2023年3月15日号
山科医師会と府医執行部との懇談会が1月21日(土),ホテルオークラ京都において開催され,山科医師会から17名,府医から8名が出席。「オンライン資格確認導入後の問題点と今後の展望」,「新型コロナワクチン未接種者への対応」,「医師会主催の懇親会等イベントの開催基準」をテーマに議論が行われた。
〈注:この記事の内容は1月21日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合がございます。〉
~維持管理費用について~
オンライン資格確認システムの導入に係る補助は初期費用に対するもののみで,導入後の維持管理費用に対する補助が示されていないことについて,府医としても問題視しており,厚労省に強く働きかけるよう日医に要請し,日医としても引続き訴えかけていくとの回答を受けたところである。
また,12月の中医協において日医が政府に働きかけた結果,「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」に関する時限的な初診料の増点と再診料への加算が新設されたが,依然としてシステムの維持管理に係る費用を賄えるほどのものではなく,今後も日医を通じた政治的な働きかけが必要であると考えている。
一方でオンライン資格確認システムは,政府が掲げる「医療DX」の基盤の一つとされており,業務効率化や医療の質の向上,データ共有による医療情報の利活用の推進は必ずしも否定すべきものではなく,日医もオンライン資格確認により形成される全国の医療機関を結ぶネットワークは今後の医療を支える重要な基盤になる,と肯定的に捉えている部分もある。今後,コスト面のデメリットを超えるメリットを生み出すような発展を期待したいところである。
~セキュリティの問題~
近年,医療機関を標的としたサイバー攻撃による被害が増加しており,オンライン資格確認システムの導入によって各医療機関のセキュリティリスクが増大することが見込まれる。日医としてもその対策の重要性を認識し,医療現場におけるサイバーセキュリティ対策の環境整備を支援すべく,令和4年6月に「日本医師会サイバーセキュリティ支援制度」の運用が開始された。同制度は,いわゆるサイバーリスク保険ではなく,日医A1会員に対し,新たな費用負担なく,①日医サイバーセキュリティ対応相談窓口の利用,②セキュリティ対策強化に向けた無料サイトの活用,③サイバー攻撃による被害や,サイバー攻撃に起因しない個人情報漏洩により被害が発生した場合に,初期対応を支援する費用として「サイバー攻撃一時支援金・個人情報漏洩一時支援金」の支払い―による支援を行うものである。
また,厚労省の医療等情報利活用ワーキンググループにおいても,オンライン資格確認の原則義務化により,概ねすべての医療機関において情報セキュリティ対策が必要となることは認識されているが,この点については国の責任で対応を進めるべきことであり,日医を通して,現場の不安を払拭できるような対策を求めていきたいと考えている。
~資格情報のデータ反映に係るタイムラグについて
オンライン資格確認システムが導入されたとしても,資格情報がきちんとデータに反映されるためには,保険者において迅速な資格取得および資格喪失の入力処理等が必要であることから,正確なデータの反映により真にリアルタイムな資格確認ができるよう,引続き資格変更時のタイムラグ解消に向けた対応を保険者側に求めていく考えである。
~今後の展望~
政府は,従来の保険証を原則廃止し,マイナンバーカードに一元化する考えを示したが,オンライン資格確認システムをはじめ,ネットワークを用いた医療情報の共有や活用が,国民医療にとって有益であるということが前面に出てくるような運用をすべきであり,それには国民の納得はもちろん,医療現場の声が十分に生かされる必要がある。今回のオンライン資格確認の義務化のような強引な進め方には断固反対し,政府は丁寧な議論を重ねた上で,真に国民の健康・福祉に資する制度を構築する義務を負っていることを強く主張していきたい。
性急なオンライン資格確認導入の一方で,生活保護医療要否意見書の作成は基本的に手書きのままであり,これらを含めて一体的に医療DXを進めるべきとの意見はご指摘のとおりである。京都市には,要否意見書の原本を必ず併せて返送すれば,「主要症状及び今後の診療見込」欄や病名欄等も含めて,「別紙のとおり」として手書きではなく入力したものを別紙添付してもよいことを確認しているが,医療DXを謳う政府と末端の行政の対応にギャップがあるのは事実であり,府医としては,医療現場が混乱しないような行政の対応を引続き求めていきたいと考えている。
新型コロナワクチンの効果については,3回目接種から6ヵ月経過すると,感染予防,発症予防の効果は薄れているものの,重症化予防,入院予防においては有効性が示されており,入院予防効果としては概ね6~8ヵ月の持続期間があるとされている。若年層を中心に1回目未接種の者も一定数あり,実臨床においても未接種の場合は高熱等の強い症状が見受けられるため,引続き接種勧奨していく必要がある。
現行では,オミクロン株対応ワクチンは,1・2回目の従来株による接種を終えた12歳以上の方に対して,3回目以降にのみ使用可能となっている。1・2回目の接種は従来型ワクチンで実施することとされているが,従来型ワクチンの供給が終了した後の未接種者への対応として,京都市においては,V-SYSとは別に構築された独自のワクチン申し込みのオンラインシステムからの定時予約は停止されているものの,まだ従来株ワクチンが保有されており,希望があれば京都市に直接申し込むことで初回接種の実施が可能となっている。
3月末の特定接種期間内に3回接種が終わらない場合についても,期間内に1回・2回でも接種するよう京都市から通知が発出されており,日程は限られるが,集団接種も実施されているため,引続き各医療機関においても接種勧奨にご協力いただきたい。
府医としては,参集での開催を検討する際,①会場の定員(会場内のディスタンスがとれるかどうか),②飛沫防止(会話の際はマスク着用),③会場の換気(会議中も扉を開いておく),④参加者の健康観察,⑤参加は強制しない―の5つの条件を勘案して判断している。
産業医研修会もこの基準に則り,参集にて開催しているが,あまりに感染者数が多い状況であれば慎重な対応を検討するなど,感染状況も考慮する必要がある。
懇親会については,これらの基準に加えて,ホテルなどの会場のガイドラインに沿っての開催となるが,席の移動が禁止されるなど,本来の目的である「懇親を深めること」が難しいことから,府医では懇親会の開催を見合わせており,また,懇親会への役員の出席に関してもソーシャルコンプライアンスに鑑みて控えている状況である。
今後,ウィズコロナの政策下においてはこれらの基準の緩和も検討が必要となるかもしれないが,各団体の基準にしたがって検討していただきたいと考えている。
◇質疑応答・意見交換
意見交換では,マイナンバーカードによる資格確認や医療DXの展望について活発な議論が行われた。ランサムウェアによる医療機関の被害が散見される中,重要なデータを守るために,定期的なバックアップの取得等,各医療機関において平素からの準備として気を付けるべきポイント等について,今後も情報提供に努めるとした。
新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的取り扱いについて解説するとともに,個別指導における主な指摘事項について資料提示した。また,療養費同意書の交付(マッサージ,はり・きゅう)に関する留意点を解説し,慎重な判断と適切な同意書の発行に理解と協力を求めた。