2022年3月15日号
京都大学医学部附属病院 消化器内科
妹尾 浩
第5号勤務医通信の担当を仰せつかったのは1月末のことでした。駄文をものしているのが2月上旬,掲載されるのが3月,この間いわゆる第6波の只中で奮闘されている会員の先生方に改めて敬意を表します。COVID-19の最初の報告は令和元年12月とされているそうで,令和の医療は感染症を大きなテーマとしてここまできたでしょうか。
小生は平成3年に大学を卒業しましたので,おおむね平成の医療に身を置いて,育ってまいりました。卒業して間もない頃は,C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療を受ける方が非常に多くおられました。当時のインターフェロン治療は1年間注射が続くのがあたりまえでしたので,そのとき病診連携の大切さを実感しました。また夜間の緊急内視鏡当番をしていると,週に2-3回は出血性胃・十二指腸潰瘍の内視鏡的止血のため,深夜帯に呼び出されていました。もちろん,原因は多くの場合ヘリコバクター・ピロリ菌です。しかし平成の30年間で薬物治療が大幅に進歩し,大雑把に言えばC型肝炎ウイルスは8週間,ヘリコバクター・ピロリ菌は1週間の内服治療で多くが排除可能となりました。感染に気付かないまま過ごされている未治療の方もまだまだ居られますが,新規のC型慢性肝炎患者さんをご紹介いただくこと,胃・十二指腸潰瘍出血による緊急内視鏡の件数は,やはり減っています。その一方,C型肝炎ウイルスやヘリコバクター・ピロリ菌を排除した後の発がんは依然として,本邦のがん診療で大きな課題のひとつです。人口構成の高齢化にともない,2021年の時点で国立がん研究センターの想定によると,肝がんの死亡数は23,900人,胃がんのそれは42,000人とされています(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/short_pred.html)。長生きすれば体のどこかに変なものができてくるということで,令和の時代も今しばらく,肝がん,胃がん診療の重要性は減らないようです。
一方,常在細菌叢,とくに消化器の領域では100兆個に及ぶ腸内細菌が生体の恒常性維持,疾患に及ぼす影響が注目されるようになってきました。平成の半ばに,ある種の腸内細菌叢の移植によってマウスが肥満になることが米国ワシントン大学のジェフ・ゴードンらによってネイチャー誌に報告された頃から,大きく取り上げられ始めたように思います。その頃小生は同じワシントン大学に研究留学しており,初めてデータを目にしたときは,そんなことがあるのかと不思議に感じたことを覚えています。しかし今や,腸内細菌が全身の臓器,全身の疾患に影響を及ぼすことが,広く一般に認知されています。糞便移植のような試みも,ある種の疾患には有効とされています。消化器病診療という狭い枠組みの中では,令和は感染症から脱却してゆく時代と思わないでもなかったのですが,まだまだウイルスや細菌との闘い?共存?は続いていくようです。会員の先生方とともに,地道に令和の消化器病診療に取組んでまいりたく思いますので,引続きのご指導をどうぞ宜しくお願い申し上げます。
Information
病 院 名 京都大学医学部附属病院
住 所 左京区聖護院川原町54
電話番号 075-751-3111(代)
ホームページ https://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/