保険医療部通信(第358報) – 日医「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」について

 日医では,財務省が求めるかかりつけ医の制度化の狙いが,国民の受診の門戸を狭め,かかりつけ医の登録制を導入して患者1人あたり定額制によって医療費を抑制することにあると指摘し,国民が自ら「かかりつけ医」と考える医師を受診することが制限されるようになれば,国民の安心を大きく損なうことになりかねないと懸念しているところです。
 また,患者さん自身が「かかりつけ医」を決めることができ,必要なときに適切な医療にアクセスできる現在の仕組みを死守すべきと考えるとともに,患者さん,地域住民の方に,かかりつけ医機能について理解していただくことも必要としています。
 そこで,日医が,あらためて「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」をまとめ公表しましたので,その内容を掲載します。

日本医師会 会員の先生方へ

日本医師会「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」について

 新型コロナウイルス感染症が流行する中,かかりつけ医機能の重要性があらためて認識されています。国民のかかりつけ医へのニーズもさらに高まり,かつ多様化しています。かかりつけ医を支える医療のデジタル化も進んでいます。

 政府は,かかりつけ医機能の明確化およびかかりつけ医機能が有効に発揮されるための具体的方策について検討することとしています。日本医師会としても,国民のさらなる信頼に応えるよう,これまで以上にかかりつけ医機能を強化する必要があると考えます。

 そこで,かかりつけ医を取り巻く社会の変化も踏まえ,日本医師会は,あらためて国民に寄り添うかかりつけ医のあり方を真摯に見つめなおし,「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」をまとめました。

 これから地域包括ケアシステムの中で,かかりつけ医がしっかりと地域住民の負託に応えていくためには,かかりつけ医の評価をいっそう高めていかなければなりません。そして,そのためには,かかりつけ医がどのような機能を担っているかを,これまで以上に地域住民の方にご理解いただくことも大切であると思っています。

 日本では,患者さんご自身が「かかりつけ医」を決めることができ,必要なときに適切な医療にアクセスできます。日本医師会はこの仕組みを守ります。

 会員の先生におかれましては,どうぞ,「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」をご理解いただき,患者さん,ご家族,地域住民の方ともこれを共有していたただくようお願いします。

日本医師会の思い

 「かかりつけ医」とは,患者さんが医師を表現する言葉です。
 「かかりつけ医」は患者さんの自由な意思によって選択されます。どの医師が「かかりつけ医」かは,患者さんによってさまざまです。患者さんにもっともふさわしい医師が誰かを,数値化して測定することはできません。だからこそ,わたしたち医師は,心をこめてひとりひとりの患者さんに寄り添います。そうして患者さんに信頼された医師が,「かかりつけ医」になるのです。
 患者さんと「かかりつけ医」の信頼関係にもとづいて,全国でさまざまな形のかかりつけ医機能が発揮されています。わたしたち医師は,かかりつけ医機能をさらに深化させるとともに,より温かみのあるものにしていきます。

「かかりつけ医」の努め

 わたしたち医師は,患者さんに信頼される「かかりつけ医」になるべく,これまで以上にかかりつけ医機能を発揮し,誠意をもって,患者さんを包括的かつ継続的に支えていきます。

〇患者さんに,いつでも,なんでも相談していただけるよう,しっかりとコミュニケーションをとって診察します。診察の結果をわかりやすい言葉で伝え,患者さんのライフスタイルを理解したうえで患者さんと治療目標を共有します。必要なときには,適切なタイミングで適切な専門の医師や医療機関につなぎます。そのために日頃から,地域の医師たちとの対話を深め,患者さんをチームとして支えます。

〇いつでも安心していただけるよう,かかりつけ医を中心に地域の医師がチーム一丸となって患者さんを支えます。外来へのアクセスが困難な患者さんのために,在宅医療やオンライン診療など,患者さんのそばに寄り添える方法を選択します。

〇日々,新しい医療技術の研鑽を積み,患者さんおよびご家族とともに最善の治療を選択します。

〇患者さんの意思を尊重し,ご家族とともに,患者さんの尊厳ある生き方を支えます。

〇予防接種や健康診断を担い,生活のこと,仕事のことも含め幅広く患者さんおよびご家族からの健康相談を受け,必要なときに適切な医療につなげます。

〇患者さんの主治医意見書の作成をはじめ,患者さんの希望を受け止めて,地域の介護サービスや福祉サービスにつなぐなど,地域包括ケアシステムの中で求められる役割を果たします。

〇患者さんがもっとも安心・安全かつ効率的に最善の医療に到達できるよう医療のデジタル化を進めます。患者さん個人を守ることを絶対の条件として,また,地域の方々がより効果的に予防・健康づくりを進められるよう,医療情報を活用します。

地域社会におけるかかりつけ医機能

 わたしたち医師はお互いに協力し,さまざまな職種の方とも協力して,医師それぞれの特性を活かして地域住民の健康を支えます。主に医師会活動として行っています。

〇健康相談,予防接種,健診・がん検診,母子保健,学校保健,産業保健,地域保健などの社会的な活動や,警察医などの行政活動に協力します。

〇災害が起きた地域の医療支援活動に参加し,被災者の方の健康管理や診療などを担います。

〇24時間365日,安心して相談,受診していただけるよう地域の医師同士で連携する体制をとるとともに,在宅当番医や休日夜間急患センターの業務を分担します。

地域の方々に「かかりつけ医」をもっていただくために

 医療法では「国民は,良質かつ適切な医療の効率的な提供に資するよう,医療提供施設相互間の機能分担及び業務の連携の重要性についての理解を深め,医療提供体制の機能に応じ,医療に関する選択を適切に行い,医療を適切に受けるよう努めなければならない」と定められています。
 日本医師会は,国民の方に「かかりつけ医」をもっていただくための判断材料を提供します。

〇地域の方々が,「かかりつけ医」になりうる医師を探すことができるよう,それぞれの医師が担っている機能,専門分野や強みのある分野などについて,情報をわかりやすく公開します。

 現在,47都道府県で「医療機能情報提供制度(医療情報ネット)」が整備され,全国すべての医療機関の診療科目や対応可能な治療等が公開されています。日本医師会は国や都道府県医師会と協力して,患者さんにとってさらにわかりすい情報提供を進めます。

〇地域医師会は,市民向け講座などを通じて,住民の方々とともに,地域の予防・健康づくりを進めます。

 日本医師会は,必要なときに適切な医療にアクセスできる現在の仕組みを守ります。そして「かかりつけ医」として,患者さんにさらに信頼していただけるよう努めていきます。

2022年6月1日号TOP