保険医療部通信(第375報) – 政府が骨太の方針を閣議決定 社会保障関係費の伸びに経済・物価動向の視点を追加も、結論は年末の予算編成に見送り

 政府は6月16日,「経済財政運営と改革の基本方針2023」(いわゆる骨太の方針)を閣議決定した。
 焦点となっていた2024年度の社会保障関係費の考え方について,原案段階では実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目安とする方針が踏襲されていたが,日医の働きかけにより自民党内から物価高騰・賃金上昇への対応を求める意見が出され,高齢化の伸びにおさめる方針に加えて,「経済・物価動向」を踏まえることが追記された。
 また,診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定(トリプル改定)の財源について,財務省は「異次元の少子化対策」の財源の確保のために社会保障関係費の歳出改革を徹底するよう求めるとともに,患者負担や保険料負担を抑制するためにプラス改定には応じない姿勢を示していた。トリプル改定の財源確保が厳しい様相を呈する状況で,松本日医会長は,公定価格の診療報酬で運営している医療機関が物価・賃金上昇に対応するのは困難だと反論し,トリプル改定に向けた財源確保について骨太の方針に記載するよう強く求めた。結果的には,「物価高騰・賃金上昇,経営の状況,支え手が減少する中での人材確保の必要性,患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ,患者・利用者が必要なサービスを受けられるよう,必要な対応を行う」とされた。
 トリプル改定に向けて,高齢化による増加分だけではなく,経済・物価動向を踏まえて検討する方針が明記されたことは評価できるが,いかようにも解釈可能な表現であり,報酬の引上げが明確に示されたわけではなく,年末の予算編成に向けて不透明な状況である。府医においても6月18日の代議員会にて,全就業者の約12%にあたる医療・介護分野の就業者の生活を守り,国民が安心して医療・介護を受けることができるよう,2024年度の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬のトリプル改定に向けて必要な財源を確保することを政府に強く求める決議を採択し,岸田首相はじめ関係大臣などに送付した。
 その他,リフィル処方が当初の想定ほど実施されていないことから,活用を進めることが明記されたが,府医としては,医師が慢性疾患の患者に対して定期的に診察を行い,医学管理することは安心安全の観点から当然であり,利便性のみで導入されたリフィル処方を強引に進めることは絶対反対である。財務省からは薬剤師主導で導入を促す提案がされているが,処方権は医師法により医師のみに認められており,検討に値しない。
 引続き国の議論の状況を注視するとともに,近医連などを通じて日医に意見を具申し,国の審議会等での発言を後押していく。
 経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針)の概要は以下のとおり。

◇経済財政運営と改革の基本方針2023(抜粋)

  加速する新しい資本主義
  ~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~
第4章 中長期の経済財政運営

2.持続可能な社会保障制度の構築
 日本が本格的な「少子高齢化・人口減少時代」を迎える歴史的転換期において,今後の人口動態の変化や経済社会の変容を見据えつつ,目指すべき将来の方向として,「少子化・人口減少」の流れを変えるとともに,分厚い中間層を形成し,これからも続く「超高齢社会」に備えて持続可能な社会保障制度を構築する必要がある。第2章3「少子化対策・こども政策の抜本強化」に基づく対策を着実に推進し,現役世代の消費活性化による成長と分配の好循環を実現していくためには,医療・介護等の不断の改革により,ワイズスペンディングを徹底し,保険料負担の上昇を抑制することが極めて重要である。このため,全ての世代で能力に応じて負担し支え合い,必要な社会保障サービスが必要な方に適切に提供される全世代型社会保障の実現に向けて,改革の工程251の具体化を進めていく。また,これらに基づいて,最新の将来推計人口や働き方の変化等を踏まえた上で,給付・負担の新たな将来見通しを示すものとする。

(社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進)
 医療・介護サービスの提供体制については,今後の高齢者人口の更なる増加と人口減少に対応し,限りある資源を有効に活用しながら質の高い医療介護サービスを必要に応じて受けることのできる体制を確保する観点から,医療の機能分化と連携の更なる推進,医療・介護人材の確保・育成,働き方改革,医療・介護ニーズの変化やデジタル技術の著しい進展に対応した改革を早期に進める必要がある。
 このため,1人当たり医療費の地域差半減に向けて,都道府県が地域の実情に応じて地域差がある医療への対応などの医療費適正化に取り組み,引き続き都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進するとともに,都道府県のガバナンス強化252,かかりつけ医機能が発揮される制度整備の実効性を伴う着実な推進,地域医療連携推進法人制度の有効活用,地域で安全に分娩できる周産期医療の確保,ドクターヘリの推進,救急医療体制の確保,訪問看護の推進,医療法人等の経営情報に関する全国的なデータベースの構築を図る。実効性のある医師偏在対策,医療専門職のタスク・シフト/シェア,薬局薬剤師の対人業務の充実,対物業務の効率化,地域における他職種の連携等を推進する。その中で,医師が不足する地域への大学病院からの医師の派遣の継続を推進する。また,関係者・関係機関の更なる対応253により,リフィル処方の活用を進める。
 医療DX推進本部において策定した工程表254に基づき,医療 DX の推進に向けた取組について必要な支援を行いつつ政府を挙げて確実に実現する。マイナンバーカードによるオンライン資格確認の用途拡大や正確なデータ登録の取組を進め,2024年秋に健康保険証を廃止する。レセプト・特定健診情報等に加え,介護保険,母子保健,予防接種,電子処方箋,電子カルテ等の医療介護全般にわたる情報を共有・交換できる「全国医療情報プラットフォーム」の創設及び電子カルテ情報の標準化等を進めるとともに,PHR として本人が検査結果等を確認し,自らの健康づくりに活用できる仕組みを整備する。その他,新しい医療技術の開発や創薬のための医療情報の二次利活用,「診療報酬改定 DX 」による医療機関等の間接コスト等の軽減を進める。その際,医療 DX に関連するシステム開発・運用主体の体制整備,電子処方箋の全国的な普及拡大に向けた環境整備,標準型電子カルテの整備,医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策等を着実に実施する。
 健康寿命を延伸し,高齢者の労働参加を拡大するためにも,健康づくり・予防・重症化予防を強化し,デジタル技術を活用したヘルスケアイノベーションの推進やデジタルヘルスを含めた医療分野のスタートアップへの伴走支援などの環境整備に取り組むとともに,第3期データヘルス計画を見据え,エビデンスに基づく保健事業255を推進する。リハビリテーション,栄養管理及び口腔管理の連携・推進を図る。全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の集積・活用と国民への適切な情報提供,生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)に向けた取組の推進,オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実,歯科医療機関・医科歯科連携を始めとする関係職種間・関係機関間の連携,歯科衛生士・歯科技工士等の人材確保の必要性を踏まえた対応,歯科技工を含む歯科領域における ICT の活用を推進し,歯科保健医療提供体制の構築と強化に取り組む。また,市場価格に左右されない歯科用材料の導入を推進する。計画256に基づき,がんの早期発見・早期治療のためのリスクに応じたがん検診の実施や適切な時機でのがん遺伝子パネル検査の実施,小児がん等に係る治療薬へのアクセス改善などのがん対策及び循環器病対策を推進する。また,難聴対策,難病対策,移植医療対策257,慢性腎臓病対策,アレルギー疾患対策,メンタルヘルス対策,栄養対策等を着実に推進する。
 創薬力強化に向けて,革新的な医薬品,医療機器,再生医療等製品の開発強化,研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行うため,保険収載時を始めとするイノベーションの適切な評価などの更なる薬価上の措置,全ゲノム解析等に係る計画258の推進を通じた情報基盤259の整備や患者への還元等の解析結果の利活用に係る体制整備,大学発を含むスタートアップへの伴走支援,臨床開発・薬事規制調和に向けたアジア拠点の強化,国際共同治験に参加するための日本人データの要否の整理,小児用・希少疾病用等の未承認薬の解消に向けた薬事上の措置と承認審査体制の強化等を推進する。これらにより,ドラッグラグ・ドラッグロスの問題に対応する。さらに,新規モダリティへの投資や国際展開を推進するため,政府全体の司令塔機能の下で,総合的な戦略を作成する。医療保険財政の中で,こうしたイノベーションを推進するため260長期収載品261等の自己負担の在り方の見直し,検討を進める。大麻に関する制度を見直し,大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を行うほか,OTC 医薬品・OTC 検査薬の拡大に向けた検討等によるセルフメディケーションの推進,バイオシミラーの使用促進等,医療上の必要性を踏まえた後発医薬品を始めとする医薬品の安定供給確保,後発医薬品の産業構造の見直し,プログラム医療機器の実用化促進に向けた承認審査体制の強化を図る。また,総合的な認知症施策を進める中で,認知症治療の研究開発を推進する。献血への理解を深める262とともに,血液製剤263の国内自給,安定的な確保及び適正な使用の推進を図る。
 急速な高齢化が見込まれる中で,医療機関の連携,介護サービス事業者の介護ロボット・ICT 機器導入や協働化・大規模化,保有資産の状況なども踏まえた経営状況の見える化を推進した上で,賃上げや業務負担軽減が適切に図られるよう取り組む264。介護保険料の上昇を抑えるため,利用者負担の一定以上所得の範囲の取扱いなどについて検討を行い,年末までに結論を得る265。介護保険外サービスの利用促進に係る環境整備を図る。
 医療介護分野における職業紹介について,関係機関が連携して,公的な職業紹介の機能の強化に取り組むとともに,有料職業紹介事業の適正化に向けた指導監督や事例の周知を行う。
 次期診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定においては,物価高騰・賃金上昇,経営の状況,支え手が減少する中での人材確保の必要性,患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ,患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう,必要な対応を行う。その際,第5章2における「令和6年度予算編成に向けた考え方」266を踏まえつつ,持続可能な社会保障制度の構築に向けて,当面直面する地域包括ケアシステムの更なる推進のための医療・介護・障害サービスの連携等の課題とともに,以上に掲げた医療・介護分野の課題について効果的・効率的に対応する観点から検討を行う。
勤労者皆保険の実現,年齢や性別にかかわらず働き方に中立的な社会保障制度の構築に向け,企業規模要件の撤廃など短時間労働者への被用者保険の適用拡大,常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種の解消等について次期年金制度改正に向けて検討するほか,いわゆる「年収の壁」について,当面の対応として被用者が新たに106万円の壁を超えても手取りの逆転を生じさせない取組の支援などを本年中に決定した上で実行し,さらに,制度の見直しに取り組む。


251 「全世代型社会保障の構築に向けた取組について」(令和4年12 月16 日全世代型社会保障構築本部決定)に基づく給付と 負担の在り方を含めた工程。

252 中長期的課題として,現在広域連合による事務処理が行われている後期高齢者医療制度の在り方,生活保護受給者の国保及び後期高齢者医療制度への加入を含めた医療扶助の在り方の検討を深めることなどを含む。

253 保険者,都道府県,医師,薬剤師などの必要な取組を検討し,実施する。

254 「医療DX の推進に関する工程表」(令和5年6月2日医療DX 推進本部決定)。

255 予防・重症化予防・健康づくりの政策効果に関する大規模実証事業を活用する

256 「がん対策推進基本計画」(令和5年3月28日閣議決定)及び「循環器病対策推進基本計画」(令和5年3月28日閣議決定)。

257 臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言2018年版において,「各国は臓器提供と臓器移植の自給自足の達成に努めるべきである」等とされたことを踏まえ,国内の移植医療を推進する。

258 「全ゲノム解析等実行計画2022」(令和4年9月30日厚生労働省)。

259 マルチオミックス(網羅的な生体分子についての情報)解析の結果と臨床情報を含む。

260 GDP に占める日本の医薬品等の支出は他の先進国よりも高い一方,世界の医療用医薬品の販売額における日本国内の販売額のシェアは低下しており,こうした状況の中で国民負担の軽減とイノベーションの推進を両立する観点から,中長期的な薬剤費の在り方の議論も含めて,取組を進める必要がある。

261 後発医薬品への置換えは数量ベースで約8割に達しようとしているが,金額ベースでは約4割と諸外国と比較しても低い水準。

262 小中学校現場での献血推進活動を含む。

263 輸血用血液製剤及びグロブリン製剤,フィブリノゲン製剤等血漿分画製剤。

264 「介護職員の働く環境改善に向けた取組について」(令和4年12月23日全世代型社会保障構築本部決定)では,現場で働く職員の残業の縮減や給与改善などを行うため,介護ロボット・ICT 機器の導入や経営の見える化,事務手続や添付書類の簡素化,行政手続の原則デジタル化等による経営改善や生産性の向上が必要であるとされており,取組を推進する。

265 「介護保険制度の見直しに関する意見」(令和4年12月20日社会保障審議会介護保険部会)では,利用者負担の一定以上所得の判断基準のほか,1号保険料の在り方や多床室の室料負担について,2024年度から始まる次期介護保険事業計画に向けて結論を得ることとされた。

266 第5章2②で引用されている骨太方針2021においては,社会保障関係費について,基盤強化期間における方針,経済・物価動向等を踏まえ,その方針を継続することとされている。

第5章 当面の経済財政運営と令和6年度予算編成に向けた考え方

2.令和6年度予算編成に向けた考え方

  •  前述の情勢認識を踏まえ,持続可能な成長の実現に向けた経済構造の強化を進め,日本経済を本格的な経済回復,そして新たな経済成長の軌道に乗せていく。
  •  令和6年度予算において,本方針,骨太方針2022及び骨太方針2021に基づき,経済・財政一体改革を着実に推進する。ただし,重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない。
  •  構造的賃上げの実現,官民連携による投資の拡大,少子化対策・こども政策の抜本強化を含めた新しい資本主義の加速や防衛力の抜本的強化を始めとした我が国を取り巻く環境変化への対応など,重要政策課題に必要な予算措置を講ずること等により,メリハリの効いた予算編成とする。
  •  新たな拡充を要する政策課題を含め,PDCA やEBPM の取組を推進し,効果的・効率的な支出(ワイズスペンディング)を徹底する。単年度主義の弊害是正に取り組み,事業の性質に応じた基金の活用・事業効果の見える化,経済・財政一体改革における重点課題への対応など中長期の視点に立った持続可能な経済財政運営や社会保障制度の構築等を進める。

2023年7月15日号TOP