2023年1月15日号
府医では,府民・市民向け広報誌「BeWell」,VOL.99「甲状腺について」を発刊しました。
各医療機関におかれましては,本紙を診療の一助に,また待合室の読み物としてご活用ください。
本誌に関するお問い合わせは,府医総務課(電話:075-354-6102, FAX:075-354-6074)までご連絡ください。
VOL.99「甲状腺について」
(A3版,見開き4ページ)
須川クリニック 須川 秀夫
甲状腺ホルモンは,異常にならないとその存在がわからないような臓器です。
体のすべての細胞内にある核受容体に結合して遺伝子発現を調節しています。それによって,各臓器,各組織のそれぞれに分化した機能の調節に関わります。
日常は,甲状腺ホルモンは種々の調整機構によって,安定に保たれています。しかし,この甲状腺ホルモンの調整がうまくいかないと,体内環境に支障が出てきます。全身臓器に関連するため,症状は,さまざまで画一的ではありません。血液検査で甲状腺に何らかの異常を認めるのは,10~15%というデータがあり,身近に隠れています。働きすぎ,歳のせいと思っている中に,甲状腺の病態が紛れ込んでいることも少なくありません。
甲状腺機能低下症は,一言でいえば代謝機能の低下を引き起こします。
患者さんの症状としては,冷え性,便秘,疲労,体重増加,生理不順,不妊,高脂血症,肝臓機能異常,精神神経状態など,多彩です。ただ,極端な偏食やダイエットでも,甲状腺異常が出るときがあります。この時は,生活改善で回復します。特殊な生活習慣をされていないかどうかの問診も必要です。甲状腺以外の問題点がない甲状腺機能低下症は,甲状腺ホルモン剤の服用となります。
近年の研究から,甲状腺ホルモンは,受精卵の着床,絨毛形成,胎盤形成に少なからず関与することが判明し,不妊治療の方面でも重要であるとわかってきました。
血中甲状腺ホルモンが過剰(甲状腺中毒症)な時は,異常な代謝亢進となります。不整脈,体重減少,下痢,虚脱,肝機能障害,生理不順などの症状として表れることが多いですが,体の調節機能が破綻して重篤になると致命することも生じます(甲状腺クリーゼ)。したがって,診断は急ぎます。
甲状腺中毒症の原因は多種類あります。ただ,特に重要なことは,これらの原因の違いで治療方法が異なることです。甲状腺ホルモン値が高いだけでは,抗甲状腺剤の処方をすることは避けてください。
甲状腺に発生する腫瘍は少なくありません。多くは良性なので経過観察でよいものですが,中には手術を要することがあります。甲状腺腫瘍は,ほとんどの場合,甲状腺ホルモン値に異常は認められません。従って,血液だけでは診断はできません。必要に応じて超音波検査や細胞診検査などを併せて診断します。
甲状腺学会では,ガイドラインをいくつか作成しています。ご診療のお役に立てていただければありがたいです(https://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html)。