2023年2月1日号
乙訓医師会と府医執行部との懇談会が11月21日(月)Web で開催され,乙訓医師会から30名,府医から7名が出席。「医療IT 化」,「新型コロナウイルス感染症等の現状と今後」,「胃内視鏡検診,産婦検診,新生児聴覚検診」,「学校健診」をテーマに議論が行われた。
〈注:この記事の内容は11月21日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合がございます〉
~実態把握のためアンケート実施~
オンライン資格確認について,府医では,医療機関における対応の実情を把握するために,京都医報令和4年10月1日号に調査票を同封してアンケートを実施したところ,300を超える医療機関から回答があった(詳細は京都医報11月15日号に掲載)。
導入費用について,導入時点で補助金の上限を超えるケースもあり,保守費用やランニングコストについては,何の手当もされていないことから,医療機関の負担になることは間違いなく,少しでも負担が軽くなるよう日医を通して厚労省や関連業界に働きかけている。
~医療DX(デジタルトランスフォーメーション)と電子処方箋~
DX とは,現状紙ベースで運用されている業務をデジタル技術の活用により,業務プロセスの改善を行うもので,医療界においても様々な内容が協議されている。
喫緊の課題としては,令和6年秋に保険証を原則廃止する方向性が示されたことにより,オンライン資格確認,顔認証付きカードリーダーの運用が求められている。一方,電子処方箋は,令和5年1月から運用開始となるが,導入は義務ではない。実施するにあたり,医師の資格確認として,日医医師資格証(HPKI カード)を利用する。
医師資格証の取得率は,日医会員13.3%,全国医師数8.0%,京都府における発行数は244件(10.31現在)と早急な電子処方箋の実施は難しいのではないかと考えている。
~PHR(パーソナルヘルスレコード)とは~
2020年度のデータヘルス改革に関する閣議決定で,2021年にPHR の取り扱いについて必要な法制上の対応を行い,医療機関内でのインフラを担保することにより,二次利用を含めた個人のPHR サービスを利活用する方針が打ち出されている。次世代ヘルスケアとして,近年様々なサービスが出てきている中で,国としても成長戦略として位置付けている。
デジタル社会の実現に向けた施策として,国民に対しては「暮らしのデジタル化」を打ち出し,医療分野では「民間PHR サービスの利活用を促進」,「オンライン診療の活用に向けた基本方針を策定」,「データの連携・活用のためのプラットフォームを整備」がタイムスケジュールとともに示されている。
PHR サービスは,従来,健康寿命の増進の中で位置付けられていたが,生まれてから学校,職場での健診等,生涯にわたる個人の健康データをマイナポータル等を通じ自分自身が予防・健康づくり等に活用することや様々なPHR サービスの普及展開を図ることを目的に,環境整備が進められているところである。
健康・医療・介護情報利活用検討会には長島日医常任理事が参画し,ガイドラインの策定に関わっており,京都府におけるPHR の検討会には松田府医理事が参画している。
~かかりつけ医の役割~
「入口以前」の対応としてワクチン接種の実施,「入口部分」となる発熱患者への対応では,診療・検査医療機関として発熱患者の検査・診療,治療の実施,介護施設・高齢者施設等におけるクラスター対策,「入口以降」の陽性者への対応としては,自宅療養者への電話・オンライン診療や訪問診療,宿泊療養者の健康観察への協力,「出口以降」では罹患後症状への対応と発症前の医療・介護の継続など,それぞれが地域の中でできることを可能な範囲で実施していくことが重要である。
~現時点での問題点と課題~
国の方針が急に発出され,短期間で変更されることも多く,行政と確認し合いながら対応を進める必要がある。また,医療資源,行政資源にも限界があるため,新型コロナ対応を受けて,地域医療構想や地域包括ケアを改めて見直していく必要がある。
喫緊の課題は,新型コロナと季節性インフルエンザの同時流行に備えることである。インフルエンザの大流行があれば,第6波,第7波以上に医療提供体制の逼迫が懸念され,インフルエンザを含む重症者の受入れ体制を考えていく必要がある。また,診療・検査医療機関に発熱患者が殺到し,さらなる逼迫も懸念される。
~季節性インフルエンザ流行の見通し~
オーストラリアで,6~7月にかけて季節性インフルエンザが流行し,同時期に新型コロナも流行していた状況を見ると,例年,南半球での感染状況と類似した経過をたどることから,厚労省としても季節性インフルエンザと新型コロナの同時流行が発生する可能性が高いとみている。
国は同時流行の際の医療提供体制として,重症化リスクの低い者とそれ以外(重症化リスクが高い者,高齢者や妊婦,自己検査が難しい子ども等)に分けて対応し,重症化リスクが低い者については検査キットによる自己検査の結果,陽性の場合は基本的に自宅療養とすることを示している。
~流行期に備えて~
ワクチン接種の促進や診療・検査医療機関のさらなる増加に取組むとともに,府医の「京いんふるマップ」や「京ころなマップ」を活用して早期に流行状況を把握することが重要である。その他,府民・市民への行動の啓発やインフルエンザの重症者の入院受入体制の確認にも同時に取組む必要がある。
国は,新型コロナウイルスとインフルエンザの同時検査キットや現在不足している解熱鎮痛剤の確保に取組んでおり,同時流行に備えて準備が進められている。
◇質疑応答
地区医からは,乙訓休日応急診療所では,診療・検査医療機関の指定は受けていないため,コロナ患者は診ないことを原則としているが,昨年夏の第5波から患者が増加し,出務医を守るためにも抗原検査を実施している。京都市急病診療所では,コロナ検査をされていないため,第6波,第7波から京都市内の患者が流れてきているとして,京都市急病診療所の今後の対応について質問が出された。
府医からは,京都市急病診療所では動線分離が難しく,これまで対応してこなかったが,12月から駐車場に設置したコンテナを活用し,小児のみ検査を実施することとしたことを報告。年末年始は,府医会館2階に臨時の発熱外来を設け,1日300人の発熱患者に対応できる体制を整えるとした。
~胃内視鏡検診の状況~
胃がん検診に内視鏡が認められてから,内視鏡を取り入れる自治体は年々増加している。全国の内視鏡割合32.7%に対し,京都は6.7%となっている。京都においては,久御山町,京都市,福知山市の二市一町で内視鏡検診が開始されており,京都府では手上げのあった市町村による胃内視鏡検診の管外受診制度の導入に向けた議論が進められている。
胃内視鏡検診管外受診制度では,クラウド型の二次読影システムの利用が想定されている。検診実施医,二次読影医それぞれにパスワードを付与しているので,セキュリティ面も担保されている。
将来的には,京都府全体に拡大する方針であり,それが実現すれば向日市民が京都市で受診することも可能である。
内視鏡施行医認定基準もしっかりと定めており,通年で認定は受け付けているため,広域化に向けて,できるだけ幅広く参加をしていただきたい。
~産婦健診の状況~
厚労省では,妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援として,産後間もない母子への支援を強化するため,産婦健康診査の費用を2回助成する妊産婦健診事業を予算化した。府医では,京都市と委託契約を結び,公費による産婦健康診査の事業を開始している。京都府内の19市町においても実施されており,令和4年度からは亀岡市,城陽市,久御山町が新たに助成を開始している。令和3年度の実績は,延べ受診者22,347人(内:京都市内は15,047人)である。
~新生児聴覚検査の状況~
新生児聴覚検査については,これまで,多くの産婦人科医療機関において自費で実施されてきたが,令和2年度から新生児聴覚検査費用助成事業が開始され,令和3年度には「京都府新生児スクリーニング及び相談支援の手引き」が作成された。
これまで自費で実施されてきたスキームにどれだけ行政が関わっていくか,精密検査となった子どもを適切に療育機関に繋げていくことが重要である。
学校健診における上半身脱衣について,府医では平成25年,京都府教育委員会に対し「学校における定期健康診断時の服装について」を提出し,申し入れを行っている。府医学校保健委員会における議論でも,側弯症等の見落としを防ぐために,上半身脱衣が必須と考えている。
学校医は,学校現場における健診について,しっかりと対応する義務があり,医学的見地からも上半身脱衣が必要である。一方で,健診を実施するにあたり,プライバシーへの配慮も重要と考えており,健診時の環境整備については,引続き,教育委員会に対応を要望していく必要がある。
新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的取り扱いについて解説するとともに,個別指導における主な指摘事項について資料提示した。また,療養費同意書の交付(マッサージ,はり・きゅう)に関する留意点を解説し,慎重な判断と適切な同意書の発行に理解と協力を求めた。