「オンライン資格確認システムの原則義務化」,「かかりつけ医の制度化」,「インボイス制度の医療機関への影響」,「新型コロナウイルス感染症」 について議論

 京都北医師会と府医執行部との懇談会が12月14日(水),Web で開催され,京都北医師会から13名,府医から7名が出席。「オンライン資格確認システムの原則義務化」,「かかりつけ医の制度化」,「インボイス制度の医療機関への影響」,「新型コロナウイルス感染症」をテーマに活発な議論が行われた。

〈注:この記事の内容は12月14日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合がございます〉

オンライン資格確認システムの原則義務化について

 オンライン資格確認システムは,政府が「骨太の方針」の中で示した医療DX 推進の一環である「全国医療情報プラットフォーム」の基盤として位置づけられている。
 オンライン資格確認をはじめとする「医療DX」は逆らえない時代の流れではあるものの,政府による強引なマイナ保険証,オンライン資格確認の推進は,保険医療機関と患者(国民)双方の現実を軽視したものであり,現状では医療機関のコストに対する手当や導入メリットについても非常に乏しいと言わざるを得ない。
 現場の医療機関としては,オンライン資格確認の導入が療養担当規則にも記載され,義務化された以上,令和5年4月の運用開始に向けて努力するしかない状況であるが,府医としては日医を通して,取り残される医療機関が無いよう働きかけを続けていく考えである。

かかりつけ医の制度化について

 新型コロナ蔓延当初,感染拡大を防ぐために施策として受診に一定の制限をかけたにもかかわらず,財務省は「かかりつけ医機能が十分に機能しなかった」と問題をすり替え,「かかりつけ医の制度化」を図るよう主張しているが,その真意はかかりつけ医を登録制とし,患者一人あたりの定額制を導入することによって医療費を抑制することにあるのは明白である。

~「かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて」~
 財務省に議論を先導させないためにも多くの関係団体から対案が出される中,日医から「かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて」の第1報告が発表されたところである。
 その内容は,まず,平時と有事を切り離して考えた上で,有事への備えとして,かかりつけ医のいない国民を含め,地域の中で感染症に対応する医療機関をあらかじめ決めておくことが提唱されている。感染症発生・蔓延時(有事)においてもかかりつけ医が診療を行うことは望ましいが,未知の感染症への対応に際しては,動線分離を含めた感染拡大防止対策が重要であり,通常医療を継続しつつ,感染症医療のニーズに対応していくことが必要であるとして,地域医療体制全体の中で感染症危機時に外来診療や在宅療養等を担う医療機関をあらかじめ明確化しておくことで,平時に受診している医療機関がない者を含め,必要とするときに必要な医療を確実に受けられるようにするとの考えが示されている。
 医療機関に向けては,日医かかりつけ医機能研修制度の実施等により,これまでも「かかりつけ医の普及」に努め,かかりつけ医としての役割を果たすべく日々研鑽を重ねてきたことを説明するとともに,個々の医療機関ではなく,機能分化や連携によって「面」で地域の医療を支えることが重要であるとして,各医療機関は自らが持つ機能を磨くことにより縦糸を伸ばすと同時に,他の医療機関との連携を通じて横糸を紡ぎ,「地域における面としてのかかりつけ医機能」を発揮していくことが提言されており,他の医療機関と連携し,急変時においても可能な限り地域におけるネットワークで対応していくことが重要であるとしている。

~「医療機能情報提供制度」の内容充実化と「かかりつけ医機能報告制度」の創設~
 厚労省が示した「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」に向けた骨格案では,すでに医療法施行規則に記載されている「医療機能情報提供制度」(京都府においては,「京都健康医療よろずネット」が該当)の内容を充実させ,国民に向けてわかりやすい内容に変更することと併せて,各医療機関が患者や国民のニーズに応じた機能を都道府県に報告し,都道府県がその報告内容を受けて地域における充足状況等を公表する「かかりつけ医機能報告制度」を創設することが示されている。
 また,政府は全世代型社会保障構築会議において,かかりつけ医機能の活用については医療機関,患者それぞれの手挙げ方式,すなわち患者がかかりつけ医を選択できる方式とする見解を示しており,財務省が当初主張していた登録制や患者一人あたりの定額制は否定された形となっている。

~医療機関同士の連携による「面」としてのかかりつけ医機能の強化に向けて~
 府医としては,かかりつけ医は制度化するのではなく,その機能をより強化することで国民の信頼に応えることが重要であり,診療科や開業,勤務の別にかかわらず,かかりつけ医機能の定義に記されているようなことはすでに多くの医師が実践し,かかりつけ患者であるか否かにかかわらず,その機能を果たしているものと考えている。医師はそれぞれ専門領域を持つ専門医であり,自身の専門領域以外の疾病には,信頼できる専門医療機関への紹介や相談を通じて,自らも知見を広げながら,その都度かかりつけ医としての資質向上を図っており,個々の医療機関がそれぞれの機能に応じた役割を果たすことは,医療機関同士の連携によって地域医療を「面」で支えていることに他ならない。
 そのためにも,現在診療報酬で評価されている地域包括診療加算など,対象疾病が限定されている点などを緩和することで,診療科にかかわらず,より多くの医療機関が算定できるよう改善が必要であると考えており,日医を通じて働きかけていく意向である。

インボイス制度の医療機関への影響について

~インボイス制度とは~
 令和5年10月1日から消費税の仕入税額控除の方式として「インボイス制度」(適格請求書保存方式)が導入される。インボイス(適格請求書)とは,売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝えるものであり,売手である事業者は,買手である取引相手から求められたときはインボイスを交付しなければならず,交付したインボイスの写しを保存する必要がある。買手側は消費税の税額計算に必要な仕入税額控除の適用を受けるために,原則として売手である事業者から交付を受けたインボイスの保存等が必要となる。

~医療機関への影響について~
 課税期間(原則として個人事業者は暦年,法人は事業年度)の基準期間(原則として個人事業者は前々年,法人は前々事業年度)における課税売上高が1,000万円以下の事業者は,原則として消費税の納税義務が免除され,消費税の申告・納付を行う必要がない「免税事業者」となるが,健康診断や予防接種等の自費診療部分である課税売上高が1,000万円を超える事業者は「課税事業者」として消費税の納税義務者となり,消費税の申告・納付が必要である。医療機関においては,社会保険診療報酬が消費税法上,非課税とされていることから「免税事業者」であることが多いが,新型コロナワクチンの対応等で自費診療部分が増加し,課税売上高が1,000万円を超えることになった場合に「課税事業者」としての対応が必要となる。
 「免税事業者」である場合においても,医療機関としては今後も消費税を納税することはないものの,インボイス(適格請求書)を交付できないため,企業側からすると,インボイスがなければ健康診断・予防接種等に係る消費税について仕入税額控除の適用を受けることができなくなることから,インボイスを交付することができる医療機関に委託先を変更する可能性も想定される。

~医療機関において事前に検討すべき「インボイス対応」~
 医療機関の売上取引に関し,インボイスへの対応が必要となるのは,事業者に対する課税売上がある医療機関である。医療機関における事業者への課税売上としては,例えば,企業から社員の健康診断や予防接種などを受託しているケース,医療機関が企業から産業医報酬を受け取っているケース(医師個人が給与として受け取るものを除く),企業からの顧問収入・受託収入・テナント収入等があるケースなどが考えられるが,標準税率か軽減税率かを問わず,事業者に対する課税売上がある医療機関は,令和5年10月以降,取引先の事業者からインボイスの発行を求められる可能性があり,「インボイスを発行するために必要な事業者登録の申請を行うかどうか」の検討が必要となる。
 事業者に対する課税売上がなければ特に対応の必要はないが,課税事業者でなければインボイスを発行できないため,免税事業者である医療機関においては課税事業者となるかどうかも含めて検討が必要となる。令和5年10月1日からインボイス発行事業者の登録を受けたい場合には,原則として令和5年3月31日までに税務署に登録申請書を提出する必要がある。
 事業者に対する課税売上がある医療機関においては,令和5年10月以降の選択肢として,以下のように整理される。
  ① 登録申請を行い,登録を受けて,インボイスを発行する。
  ② インボイスを発行せず,消費税相当額または一定額を値引きする。
  ③ インボイスを発行せず値引きもしない。
 免税事業者であり,かつ事業者に対して課税売上がある医療機関においては,上記を踏まえ,慎重に検討し判断する必要がある。

新型コロナウイルス感染症について

~インフルエンザとの同時流行に備えた医療提供体制について~
 国は新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行に備えた対策として,インフル等の体調不良等により受診を希望する患者への電話・オンライン診療体制の強化と,健康フォローアップセンターの拡充および自己検査キットの確保,さらには救急医療や入院治療等の対応強化などをポイントとして挙げている。同時流行時の医療提供体制のイメージ図では,重症化リスクが高い者(妊婦,基礎疾患がある者,高齢者や自己検査が難しい子ども)は発熱外来やかかりつけ医への受診等,対面診療を中心として確定診断を行うこととしているが,重症化リスクが低い者については検査キットによる自己検査の結果により陽性,陰性それぞれの場合の対応を行うこととし,基本的には自宅療養とされている。
 この国の指針に対し,日本感染症学会が示した外来診療のフローチャートでは,電話・オンライン診療はあくまで緊急的・避難的措置であり,対面診療が原則であることが強調されており,オンライン診療でインフルエンザを含む急性呼吸器感染症の診断を行うことの難しさを指摘した上で,重症化リスクの有無にかかわらず,必要に応じて対面診療に切り替えるべきとの見解を示している。
 各医療機関においては,診療・検査医療機関,かかりつけ医療機関としてしっかりと診療を継続していくと同時に,診療・検査医療機関のさらなる増加と,府医の「京いんふるマップ」や「京ころなマップ」を活用してより早く流行状況を把握することが重要である。

~新型コロナワクチンの追加接種に係る接種間隔について~
 新型コロナワクチンの追加接種に係る接種間隔について,臨床試験により安全性が確認されたことを受けて,これまで前回接種から「5ヵ月経過後」であったものが「3ヵ月経過後」に接種できることに変更されたが,諸外国においても,先進国を中心に,おおむね3ヶ月の間隔を空けて追加接種する方針が示されていることや,ウイルスが変異を繰り返したことによりワクチンの感染予防効果が低下したこと等により,接種間隔が「3か月経過後」に変更されたことには一定の蓋然性があると判断できる。
 なお,検査キットの配付に関して,インフルエンザ簡易キットはOTC 化されていないため,国において配付は検討されていない。一方で,新型コロナとインフルエンザの同時検査キットに関しては同時流行に備えてOTC 化が決定したものの,偽陰性の場合に治療が遅れることや,医師の判断が介在しないため,不測の事態への対応が難しいとの意見が挙がっており,当面は医療機関への配付を優先することとしている。

質疑応答・意見交換
 意見交換では,オンライン資格確認の導入について,マイナンバーカードの保有率が伸び悩み,保険証との紐付けも進んでいない状況の中で,オンライン資格確認システム導入後の高額な保守費用や,診療報酬上の加算もレセプトのオンライン請求に限定されるなど,医療機関の負担は増大するばかりである上に,発熱外来や在宅医療の現場における資格確認方法の課題や,資格確認以外にも取得可能とされている投薬等の情報がリアルタイムでデータ反映されないなど問題点も多く,メリットが見いだせないとの意見が挙がった。
 かかりつけ医の制度化の議論に対しては,府医より,京都府における「在宅療養あんしん病院登録システム」等,一連の地域包括ケアに係る取組みは,地域における面としてのかかりつけ医機能の強化に資するものであるとし,新型コロナ対策において,京都府入院医療コントロールセンターを中心とした医療提供体制整備の経験を活かし,各医療機関が連携して面として地域医療を支えていくことが重要であると説明。各地域で医療資源が異なるため,地区医単位でどういった連携体制がとれるのかを議論していくことが大事であるとした。
 その他,新型コロナウイルスワクチン接種の今後の見通しや,府外からの旅行者が陽性となった場合の対応について意見交換が行われた。

保険医療懇談会

※乙訓医師会との懇談会

2023年2月1日号TOP