勤務医通信

外科医人生を振り返って

亀岡市立病院 副院長

田中 宏樹

 小生は昭和63年府立医大卒で医師になって約35年になりますが,前半25年は消化器外科医として,ここ10年は乳腺外科医として過ごしております。その間の大きな仕事上の出来事といえば鏡視下手術の隆盛とCOVID-19の蔓延をあげたいと思います。小生が入局した当時は拡大郭清全盛期であり,如何にリンパ節を徹底して取るかに重点が置かれていました。局所進行癌症例の多くはそれでも再発してきましたが,時に再発必至と思われる患者の一部に完治する症例があり,それを目指すことに大義があると信じていました。効果がある抗癌剤がなかったこともあり,時にやり過ぎと思われる例もありました。例えば当時の人気アナウンサーにすでに腹膜播種のある胃癌がわかり,主治医の著明な大学教授は果敢に手術に挑戦しましたが,結局はすぐに亡くなられました。近藤誠医師がそれを批判して論争になったことを覚えている先生もおられるかと存じます。その後胃癌の拡大郭清は予後を改善しないという臨床試験の長期成績が出てこれらの手術は行われなくなりました。
 そして拡大郭清の修正と同時に鏡視下手術が興隆してきました。当初創痛が少ないことが喧伝されましたが,それより開腹にともなう臓器の冷却と乾燥がもたらす麻痺が無いことが早い術後回復につながることがわかりました。小生は2000年の外科学会で鏡視下幽門側胃切除を見て衝撃を受け,2001年に(京都では早い方と思います)同じ手術に挑戦して学会発表なども行いましたが,当時は京都市内の小規模病院に在籍しており,症例が少なかったことから症例数はすぐに大規模病院に抜かれました。鏡視下手術は豊富な症例数が無ければ技術維持ができず,術者を限って症例を集中させることが求められますが,ではそれ以外の外科医のモチベーションをどう維持するか,若い医師にどう技能を習得させ,術者を選抜するかという問題があります。また競争に勝ってもWork Life Balanceが低下するでしょう。これでは外科医志望者の減少もむべなるかなと思います。それ以外にもカメラが向いていない所での臓器損傷や全体を見渡す視野が取れないことで生じる小さな転移の見逃し,触感が欠如することでの切除可能性の追求の限界などの鏡視下手術特有の欠点や怖さがありますが,内視鏡外科学会はこれらの欠点に対してあまり真摯に向き合ってなかったように思います。ビデオを導入した技術認定など評価できる所も多々ありますが,単孔式手術のように真に患者に利益があるか不明の手術にはもっと内部批判があって然るべきだったと思います。その後はさらに少数精鋭の方向になるロボット手術が興隆してきて大規模病院への手術の集中はさらに加速すると思われます。話が変わりますが今年は“トップガン”の2作目が公開されました。とても面白かったので,未見の先生は是非お勧めします。ただ現実世界ではトップガン(優秀なパイロット)とAIの操縦する戦闘機を模擬戦闘させると圧倒的にAIが勝つそうです。今後はAIが勝手に手術するロボットの時代が来るかもしれません。小生の娘も新米外科医ですが今後の彼女の仕事に幸あれと願うばかりです。
 2つめの大きな出来事がCOVID-19の蔓延です。この危機に日本がうまく対応できなかった理由の一つが日本に小規模病院が多いことと言われました。ゾーニングできないからです。そのことは開業医の参入も阻み,非難を受ける要因にもなりました。府医は行政と連携してうまく対応したと思いますが,やはり病院の大規模集約化へ向かうきっかけになるかもしれません。小生の勤める亀岡の小規模病院が今後どのように地域医療へ貢献できるかを考える毎日ですが,まだ答えは明確ではありません。会員の先生方には今後ともご指導賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。

Information
病院名 亀岡市立病院
住 所 京都府亀岡市篠町篠野田1番地1
電話番号 0771-25-7313
ホームページ https://www.city.kameoka.kyoto.jp/site/hospital/

2022年7月15日号TOP