2023年3月15日号
左京医師会と府医執行部との懇談会が1月14日(土)ウェスティン都ホテル京都で開催され,左京医師会から15名,府医から9名が出席。「オンライン資格確認」,「電子処方箋」,「かかりつけ医制度」,「医薬品の出荷調整」をテーマに議論が行われた。
~日医の考え~
日医は,「日医IT化宣言2016」で医療におけるIT技術への基本姿勢を示している。医療DXについては,業務の効率化や適切な情報連携などを進めることで,国民により安全で質の高い医療を提供するとともに,医療現場の負担を減らすことにつながると考えており,オンライン資格確認システム自体についても,これにより形成される全国の医療機関を結ぶネットワークは,今後の医療を支える重要な基盤になると肯定的に捉えている。
一方で,医療提供に混乱・支障が生じては本末転倒であり,医療現場の状況をよく確認しながら,有効性と安全性を確保した上で,利便性,効率性の実現を目指すべきとの見解を示している。
政府が示す令和5年4月からのオンライン資格確認の原則義務化,令和6年秋の現行の保険証廃止といったスケジュールには無理があるとして,義務化については十分な財政支援,丁寧な周知を求め,保険証廃止については,マイナンバーカードを取得しないことで,保険医療を受けにくくなる国民が出ることのないよう配慮を求めている。
府医でも,あまりに拙速な進め方に対しては近医連を通して反論するとともに,会員に導入状況に係るアンケートを実施し,現場の声を日医に届けてきた。
~経過措置~
令和4年12月末に政府からオンライン資格確認導入の原則義務化に係る経過措置の内容が示された(京都医報2月1日号保険だより参照)。
オンライン資格確認の導入・普及の観点から,令和5年4月から12月末までの間,初診時・調剤時における追加的な加算,再診時における加算が新設された。
これらの経過措置や加算は,現場の会員の声を丁寧に拾い上げた日医が政府に要望した結果であり,一定の合理的な対応として,少なくとも最低限の評価はできる。
オンライン資格確認については,療養担当規則にも記載されており,期日までに粛々と準備を進めていくしかないが,セキュリティリスクへの対応や義務化対象外の医療機関における資格確認の方法など課題が山積しており,府医としては今後も日医を通して必要な対応を求めていく。
~質疑応答~
地区から「カードリーダーは補助金で導入できたものの,保守契約や回線使用料などのランニングコストを考えると,もう少し加算を上げてほしい」と意見が出された。
中医協では,今回の加算について,保険者側は「義務化された以上,報酬は不要」として反対の姿勢を示していることを紹介した上で,府医では,会員に保守契約料などランニングコストに関するアンケートを実施予定であり,義務化された以上,必要な財源は国で確保いただくよう日医に要望していく意向を示した。
また,「子ども医療費受給者証や難病などの公費負担の受給者証についても,将来的にはマイナンバーカードのみで確認できるようになるか」との質問に対しては,日医からも政府に向け要望しているところであると説明。事務的な手間や医療機関の負担が増えることを危惧しており,現場の声を日医に伝えるためにも,何かあれば府医まで報告いただくよう呼びかけた。
令和5年1月に電子処方箋の運用が開始されるが,オンライン資格確認とは異なり義務ではないため,導入は医療機関の判断に委ねられている。現時点では院外処方のみを対象とし,院内処方については「将来的に対応するか検討中」としているが,具体的な議論がなく,院内処方の医療機関においては当面,従来どおりでよいと思われる。
政府は,オンライン資格確認,電子処方箋運用開始などの医療DX政策を着々と推進しているが,医療DXは安心・安全な医療につながる側面もあり,一概に否定すべきではない。しかしながら,オンライン資格確認の義務化のように,医療現場の実情にそぐわない不合理な政策決定がなされないよう,今後とも日医と連携して対応していきたい。
~質疑応答~
地区より,「院内処方が無くなるのではないかという不安がある」と意見が出された。
府医からは,都会では調剤薬局が多いが,地方では調剤薬局では収入が成り立たない地域もあるとし,現状は院内処方が無くなるという動きはないが,最近の国の強引なやり方には我々も常に最悪のシナリオを想定して考えていかなければならないと説明。国は医療 DXを推し進め,最終的にはデータの一元管理を目的としているので,将来的に院外処方か院内処方に関わらず,導入を求めてくる可能性もあると懸念を示した。
また,地区からの「電子処方箋が進むことでオンライン診療の促進につながるのではないか」との質問に対しては,利便性を理由に,医療機関での受診を抑制しているように感じていると指摘。コロナについても,本来は医療機関を受診し,それぞれの患者に必要な治療・処方が行われるべきであるが,感染拡大を理由に,自己検査で陽性であれば自分で健康観察を行うという流れになり,医療から完全に離れてしまうことを許容してしまった部分もあるとし,今後はかかりつけ医として積極的に関わる姿勢を示すことが重要であるとの考えを示した。
新型コロナ蔓延当初,感染拡大を防ぐために施策として受診に一定の制限をかけたにも関わらず,財務省は「かかりつけ医機能が十分に機能しなかった」と問題をすり替え,「かかりつけ医の制度化」を図るよう主張しているが,その真意はかかりつけ医を登録制とし,患者一人あたりの定額制を導入することによって医療費を抑制することにある。
~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~
財務省に議論を先導させないためにも多くの関係団体から対案が出される中,日医より「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)」が公表された。
平時と有事を切り離して考えた上で,有事への備えとして,地域の中で感染症に対応する医療機関をあらかじめ決めておくことと併せて,医療機関は,かかりつけ医としての役割を果たすため日々研鑽を重ねるとともに,個々の医療機関だけではなく,機能分化と連携によって地域の医療を支え,「面」としてのかかりつけ医機能を発揮することが示された。
~「医療機能情報提供制度」の内容充実化~
厚労省が示した「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」に向けた骨格案においては,すでに医療法施行規則に記載されている「医療機能情報提供制度」(京都府においては,「京都健康医療よろずネット」)の内容を充実させ,国民に向けてわかりやすい内容に変更することと併せて,各医療機関が患者や国民のニーズに応じた機能を都道府県に報告し,都道府県がその報告内容を受けて地域における充足状況などを公表する「かかりつけ医機能報告制度」を創設することが示されている。
~「面」としてのかかりつけ医機能の強化に向けて~
政府は全世代型社会保障構築会議において,かかりつけ医機能の活用については,医療機関,患者それぞれの手挙げ方式,すなわち患者がかかりつけ医を選択できる方式とする見解を示しており,財務省が当初主張していた登録制や患者一人あたりの定額制は否定された形である。
府医としては,かかりつけ医は制度化するのではなく,その機能をより強化することで国民の信頼に応えることが重要であり,診療科や開業,勤務の別に関わらず,かかりつけ医機能の定義に記されているようなことはすでに多くの医師が実践し,かかりつけ患者であるか否かにかかわらず,その機能を果たしているものと考えている。医師はそれぞれ専門領域を持つ専門医であり,自身の専門領域以外の疾病には,信頼できる専門医療機関への紹介や相談を通じて,自らも知見を広げながら,その都度かかりつけ医としての資質向上を図っており,個々の医療機関がそれぞれの機能に応じた役割を果たすことは,医療機関同士の連携によって地域医療を「面」で支えていることに他ならない。
そのためにも,現在診療報酬で評価されている地域包括診療加算など,対象疾病が限定されている点などを緩和することで,診療科にかかわらず,より多くの医療機関が算定できるよう改善を求めていく必要があると考えている。
~質疑応答~
地区より,「イギリスの家庭医制度にならないよう日医でも対応していると思うが,医療費抑制が最大の目的であり,医療崩壊に繋がらないよう,どのような点を議論されているか」と質問が出された。
府医からは,かかりつけ医の登録制とは,1人の患者が1人のかかりつけ医と契約し,契約しているかかりつけ医を受診する際には自己負担は少ないが,かかりつけ医以外を受診する際には自己負担が多くなることで,1対1の関係を作ろうとしているが,明らかにフリーアクセスの制限であると指摘。
「かかりつけ医」という言葉が出てきた背景には,超高齢社会を迎え,高齢者が圧倒的に増加する中で,住み慣れた地域で安心して生活を続けていくために地域包括ケアシステムを構築するにあたり,医療の中心的役割を果たすのがかかりつけ医と位置付けられているとした。
一方で,政府の考える「かかりつけ医」とは,アクセスの制限であり,コロナ禍において,かかりつけ医を持たない人がどこを受診すれば良いか分からなかったということをとらまえて,感染症の際にも困らないようにという理由で財務省を中心に登録制を強く打ち出してきていると説明した。
日本の開業医は,それぞれに専門分野があり,臨床や研究を積み重ねてきた専門医の集団であるが,1人の医師で全ての機能を果たす状況にはないので,自分の専門分野はしっかり診ながら,専門外については専門医や専門医療機関に紹介することで,医療の継続性を保ってきた経過があるため,今後もシステムを崩さないことが大切であるとの考えを示した。
府医では平成27年に在宅医療・地域包括ケアサポートセンターを立ち上げ,各種研修会の開催により,かかりつけ医の質の向上に取組んでいるほか,医師だけでなく府民に対しても啓発活動を行っていることを紹介。また,京都府地域包括ケア推進機構が展開する在宅療養あんしん病院登録システムの構築・普及に取組むなど,体制整備を図ってきた経過を説明した。
地域において,それぞれの専門性を理解し,有機的な連携を深めていくということが「面」としてのかかりつけ医機能であるが,地域の資源に差があるため,画一的に論じるのではなく,地域の実情に応じた対応が必要になると指摘した。
~医薬品の出荷調整に係る現状~
日薬連の「安定供給の確保に関するアンケート調査」によると,全体で28.2%,後発品では41%もの医薬品が出荷停止,限定出荷の扱いとなっている。
医薬品の出荷調整等が増加し,薬局の負担感は,令和4年12月現在で1年前と比較して 89%の薬局が状況が悪化していると回答している。
現場の医療機関では工夫して何とか日々の診療を行っている状況である。
~後発医薬品の供給不足に対する取組み~
後発医薬品メーカーの薬機法違反を契機として,同社製品の出荷が停止又は縮小し,その影響により他社品目についても出荷調整が行われ,医薬品の入手が困難な状況が発生。さらに,医療現場が,正確な供給状況が把握できず,医薬品の確保に不安を感じて平時よりも多くの注文を行うことによって,さらに需給がひっ迫する事態が生じている。
国外における原材料調達や製造工程をはじめとした産業構造の問題があり,一朝一夕に改善される性質のものではなく,国の対応も,主にメーカーへの要望や情報共有の促進といった内容にとどまる。日医も同様の方向性でメーカーへの要望を行っているが,問題があった企業の製造手順を改善するためには,国の協力も必要で,日本の薬の製造キャパシティーを考えると2~3年は要するのではないか。
~診療報酬上の特例措置~
医薬品の供給が不安定な状況を踏まえ,令和5年4月から12月までの時限的な点数として,診療報酬上の特例措置が示された。「一般名処方加算」,「外来後発医薬品使用体制加算」等について,追加の施設基準として,院内掲示が求められるので,例文が示され次第,周知する。
~意見交換~
地区から「漢方薬についてもOTCの在庫はあるが処方薬はない。円安が進むと薬価を上げないと成り立たないのに,そのような手当てもない」と意見が出された。
薬価の問題については,製薬会社の改革なくして解決は難しいとの見解を示した上で,ジェネリックが出てきた当初,懸念していたことが起こっていると指摘。かかりつけ医制度や紹介受診重点医療機関なども具体的な内容や方策が示されないまま進んでおり,人口減少社会を迎え,問題だけが山積している状況にある中で,府医としては,医療・介護に携わる問題について,しっかりと意見していくことが重要であるとの考えを示した。