2023年6月1日号
4月15日(土),令和4年度第 38回勤務医部会総会をハイブリッド形式で開催した。
上田府医理事の司会のもとで,冒頭,松井府医会長(勤務医部会長)から「医師の働き方改革,診療報酬・介護報酬・障害福祉サービスに係るトリプル改定,第8次医療計画の見直しなど,医療を取り巻く環境は今後大きく変化していく。そのような中で医師会員の半数を占める勤務医の先生方にもしっかりと届くような情報発信のあり方を引続き考えていかなければならない」と挨拶があった。
続いて若園幹事長から「医師の働き方改革は,勤務医部会幹事会においても研修医を含む勤務医全体の問題として重要なテーマに位置付けていることから今回の企画に至った」との挨拶のあと,府医への入会促進,京都医学会への演題発表,京都医報「勤務医通信」への投稿など,令和4年度勤務医部会の活動状況を報告。「幹事会を中心に種々の問題解決に向け継続的に協議し,府医と連携しながら,必要に応じて行政へ提言していく」とした。
滋賀県済生会医療福祉センター総長・済生会滋賀県病院院長 三木 恒治 氏
座長 京都府医師会 副会長 小野 晋司 氏
基調講演では,滋賀県済生会医療福祉センター総長・済生会滋賀県病院院長の三木恒治氏が登壇し,医師労働時間短縮計画作成を中心とする済生会滋賀県病院の取組みが紹介された。
「医師の働き方改革の骨子は時間外労働の削減であり,その実現のためには,①マネジメント,②業務の移管(タスクシフト),③業務の効率化,が必要であり,三次の救命救急病院としての使命を果たしながら,同時に医師等の働き方改革,特に時間外労働の削減を進めていくためには,多くのハードルがあり,早期に取り掛かる必要があった」と当時の心境を吐露。実態を把握するために,まずは診療科別および年齢別の時間外労働時間の平均を洗い出したところ,医師が不足している診療科が明らかになるとともに,救急系の診療科において,慢性的に時間外労働が発生している実態が浮き彫りとなったことを報告。これを改善するために,①守山市民病院との役割分担(急性期機能と慢性期機能をすみ分け,済生会滋賀県病院に急性期機能を集中),②タスクシフトの徹底(当直翌日の残業の禁止,シフト制による振替休日の着実な取得),③先進医療機器を積極的に導入することで,大学病院が医師を派遣しやすい環境を整備,④医師事務補助作業補助者の増員を目的に 40名体制の医師支援課を新設,⑤医師以外の他職種を中心に配置した入退院支援センターの開設(入院前に医療資源を集中的に投入することで医師の関与を最小限に抑える)など,医師の勤務環境を改善するための様々な取組みを行うとともに,並行してコメディカルに移管できる業務の洗い出しに多くの時間を割いて検討を重ねたことを紹介した。
特に,時間外労働の多い診療科に対しては,個別に改善に取組むとともに,当該医師の当直回数を減らすことに対して当該診療科全体の理解を求めたほか,大学との連携や医師の増員により,土日祝日の日勤帯を通常勤務とする変形労働制を導入したことで時間外労働が激減したことを報告した。
基調講演の後半では,評価受審の申し込みに向けて,医師労働時間短縮計画作成に際して実際に必要となる書類の実務的な記載方法や苦労した点を中心に解説し,ガイドラインに沿って作成したものの,細かな指摘を受けて遅々として進まなかった経験を披露。勤務環境改善センターとの協議の中で,管理者のリーダーシップと医師の意識改革が重要であることを再認識させられたことから,① IC カード打刻の徹底,②時間外・休日勤務のルールの徹底,③労働時間の明確化(勤務と研鑽の明確化および時間内 IC への理解と周知),④宿日直許可などについて,院内で継続的に勤務医と面談の機会を持ったことを説明した。
特に宿日直許可については,救急医療体制を確保する側面からも研修医2名に対して救急医のバックアップ体制を敷き,必要に応じて当直医へコンサルトする仕組みを構築し,勤務と宿日直を明確に峻別。加えて事務部門が労働基準監督署と複数回にわたって折衝を行うことで病院の特性を理解してもらうことが重要であると解説した。
最後に「医師等の働き方改革を実現するためには,医師や医師事務作業補助者,事務職員の増員に加えて,タスクシフト・タスクシェアの活用などが不可欠であり,診療機能の分担・効率化により徹底した時間外労働の削減,平準化が実現できたことで,一人あたりの負担を軽減することに成功し,働きやすい環境を提供することにつながった」と,これまでの取組みの成果を振り返るとともに,医師等の働き方改革を通じて業務改善や意識改革に取組み,収益増や働き甲斐のある職場になることが,医師,患者の双方にとって大きなメリットになるとして講演を締め括った。
滋賀県済生会医療福祉センター総長・ 済生会滋賀県病院院長 三木 恒治 氏
京都第一赤十字病院副院長 沢田 尚久 氏
宇治徳洲会病院副院長 久保田良浩 氏
京都第二赤十字病院救急科副部長・京都府医師会理事 成宮 博理 氏
が登壇
引続いて行われたディスカッションでは,「医師の働き方改革を取り巻く諸問題」をテーマとして,若園幹事長を座長とし,三木恒治氏,京都第一赤十字病院副院長の沢田尚久氏,宇治徳洲会病院副院長の久保田良浩氏,京都第二赤十字病院救急科副部長の成宮博理氏が登壇し,各病院の実情等について,活発な意見交換が行なわれた。
まず宿日直許可については,各病院が自院の事情のみならず,地域の救急医療体制との両立という観点も考慮する必要があるため,苦慮している状況が窺えた。労働基準監督署の対応が当初に比べて軟化しているとはいえ,許可が取れそうな診療科のみを慎重に選別して申請している実情が認められたほか,時間外勤務やシフト制により対応している現状なども報告された。また,市中病院では概ね宿日直許可が取れていると認識しているものの,労働基準監督署の指摘ひとつで,一気に規制強化に転じる懸念が払拭できず,たちまち救急医療体制が崩壊に陥る危険性があることから,行政や府医,勤務環境改善センターの積極的な介入を求める意見があった。
さらに,宿日直許可が取れず時間外勤務として扱っている場合の人件費の増加,宿日直を担う研修医の価値観の多様性や意識に課題がある点にも指摘が及んだ。
代償休息,勤務間インターバルについては,勤怠管理システムに対する信頼が十分でないため,事務職員の増員で補完する必要性が指摘されたほか,院内で医師の行動をモニターし続けることに抵抗感があり,勤務と研鑽のすみ分けが困難である実状が浮き彫りになった。特に,大学病院などの大規模病院ではすべてを把握することは事実上不可能であることから,改革に逆行しないようなシンプルな制度設計を望む意見が大勢を占めた。
タスクシフトについては,業務増に直結するコメディカルの理解が得られにくい実態が示されたが,タスクシフトに成功しても医師の経験不足や技術力の低下が発生するという弊害を指摘する意見や緊急時の危機管理上の課題も挙げられ,医師間のタスクシフトも選択肢として提案された。
最後に,若園幹事長から意見交換の内容を参考にして,医師等の働き方改革がよい方向に向かっていくことを願っているとして,ディスカッションを締め括った。