定年を控えて「医師の教育研修」を考える

京都第一赤十字病院 副院長
リウマチ膠原病センター長 リウマチ内科部長 福田  亙

 わたくしは昭和 33 年生まれで,本年5月にめでたく 65 歳となり,来年3月末をもって,定年退職となります。京都府立医大病院内科研修医として始めた医師としてのキャリアですが,素晴らしい先輩や同僚・部下に恵まれて,何とかリウマチ専門医としての仕事に一区切りつけることができたこと,皆様に感謝しかございません。ここでは,副院長としての7年間,関わってきた「医師の教育研修」について総括してみたいと思います。

新専門医制度
 私が当院の教育研修推進室長となってすぐに,我が国の「専門医研修制度」に大改革が起こるとの噂を聞きました。それまで学会単位で勝手に認定していた「専門医」の資格が,公的な第三者機関による認定になり,標準化された研修課程を受けて,公に標ぼうできるようになるというものです。特に「内科専門医」については臓器別専門医の基本領域として「一般内科・総合内科」に主眼を置いた研修になるとのことでした。2017 年,当院は「内科専門医研修プログラム」の基幹施設となり,私はその統括責任者として 2018 年に第1期専攻医を迎えました。献身的な室スタッフの協力があり,本年3月には第3期専攻医がプログラムを修了して計 22 名を内科専門医として送り出すことができました。しかしながら,動き出した新制度は問題山積です:
問題① 独立した第三者機関であるはずの「日本専門医機構」は,明らかに力不足で「医道審議会医師分科会専門医研修部会」からの圧力と各「学会」,「大学」からの抵抗にあって「独立した第三者機関」としては,ほぼ機能していません。
問題② 医師の偏在問題を解決するとして,「シーリング」や「地域貢献指数」などの迷案を導入され,一部の専攻医の自由を奪うとともに,研修そのもののあり方が歪められています。
問題③ 制度開始からすでに6年が経過した今年になってようやくサブスペシャルティ研修の施設認定やカリキュラム承認ができるなど,あまりにも遅れています。さらに一部学会に関して「学会専門医」なるものを認めるなど,制度の根幹にかかわる問題を生み出しています。今後,これらの問題の解決・解消に動いてくれることに期待しますが,現実には「前途多難」という印象しかありません。

初期研修
 初期研修に関しては 2020 年に研修管理における都道府県の権限が拡大したほかには,大きな変化はありませんでした。当院はさいわい初期研修医の定員を削減されることなく,多くの医学生から支持される研修施設であり続けることができたと思っています。目下のところ,私の初期研修における最大の関心事は「働き方改革」とそれにともなう研修環境の整備です。周知のように「医師の働き方改革」の大号令により,現場医師の意向や病院・地域医療の実態は置き去りにされたまま医師の労働時間の強制削減が進められようとしています。研修医に関しても例外ではなく副直(夜間時間外)労働を含めた時間外労働時間規制の枠が嵌められ,当院でも基準を満たすべく勤務の調整を行うように計画しています。一方で,個人的には「自己研鑽」と「勤務」という医師にとってはほぼ意味のない境界線を引かせることの不合理,意欲ある研修医の研修時間を制限して機会を奪うことの理不尽,そして,結局要領の悪い研修医ほど時間外が増えて収入が多くなるという不公平などが生じることは容易に予想されます。果たして,これからの「研修医の働き方改革」が彼らの生活の質だけでなく研修の質を高めることにつながるのか,大いに疑問に感じています。

医師の教育研修はどう変わるか
 ここまで,専門医研修,初期研修の最近の状況と課題について触れましたが,私には具体的な制度の問題に由来する不安のほかに,非常に不透明な「医療の進歩」に由来する不安もあります。現在の外科におけるロボット技術の進歩や診断学への AIの導入などは,「手術の自動化」や診療現場での「AI 診断・治療アルゴリズム」などが一般に普及するのが,決して遠い将来ではないことを予感させます。その時に,現在の研修医が学んでいる研修内容の大部分はロボットや AI によって代替されて陳腐化することはないのでしょうか?そして我々はそのような時代にも医師として活躍できる能力や資質を涵養できるような研修・教育を行えているのかと自問します。技術や知識以外に「人間である医師」として求められるものは何かを考えることが,今後の医学教育・研修を考える上では極めて重要なことであろうと思っています。

最後に
 結局,不安や不満ばかりを書いてしまいましたが,管理職として 10 年近くを医師の教育研修に関わらせていただき,多くの研修医・専攻医を送り出せたことを大変誇りに思っています。これから,若く優秀な研修医・専攻医諸君が新しい時代の中で新たな医師としての役割を得て,医療がさらに進歩してより良きものになっていくことを信じつつ,ここに述べた教育・研修に関する課題も次世代の指導医に託すことをお許しいただきたいと思います。

Information
病 院 名 京都第一赤十字病院
住   所 京都市東山区本町 15-749
電話番号 075-561-1121(代)
ホームページ https://www.kyoto1-jrc.org/

2023年6月15日号TOP