「新型コロナウイルス感染症 第8波に向けて」,「医師の働き方改革」について議論

 京都府立医科大学医師会と府医執行部との懇談会が11月16日(水),京都府立医科大学附属病院(3階・かもがわ会議室)で開催され,京都府立医科大学医師会から13名,府医から9名が出席。「新型コロナウイルス感染症 第8波に向けて」,「医師の働き方改革」をテーマに議論が行われた。

新型コロナウイルス感染症第8波に向けて

 新型コロナウイルス感染症への対応として,これまで府医が進めてきた多岐にわたる取組みについて説明した。

かかりつけ医の役割
 かかりつけ医の役割は,まず,「入口以前」の対応としてワクチン接種の実施,「入口部分」となる発熱患者への対応では,診療・検査医療機関として発熱患者の検査・診療,治療の実施,介護施設・高齢者施設等におけるクラスター対策,「入口以降」の陽性者への対応としては,自宅療養者への電話・オンライン診療や訪問診療,宿泊療養者の健康観察への協力,「出口以降」では罹患後症状への対応と発症前の医療・介護の継続―が挙げられ,それぞれが地域の中でできることを可能な範囲で実施していくことが重要である。

季節性インフルエンザとの同時流行に備えて
 現時点での課題としては,国の方針が急に発出され,短期間のうちに変更されることも多いため,行政と確認し合いながら対応を進めていく必要があることである。また,医療資源,行政資源にも限界があるため,新型コロナ対応を受けて,地域医療構想や地域包括ケアを改めて見直していく必要がある。そして,喫緊の課題としては,新型コロナと季節性インフルエンザの同時流行に備えることである。インフルエンザの大流行があれば,第6波,第7波以上に医療提供体制の逼迫が懸念され,インフルエンザを含む重症者の受入れ体制を考えていく必要がある。また,診療・検査医療機関に発熱患者が殺到し,さらなる逼迫も懸念される。
 厚労省が示した新型コロナとインフルエンザの同時流行に備えた外来受診・療養の流れ図では,重症化リスクの低い発熱患者の場合,初診からオンライン診療をしてもよいという考えが見てとれるが,日本感染症学会が示した同時流行時の外来診療フローチャートでは,オンライン診療はあくまで緊急避難的な措置であり対面診療が原則であることが明記されている。インフルエンザ罹患の蓋然性が高いと考えらえる場合,電話・オンライン診療であっても,医師の臨床診断により抗インフルエンザ薬を処方することも可能となっているが,対面診療時の症状から「インフルエンザ様疾患」と臨床診断したもののうち,実際にインフルエンザであったのは60%弱であったという研究結果もあり,オンライン診療ではさらにインフルエンザを含む急性呼吸器感染症の診断が難しく,治療が必要な患者を見逃す可能性があるため,緊急時に限定されるべきであるとされている。
 流行期に備えた対策として,各医療機関においてワクチン接種を促進するとともに,診療・検査医療機関のさらなる増加を図る必要がある。また,流行を早期に捉えることが重要となるが,定点観測の結果は2週間遅れで示されるため正確な把握が難しいことから,府医が運営する「京いんふるマップ」,「京ころなマップ」を活用して流行を即座に把握できるよう各医療機関に協力を呼びかけていく。その他,府民・市民への行動の啓発,検査キットや薬剤の確保,インフルエンザの重症者の入院受入体制の確認,救急医療と一般医療の確保,高齢者施設・介護施設でのクラスター対応の強化等が必要になる。

医師の働き方改革について

 日本の医療提供体制が医師・看護師の過重な労働によって支えられている現状を改善し,医療従事者の健康の確保と地域医療体制の確保を図ることを目的として「医師の働き方改革」が進められており,国は医師の時間外労働の水準として,将来的にA水準(上限を原則年間960時間)とC1・C2水準(集中的技能向上水準)の2つに収斂させていくこととしている。
 医師の労働時間に係る令和元年の調査では,平成28年調査と比較し,年代別では20代~40代において時間外労働1,860時間換算以上の医師の割合が減少し,診療科別でも救急科・放射線科を除いて長時間労働医師の割合が減少していることが示された。

府医大における取組み
 令和6(2024)年度からの適用開始に向けて取組みを進めるにあたり,府医大において令和元年に実施したアンケート結果では,医師の幸福度に影響している因子として,持続的な幸福に最も繋がっていたのは「キャリアの満足度」であった。一方で,1週間の労働時間が60時間を超えると「不幸」の割合が増加していた。働き方改革を考える上で,この「キャリアの満足度」を維持しながら進めていくことが重要である。
 府医大では,労働時間に係る調査・分析による勤務実態の把握,タイムレコーダーの設置による労務管理,宿日直許可の取得確認等の取組みの他,タスク・シェアリングとして,グループ主治医制(チーム制)を導入し,スムーズに運用を開始している。地域医療提供体制において機能分化と連携を推進するためには,上手な医療のかかり方の普及・啓発に努め,患者の理解を得ることが重要である。これらの取組みを進めた結果,令和4年1月~2月の調査では,常勤勤務医の週労働時間が令和2年調査時に比べて減少していた。
 医師の働き方改革の目指す先は,より質の良い医療の提供であり,医師・医療従事者の数と労働力には限界があるため,人材活用とワークシェア,人材育成を進める必要がある。現在,心不全ネットワークにおける地域連携・多職種連携の試みとして,お薬手帳に心不全シールを貼付し,医師・薬局・患者の連携を図ることに取組んでおり,大学だけでなく,より広く地域で取組みを進めていくことで,働き方改革の推進に繋がってくと考えている。
 医師の働き方改革を推進するためには,管理者や医師自身が働き方改革について知り,ビジョンや目標,個々の思いを共有し,積極的なコミュニケーションを通じて情報共有しながら,病院が一体となって,さらにはオール京都,オールジャパンで取組みを進めていく必要がある。

◇意見交換
 府医大からは,今後の感染拡大に備えた入口対策において,京都市急病診療所の果たす役割は大きいとして,府医会館の駐車場に設置されたコンテナ等の活用により,新型コロナやインフルエンザについてもうまくトリアージし,市民の医療へのアクセスを確保することが重要であるとの指摘がなされた。第7波において,医療にアクセスできない人が不安に感じ,救急車を呼んでしまうことが社会的な問題となったことを受けて,第8波では緊急時のやむを得ないケースに対応できるオンライン診療の体制と,薬剤を患者に届けられる仕組みを二次医療圏ごとに整備することで,救急医療体制の逼迫を防ぐことができるのではないかと提案された。
 府医からは,急病診療所では発熱した小児への対応が以前から課題となっており,年末年始には府医会館2階に特設の診察室を設置し,発熱外来を拡充して対応することを検討しているとした上で,急病診だけではカバーできる数に限界があるため,地域の医療機関にも協力を要請する必要があるとの考えを示した。想定されるような新型コロナとインフルエンザの同時流行が起こる前に,3回目,4回目の新型コロナワクチン接種を府民に呼びかけていく必要があるとした。
 また,医師の働き方改革への取組みに関して,府医大より,チームで患者を診るという意識が非常に大事であるが,日本ではまだまだ馴染みが薄いと指摘。地域のかかりつけ医から病院に紹介する際,患者に対して「○○先生を紹介します」と説明することが多いが,今後は「○○先生のチームを紹介します」と説明することで,「病院ではチームで診てもらう」という意識付けができ,病院におけるワーク・シェアリングに対する患者の理解が深まるのではないかと提案があった。
 府医からは,意識改革はかかりつけ医側にも必要であり,「1人の医師が1人の患者を診る」という意識から,「チームで1人の患者を診る」さらには「地域で1人の患者を診る」という考えにシフトしていく必要があるとの考えを示した。

2023年1月15日号TOP