し,皮膚が乾燥し,通常なら入らないダニ,食物などの抗原が皮膚から侵入し抗原提示細胞が補足して免疫反応をおこし,IgEを多く作るようになります。その結果,IgE高値と湿疹がおきると考えられています。
 幼少期には食物アレルギーを合併している場合もありますが,食物は原因ではありません。同じ食物でも,口から入ると受け入れる免疫が働くようになります(経口免疫寛容)が,皮膚から入るとアレルギーをおこします(経皮感作)。例えば,赤ちゃんのうちにピーナッツを食べる習慣のあるところの方が食べる習慣のないところよりピーナッツアレルギーが少なく,ピーナッツオイルを皮膚に塗っていた人が重症のピーナッツアレルギーを発症しています。食物アレルギー,喘息などのアトピックマーチがおこるのを防ぐためにも,皮膚の治療が重要なのです。

アトピー性皮膚炎の治療

 治療の基本は保湿剤とステロイド外用剤で,その他にも免疫抑制剤の外用剤や,かゆみが強い場合は抗アレルギー剤内服も使います。コントロールが難しい場合,免疫抑制剤を一時的に内服することもあります。2018年からはIL-4/13受容体抗体という生物製剤も一定の条件のもとで使えるようになり,効果や安全性がわかってきました。2020年にはJAK阻害薬が承認され,これは感染症などのスクリーニング検査をしてから使用することになっています。中等症~重症でも効果の高い治療の選択肢が増えています。

正しい知識を持ってもらうことが大切です

 一時期,ステロイドバッシングと民間療法によるアトピービジネスが増えて問題となりました。怖くなって急に治療を中断したり,ステロイド外用剤を全く使わずに治療しようとして,皮疹増悪,発熱,低蛋白血症などひどい状態になって受診されたり,厳しい食事制限を子どもや授乳中の母親に行い皮疹も改善せずフラフラで受診されることもありました。今ではステロイド外用剤の必要性が理解されるようになりましたが,ステロイドを使わず食事制限や漢方薬で治すと掲げるネット情報や書籍がまだ見受けられます。スタンダードな治療をしている場合宣伝はしないので,極端な治療法が目に付くのかもしれませんが,患者さんと家族に科学的エビデンスに基づいた正しい知識を持ってもらうことが大切です。

2022年7月1日号TOP