理事解説 百考千思

京都府医師会保険担当理事 畑 雅之

令和4年4月診療報酬改定の要点

 令和4年度の診療報酬の改定率は,診療報酬本体+0.43%となった。うち0.4%は看護の処遇改善や不妊治療の保険適用のための特例的な対応に充てることとされる一方,リフィル処方箋の導入や小児の感染防止対策加算(50点)の3月末での廃止により▲0.2%となり,これらを除く改定率は+0.23%となる。本体プラスとはいえ,決して満足できるものではない。
 なお,医科改定率は+0.26%,薬価・材料価格は合わせて▲1.37%(薬価▲1.35%,材料価格▲0.02%)となった。
 以下,今回の改定の具体的内容などについて要点を整理する。

1.はじめに
 今期の改定では,厚労大臣と財務大臣の大臣折衝や経済財政諮問会議等の会議体から要求された内容が中医協での適切な議論なしに保険診療に導入されたことをあらためて特筆したい。
 公的保険医療は,エビデンスに基づいた有効性と安全性を第一に議論・導入すべきであるにもかかわらず,中医協の外で利便性や経済効率のみを優先した主張のもと一定の方針や制約が定められる結果となった。
 オンライン診療の要件緩和やリフィル処方箋の導入はその象徴で,特にリフィル処方箋は改定率決定に至る大臣折衝で突如合意し,医療機関の通院負担の軽減,再診の効率化を狙って導入されたものである。
 府医ではこのような状況を見過ごすわけにはいかないと考えており,今後も近医連や日医等の会議でその問題点を主張していく。

2.外来医療
 外来医療では,かかりつけ医機能の評価が今回も焦点となり,その1つとして機能強化加算が見直された。当初,財務省や支払い側は廃止を主張したものの,診療側が反論し,要件の見直しに踏みとどまったとされている。具体的には,院内掲示に加えてホームページでかかりつけ医機能を有することの周知や地域の保健・福祉・行政サービスに対応する医師の配置,さらに,地域包括診療加算2・診療料2または強化型ではない在支診・在支病が在医総管等の届出に基づいて機能強化加算を届出する場合は,その算定実績が新たに要件とされた。
 地域包括診療加算・診療料も見直され,対象疾患に慢性心不全,慢性腎臓病(慢性維持透析を行っていないもの)が追加された。予防接種に係る相談を行っていることも必要となっている。
 また,コロナ禍を踏まえて,診療所における平時からの感染防止対策を評価する外来感染対策向上加算が新設された。新興感染症の発生時に発熱外来を実施する体制を有し,自治体のホームページで公表されている医療機関が前提とされているが,連携する病院または地域の医師会が主催するカンファレンスに年2回,訓練に年1回参加することや院内職員を対象とした研修の開催など,様々な要件が課されているが評価点数であり外来診療をされている多くの医療機関に届出をしていただきたい。
 外来医療の機能分化も引続き改定の基本方針に明記されている。今年度から地域の外来機能の明確化と連携の推進のために外来機能報告制度(報告対象は病院,有床診療所。無床診療所は任意)が開始され,報告を踏まえて,地域の協議の場において必要な協議を行うこととされている。病院の意向も踏まえて「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関(紹介受診重点医療機関)」の明確化などがされる予定である。このような機能分化の推進に向けて,紹介状なしで大病院を受診する場合の定額負担制度が10月から見直されることとなっている。具体的には,紹介受診重点医療機関(一般病床200床以上)が対象に追加され,定額負担を求めない患者の範囲も見直された。また,徴収すべき金額が初診時5,000円を7,000円,再診時2,500円が3,000円に引上げられるとともに,保険給付の範囲から初診料200点,再診料50点を控除することとなる。

3.入院医療
 急性期医療は,重症度,医療・看護必要度の見直しを巡り,コロナ禍でさらなる医療機関への負担増につながることから反対する診療側と将来の医療ニーズを踏まえ必要と求める支払い側で意見が対立し,今回も公益裁定となった。結果的には,「心電図モニターの管理」の項目の削除,「点滴ライン同時3本以上の管理」を「注射薬剤3種類以上の管理」に変更,「輸血や血液製剤の管理」の評価が2点となった。特に「心電図モニターの管理の削除」は現場に大きな影響が懸念され,中医協での検証が必要である。なお,経過措置とともに許可病床200床未満の病院に対する該当患者割合基準の緩和措置などが講じられている。
 また,高度かつ専門的な急性期医療を評価する「急性期充実体制加算」が新設された。手術や救急医療等の一定の実績が求められているほか,感染対策向上加算1や精神医療または認知症に係る加算の届出などが課されている。
 回復期医療は厳しい改定となっている。地域包括ケア病棟は①急性期治療経過後の患者の受け入れ,②在宅療養患者等の受け入れ,③在宅復帰支援の3つの機能をバランスよく果たしていくことが求められた。特に①の機能に偏っている医療機関が問題視され,一般病棟から転棟した患者割合(60%未満)の基準が課される対象が200床以上の病院に拡大し,満たさない場合の減算規定が設けられた。さらに,自宅等から入棟した患者割合や在宅復帰率も実績の引上げや対象入院料の拡大,減算規定が設けられた。減算規定が多用されており,新たな要件を満たしていない病院は経過措置期間内での対応が求められる。
 また,回復期リハビリテーション病棟は重症患者割合の基準が引上げられたほか,新規届出時の入院料が2年間に限定され,その間に実績要件を満たすことが必要とされた。要件を満たせず辞退しなければならない病院が出てくる可能性がある。
 慢性期医療は,療養病棟入院基本料の要件に,中心静脈栄養を実施している患者に対して,摂食機能の回復に必要な体制を有していることとされ,有していない場合は医療区分3に代えて医療区分2を算定する取り扱いとなった(経過措置あり)。

4.次期改定に向けた課題
 中医協の答申書の附帯意見に盛り込まれた内容(20項目)が今後の課題となるが,特にかかりつけ医機能の評価と入院医療の見直しの影響は引続き重点的に検討される見込みである。
 かかりつけ医機能については,改定の議論においても,財務省や支払い側から,かかりつけ医機能の制度化と包括評価を求める意見が出されていたが,今年度から厚労省の検討会においてかかりつけ医機能についての議論が始まることを理由に,評価の一部見直しで決着した経過がある。財務省からの制度化に向けた医師の認定や患者の事前登録の導入など圧力は続いており,政府が今後策定する骨太の方針の議論の状況なども注視するとともに,現場の意見を中央の施策に反映させたい。

2022年5月15日号TOP