会員の声

公的かかりつけ医制度の創設を

中央診療所(中京東部) 泉  孝英 

 今回のコロナ対策の大きな問題点は「誰が,自宅療養者の責任を持つのか」であった。
 北欧諸国を中心に欧州では,「保健所なりが,感染者をかかりつけ医に通報すれば,かかりつけ医は自宅療養者への対応に責任を持ち,症状によっては,入院を手配する」体制が確立しているので,「自宅で死亡」がマスコミの記事になることはない。
 「かかりつけ医」という言葉がよく用いられているが,かかりつけ医を持たない住民の多いことは,今回,明白になったことである。
 「公的かかりつけ医」とは,住民のすべてが診療所医師のいずれかに登録し,国なり地方自治体は,医師の登録人数に応じて,一定の年額1~2万円なりを支払い,「健康管理の責任者」となってもらう制度である。
 コロナ対策以外の「公的かかりつけ医」の利点について述べておきたい。
 住民の利点は,体調不良を感じた場合,まず,「かかりつけ医」に電話なりをすれば,受診しなくて解決する場合もあり,多忙な人々にとってみれば,受診する時間のないうちに病状悪化を防げるわけである。
 医師にとって有利なことは,一定の所得が保障されることである。ただし,現行の診療報酬制度をある程度維持しての話である。電話で話が済めば,受診患者は減少する,多忙さを減らすことができる。現状,我が国の国民1人あたり医師受診回数は,デンマークの4.4倍,米国の3.2倍,英国の2.2倍,フランスの2倍,ドイツの1.3倍という事実がある。「公的かかりつけ医」制度が実現すれば,日本の医師にも「午前は診察,午後は勉強・研究,夕方以後は家庭団欒」の生活が期待できる。
 ここで,特に指摘したいことは,国民皆保険発足時点(1961年)に比較するまでもなく,平成以降でも,国民の平均寿命はさらなる延長を続けている。病気は激減している。平成の30年間でも,年齢調整死亡率でみると,脳血管疾患は,男は69%,女は75%激減している。心疾患死亡は男55%,女64%減である。がん死においてすら男25%,女21%減である。診療所医師の少なからずは,「在宅医療」に走らざるを得ない段階に至っている現状を直視しなければならない。「公的かかりつけ医」制度の創設は,医師の生計維持に必要なことであることを率直に指摘しておきたい。
 「公的かかりつけ医制度」の創設によって,診療所医師に,原則,「病気の治療」よりも,まず,「病気,病気であるかどうかの相談役」として役割を期待することとしたい。
 加えて,独居老人の激増している現在,「独居死の防止」にきわめて有効であることも人道的な立場から主張したいことである。
 但し,「公的かかりつけ医制度」は,我が国の医療制度の根幹にかかわる大問題であり,私自身,早急に実現することでないことは承知である。しかし,医師会として,政府への対抗策を考えるだけでなく,「公的かかりつけ医」についての論議を開始されることを期待したい。
 なお,1971年,私がカロリンスカ病院に留学当時,スウェーデンでは「公的かかりつけ医制度」が定着していることに驚いた。51年前のことである。

2022年9月1日号TOP