「かかりつけ医機能の強化と働き方改革」について議論

 綾部医師会と府医執行部との懇談会が3月4日(土),Web で開催され,綾部医師会から7名,府医から7名が出席。「かかりつけ医機能の強化と働き方改革」をテーマに活発な議論が行われた。

かかりつけ医機能の強化と働き方改革について

 財務省等が提唱する「かかりつけ医の制度化」は,かかりつけ医機能の要件を法制上明確化した上で,認定制や事前登録制等を導入しようとするものであり,その真意はかかりつけ医を登録制とし,患者一人あたりの定額制を導入することによって医療費を抑制することにあるのは明白である。医療費の抑制を主眼とする財務省に議論を先導させないためにも,厚生労働省や日医をはじめとする多くの関係団体から対案が出されている。
 日医では,医療政策会議かかりつけ医ワーキング(松井府医会長が副座長として参画)が設置され,かかりつけ医のあり方について本格的な議論が開始されている。

~「かかりつけ医」の定義~
 「かかりつけ医」については,2013年8月の日医・四病協合同提言において,「なんでも相談できる上,最新の医療情報を熟知して,必要な時には専門医,専門医療機関を紹介でき,身近で頼りになる地域医療,保健,福祉を担う総合的な能力を有する医師」であることを理解し,かかりつけ医機能の向上に努めている医師であって,病院の医師か,診療所の医師か,あるいはどの診療科かを問うものではなく,患者のもっとも身近で頼りになる医師として自ら積極的にその機能を果たしていくもの―と定義づけされており,「制度化」に馴染むものではない。
 また,「かかりつけ医」は患者の自由意志によって選択されるものであり,そのためにはフリーアクセスが担保される仕組みを堅持しなくてはならない。日本の医療は,欧米のように一人の患者を一人の医師が診るという1対1の関係ではなく,一定程度,専門分化された医師がそれぞれの役割を果たしながら,必要に応じて専門医を紹介するなどして全体の医療を守ってきた経過があり,これは従来から「かかりつけ医」の定義にある内容を実践してきたことに他ならない。

~かかりつけ医機能が発揮される制度整備について~
 厚生労働省が示した「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」の骨格案では,医療法施行規則に記載されている「医療機能情報提供制度」の内容を充実させ,国民に向けてわかりやすい内容に変更することと併せて,各医療機関が患者や国民の多様な医療ニーズに対応した機能を都道府県に報告し,都道府県がその報告内容を受けて地域における機能の充足状況とともに不足する機能を強化するための具体的方策を検討・公表する「かかりつけ医機能報告制度」を創設することが示されている。
 例えば,慢性疾患を有する高齢者の場合,具体的なかかりつけ医機能の内容として,①外来医療の提供,②休日・夜間の対応,③入退院時の支援,④在宅医療の提供,⑤介護サービス等との連携―が例示されており,各医療機関がこれらの機能の有無や担う意向を報告することで,都道府県が報告内容を踏まえ,地域で不足している機能を充足できるよう支援や連携の具体的方策を検討することとしている。日医としても,各医療機関がこれらの機能をすべて具備すべきと考えているわけではなく,地域の中で不足する機能を補い合って患者を「面」で支えていくことが「かかりつけ医機能」を強化する方法であると考えている。
 また,地域で不足する機能を強化するための具体的方策として,医療 DX の推進等,国による基盤整備・支援とともに,地域医療を担うための研修や支援の企画・実施,医療機関同士の連携強化等が挙げられており,これらの方策は医師の働き方改革という観点からも重要になると考えられる。

~医師の働き方改革について~
 11 月に開催された京都府立医科大学医師会との懇談会において,医師の働き方改革に対する府医大の取組みが紹介された。医師の働き方改革を進めるにあたり学内で実施されたアンケート結果では,医師の幸福度に最も影響している因子は「キャリアの満足度」であった一方で,1週間の労働時間が60時間を超えると不幸の割合が増加していたことが示された。この結果から,働き方改革を考える上では,労働時間の削減だけではなく,「キャリアの満足度」の維持に留意しながら進めていくことが重要である。
 また,府医大では,働き方改革の取組みの一環として,グループ主治医制(チーム制)の導入によるタスク・シェアリングを実践し,スムーズに運用を開始したことが報告される中で,チームとして患者を診るという意識改革の重要性が指摘された。これは病院に限らず,地域においても「1人の医師が1人の患者を診る」という意識から,「チームで1人の患者を診る」さらには「地域で1人の患者を診る」という考え方にシフトしていく必要があり,地域における「面」としてのかかりつけ医機能の強化と働き方改革の取組みを一体的に進めていくことが重要であると考えている。

~かかりつけ医をめぐる今後の方向性~
 3月1日に開催された日医地域医療対策委員会において,鈴木邦彦副委員長(茨城県医師会長)からかかりつけ医機能のあり方や今後の方向性について提言がなされた。
 超高齢化が進展し,人口減少の局面を迎える日本においては,高度急性期の医療ニーズが減少する一方で,地域に密着した医療ニーズの増加が予想され,現在の「急性期大病院―回復期病院―かかりつけ医」という垂直型の連携から,診療所や地域密着型の中小病院が連携してかかりつけ医機能を発揮し,訪問看護師,地域包括支援センター等とともに連携して地域包括ケアシステムを構築しつつ,必要なときに急性期の大病院を紹介するという水平型の連携が重要になるとの指摘がなされ,地域共生社会を実現するための医療として,「高度急性期病院の集約化」と「地域包括ケアを支える地域密着型中小病院の機能分化」,「かかりつけ医機能のさらなる充実・強化」をポイントに挙げた。
 かかりつけ医をめぐる今後の方向性として,さらなる医療 DX の推進により患者情報の共有が進むことで,より良い医療に繋がるだけでなく,医師の働き方改革にも寄与するのではないかと言及し,各地域において患者を「面」で支えていくためには,①かかりつけ医機能の充実強化,②地域包括ケアシステムの構築,③地域医療構想の実現―を三位一体で進めていく必要があると指摘された。患者がフリーアクセスでかかりつけ医を選択できるよう医療機能情報提供制度の充実を図ると同時に,かかりつけ医の育成として,日医かかりつけ医機能研修制度を充実・強化した上で,受講しなければ「かかりつけ医」になれないということがないよう留意しながら,それぞれが自己研鑽を重ねてかかりつけ医機能の向上を目指すことが重要である―との見解が示された。

~意見交換~
 その後の意見交換では,地域で不足する診療科もある中で,病院やかかりつけ医の機能分化が急速に進むことによって,地域内で医療が完結せず,結果として患者の負担増加に繋がるのではないかとの懸念が示された。
 府医からは,地域によって医療資源に差異がある中で,地域に不足する医療機能を把握し,専門医がいない場合には行政区を越えて助け合うことが重要であるとして「連携」をキーワードに挙げた。地域の基幹病院と連携を深めることはもちろん,場合によっては二次医療圏を越えてより広く連携し,対応していくことが面としてのかかりつけ医機能であるとの考えを示し,不足する機能をどのように補填していくのか,地域医療構想調整会議において具体的に議論していく必要があるとした。

2023年5月15日号TOP