府医第 209 回臨時代議員会

 府医では,3月18日(土),リーガロイヤルホテル京都において,87名の代議員の出席のもと,標記代議員会を開催した。
 松井府医会長の挨拶に続き,「令和4年度庶務および事業中間報告」,「令和5年度京都府医師会事業計画」,「令和5年度京都府医師会予算」が報告され,その後地区からの代表質問ならびにその答弁が行われた。
 議事に移り,第1号議案「令和5年度京都府医師会費の賦課徴収および減免に関する件」が上程され,賛成多数で可決された。
 続いての協議では,医療機関は新型コロナ収束後も平時から新興感染症に対する備えが必要であり,診療科や開業医・勤務医の別にかかわらず,医師それぞれがかかりつけ医機能を強化しつつ,医療機関同士が連携することで地域医療を支え,面としてのかかりつけ医機能を発揮できるよう,政府に対して「すべての医療機関が安全かつ適切に新興感染症に対応できるよう診療報酬で適切に評価すること」,「国民皆保険制度の根幹をなすフリーアクセス制度を堅持すること」―を求める決議が採択された(決議文は別掲)。

松井府医会長 挨拶

 京都府で初めての新型コロナウイルス感染者が確認された2020年1月30日以来,約3年にわたり,話題の中心は感染症対策であったと振り返り,ワクチンの接種が進み,重症化率の低下が認められたことで,新型コロナウイルス感染症がいよいよ5月8日をもって5類感染症へと取り扱いが変更されると述べ,会員各位の協力に改めて謝意を示した。

松井 府医会長

 京都府内でこれまでに約67万人が感染,約1,650人の死亡が確認されており,第6波以降,重症化率,死亡率は低下しているものの,特に基礎疾患を持つ高齢者が肺炎ではなく持病の悪化で死亡する例が多く認められ,高齢者にとっては深刻な感染症であることに変わりはないと注意を促すとともに,若い世代においては軽い風邪症状や無症状のことも多く,感染の自覚がないケースもあるため,感染が広がり始めると拡大を食い止めることが非常に困難な感染症であると指摘。ウイルスは変異を繰り返すため,今後の状況を確実に予測することは難しいものの,現状においては,高齢者,特に基礎疾患を持った人について感染を早期に確認し,適切な医療につなげることに引続き力を注ぐ必要があるとした。
 今後,類型の見直しによって一層,感染の状況が見えにくくなることが予想され,広くすべての医療機関で対応することが求められることになるが,感染対策の基本は変わらないとして,適切な対応を呼びかけた。
 2024年から2029年までの6年間を対象とする「第8次医療計画」には,新たな事業として新興感染症対策が盛り込まれ,地域医療構想および医師確保計画,外来機能報告,在宅医療および医療・介護連携等について重点的な議論がなされていることを紹介した上で,「地域医療構想における必要病床数」,外来機能報告における「医療資源を重点的に活用する外来」,「かかりつけ医」のいずれも言葉が先行し,具体的な医療の形がなかなか見えにくいとしつつ,高齢化の進展によって必要とされる医療の質と量がともに変化していくことに対して,それぞれの医療圏において,「必要な時に必要な医療を受けられる体制」を構築することが議論の本質であると強調した。
 府医では早くから高齢社会を見据え,「在宅医療・地域包括ケアサポートセンター」を立ち上げて取組みを進めてきたことを紹介。その目的は超高齢社会で求められる医療・介護の実現であり,できるだけ多くの先生にかかりつけ医となって地域医療に関わっていただくよう呼びかけた。
 超高齢社会の入り口にある現在から,今後は人口減少社会を迎え,ますます高齢化率が上昇し,支えられる世代に比べて支える世代が減少する社会において,高齢者が住み慣れた地域で自分らしい人生を全うできる社会を目指し,2025年を目途に整備が進められている「地域包括ケアシステム」の中で,医療・介護が担う役割はさらに大きくなると指摘。
 「経済財政運営と改革の基本方針2022」いわゆる「骨太方針2022」において,医療分野では「医療DX」やかかりつけ医機能の制度化推進など「機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進める」ということが明記されたことを紹介した上で,高齢者にはより濃厚な医療とともに手厚いケアが求められる場合が多く,「治す,救う医療」から「寄り添う医療,支える医療」へと転換することが提唱され,施設完結型医療から地域完結型医療への転換が進められている中で,その中心的役割を担うのが「かかりつけ医」であり,一人の医師がすべてを担うのではなく,地域のすべての医療資源を活用することによって「必要な時に必要な医療」を継続的に提供することができる,まさに医療をコーディネートする機能であると指摘した。
 一人の患者を複数の医師で担当することとも少し異なり,例えば,在宅医療を担当する医師が,専門医,専門医療機関に紹介する前に患者の状況をもう少し詳しく確認したいという場面で,それを可能にするために構築されたのが京都府における「在宅療養あんしん病院登録制度」であり,この登録は「契約」とは違い,在宅医療の支援が目的であって,利用者の居住地の近くの病院を複数選択した上で,原則としてかかりつけ医を通して事前登録することで,必要な時に円滑に受診,検査,入院を行うことができると説明した。もちろん早期診断,早期治療によって在宅療養の継続につなげることが目的であるが,地域の中で患者を通じて平素から医療機関同士の連携を深めることによって,各医療機関がそれぞれの役割を理解し,機能を高めることによってお互いが助け合う関係性ができれば,地域のかかりつけ医機能のさらなる充実が期待できると述べ,京都府においては日医が提唱する「面としてのかかりつけ医機能」の実現に一歩先を進んでいるとの認識を示した。
 また,医療DXについて,首相を本部長とする「医療DX推進本部」が設置され,①全国医療情報プラットフォームの創設,②電子カルテ情報の標準化,③診療報酬改定DX─の取組みを行政と関係業界が「一丸となって」進めていくと明記され,得られたデータの利活用を進める法整備の必要性が盛り込まれていることを説明。デジタル化は避けて通れないとの考えを示しつつ,その変化に誰一人取り残されないよう,また医療を受ける者にとって不利益にならないよう,その動向をしっかりと注視していく必要があるとした。
 最後に,府医の仕事は京都府民の健康を守ることであり,そのために会員あるいは非会員も含む医療従事者の支援を行うことであるとし,今後,医療を取り巻く環境の激動とも呼べる変化の中で,私たちの活動も柔軟に変化する必要があると指摘。変化には不安もともなうが,医療を守ることをしっかりと目的に見据え,進歩を続けていきたいと述べ,様々な課題がある中で,「我々がやらなければ」という使命感と「我々ならできる」という自信と誇りをもって力強く取組みを進めていく意向を示した。

代表質問

 代表質問では,京都北,中京西部,下京東部の3地区から代議員が質問に立ち,医療が抱える課題について質疑が行われた。質問内容および執行部の答弁(概要)は次のとおり。

◆余みんてつ代議員(京都北)

〔医療DXの展望について〕

余 代議員

 医療DXについて,厚生労働省やデジタル庁はメリットばかりを声高に説明しているが,デメリットについても十分な説明と理解が必要である。オンライン資格確認は導入後も課題が多く,医療機関が負担する高額な保守サポート費に見合った機能が発揮できているとは言い難い。電子処方箋についてもベンダーが十分に対応できておらず,普及には時間を要すると思われるが,数多くのベンダーが独自の規格で運用している電子カルテの標準化にはさらに険しい道のりが予想される。これらは,なし崩し的に始まったオンライン診療をさらに推進するためのツールであるように思われ,誰のための医療DXなのかが見えてこない。政府の思惑に対して,府医が描く医療DXの先にある未来像について考えをお聞きしたい。

◇北川府医副会長

北川 府医副会長

 デジタルトランスフォーメーション(DX)とは,「デジタル技術によって,社会,生活のスタイルを変えること」とされ,厚労省の資料によると,医療DXとは,「保健・医療・介護で生じる情報に関し,基盤を構築・活用し,業務やシステム,データ保存の外部化・共通化・標準化を図り,国民自身の予防を促進,良質な医療やケアを受けられるように,社会や生活の形を変えていくこと」と記載されていることを紹介。
 医療現場では,昨年6月の「骨太の方針2022」発表以降,国による強引なオンライン資格確認への動きが進められ,府医の会員アンケートには,医療提供への影響,負担増への懸念,先行きへの不安の声が多く出されたことを紹介した上で,厚労省は次のステップとして,共有可能な医療情報の拡大を図るべく,電子処方箋の拡大,電子カルテ情報共有の仕組みの構築に向けて動いていると説明した。技術的な障害や医療のデジタル化を阻む構造的な問題だけでなく,開業医が電子カルテを導入しない複合的な理由がある状況下において,拙速にデジタル化を進めようとすれば,多くのデメリットを生じる危険性があるとの質問の主旨に同調した。地域医療連携のための情報共有に関して,必要な情報が十分に吟味され,その情報だけを共有するような制度設計が行われないのであれば,非効率性や負担増加を生み,さらに個人情報の漏えい,サイバー攻撃のリスクなど安全性を脅かす状況が生じることが懸念されると指摘。他にも,医療現場の状況とかけ離れた拙速なデジタル化が行われた場合,医療者や多くの国民・患者が取り残され,地域医療に混乱・支障を招く恐れがあり,結果として医療DXは失敗に終わるとした。
 政府の思惑としては,データヘルス改革の柱として,PHR(パーソナルヘルスレコード)の推進や,民間企業も含めたデータベースの二次利用の推進を挙げており,そのためにマイナポータルの情報拡大を図っていると推察し,PHRや研究のためのデータ活用は有意義であるものの,経済産業省による経済活性のためのDXや民間企業の参入にはリスクをともなうだけでなく,収集されたデータが数字や効率化だけの医療費抑制に利用されることには常に警戒が必要であるとした。
 一方で,医療DXはネガティブな側面ばかりでなく,日医は医療DXに対し,業務効率化や適切な情報連携等に寄与し,より安全で質の高い医療を提供すること,医療現場の負担を減らすことを期待しており,オンライン資格確認の導入が,安全な全国ネットワークの形成や医療情報共有の基盤となるとして,国の方向性に概ね賛成していることを紹介した。
 大規模災害への対策,新興感染症対策,地域完結型医療の確立,かかりつけ医機能の充実,医師の地域偏在対策,医師の働き方対策など日本の医療の重要な課題の解決に向けて,データ収集基盤の構築やデジタル技術が活用され,システム化や業務負担軽減が図られることが必要との考えを示した上で,そこには現場の意見が十分に取り入れられ,また,個々のユースケースから丁寧に制度が設計され,運用されることが重要であると強調し,会員各位の意見を日医に伝えることが府医の大きな役割であるとの認識を示した。
 身近なところでのデジタル化の有用性として,デジタル庁が表明している「デジタル3原則」の考え方を基本とした,主治医意見書,生活保護の医療要否意見書など書類作成等に係る事務負担の軽減につながる仕組みが早急に提供されることを強く期待すると述べ,オンライン資格確認などの国のデジタル化政策に負担感,不信感が強い現状において,少しでもメリットを実感できることがポイントになると指摘した。
 最後に,オンライン診療については,デジタル化の進歩によって生まれた医療の形態の一つであり,まさに医療DXの具体例であると述べ,新型コロナ感染症により世間からの認知度が上がり,実践する医療機関も増えているものの,日医は「対面診療が原則であり,解決困難な要因によって,医療機関へのアクセスが制限されている場合に,適切にオンライン診療で補完する」という基本的な考え方を公表していることを紹介。昨今,産業の各分野で利便性を優先する価値観とデジタル技術の進歩がマッチして新しいサービスが生まれているが,これが医療に持ち込まれた場合に,医療の質が低下し,医療崩壊につながることに懸念を示した。医師が医療の目的やビジョンを共有し,オンライン診療やAIなど,デジタル化による技術を道具として上手く活用し,良質なDXを実現することが重要であると述べ,府医として必要な努力を続けていく考えを示した。

◆松尾 敏 代議員(中京西部)

〔医療DXの課題について〕

松尾 代議員

 医療DXについては,オンライン資格確認のトラブル,電子カルテ情報の共有化,診療報酬の対応等,課題が山積している。また,サイバー攻撃に対するセキュリティ対策についても専門家でないと対応が難しく,高齢の会員からは不安の声が多い。府医として,医療DXやサイバーセキュリティに係る専門業者の紹介等,医療DXに関するサポートについてどのように考えているか。
 新型コロナ対応においては,G-MISでの患者数の報告,ワクチン接種時のVRS登録,HER-SYSによる患者発生報告の一方で,補助金申請や報酬請求時にアナログでの書類作成や,FAXでの発生届も必要になるなど,かえって医療機関の業務が増加した。今後,医療DXが医療機関の負担軽減に資するものになるよう行政に改善を提言していただきたい。

◇谷口府医副会長

谷口 府医副会長

 医療DXとは,「疾病の発症予防,診察・治療・投薬,診療報酬の請求,研究開発などの各段階において発生する情報やデータを,基盤を通して,共通化・標準化を図り,より良質な医療やケアを受けられるように,社会や生活の形を変えること」と定義され,世界に先駆けて少子高齢化が進む我が国において,国民の健康増進や切れ目のない質の高い医療の提供に向けて,医療分野のデジタル化を進め,保健・医療情報の利活用を積極的に推進していくことは非常に重要であると指摘。国民自らが保健・医療情報にアクセスすることを容易にし,健康維持増進に活用することで健康寿命の延伸を図るとともに,医療の効率的かつ効果的な提供によって診療の質の向上や治療等の最適化を推進することが期待されると説明した。
 医療DXの骨格として,「全国医療情報プラットフォーム」,「電子カルテ情報の標準化や標準型電子カルテの検討」,「診療報酬改定DX」が三本柱に位置付けられていることを紹介した上で,府医としてもこの考え方に反対するものではなく,医療機関の業務効率化や医療機関間の情報共有が推進されることにより,国民や患者に,より安全で質の高い医療の提供に繋がることは,医師・患者双方にとってメリットがあるとの認識を示した。
 しかしながら,医療DXの入口となるオンライン資格確認について,その必要性は理解するものの,「原則義務化」という手法で極めて拙速に進められた経過から先行きの不安を感じるところであり,府医としても,近医連を通じてその方法に反論するとともに,日医に対して,会員の先生方の声として,特にお困りの先生からの個別具体的なご意見を詳細に伝え,厚労省から直接業者に対して注意を促すような対応も取ってきたことを説明した。
 日医においても医療DXが医療提供体制に混乱・支障を生じさせることがないよう,有効性と安全性を確保した上で利便性や効率性の実現を目指すべきと説明しており,年齢的な問題やITに不慣れな先生方が取り残されることのないよう国に対して強く働きかけていることを紹介し,その結果として,オンライン資格確認義務化の除外規定や経過措置が設けられたことは,京都医報等で周知のとおりであるとした。
 各医療機関の電子カルテやレセコンは,それぞれの専門性や医療機関の特性に応じたオプションの設定等,独自性の強いものであるため,府医として個別のサポート対応は難しく,現時点ではORCA管理機構のホームページから電子カルテやレセコンのサポート事業者の紹介にとどまるとした。今後の「標準型電子カルテ」や「診療報酬改定DX」の協議においては,診療報酬改定前の電子カルテやレセコンのソフト更新に係る各医療機関の時間的・経済的負担の軽減を図るとともに,十分に準備期間を設けて進められることが重要であるとして,日医を通じて具申していく考えを示した。
 サイバーセキュリティ対策について,近年,全世界的にサイバー攻撃による被害が増加し,日本国内においても複数の医療機関でランサムウェア攻撃によって電子カルテが使用不可となり,診療の一部が機能不全に陥る事案が発生するなど,医療機関の規模にかかわらず,すべての医療機関で対策が急務であるとした上で,従来は外部とネットワークを接続しないことでセキュリティが保たれてきたが,近年はオンライン資格確認やクラウド型の電子カルテ導入,さらには地域医療情報連携ネットワークへの参画など,外部との接続の必要性が増大しており,以前にも増して感染リスクが拡大していることを認識する必要があると指摘。サイバーセキュリティ対策は専門家でなければ対応が難しいものの,府医による特定の業者の紹介・斡旋は難しい状況であることに理解を求めつつ,各医療機関が契約している電子カルテネットワーク等のベンダーに確認・相談することが第一歩であるとした。
 また,有事の際に相談できる窓口の設置について,その必要性・重要性が求められている中,昨年6月に日医内に日医A1会員を対象とした「日本医師会サイバーセキュリティ支援制度」が設立されたことを紹介。支援制度の内容として,①サイバーセキュリティ対応相談窓口(緊急相談窓口),②セキュリティ対策強化に向けた無料サイトの活用,③サイバー攻撃一時支援金・個人情報漏えい一時支援金制度―の3つの支援事業が柱となっていることを説明し,活用を呼びかけた。
 府医としても,医療機関向けのサイバーセキュリティ対策研修会の開催を通じて,医療現場での意識向上とすぐにできる対策の実践等について知識を共有していく考えであることと併せて,府医の保険代理店である(有)ケーエムエーにおいて,サイバーセキュリティ対策に資するサービスが提供できないか,検討中であることを報告した。
 医療機関へのサイバー攻撃のリスクの高まりを受けて,今年4月1日より病院・診療所の管理者が順守すべき事項として,改正医療法の施行規則に「サイバーセキュリティを確保するために必要な措置」が新たに加えられることを紹介。
 今後は,①平時からの予防対策,②インシデント発生後の初動対応,③日常診療を取り戻すための復旧対応―が重要になるとした上で,各医療機関においては改めて,①脆弱性が指摘されている機器の確実なアップデートと可能な範囲でのセキュリティ機器の導入,②定期的なデータのバックアップ,③ログの記録・保管・管理,④緊急対応手順の作成と訓練の実施―等を心がけるとともに,院内で「怪しいメールは開かない」,「業務に必要のないデータにはアクセスしない」等の基本的な対応の徹底と,危機を察知する意識の醸成を呼びかけ,府医からも適宜,情報提供に努めるとした。

 今般の新型コロナウイルス感染症関連情報を共有する政府のシステムが乱立し,医療機関や自治体の大きな負担になっているとの認識を示した上で,新型コロナの急速に感染拡大により,厚労省をはじめとした関係各省庁の業務が逼迫した状況下において,大きな国費を投じて,構想が十分でないまま場当たり的にシステムが導入されたことが要因であると分析し,政府には戦略的なデジタル政策の推進が求められるとした。
 同様の事例は都道府県,市町村行政にも見られるため,府医としても行政に強く要望していく考えを示した。

◆深江 英一 代議員(下京東部)

〔「医薬品の流通不足」,「次期診療報酬改定」,「医療 DX の推進」について〕

深江 代議員
  • 医薬品の流通不足の根本的な原因は何か。また,一部のメガファーマが流通先卸を選別していることは独禁法に抵触しないのか,ご教示いただきたい。
  • 政府の方針として給与の引上げが示されているが,次期診療報酬改定では職員の給料アップに対応したものとなるのか。
  • 受診控えによる減収分のほか,サイバーセキュリティ対策費用を補填する積極的な財政出動を政府に要望すべきではないか。日医にサイバーセキュリティ相談対応窓口が設置され,有事には一時支援金の給付を含む対応がとられているが,医療DXの推進には,何か起こってからの補償ではなく,医療機関が安心して導入できるようセキュリティ対策機器の導入費用等,予防対策に必要なコストを保障する積極的な財政出動が必要である。

◇濱島府医副会長

濱島 府医副会長

 製薬メーカーの不祥事を発端とした今般の医薬品の流通不足について,厚労省は,現在の状況が解消されるのは2025年頃と見通しているが,我々としては看過できるものではないと述べた上で,医薬品供給不足の根本的な原因はもちろん製薬メーカーのコンプライアンスの欠如であるが,その背景には,政府が医療費削減のために後発品の割合を80%に引上げることを目標に政策を推し進めた結果,毎年薬価が引下げられ,それによって各メーカーがコストカットを余儀なくされるという構造的な問題があると指摘。また,米国では製薬メーカーが10数社であるのに対し,日本は190社を超えるメーカーが乱立しているため,原材料が分散され,1つの原材料の不足が医薬品の製造に大きな影響を与えるとした。この製薬会社が分散化している構造にも供給不足の原因があるとの考えを示し,関係団体とも協調して製薬業界の構造改革を強く求めていく必要性を訴えた。
 また,外資系の大手製薬会社が流通先の卸を限定したことについて,府内の卸業者に現状を確認したところ,逆の場合,つまり卸業者が他の卸業者を抑えて自社とのみ取引することとした場合は,取引分野における競争を実質的に制限するとして独禁法第2条5項の「排除行為」の規定に抵触する可能性があるが,本件のように製薬会社による卸業者の選別は排除行為に当たらず,独禁法には抵触しないとのことであったと報告。このあたりは製薬会社においても確認した上で行為に及んでいるものと推察した。法には触れないものの,院内調剤に及ぼす影響は大きく,医療機関としては複数の卸業者との契約を余儀なくされるため負担が大きいと述べ,今後,他のメーカーが追随することがないよう注視していく必要があると指摘するとともに,これらの問題の背景には,医薬品の流通不足と同様,薬価引下げ政策があるとの認識を示した。

 次期診療報酬改定について,政府は方針として給料の引上げを示しているが,診療報酬はある一つの診療行為に対し,技術料や物品の費用等も含めて決められているため,直接的に医療機関スタッフの給与アップに対応した診療報酬改定を行うことは理論的に難しいと指摘。昨年10月には,看護協会の強い要望により,救急医療を担う病院において診療報酬に看護職員の処遇改善の仕組みとして,「看護職員処遇改善評価料」が創設されたが,165段階に区分された非常に複雑なものであるだけでなく,その配分は各医療機関に委ねられているため,その効果には疑問を感じていると説明した。診療報酬の中から直接個人に振り分けることは難しいが,政府が示す職員の給料引上げの方針を受けて,日医としてはその財源として基本診療料の引上げを強く要望していく考えであるとした。

 この3年間,受診控えの増加が医療機関の経営を圧迫したことは,日医も当初から問題視しており,新型コロナ流行の前後で収入が減少している実態を調査した上で,政府に診療報酬の概算払いを要望したものの,実現には至らなかったことを報告。診療報酬でカバーされたのは小児外来診療料の特例措置ぐらいで,医療機関は受診控えの影響をまともに受ける形となったと振り返りった。発熱外来や診療・検査医療機関において,新型コロナの患者を診た場合には診療報酬による手当が認められたが,こういった状況下において,国からは発熱外来で対応するよう求めるメッセージしか示されなかったことは残念であったと述べ,今後,新興感染症が流行した際には,速やかに政府に概算払いを要望していく考えを示した。
 最後に,積極的な財政出動によって景気が良くなり,GDPが上がることは理想的であるものの,現在の少子高齢化の社会情勢においては難しい部分もあると理解を示しつつ,国の財政状況も踏まえながら必要な対応を政府に要望していくと説明した。

<参考>
 会費賦課徴収規定第8条第3項
    医業収入が一定額以下かつ医業所得が一定額以下のA会員については、その理由を具した申請により、理事会の議を経てこれを減免することができる。

 会費賦課徴収規定第8条第4項
    満80歳に達したA会員(高齢者A会員)については、その翌月より会費を減免する。

 会費賦課徴収規定第9条第1項
    満80歳に達したB1会員、B2会員およびD会員については、その翌月より会費を免除する。

 会費賦課徴収規定第9条第2項
    前条第4項の会員のうち、医業収入が一定額未満の者については、その理由を具した申請により、理事会の議を経てこれを免除することができる。

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