講演会「芸術の力,心を動かすエネルギー ―京都市立芸術大学のキャンパス移転―」を拝聴して

中京東部地区 俵  里実 

 数年来,待ちに待たれた講演会が令和4年11 月 30 日(水),フォーチュンガーデン京都にて開催されました。講師は京都市立芸術大学学長,赤松玉女氏。創立 140 年を超える同学初の女性学長であり,油画の作家としても活躍する赤松氏の講演とあって,64 名の婦人会会員およびビジターが集いました。久々に顔を合わせる嬉しさも相まって,講演が始まる前から,会員の皆さまの晴れやかな笑顔が会場にあふれました。
 現在,京都駅近くで,同学の新キャンパス建設工事が進んでいることは広く知られていますが,実際,施設の規模はどのくらいか,一般の市民は利用できるのか。また,コロナ禍において芸術に関わる方々はどのように活動されているのか。聴衆の興味はさまざまでありました。
 本題に先立ち,赤松氏は,コロナ禍における医療現場の働きに対し謝意を表されましたが,このお言葉に,まず心を動かされた方も多かったのではと思います。「不要不急」と見做され,難しい状況下にあられる芸術分野の,しかも重責を担われている方のあたたかなメッセージは,皆さまの心に直接,深く刻まれたのではないでしょうか。
 「私たちも大変でした」と続けられた赤松氏。「でも,うちの学生も教員も,できない状況の中で,できることを見つけるのが上手なのですよ」と,数々のスライドを示しつつ,学生や教員の活動を紹介してくださいました。大学へ行けないのならと,自宅をキャンパスに仕立てた学生の活動や,沓掛キャンパス裏山の廃土を用いて築造された作品など,限られた条件下でも,創作活動の手を止めない関係者のエネルギーに,またそれらのエピソードを誇らしげに披露する赤松氏の語りに,私たちは引き込まれます。
 そもそも,日本初の公立絵画専門学校を起源とする同学は,当初,京都御苑内に学舎が設立され,また設立の当初から女子学生を受け入れるなど,戦火や遷都で困難な京都にあっても画期的な試みを積み上げ,着実に, 140 年に渡り発展を遂げてきたと赤松氏は話されます。記憶に新しいところでは,祇園祭 における鷹山の 196 年振りの復帰にも,同学は芸術を通して関られましたが,この感動は,2022 年の夏の京都で大きな話題となりました。

 さらに STEAM 教育についても言及。従来の科学・技術系の教育に Art を取り入れたSTEAM 教育の理念は,現在,世界的に注目されています。Art を含む教育により,多様性に気づき,それらを受け入れる力,また問題を見つけ,解決する独創性や創造力を養う教育が求められている―。この,世界の目指す理念こそ,同学が実践してこられた教育方針と重なるのです。
 Art や「藝」の文字の語義についてもご教示くださいました。ともに広く「技術」を意味し,ことに「藝」の象形するところは,自然に対し両手で働きかけ,大切に苗を育てるという姿を表すとのこと。

 赤松氏は,この度のキャンパス移転について,地域に開かれた「テラスのような大学」を目指すものとおっしゃいます。そうであるならば,学生のみならず,市民や京都を訪れる人々が芸術に触れ,また自らも多彩な機会を得て学び,感動する力を育める,そんな場所を与えてもらえるのではないか。そして何より,大学関係者の学びがいっそう深まるのでは。
 そんな期待で胸が熱くなる約1時間のご講演でした。新しいキャンパスを訪れる日が待たれます。

2023年2月15日号TOP