2023年11月15日号
今年49回目となる京都医学会を,9月24日(日)に開催。今回は4年ぶりに現地参加いただける形で開催し,会場に賑わいが戻った。
10月22日までアーカイブ配信も行い,全体を通して延べ534名の医師・医療関係者が参加した。
第49回京都医学会はハイブリッド形式で行われ,現地160名の参加と,Webのlive配信で284名の参加者を数え,さらに1ヶ月間のアーカイブ配信が行われた。午前は4会場に分かれての口演,午後はメイン会場での特別講演・シンポジウムという構成であった。特別講演・シンポジウムは「医療DX」をテーマにおき,各領域のトップランナーに講演いただいた。来たるべきDXの波に立ち向かうヒントが得られるセッションになったと思われる。
今回の京都医学会では,会員の学術研鑽の場としての本来の目的はもちろんのこと,これからの世代である研修医や若手医師に向けて,「Re-1グランプリ」と「臨床研究道場」が特別企画された。「Re-1グランプリ」では,京都府が誇る7人の魅力溢れる指導医達によって,最強指導医の座をめぐり熱いレクチャー合戦が展開され,「臨床研究道場」では,研究・統計の専門家(京都大学医学研究科人間健康科学系専攻比良野特定助教)により,学会発表・論文作成のスキルについて密度の濃い個人指導が行われた。いずれの新企画も好評で,学会全体を活気づける効果があったように思われる。
一般口演には,例年どおり勤務医師・診療所医師から多数の応募があり,一般演題50題,初期研修医セッション7題の計57題が採択された。研修医セッション以外の演題内訳は,腎・尿路系9題,消化器系8題,脳神経系7題,耳鼻咽喉系5題,内分泌・代謝系4題,循環器系3題,呼吸器系2題などで,それぞれの領域について,府医学術・生涯教育委員会委員に座長をお願いした。昨年までの入場者制限は撤廃され,活発な質疑に予定時間から進行が遅延する会場もあった。議論を引き出しながら円滑な進行に苦心いただいた座長の先生方にこの場を借りて感謝申し上げる次第である。ポスターセッションは,コロナ禍感染対策の継続として今年も設けられなかったが,ポスター前での距離の近い質疑応答を熱望する声も多くなっている。開催形式について検討が必要な時期であろう。
来年,京都医学会は記念すべき50回目の開催を迎える。第49回参加者からのアンケート結果を踏まえ,会員の学術活動興隆の一助として有意義な学会となるよう,現在,学術・生涯教育委員会の先生方に企画検討いただいているところである。会員皆様には,第50回京都医学会にも,多数の演題応募と会場参加を是非ともお願いしたい。
(学術生涯教育担当理事 尾池 文隆 記)
少子高齢化が進む我が国において,国民の健康増進や質の高い医療を提供するため,さらに新型コロナウイルス感染症のパンデミックの経験から次の感染症危機への迅速な対応を構築するためにはDX(Digital Transformation)を推進することが求められている。2022年6月に閣議決定された「骨太方針2022」では,全国医療情報プラットフォームの創設,電子カルテ情報の標準化等,診療情報改定DXが3つの柱とされ,同年10月に総理を本部長とする医療DX推進本部が設置された。講演では初めに日医IT化宣言2016と国の進める医療DXの関係について述べられた。日医は,オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し医療・介護情報を共有する全国医療情報プラットフォームについて,安全・安心でより質の高い医療提供が可能になることから全面的に協力するとしている。また電子処方箋発行に必要なHPKIカード(医師資格証)の発行を急ぐこと,PHR(Personal Health Record)については患者がかかりつけ医とともに活用することが有用であると提言している。さらに,国が進める電子カルテの標準化,標準型電子カルテの提供に対応すべく,日医標準レセプトソフト(ORCA)をバージョンアップしさらなる普及をはかるとしている。ところで,海外の状況はどうかと言うと,イスラエルは技術革新が国家存続,民族存続のために必須であるとの考えから,エストニアは旧ソビエト連邦から独立した経緯があり,再びロシアに占領された時にe-エストニア国として存続をはかるためにDX推進に成功しているとのことであった。これらは国の置かれた事情から成功した例である。一方,うまく行っていない例として,フランスの取組みを紹介された。フランスでは2010年にDMP(共通医療記録)がスタートしている。DMPには既往歴,現在治療中の疾患名,服用中の薬剤名,アレルギーなど14項目を自分で入力することができる。しかしながら2014年の実績数は約40万人(全人口6,700万人)と低調なため,2022年から自身のDMPの開設に反対意思を表明した人を除き,全国民のDMPが自動的に作られる「オプトアウト方式」にしたが,開設されても国民の多くはその必要性を感じておらず,実質利用率は数%でしかないとのことであった。
今後,我が国で医療DXが進んだ場合,診療報酬体系の変更,多量の情報処理のためのAI活用が必要になること,オンライン診療によって生活習慣病の診療が変化すること,電子処方箋の普及により処方薬の宅配と調剤薬局の統廃合が起こる可能性があることなどについて言及された。最後に,日本で成功させるためには,イスラエル,エストニアのように国にとって有益となるような高次目標を構築すること,現状ではできないがデジタル化によって達成できる内容を明確に示すこと,またそのことに対しての国民的な同意を得ること,DXを達成するための費用を政府が支出することを約束する必要があると述べられ,さらに日本が最先端のものを世界に発信していくという意識を持って国民が一丸となって協力することが重要であると締めくくられた。
(学術・生涯教育委員会委員長 西村俊一郎 記)
DX とは,デジタル技術を用いて人々の生活をより良いものへと変えていく取組みを指し,デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略である。医療のなかにDXがいろいろな形で普及し始めている。特にCOVID-19蔓延の状況における診療の制限が,DXの普及に一役かったことは間違いなく,遠隔による手術や患者モニタリング,アプリケーションを用いての健康管理など医療業界にDXがすこしずつ浸透してきている。本シンポジウムではいろいろな立場から実際にDXを医療現場で実践されている先生がたにご講演いただくことで医療におけるDXの現状と未来について討議した。
まず,外科の立場から京都大学産婦人科教授の万代先生からご講演をいただいた。主な外科手術の原型は全身麻酔が導入されてからの100年程度の間に確立され,現在に至るが,20世紀末に腹腔鏡手術が導入されて,一気に外科手術は変化を遂げた。腹腔鏡手術はもともと低侵襲手術として開発され,当初は開腹術より制限が多くリスクも高かったが,機器の改良とともに拡大視野で丁寧な手術が可能となり出血量や手術成績自体も開腹術を凌ぐようになってきている。また腹腔鏡に20年遅れて導入されたロボット手術は昨今急速に進歩した。両者はともに低侵襲手術に分類されるが,本質的に異なり,前者は画面を見ながら術者が鉗子を直接操作するのに対し,ロボット手術では離れた位置にいる術者が患者の腹腔内をモニターで見ながら,コンピューターを介してロボットの操作を行うものである。コンピューターの介在手術としての面が今後の発展につながる可能性を秘め,その一つの例が遠隔手術である。医師の少ない僻地においても遠隔地から指示をすることでロボット手術が行える可能性がある。技術的な問題(物理的距離による画像送付のおくれなど)はデジタル技術の進歩により革新的な改善を遂げていることが提示され,日本外科学会を中心に本格的な遠隔手術の導入を目指した実証実験が繰り返されていることなどが示された。
また,バーチャル手術教育についても触れられ,様々な精度の高い手術教材の開発によりよりリアルなモデルを用いた教育が行えるようになったことで患者に負担をかけることなく手術教育を行うことが可能となりつつあることが示された。
DXの進歩が外科の手術の現場においても大きな役割を果たし,今後の発展がますます期待できると考えられた。
つづいて,慢性疾患における管理に遠隔的なモニタリングの有用性を提案する内容で内科の立場から二つの演題が話された。一つ目は糖尿病の治療におけるDXの役割について京都府立医科大学内分泌代謝内科学の濱口真英先生からご講演いただいた。米国糖尿病学会の2022-23年の Consensus Statementsでデジタルデバイスや人工知能を用いた診療の有用性に関する論文が多数引用されており,COVID-19のパンデミックにおいても遠隔診療の有用性に関する報告が相次いでいること,また,府立医大の糖尿病外来におけるデジタルデバイスを用いた患者管理について報告いただき,特に持続性血糖モニタリングを行う症例においての血糖管理における有用性が示された。
また現行の保険制度におけるデジタルデバイスを用いた診療に関する解釈についても触れられた。本邦では医薬品医療機器統合機構(PMDA)が医療機器プログラム(SaMD)として医療保険に関する相談をうけているが,SaMDとして薬事承認されているデジタルデバイスは限られていて,糖尿病治療においてはまだ存在しない。一方でNonSaMDと呼ばれる健康ソフトウエアは多数存在する。これからこのようなデバイスやソフトウエアが社会実装されていくためには保険の整備などの取組みが必要であることなどについて述べられた。
最後に洛和会音羽病院の栗本律子先生から京都府立医科大学循環器内科の関連病院を中心として行われている京都心不全ネットワーク協議会の取組みについてご説明をいただいた。近年,高齢化にともない慢性心不全患者が増加しており心不全パンデミックと呼ばれている。再入院を繰り返しながら進行している経過をたどるため再入院の予防は心不全診療の重要な目標の一つである。心不全診療における多職種連携(チーム医療)の重要性は言うまでもないが,地域全体としてチーム医療の質を高めていくことが重要で,どの病院に入院しても均質な治療を受けられるようなシステムづくりが必要である。京都の心不全予後改善を図る目的で2019年8月に京都心不全ネットワークが発足し,現在京都府内24病院と循環器内科を標榜する15クリニックが参加している。
共通の患者指導ツールである心不全手帳についてご紹介され,患者のセルフモニタリングと,それを踏まえた受診行動の重要性について触れられ,心不全ポイントを用いた管理について述べられた。また適切な受診行動につなげるために,できるだけリアルタイムに医療者が状態把握することの重要性,それを実現するためのICTの利用について府医の協力を得てWEB版の心不全手帳の運用についても述べられた。
最後に主たるモニタリングの指標である体重,心電図,症状に着目してオムロンヘルスケアとの共同研究の一端についても触れられ,できるだけ自動的に患者をモニタリングするシステム,ひいてはその結果を踏まえたマネジリングがDXにより実現可能となることが望まれるとした。
最終討論で,医療DXにおける問題点(患者のデジタルリテラシー,個人情報保護,保険収載までの期間における介入システムのコストなど)を含めた複数の問題について議論がなされ,今後の医療DXの発展を地域でも支援していくことに合意を得て終了となった。
それぞれの立場から医療DXにおける現状や問題点に触れていただき大変参考になる講演であったことを述べて,まとめとしたい。
(学術・生涯教育委員会 委員 白石 裕一 記)
今年度,新たな企画として,若手医師,勤務医,開業医の交流の一環となるよう「Re-1グランプリ」,「臨床研究道場」を実施した。
Re-1グランプリは,「京都府が誇るエース指導医が〇〇を学び直してみた」をテーマに掲げ,研修医への教育のみならず,若手指導医自身が学び直しを行う企画である。工夫を凝らしたレクチャーとユニークな演出に,会場では立ち見が出るほど盛況となった。オンラインでも多くの視聴があり,オンライン投票による“最もよかったレクチャーを行った指導医”には京都第二赤十字病院の瀧上雅雄先生が選ばれ,松井府医会長から「教育情熱賞」が贈られた。
司会:京都府立医科大学
舞鶴医療センター
松原 慎氏
松村うつき氏
(臨床研修担当理事 加藤 則人 記)
臨床研究道場は,研究や学会発表,論文作成といった学術活動を支援する試みで,京都大学人間健康科学系専攻 臨床研究開発学 特定助教の比良野圭太先生が研究立案や解析,解釈のポイントについてマンツーマンでサポートした。
当日は,臨床研究等の指導を受ける機会を持ちにくい開業医やへき地医療に携わる医師,臨床研究に課題を感じている勤務医などが受講し,受講者の感想からは満足度の高さがうかがえた。
今後も,会員の学術活動支援の一環として,また若手医師のリサーチマインドの育成に少しでも寄与できるよう,このような機会を設けていくことを模索したい。
(臨床研修担当理事 堀田 祐馬 記)
松井府医会長の挨拶に続いて,令和5年度学術賞および学術研鑚賞の表彰が行われた。
京都府医師会学術賞は過去1年間に「京都医学会雑誌」に掲載された一般応募論文の中から,学術・生涯教育委員会委員と勤務医部会正副幹事長の投票によって選定された論文に授与されるものである。1位論文1編に30万円,2位論文1編に20万円,3位論文1編に10万円,症例報告賞1編に10万円,新人賞5編に5万円の賞金と賞状が授与された。学術研鑚賞は前年度中に学術講演会等に率先して出席し,日医生涯教育講座の取得単位数の多い会員を表彰するもので,京都市内および乙訓・宇治久世会員は70単位以上,亀岡市,南部(綴喜・相楽),北部(船井・綾部・福知山・舞鶴・与謝・北丹)地区会員は50単位以上の取得者を対象とし,京都市内・乙訓・宇治久世より40名,北部より11名,南部より5名の計56名が選ばれた。
学術賞および学術研鑚賞の受賞者は以下のとおり。
(敬称略・所属は当時のもの)
森島 正樹(中 西),赤城 格(山 科)
赤城 光代(山 科),今林 丈士(宇 久)
伝 俊秋(左 京),細谷 泰久(左 京)
田中 進治(中 西),岡江 俊二(右 京)
大林 敬二(伏 見),上田 通章(宇 久)
川喜多繁誠(下 東),落合 淳(伏 見)
長谷川雅昭(宇 久),福田 昌義(山 科)
景山 精二(右 京),島田 正(宇 久)
山下 琢(下 西),西尾 雅年(伏 見)
矢野 豊(伏 見),竹中 健(西 陣)
松山 南律(伏 見),畑 幸一(乙 訓)
大森 浩二(下 西),十倉 孝臣(左 京)
谷澤 伸一(山 科),古知貴恵子(山 科)
佐々木善二(伏 見),林 誠(西 陣)
野見山世司(中 西),中川 卓雄(伏 見)
辻󠄀 俊明(西 陣),藤田 祝子(下 西)
西川 昌之(左 京),若林 寛二(山 科)
松原 英俊(下 西),杉原みどり(西 陣)
神山 秀三(右 京),畔柳 彰(下 西)
塚田 英昭(西 陣),太田 光彦(伏 見)
西村 茂(福知山),肥後 孝(舞 鶴)
池田 義和(北 丹),冨阪 静子(福知山)
松山 徹(福知山),竹下 一成(福知山)
宮地 高弘(与 謝),木村 茂(船 井)
味見 真弓(与 謝),中江 龍仁(北 丹)
髙塚光二郎(舞 鶴)
黒田 雅昭(相 楽),飯田 泰啓(相 楽)
飯田 泰子(相 楽),山口 泰司(相 楽)
三好 雅美(綴 喜)