2023年3月15日号
中京東部医師会と府医執行部との懇談会が1月23日(月),Webで開催され,中京東部医師会から9名,府医から5名が出席。「かかりつけ医と医師の働き方改革は両立するのか」,「新規入会者を増やす取り組み」をテーマに議論が行われた。
~かかりつけ医とは~
かかりつけ医とは「なんでも相談できる上,最新の医療情報を熟知して,必要な時には専門医,専門医療機関を紹介でき,身近で頼りになる地域医療,保健,福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義付けられており,「かかりつけ医機能」の向上に努めている医師であって,病院の医師か,診療所の医師か,あるいはどの診療科かを問うものではない。
2024年4月に開始される「医師の働き方改革」には,医師・看護師の過重な労働によって支えられている現在の医療提供体制を改善し,医療従事者の健康と地域医療体制の確保を図ることを目的として,医師の時間外労働の水準を将来的にA水準(月100時間未満・年間960時間)とC1・C2水準(技能向上集中研修機関や特定高度技能研修機関,月100時間未満・年間1,860時間)の2つに収斂させていくこととしている。医師の働き方改革の目指す先は,より質の高い医療の提供であり,限りある医師・医療従事者を有効に活用できるよう,ワークシェアや人材育成を進めていく必要ある。
~かかりつけ医機能が発揮される制度整備~
厚労省は,かかりつけ医機能が発揮されるための仕組みとして,「医療機能情報提供制度の拡充」と「かかりつけ医機能報告制度の創設」を提案している。
現行の医療機能情報提供制度は,医療法に基づき,医療機関は都道府県に対して8つの機能を報告することとなっているが,具体性に乏しく,理解しづらいとの指摘がある。今後は「休日・夜間の対応を含めた在宅医療や介護との連携の具体的内容」など,かかりつけ医機能に関する情報を国民・患者目線で分かりやすいものに見直し提供することが提案されており,日医も同調している。
かかりつけ医機能強化のための具体的な方策としては,「国による基盤整備・支援としての医療DXの推進」,「病院勤務医が開業する際,その地域の充足状況を把握した上で地域医療を担うための研修や支援の企画実施」,「グループ診療,遠隔診療,オンライン資格確認の活用など医療機関同士の連携強化」を挙げている。
令和5年度に基本的な方針が検討される予定であり,今後,詳細が示されれば広報する。
~病院における働き方改革~
先日の京都府立医科大学医師会との懇談会において紹介された,働き方改革を進めるにあたり学内で実施されたアンケート結果では,医師の幸福度に影響している因子として,持続的な幸福に最も繋がっていたのは「キャリアの満足度」であった。一方で,1週間の労働時間が60時間を超えると不幸の割合が増加していることが示された。
また,タスク・シェアリングとして,グループ主治医制を導入したことにより,令和4年1月~2月の調査では,常勤勤務医の過重労働時間が令和2年調査時に比べて減少したという結果が報告された。
かかりつけ医から病院に紹介する際,患者に対して「○○先生を紹介します」と説明されるが,今後は「○○先生のチームを紹介します」と説明することで,チームで患者を診るという意識付けができ,病院におけるワーク・シェアリングに対する患者の理解も深まるとのことであった。かかりつけ医側も,1人の医師が1人の患者を診るという意識から,チームとして,地域で1人の患者を診るという考えにシフトしていくことで働き方改革につながるのではないかと考えている。
~面としてのかかりつけ医機能~
国は,大病院志向を変えて,アクセスポイントをかかりつけ医にすることで,医療費の抑制を図る思惑である。超高齢社会を乗り切るために考えられた地域包括ケアシステムは,医療・介護の分野において役割を果たすのがかかりつけ医という位置付けであったが,財政や効率性を主眼に議論が進められていることが問題である。
日医は,地域包括ケアシステムの中で,病気の際は適切に専門的な治療が受けられるよう,地域において「面」としてのかかりつけ医機能を果たすことを提言している。これまではかかりつけ医が1対1の関係で患者を診てきたが,医療を必要とする高齢者が圧倒的に増えてくると,1人の医師で診ることは不可能であり,地域の実情に合わせて,連携を深め,医療提供体制を整備することが重要になる。システムができれば,新規開業の医師はそのシステムに入らざるを得なくなるため,メリット・デメリットではなく,地区医の連携体制を整えた上で,連携に加わってくれる医師が増えるという考え方に変化する重要な時期に差し掛かってきている。地域の特性を踏まえ,しっかりと連携体制を作り上げていただきたいと考えている。
~意見交換~
地区より,「開業医がチームを作る場合,どのように診療報酬を付けていくかが大切である」と意見が出された。
府医からは,連携して在宅医療を行う場合,1つ目の医療機関,2つ目の医療機関で設定されている点数があるが,例えば,内科の疾患であっても,気管支喘息はA先生,糖尿病はB先生と,かかりつけ医が複数いても良いとの考えを示した上で,内科だけではなく,高齢の慢性疾患患者は多臓器の疾患を持ち,1人の医師だけでは診られないことが多いため,色々な疾患に地域の医療機関で「面」として対応していくことが大事であるとした。
3月の日医代議員会の代表質問において,地域包括診療加算を,内科だけではなく,すべてのかかりつけ医が算定できるよう,6疾病に限定している要件の撤廃を提言する予定であると説明し,かかりつけ医が地域で「面」として活動するためにも,財源の確保と診療報酬の手当は当然加算されるべきであるとの考えを示した。
地区からは,「地域包括ケアは2025年を目標に始まった議論であるが,目前に迫っている。コロナでも圧倒的な事務量の多さを実感しており,働き方の改善として,統一的な何かができれば負担も軽くなるだろう。病診連携は,日頃からの話し合いの場が重要である。最近は,病院の在宅チームも活躍されているが,基幹病院や大学病院から地域・在宅のネットワークへの参画があれば助かる」と意見が出された。
府医としても,病院と診療所の連携強化は非常に重要であると考えているとして,地域医療構想調整会議を活用して議論いただくよう呼びかけた。専門性の高い医療については,基幹病院の医師と在宅医が,zoomを用いて患者の様子や画像を共有し,助言されている例もあり,地域医療の中で連携することの重要性を強調した。
地域の医療機関同士の情報の共有については,現行の医療機能情報提供制度が分かりにくいため,まずは国民・患者がかかりつけ医を選択しやすいように分かりやすい内容に見直される方向性であると説明。自身の専門領域についてはしっかりと診ていただき,専門外については専門医や専門医療機関を紹介する必要があるため,先生方が紹介する際にも医療機能を分かりやすくするという側面からも,内容の充実を図ることが大事であるとした。
~府医の状況~
数年前から研修医事業の充実など研修医の入会促進に取組んだ結果,研修医の入会数は増え,会員数としては,一時期よりも増加している。一方,A会員については,高齢化等を理由とした廃業などの影響を受けて,ここ数年で微減してきており,新規の入会者を増やすことは,府医でも重要な課題であると認識している。
~新規開業者への対応~
経営コンサルタント(ディベロッパー)の存在が医師会への未入会事案と関係してくるケースがある。本来は,地区医に事前相談があり,場所や診療科など周辺医療機関との関係性,医療機関名称など様々な調整が行われた後,新規開業に向けた準備が進められることが望ましいが,経営コンサルタント,金融機関,事業主の思惑が先行して,医師会に事前相談なく,医療モールなどの箱モノが先にでき上がる事例があり,そこで開業する医師は必ずしも地域の事情を把握されているとは限らない。その結果,不適切な医療機関名称や,事前の調整がなされず,同じ専門科の医療機関が乱立するなど地域医療の混乱も懸念される。また,医師会に入会せず,入会金分の資金を設備投資などに使うよう指導を行っているコンサルタントもあると聞き及んでいるが,このあたりの対策は,難しいものがある。
事前相談なく開業準備または開業された医師についても,地区医からお声かけいただき,地域医療への貢献など地区医活動を説明いただくとともに,顔の見える関係を構築していただくことが重要だと考えている。
~組織強化の取組み~
現在,日医では組織強化に向けた取組みを進めている。「臨床研修終了を迎える会員に対する,医学部卒後5年間の会費減免,実施に係る周知の徹底」,「郡市区等医師会組織強化担当役職員連絡協議会の開催」,「若手医師の医師会事業への理解促進並びに帰属意識の醸成に向けた取り組みの実施」に対して協力を呼びかけている。
府医でも,若手医師に医師会の意義,魅力を理解してもらうことが重要であると考え,新臨床研修医を対象としたオリエンテーションや屋根瓦塾などを開催してきた。また卒後10年以内の若手医師に対して会費減免をしているが,さらに会員増強プロジェクトを立ち上げ,これらの取組みが将来の開業時の入会率向上に繋がるのではないかと期待している。
~地区医の役割~
令和2年3月に策定された京都府医師確保計画では,外来医師多数区域,新規開業者に求める事項として,「すでに診療所医師数が一定程度充足していると考えられる外来医師多数区域で開業を希望する者に対して,診療所の偏在・不足状況等の情報が容易に入手できるよう提供を図る」,「地域の在宅医療機能を担う診療所医師を確保するため,在宅医療に係る研修への参加を促す」と記載されている。
地域における連携や調整など地区医の役割は今後ますます重要になってくると考えており,地区医における問題点や意見を伺いながら,府医でも医師会組織率向上に向けて地区医と一緒に活動していきたい。