理事解説 百考千思

京都府医師会副会長 谷口 洋子

「かかりつけ医機能」と「かかりつけ医制度」 〜各専門医会長との懇談会(令和4年8月27日)における発言より抜粋〜

 「先生にとってのかかりつけ医とはなんですか?」と問いかけると,千差万別の回答が返ってくるのではないでしょうか。かかりつけ医機能の定義を考えていく上で,かかりつけ医の質の向上に関する議論が必要不可欠となります。がん診療連携拠点病院等の制度にも示されるように,検査をして,がんを発見し,高度な治療は拠点病院で行い,高度な治療が完了した後には地域の病院,かかりつけ医に戻ってくるという流れの中で,疾患を総合的に切れ目なく診ていくための役割分担が求められております。循環器病対策基本法も同様の趣旨であり,働き方改革,マンパワー,医師不足の問題も踏まえ,一定の集約化を検討しなければならない中で,どういうところに,どういう人材,資源を集中・集約していかなければならないかということを考えていく必要があります。そのために,各地域に必要な機能を明確化していく必要が出てまいります。地域の病院やかかりつけ医は,今後,「入口」と「出口」の役割をしっかりと果たしていかなければならないと考えております。

 日本医師会・四病協合同提言において,「かかりつけ医」の定義が以下のとおり示されております。

かかりつけ医の定義(日医・四病協合同提言より)

 「かかりつけ医」は,以下の定義を理解し,「かかりつけ医機能」の向上に努めている医師であり,病院の医師か,診療所の医師か,あるいはどの診療科かを問うものではない。そして,かかりつけ医は,患者のもっとも身近で頼りになる医師として,自ら積極的にその機能を果たしていく。

「かかりつけ医」とは(定義)
 なんでも相談できる上,最新の医療情報を熟知して,必要な時には専門医,専門医療機関を紹介でき,身近で頼りになる地域医療,保健,福祉を担う総合的な能力を有する医師

 「かかりつけ医」は患者の自由意志によって選択されます。全国一律に規定されるものであってはなりません。患者自身が「かかりつけ医」を決めることができ,必要な時に適切な医療にアクセスできる現在の仕組みを守らねばなりません。

 「かかりつけ医機能」については日医でも議論されていますが,その流れや内容についてしっかりとご理解いただかないと,取り残されてしまいます。極端に言えば,取り残されてしまうということは,それだけ医療機関がなくなることを意味しますので,そうならないように,一生懸命,情報提供に努めているところです。しっかりと皆様のコンセンサスを得て,かかりつけ医とはどういうものかという議論に取組んでいきたいと思います。

 日本の医療は一定程度,専門分化された医師がそれぞれ役割を果たしながら,必要に応じて専門医を紹介するなどして,全体の医療を守ってきた経過があります。かかりつけ医についても,欧米のように一人の患者が一人のかかりつけ医を登録するという1対1の関係ではなく,面で捉えていくという議論が日医でも行われているところです。財務省等が提唱する「かかりつけ医の制度化」は,かかりつけ医を登録制とし,定額の人頭払い制の導入による医療費抑制政策に他なりません。100人の患者さんを診ていた医療機関も,10人しか患者さんがいなかった医療機関も押しなべて50人の登録とされた場合,これまで切磋琢磨しながら質の向上に努めてきた,かかりつけ医の機能・質の低下にもつながりかねません。
 そうではなく,健康な人も健康でない人も,若い人も高齢の人も,トータルに面で支える体制を構築していくことで,政府が検討する「かかりつけ医の制度化」に対抗していこうと考えておりますので,ご理解・ご協力をお願いいたします。

2022年9月15日号TOP