2022年10月1日号
令和4年度近畿医師会連合定時委員総会が9月4日(日),兵庫県医主管のもと,神戸ポートピアホテルで開催され,近畿各府県医から188名が参加,府医からは役・職員17名が出席した。
午前中に行われた分科会では,第1分科会「医療保険」,第2分科会「地域医療」,第3分科会「感染症対策」に分かれて議論を交わしたほか,併せて常任委員会も開催された。
午後からは総会が開催され,事業計画などが承認された。その後,特別講演が行われ,盛会裏に閉会した。
午後からの総会では,委員長や来賓等からの挨拶の後,令和3年度会務報告が行われるとともに,議事では令和3年度決算,令和4年度事業計画・予算がそれぞれ可決・承認された。
その後,「第1分科会」において検討された決議案が提出された。決議案では,新型コロナウイルス感染症の収束は未だに見通せないが,今回のパンデミックに対し2年余の間,多大な国民負担と巨額の経費が費やされたが,医療関係者の献身的な働きによって,世界の中でも人口比で見た死者数は極めて少なくすることができたと指摘。政府の医療費削減政策のために病床削減と転換が進められてきた結果,医療機関に経営的に対応する余裕はなく,病床逼迫が生じたことも事実であるとし,今後に備え,これまでの政策を総合的に検証し,実効性のある医療提供体制を確立する必要があると主張。併せて,政府が医療IT化の名の下に,オンライン診療とオンライン資格確認システムの原則義務化を進めつつあることや,かかりつけ医制度やリフィル処方箋に触れ,ウィズコロナ・ポストコロナにおける国民の信頼に応えられる医療制度の確立が課題とした上で,「医療費抑制政策を中止し,あらゆる事態に対応可能な医療提供体制を構築せよ」,「医療のIT化を経済効率優先ではなく医療の質と安全性に配慮して再考せよ」,「オンライン資格確認の拙速な義務化は現状に配慮して再検討せよ」,「かかりつけ医制度の法制化は中止せよ」,「医療の信頼を損なわせる危険性のあるリフィル処方箋は廃止せよ」,「国民の命と安心を守るために社会保障費の財源を確保せよ」-の6項目が要望された。
委員総会終了後は,東京大学大学院総合文化研究科准教授の斎藤幸平氏より「転換点に立つ時代~共に考え創る,私たち未来~」と題して,特別講演が行われた。
第1分科会では,城守日医常任理事の出席を得て,令和4年度診療報酬改定の評価(問題点と評価できる点)と今後の対策について,事前アンケートをもとに各府県が発言したのち,城守日医常任理事から改定の総括が説明され,活発な意見交換が行われた。府医からは,濱島府医副会長,畑府医理事,田村府医理事が出席した。
畑府医理事は,かかりつけ医機能の評価を巡って,支払い側がかかりつけ医の制度化に絡めて現行の点数をゼロベースで見直しを求めたものの,診療側が現行点数のさらなる評価を求めた結果,現行点数の一部見直しで決着したとし,地域包括診療加算・料の対象疾患の拡大や連携強化診療情報提供料の算定回数の見直しを評価した。一方で,機能強化加算の算定実績の追加やホームページでの周知が要件とされたことを問題視し,次回改定でさらなる厳格化に懸念を示した。
また,改定後もかかりつけ医の制度化について,骨太の方針2022に明記されるとともに,財務省から認定制度や定額報酬など具体的な検討を求める提案がされているとし,その目的は,かかりつけ医を登録制とし,さらには患者一人あたりの定額制導入によって医療費を抑制することだと指摘した。結果的に,人頭払い制が導入され,国が医療費をコントロールすることが可能となり,包括払い制の拡大に拍車がかかることから,絶対に阻止すべく,引続き近医連から随時問題点を日医に提言していく必要性を強調した。
これに対して,城守日医常任理事は,制度化によりフリーアクセスが制限されてはならないとし,日医も断固反対していくと答えるとともに,かかりつけ医の「機能」については議論を深める必要があることから,日医内にワーキンググループ(松井府医会長が副座長)を設置し,議論を開始しているとした。
その他,各府県からは,外来感染症対策向上加算は点数が低いにもかかわらず要件が厳しいとの意見やリフィル処方箋は撤廃すべきといった意見があった。
城守日医常任理事から,最近の中央情勢の報告として,まず,看護職の処遇改善に充てるために創設される「看護処遇改善評価料」について,対象職種を広げるべきという意見があるものの,今後も診療報酬改定財源が限られる中で,使途が決められている財源を拡大すると,他を評価することが困難になるとの見解を示し,補助金での対応も含めて検討が必要だと述べた。次に,オンライン資格確認の原則義務化について言及。国は「全国医療情報プラットフォーム」として,レセプト・特定健診等情報に加え,予防接種・電子処方箋情報,自治体検診情報,電子カルテ等の医療(介護)全般にわたる情報を共有・交換できる全国的なプラットフォームの創設を予定しており,日医も医療情報基盤整備のため,そのベースとなるオンライン資格確認システムの導入を推進する立場であったと説明した。しかし,来年4月からの義務化については,拙速な義務化に反対を主張したものの,政府の強い意向もあり強引に決められたとした。やむを得ない事情で導入できない医療機関への対応が12月に中医協であらためて議論されることから,導入に向けた手続きの問題事例について日医への情報提供を求めた。
濱島府医副会長は,オンライン資格確認システムの運用費用に関して,医療情報・システム基盤整備体制充実加算では,初診料の加算のため,診療科の特性で初診患者数にばらつきが出ることを指摘し,補助金で補填すべきと主張した。
和歌山県医からの医師会の政治力低下を懸念する意見に対して,城守日医常任理事は,医師連盟の存在意義が低下しているとの危機感が示され,重要性が再認識されるよう連盟の立て直しが必要とした。
また,城守日医常任理事は令和4年度診療報酬改定の総括として,オンライン診療について,中医協はエビデンスに基づき,有効性と安全性を検証し,担保するために要件などを議論すべきであるにもかかわらず,支払い側から指針を超える制限を設けるべきではないとの強硬な意見が出され,さらに公益側委員からの算定要件および施設基準は,指針に基づいて見直しを行うことが今回の検討の前提であるとの発言も後押しし,時間要件や距離要件が廃止された経過を批判した。
また,薬価改定財源を診療報酬本体に充当するという考え方について,毎年薬価改定になり,将来的には薬価引下げによる財源を捻出できなくなるとし,財源をどこに求めるかということを認識しなければならないと述べ,医療費確保がさらに厳しさを増すとの見方を示した。
第2分科会では,「地域医療」をテーマに「感染症対応も踏まえた地域医療構想の見直し」,「病院統廃合における地域医療の課題」について協議が行われた。府医からは北川副会長,小野副会長,角水理事が出席。日医からは江澤常任理事が出席した。
各府県医からは,新型コロナウイルス感染症の影響で地域医療構想調整会議の回数も時間も十分に取られず,議論が進んでいない状況が報告された。奈良県医は「新型コロナの影響により人口動態等はこれまでのデータから予測されてきた状態とは大きく変化しており,根本的な見直しが必要」とする意見が示されたほか,和歌山県医から「国には今般の感染症対応を踏まえ,将来の医療需要を推計し直し,改めて必要な病床数の考え方を示してもらいたい」と要望する声が出された。大阪府医も,「コロナ禍による医療提供体制のひっ迫を経験した上でなお,それ以前に設定された必要病床数をもとに議論を進めることは如何なものか」と指摘し,「コロナ禍を踏まえて地域医療構想そのものを見直すべきである」と主張した。
府医からは,角水府医理事が発言。各地域で持続可能な医療提供体制を確保するため,救急医療や在宅医療など,医療機関の役割の明確化と相互連携の強化を図った上で,緊急性や専門性の高い疾病,新興感染症等については,2次医療圏にとらわれない医療体制の整備に重点的に取組むことが必要だとした。また,今般のコロナ禍での経験を踏まえ,現在の地域医療構想で定めた必要病床数について,「今後の新興感染症対策も念頭に,平時には一般病床として利用しつつ,感染拡大時には感染症患者の受入が可能となる病床の整備」と,「コロナ受入医療機関や後方支援,診療・検査医療機関など,役割の明確化と分担,相互の連携」を進めることが重要との考えを示した。
その他,和歌山県医から,産婦人科医療について,和歌山県医が紀伊半島南における深刻な産科医師不足の窮状を報告。「集約化の議論も進まないため,県単位ではなく,近畿ブロック単位で地域偏在が起こらない仕組みづくりをお願いしたい」と訴えた。
病院の再編・統合については,各府県医とも地域の実情に応じて対応している様子が伺えた。急性期から回復期の転換を進めるための取組として,大阪府医,京都府医では,定量的な診療実態分析を行い,これまで急性期として報告されていた病床を独自の基準により「重症急性期」,「地域急性期」に分類し,「地域急性期」を「回復期病床」に準ずるものとして取り扱うことが報告された。
地域連携推進法人については,近畿で9法人(滋賀県医:3,大阪府医:4,兵庫県医:2)が設立されており,患者を「地域で診る」体制を構築する上で,地域医療構想の実現に向けた1つのツールとして有効だとする意見が出た一方で,その設立の過程で,地域医療構想調整会議が行政のアリバイ作りの会議として空転しないよう,医師会の関与が重要になるとし,「地域によって事情は異なるが,近畿ブロックでも継続的に行政も含めた地域医療を考える場を設けていきたい」との意見が出された。
江澤日医常任理事は,病院の再編・統合について,地域医療構想調整会議で実態的な議論が行われていない可能性を指摘し,「調整会議での議論が形骸化しないように,医師会がしっかりグリップしていく必要がある」と述べた。あわせて,再検証対象病院についても,コロナ禍の経験を踏まえ,有事の中で,必要な病床数・機能等について,地域で議論いただく必要があるとし,現場の地域医療提供体制に支障を来すことのないよう,「医師会が音頭を取っていただきたい」と求めた。
第3分科会では釜萢日医常任理事の出席を得て「新型コロナウイルス感染症の対応」について各府県から寄せられたアンケート結果をもとに,協議・意見交換がなされた。
協議に先立ち,釜萢日医常任理事より,本日の協議で各府県での新型コロナウイルス感染症に対する取組みや日医へのご指摘を伺った上で良い方向へ導きたいと挨拶があった。
府医からは谷口府医副会長,禹府医理事,松田府医理事が出席した。
新型コロナウイルス感染症対策においての問題点や独自の取組みで成功した点で,医療提供体制の構築に関する入院調整・病床確保の状況等を中心に意見交換がなされた。他府県からは公立病院の中でも受入れ体制に偏在があったことや,高齢者の下り搬送についてスムーズに結び付けなかったことが述べられた中,禹府医理事は,府内高齢者施設において病床が逼迫している際は,施設内で療養を行う場面も多く,施設内療養者に対する医療体制づくりを現在,府市で検討しており,郡市区医でチーム作りを実施していることの説明がなされた。
また京都府の場合は,京都府庁内に設置された入院医療コントロールセンターを通じて陽性者外来受診や入院が必要な場合に差配を行っている状況を説明。公的病院の数より私立病院の方が多く,各病院の努力で高齢者への医療が成り立っていることも報告された。
新型コロナ禍でのオンライン診療については各府県でうまく活用されていないとの意見が多く,実数もつかめていない様子であった。禹府医理事より京都府では自宅療養者の健康観察をオンライン診療で行っているかどうかはそれぞれの診療・検査医療機関に委ねられており,その実数は把握していないと報告。
第4波・第5波において府医が実施した京都市電話診療所については,入院が必要ではあるが入院できない自宅療養者に対して保健所対応が限界を超えたため,府医会員が自宅療養者への電話診療を行ったことを報告。会員は患者の様子を聞き取り,必要であれば処方箋の発行を行い,調剤薬局から届けてもらう体制を整えたが,その後,第6波以降では診療・検査医療機関が対応しており現在は開設していないとした。
またコロナ陽性妊婦専用の診療コンテナを府医・京都市・京都産婦人科医会の三者による協定を締結し設置したことを紹介。実際の利用者数が多い訳ではないが,自院では無理であっても診察スペースがあったら対応ができる場合の利用と,主治医が対応できない場合に京都産婦人科医会の医師が輪番制で診察する際に活用していることを報告した。
補助金については,陽性小児の付き添いに際して,陰性の父母の食費・宿泊費について京都府が上限なしの費用を負担していることを説明した。
禹府医理事からは,診療・検査やワクチン接種に関しても府医と京都府・京都市において頻回に協議を重ねたものの,府医と認識にずれがあった場面も散見されたが,その都度軌道修正し意思疎通を図ってきたことが述べられた。
また,会員への周知については,地区感染症対策担当理事連絡協議会をweb会議とし,会員も参加できる形式にし,できるだけ速やかに情報伝達を行ったことを説明した。
日医の改善点については,京都府内には京都市医師会がなく府医がその役割を担っていることや,各郡市区医の事務局体制は多様であるため,各郡市区医が主体となって対応するだけでなく,都道府県医が主体となって対応しなければならないことも想定しての柔軟な制度設計を要望。また,診療・検査医療機関については,現在約1,000ヶ所の医療機関にご登録いただいているが,今後の新興感染症の流行時には現在の診療・検査医療機関が同様に診療できるのかは不明であり,今後いかにして診療・検査医療機関を増やすかが課題であると提言された。
釜萢日医常任理事は総括として,新型コロナウイルス感染症全数把握については,医療者側の負担を覚悟した上で,現状を持続すべきとの意見を受け,国の審議会でも引続き検討していきたいと述べた。
地域によって実情は様々であり,地域の感染状況を分析できるようにすること,また陽性者のフォローアップや重症者への対応を確実にできることなど,目的を明確にし,国の方向性を定めていくようにしたいとの考えが示された。
今回の全数報告を簡略化する方法については,都道府県に判断を仰いだが,簡略化については4県しか手挙げがなく,全数報告に代わる定点医療機関からの報告や,民間の検査データ,国立病院機構からの報告,下水道水でのPCR検査などを総合的に考えたが,年齢階級別の把握ができず,引続き医療機関からの届出にならざるを得なかったとした。しかしながら9月20日以降には,国全体の方向を転換し方策も固まるとの見通しを示した。
入院に関しては今後,病院と行政との協議に基づき,それぞれの役割について認識を共有することが重要であると述べた。
ワクチン接種についてはオミクロン株対応ワクチンの供給が開始されることについて触れ,詳細は後日決定されるが,国にはワクチンが不足することが無いよう強く申し入れていると説明した。
最後に医師不足については,若年人口の減少により確保が難しくなっているが,日医として全力で取組んでいく意向を示し,会を締め括った。