京都府医師婦人会 講演会報告「人生100年時代の腸活戦略」を拝聴して

中京東部地区 俵 里実

 京都府立医科大学大学院医学研究科教授 内藤裕二氏による講演会「人生100年時代の腸活戦略」が,令和5年6月21日,フォーチュンガーデン京都にて開催されました。ご専門の腸内微生物学,抗加齢医学について,数々のメディアで分かりやすくご解説なさる内藤氏のご登壇とあって,ビジターを含め81名が参加。各々熱心にメモをとりつつ1時間のご講演に聴き入りました。
 「人生100年時代」を生きる上で,家族も,自分自身も健康な心身を保ち続けることができるのか。日々健やかに暮らすために,また社会で働き続けるために留意すべきことは何か。そんな誰しもが覚える不安や疑問に,内藤氏のご講演は,多くの示唆を与えてくださる内容でした。
 まず,2015年から開始された「京丹後長寿コホート研究」の成果について,数々のデータをお示しになりつつご説明くださいました。長寿地域といわれる京丹後市の人々は,同地域の自然環境に添った食生活を営まれ,豆類や魚類から得るたんぱく質や食物繊維の摂取量が多いことが,健康長寿を叶える腸内フローラの形成に関わっていること。併せて,地域における人々のコミュニケーションが盛んであることも,同地域の一つの特徴であるとのご見解です。
 また,フィンランドのトゥルク大学が実施した,15年に渡る腸内細菌の追跡調査の結果もご紹介なさり,寿命と腸内細菌の関連性が明らかになったことを教えてくださいました。
 そこで,内藤氏が「いま,最も広めたいと思っている言葉はこれです」と示されたのが「ガットフレイル」という概念。「胃腸」と「虚弱」が組み合わされたこの言葉,元来は老化との関連で用いられるフレイルの概念を消化管と結び付け,胃腸の健康を保ち Well-being を目指すために活用するというものです。腸内フローラが3歳までに確立され,さらに年齢が進めば,胃腸の状態は認知機能や腎臓などの機能とも深く関わることを考えれば,この概念はすべての世代を志向するものであると理解できます。

 キーワードがもう一つ,Rejuvenation という言葉。意味するところは,疾患や老化の「予防から若返りへ」。暦年齢ではなく,生物学的年齢を指標に老化を捉えることが大切と強調されます。
 例えば,歩行速度やバランス力,握力などは若さの指標と関わるそうですが,日々のさまざまな動きを工夫することで強化できるものであること。また「座った状態からスムースに5回立ち上がる」といった動作も一つの指標であり,丈夫な筋骨格系の維持が,身体の活性化に欠かせないこと。さらに腸内環境を整えることの重要性も,具体的な数々の菌を挙げながら解説なさいました。若返りの薬を服用する,という方法とは異なる選択肢のご提示です。
 加えて,「若返り」は「再生」「一新」などの意味を内包する,とのお話も。これらの言葉は,長寿社会において幸福とは何かを考える,一つの手掛かりとなるように思われました。
 ご研究でご多忙な中,2025年大阪・関西万博のアドバイザーを務められ,若返りをテーマとするパビリオンを企画・制作中とのこと。また,時間栄養学に基づいた,ゼリーなどの手軽な食品がコンビニで発売されるというニュースも話題にされ,「医療関係者など多忙な人に利用してほしい」と内藤氏。食事に十分な時間をとれない人々へのまなざしも温かく感じます。
 最新の研究成果が,われわれの暮らしをサポートしてくれている現実を喜びつつ,地域の食習慣や社会環境との関わりの中で,健康寿命を考えるという視座が大切と気付かせていただきました。一人ひとりの腸活は,より発展的に,広く地域の自然環境を慈しむことにも繋がるかも……そんな感想さえ抱きました。

2023年8月1日号TOP