理事解説 百考千思

京都府医師会保険担当理事 畑 雅之

かかりつけ医,かかりつけ医機能を巡る議論

 かかりつけ医,かかりつけ医機能を巡る議論は,これまでも断続的に繰り返されてきたが,2013年8月に政府の社会保障制度改革国民会議がまとめた報告書により一定落ち着きを見せていた。
 しかしながら,新型コロナを契機として,あらためてその重要性が認識されている。そのような中で,財務省の財政制度等審議会が,令和4年5月に取りまとめた「春の建議」において,新型コロナの感染拡大時に,発熱患者が円滑に医療機関を受診できなかったことをもって,かかりつけ医機能が機能していなかったとし,その教訓を踏まえて,かかりつけ医機能の要件を法制上明確化することを主張した。この建議を皮切りに多くの関係者が,財務省が主張する内容で議論が進むことを警戒し,各方面で急ピッチで議論が進んだ。
 まず財務省は,かかりつけ医機能を備えた医療機関をかかりつけ医として認定するなどの制度を設けること,こうしたかかりつけ医に対して利用希望の者による事前登録・医療情報登録を促す仕組みを導入することを提案した。また,かかりつけ医の普及・定着の観点から,認定を受けたかかりつけ医による診療について定額の報酬も活用して評価していく一方で,登録をしておらず医療機関側に必要な情報がないにもかかわらずあえてこうしたかかりつけ医に受診する患者にはその全部または一部について定額負担を求めることを,かかりつけ医の制度化に併せて検討することを求めた。
 財務省が主張するかかりつけ医の制度化は,かかりつけ医を登録制とし,患者一人あたりの定額制を導入することによって医療費を抑制することが目的にある。
 その後,政府が6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」に『かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う』と明記されたことから,かかりつけ医機能を巡る議論はさらに深化が求められることになった。
 これを受けて日医では,会内の「かかりつけ医ワーキンググループ」(副座長:松井道宣府医会長)で検討を重ねた結果を,日医執行部内でさらに検討し,令和4年11月「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)」を公表した(京都医報令和4年12月1日号付録保険医療部通信参照)。

【日医】「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)」(抜粋)

  • 国民,医療機関,感染症発生・まん延時(有事)のそれぞれの視点から,
    国民:フリーアクセスを前提に,現在の「医療機能情報提供制度」の内容を改めて,適切な医療機関を自ら選択できるよう支援する。
    医療機関:自らが持つ機能を磨くことにより縦糸を伸ばすとともに,地域の他医療機関と連携を通じて横糸を紡ぎ,地域における面としてのかかりつけ医機能が織りなされ,さらに機能が発揮されていくことを目指す。
    有事への対応:地域医療体制全体の中で感染症危機時に外来診療などを担う医療機関をあらかじめ明確化しておくことで,国民が必要な医療を受けられるようにしていく。
  • 日本医師会は,かかりつけ医機能研修制度を実施するなど,これまで一貫して「かかりつけ医の普及」に取り組んできた。大切なことは,国民・患者に良質で安心できる医療を提供していくことである。医師と国民・患者の間で平時から身近で頼りになる関係を作ることが重要である。医師(医師会・医療界)自身が変わっていかなければならないことがあるのであれば積極的に受け止め,国民・患者が相談しやすい環境整備に向けて真摯に取り組み,改革を進めていく。
  • かかりつけ医機能に関する診療報酬の評価を,多くの医療機関が算定できるようにするとともに,今後評価をさらに充実・強化させるべきである。あわせて,地域に根差した活動への評価・支援,連携やネットワークの構築等の環境整備等を図るため,診療報酬上の評価のみならず補助金等の活用が不可欠である。
  • 日常診療時より,他の医療機関と連携し,地域住民(患者)の医療ニーズに対し,地域におけるネットワークで対応していくことが望ましい。急変時においても,可能な限り地域におけるネットワークで対応を行い,必要に応じて救急搬送の依頼や,高度急性期を担う医療機関での対応を行うべきである。地域の住民が誰一人困ることがないよう,地域医師会がリーダーシップを取り,診診連携・病診連携のネットワーク等により,「地域における面としてのかかりつけ医機能」を発揮する必要がある。
  • 「医療機能情報提供制度」の充実・強化を進めていく。そのうえで,「医療機関がかかりつけ医機能を発揮するために」,「かかりつけ医機能への評価の充実・強化」の取組を総合的に進め,その結果として「地域における面としてのかかりつけ医機能」を発揮していくことが,まさに「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」である。

 同時期には,健康保険組合連合会も<議論の整理>を発表した。
 制度整備に向けた当面の課題として,①かかりつけ医機能の明確化,②医師・医療機関の届出・認定,③医師・医療機関の可視化,④国民・患者による選択―の4項目が不可欠であると指摘。国民・患者がかかりつけ医を選んでも,保険者が把握できなければ協働・連携が困難なことから,国民・患者が自分のかかりつけ医を「登録」する仕組みが有用としている。
 また,健康医療全般にわたる情報の一元化や調整窓口となることを想定した場合,登録するかかりつけ医は「1人」とすることが想定されるとした。
 各関係者から一定の見解が示される中,厚労省の社会保障審議会・医療部会と政府の全世代型社会保障構築会議のそれぞれから具体案などが示された。

【厚労省】「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」骨格案(抜粋)

医療機能情報提供制度の拡充(よろずネット)
  • 国民に向けてわかりやすい内容に変更
  • 具体的な項目については,有識者や専門家の参画を得て今後詳細を検討
  • かかりつけ医機能の定義を法定化する(身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う医療機関の機能)。
かかりつけ医機能報告制度の創設
  • 医療機関は患者や国民のニーズに応じた機能を都道府県に報告
  • 都道府県はこの報告をもとに地域における充足状況などを公表

【政府(全世代型社会保障構築会議報告書)】「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」(抜粋)

  • かりつけ医機能の定義については,現行の医療法施行規則に規定されている「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う機能」をベースに検討すべきである。
  • こうした機能の一つとして,日常的に高い頻度で発生する疾患・症状について幅広く対応し,オンライン資格確認も活用して患者の情報を一元的に把握し,日常的な医学管理や健康管理の相談を総合的・継続的に行うことが考えられる。そのほか,例えば,休日・夜間の対応,他の医療機関への紹介・逆紹介,在宅医療,介護施設との連携などが考えられる。
  • このため,医療機関が担うかかりつけ医機能の内容の強化・向上を図ることが重要と考えられる。また,これらの機能について,複数の医療機関が緊密に連携して実施することや,その際,地域医療連携推進法人の活用も考えられる。
  • かかりつけ医機能の活用については,医療機関,患者それぞれの手挙げ方式,すなわち,患者がかかりつけ医機能を担う医療機関を選択できる方式とすることが考えられる。そのため,医療機能情報提供制度を拡充することで,医療機関は自らのかかりつけ医機能に関する情報について住民に分かりやすく提供するとともに,医療機関が自ら有するかかりつけ医機能を都道府県に報告する制度を創設することで,都道府県が上記の機能の充足状況を把握できるようにすることが考えられる。また,医師により継続的な管理が必要と判断される患者に対して,医療機関がかかりつけ医機能として提供する医療の内容を書面交付など(電子的手段を含む)により説明することが重要である。
  • 特に高齢者については,幅広い診療・相談に加え,在宅医療,介護との連携に対するニーズが高いことを踏まえ,これらのかかりつけ医機能をあわせもつ医療機関を都道府県が確認・公表できるようにすることが重要である。同時に,かかりつけ医機能を持つ医療機関を患者が的確に認識できるような仕組みを整備すべきである。
  • 地域全体で必要な医療が必要なときに提供できる体制が構築できるよう,都道府県が把握した情報に基づいて,地域の関係者が,その地域のかかりつけ医機能に対する改善点を協議する仕組みを導入すべきである。

 現時点(令和4年12月20日)において,厚労省社会保障審議会・医療部会で示された案や全世代型社会保障構築会議の報告書で共通しているのは,財務省が当初主張していた登録制や人頭払いにはなっていないことである。
 府医では,京都医報9月1日号・15日号や地区医との懇談会等でもお知らせしているとおり,かかりつけ医は制度化するのではなく,その機能をより強化することで国民の信頼に応えることが重要であると主張してきたところである。かかりつけ医機能の定義とされる「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う機能」についても,すでに多くの医師が実践しているが,必ずしもひとりの医師,一つの医療機関がすべての機能を備えなければならないものではなく,必要に応じて他院を紹介するなど,地域として機能を発揮することが重要と考えている。また,日医も主張しているとおり,内科,小児科はもとより診療科にかかわらずかかりつけ医の役割は果たしており,患者は複数の医療機関とのかかりつけの関係を持てる必要がある。さらに,各医療機関が機能に応じた役割を果たすためにも,かかりつけ医機能を評価した診療報酬について,より多くの医療機関が算定できるよう改善を求めていく。
 令和5年の通常国会での医療法改正を視野に,今後基本的な考え方がまとめられる予定であり,引続き議論の状況を注視するとともに,取りまとめられた内容をあらためてお知らせする。

2023年1月15日号TOP