2023年10月15日号
令和5年度近医連定時委員総会が9月3日(日),滋賀県医主管のもと,びわ湖大津プリンスホテルで開催され,近畿各府県医から220名が参加,府医からは役職員32名が出席した。
午前中に行われた分科会では,第1分科会「医療保険・介護保険」,第2分科会「災害医療」,第3分科会「医療従事者の安全確保」に分かれて各府県医で議論を交わしたほか,併せて常任委員会も開催された。
午後から開催された総会では,委員長や来賓等からの挨拶の後,令和4年度会務報告が行われるとともに,議事では令和4年度決算,令和5年度事業計画・予算がそれぞれ可決・承認された。
その後,「第1分科会」において検討された決議案が提出され,採択された(全文はこちら)。
総会終了後は,松本吉郎日医会長より「中央情勢報告」と題して,特別講演が行われた。
第1分科会では,令和6年度診療報酬と介護報酬の同時改定について,各府県から今回の改定で重要な点などを発言し,活発な意見交換が行われた。府医からは,濱島府医副会長,上田府医副会長,三木府医理事,内田府医理事,畑府医理事,尾池府医理事,角水府医理事,細田府医理事,武田府医理事,田村府医理事,西村府医理事が出席。日医からは松本日医会長,江澤日医常任理事が出席した。
はじめに江澤日医常任理事から,中央情勢の報告として,中医協等における改定に関する論点と日医が主張した内容の説明があった。
診療報酬改定の時期について,これまでの4月改定では,告示から初回請求までの期間が短く,医療機関やベンダの業務が逼迫して大きな負担がかかっていたことから,令和6年度診療報酬改定は6月に後ろ倒しすることを了承したと説明した。薬価改定は4月改定で変更がないと述べるとともに,介護報酬改定の時期は現時点では未定だとした。
また,外来医療については,かかりつけ医機能を評価する点数の議論や,不適切なオンライン診療が疑われる事例を受けて指針を遵守するための議論を行っているほか,在宅医療では,在宅専門医療機関や広域で在宅医療を提供する「メガ在宅」医療機関と,外来医療に加えて在宅医療を提供する医療機関では効率性が異なることを指摘し,評価のあり方について検討を求めているとした。
さらに,誤嚥性肺炎や尿路感染症の入院治療は,急性期医療ではなく,地域包括ケア病棟で対応すべきとの意見が支払側から出されたことから,看護配置が13対1であること等から対応できる救急医療には限界があると主張したことを説明した。
田村府医理事は,診療報酬の引上げが大前提だとし,物価高騰や光熱費の上昇等が医業経営を圧迫していることから,診療報酬改定のための財源の確保を強く求めた。
さらに,医療機関は物価高騰,賃金上昇などへの対応に加えて,新興感染症への備えとして感染対策が平時から求められていることから,医業経営を安定させるために基本診療料で評価すべきと強調した。また,かかりつけ医機能が発揮される制度整備にも触れ,診療科や開業,勤務医の別にかかわらず,個々の医療機関がそれぞれの機能に応じた役割を果たし,医療機関同士の連携によって,地域医療を面で支えることが必要だと述べ,幅広い医療機関がその機能を果たすためにもその評価は加算ではなく基本診療料の引上げが望ましいと主張した。
各府県からも物価高騰,賃金引上げに対応するために基本診療料の引上げを求める意見が相次いだほか,入院時食事療養費の増額を求める意見もあった。
これらの意見を受け,江澤日医常任理事も基本診療料の引上げの重要性を強調し,年末の予算編成に向け,財源確保につとめると述べた。
また,介護報酬改定については,西村府医理事が LIFE の活用等が要件に含まれる加算について言及し,データの入力にあたる職員の負担が増え,環境設備や残業代など事業所の費用負担も増大していると指摘し,加算の引上げが必要だと訴えた。また,LIFE の必要性について,厚労省からの説明が不十分であったことから,介護現場の職員が十分理解していない面があるとした。
各府県からは,介護職員改善加算,看護職員等特定処遇改善加算,介護職員等ベースアップ等支援加算について,評価体系や要件等が複雑で事務的な負担が大きいことから見直しを求める意見があった。
角水府医理事は,医療保険と介護保険の給付の調整は,患者の住まいが自宅か高齢者施設か,その施設の種類や配置医師か否かなどによって医療保険で請求できる項目が異なり,非常に複雑だと指摘した。今回の同時改定を契機に,わかりやすいものに見直し,簡易に算定可否を確認できる資料が提示されることが望ましいとした。
各府県からも同様の意見があり,江澤日医常任理事は複雑かつ不明瞭だという指摘に同意し,厚労省と対応を検討していきたいと応えた。
第2分科会では「災害医療」をテーマとして,主に災害発生時の対応策や協定の有無等とJMAT について協議された。府医からは谷口府医副会長,髙階府医理事,松田府医理事,市田府医理事,廣嶋府医理事が出席。日医からは松本日医会長,茂松日医副会長,長島日医常任理事が出席した。
各府県の行政,関係団体等との災害協定締結の報告を受けて兵庫県が,京都府や大阪府が報告した「十四大都市医師会相互支援協定書」について,大都市間だけの協定であって,その他の市町村は対象とならないのか?と質問するとともに,南海トラフ巨大地震による大津波が襲ってきた場合,大阪湾周辺は壊滅的となり,物資運搬は伊丹空港を拠点とすることが予想されるが,大阪側への陸路が整備されていないと指摘。これに対し大阪府は,府庁のある上町台地や阪大のある吹田市までは陸路輸送が可能との見込みを回答。髙階府医理事は協定書について,「十四の政令市に特化した協定である」とした上で,京阪神の大都市以外の市町村の災害時には,市町村から当該府県,当該府県から近隣他府県に協力要請するというルートを辿ることが原則であること,物資輸送路については国交省が尽力して陸路を整備しつつある状況を説明した。
第2分科会では,各府県が地域の実情に応じてJMAT 研修を実施している状況が共有され,各府県からは,近医連レベルでの実地研修会が開催されれば参加したいとの意向が示された。
髙階府医理事は,自治体が実施する総合防災訓練の内容が実際の災害訓練にあまり繋がっていない現状を報告し,今後は反映できるよう働きかけていきたいとの意見を示した。
また各府県から,「JMAT への登録は有志だけで良いのか」,「幅広いエキスパートに登録いただくのが望ましいのではないか」といった意見や「JMAT のことを認識していない自治体もある」との訴えがあり,JMAT 研修の実施や総合防災訓練への参加など,実際の活動を通じてアピールしていく必要があるとの意見があがった。
総括で長島日医常任理事は,「JMAT は,医師会の存在意義の1つでもあり,極めて重要な活動である」と強調。勤務医や研修医等に対しても入会のメリットとして捉えていただきたいとの期待を込め,各府県にさらなる協力を求めた。
「CBRNE 災害への対応について」の議題の中で大阪府は,令和7年に「大阪・関西万博」が開催されるため,行政に CBRNE 災害への対応を求めていることを報告するとともに,関西一円の医療機関にも啓発が必要と各府県医に協力を求めた。
髙階府医理事は,特にE(explosive:爆発物)による災害については開業医が関わる可能性が高いとして,ターニケットの使用方法等,初期対応の準備が必要との見解を示した。
総括の中で長島日医常任理事は,日医が「大規模イベント医療・救護ガイドブック」を改訂する予定であることを報告し,「地域の医師会組織としての取組」,「日常診療の中での対応」に視点を置いたものにするとの考えを示すとともに,これをテキストとした研修会を来年に予定していることを明らかにした。
要援護者・要支援者の把握状況について,「市町村や関係団体が把握している」として各府県医が把握していない状況であることが報告されたことを受け,茂松日医副会長は,災害に備えてあらかじめ要援護者・要支援者の情報共有する取組みを,行政と地区医で推進することを府県医が支援してほしいと求めた。
長島日医常任理事は,2021 年の災害対策基本法の改正で,個別避難計画の作成が市町村の努力義務となり,名簿作成にあたり地域医師会が参画すべきとされていると報告。「これは国の会議で私が強く求めて定められたので,各地域での実践をお願いしたい。実際に市町村と連携するのは郡市区医になるので,府県医がそれを支援していただきたい」と呼び掛けた。
第3分科会では,医療従事者の安全確保に関する事例共有と,その対策について,事前アンケートを元に各府県が発言した後,警察との連携体制などについて活発な意見交換が行われた。府医からは,禹府医副会長,小柳津府医理事,森口府医理事,米林府医理事,大坪府医監事が出席。日医からは松本日医会長,府医顧問の城守日医常任理事が出席した。
医療従事者の安全に関する医師会の取組みについて事前に行われたアンケートでは,医療従事者の危険察知能力の醸成のために各府県で実施される研修会事業や,安全確保に係る取組みの実施状況,相談窓口の有無,緊急通報システム導入の有無,そして警察との連携体制などについての質問があり,各府県から,実際に警察へ相談し介入に至った事例や,相談を検討した実例などが紹介された。
小柳津府医理事は,実際に警察へ通報に至った事例は把握していないとして,2010年から実施している医療メディエーター養成研修を紹介した。医療従事者の安全確保は,安心・安全な医療提供を担保する上でも重要な課題であるとの認識を示し,クレーム対応や防犯対策に警察との連携は重要であるとしつつも,京都府においてはこういった対策と同時にトラブルを未然に防ぐための対策が最重要として,医療安全文化の確立の一環でメディエーターマインドの醸成に取組んでいることを強調。患者との人間関係の構築や日常診療における患者対応などのコミュニケーションスキルを持つ医療メディエーターの養成実績を示すとともに,危機察知能力の醸成と実際の対応について研修会を開催し,会員の意識向上に努めていることを報告した。他府県からはメディエーターマインドの醸成は重要であるとの理解が示される一方で,医師の参加がより重要であるとの考えが示された。
その他,警察との連携体制構築については,各府県の殆どが連絡先の把握程度に留まり緊密な連携に至っていなかったことが明らかになった。
続いて,主務地である滋賀県医から医療トラブルの事例について情報提供があり,まず「診療所」でのトラブルが2例紹介された。2例はいずれも患者が手術等の医療行為に不満を覚え,管理者への恐喝や医療機関での居座りなどの迷惑行為に発展したが,そこで警察へ通報し介入した結果,鎮静化に至ったことが報告された。続いて「在宅」における事例では,訪問先で患者と職員が二人だけになることが多く,よりトラブルに発展しやすい状況であり,具体的には暴力・暴言・セクハラなどが挙げられ,被害を受けた場合には複数職員での訪問や,行政・警察等への通報を行うよう周知をしているとの説明がなされた。
「病院」における事例では,110番非常通報装置を設置している病院での通報利用に関する分析結果が示され,通報事例は主に救急室での発生率が高く,現行犯逮捕も1件あったと報告されるとともに,その他の対策として警察 OB の採用を挙げ,経験則による迅速な対応力が高く,職員への防犯教育にも役立つ点が強調された。
なお日医では,令和4年6月に警察庁長官に対し,医師会および医療機関への安全確保に資する警察からの支援を要請する文書を発出しているが,所轄署では定期的に人事異動もあり十分に引継ぎが行われないという課題もあることから,日医に対しては地区の連携が進むよう警察庁と連携し,定期的に通達できる体制づくりを求めた。
小柳津府医理事は,日医への要望として,医療従事者の安全確保のためメディエーターマインドの醸成は欠かすことができないとして,日医としても積極的な研修実施について協力を求めた。また,医療訴訟のリスク防止の観点から産婦人科領域における無過失補償制度である産科医療補償制度に触れ,制度導入により医療訴訟が減少した実績を踏まえ,産科以外への制度展開についても検討を求めた。
その他の府県からは,応招義務について,信頼関係が破綻している場合,医師は診察を拒むことができるという考えが示されているが,破綻とする基準として拒否する際の手段をマニュアル化してほしいとの要望や,クレームやハラスメントにより医療従事者が病欠や退職を余儀なくされる状態は医療提供体制に支障をきたし,ひいては国民に不利益が跳ね返る点を強く発信するよう求めた。さらに安全確保に関する法整備や安全確保体制整備に係る諸費用の補助についても要望があった。
城守日医常任理事は,メディエーター研修について,日医でも養成が進められており,今後も一定の抑止力としてメディエーターの養成は重要になるとの見解を示した。応招義務の免除に基準を設ける点については,一定の判断の拠り所は必要であり,指標として示すことができないか会内にて検討するとの考えを示しつつも,基準を設けてしまうと現場判断の幅を無くす可能性があるとの危惧を述べた。
その他,今回取り上げられたトラブル事例についても触れ,民事で医療に起因する場合,日医医賠責の対象となることから,拙速な交渉は絶対に行わず,都道府県医の医賠責担当へ連絡の上で対応にあたるよう,改めての会員への周知に協力を求めた。
決 議
令和5年5月8日をもって新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類へ引き下げられ,日本の社会は以前の日常を取り戻しつつあるものの,流行再燃の様相を見せている。
コロナ禍を利用してなし崩し的に導入された初診からのオンライン診療は,医療の商業化への危険性を孕んでいる。また,多様化する医療・介護ニーズに対応するためには,地域の実情に沿ったシステム作りが重要であるにもかかわらず,医療 DX の基盤となるオンライン資格確認システムやマイナ保険証の拙速な導入が,医療現場に大きな混乱を引き起こしている。医療・介護の質を担保するためには,対面診療を基本とした医療の原点に立ち返り,かかりつけ医として,患者が求める安心安全な医療・介護の提供及び,新興感染症流行時や大規模災害発生時における的確な医療提供の体制を構築することが必要である。
我々医師会員は,国民皆保険制度を堅持し,国民の健康と医療を守るために一致団結することで,国と国民に対する発信力を強化しなければならない。
従って,政府に対して以下の点を強く要望する。
記
一,医療の原則である対面診療を重視した診療報酬体系とすること
一,新型コロナウイルス感染症対策の総括と今後の新興感染症流行時や大規模災害発生時に迅速に対応できる体制作りを行うこと
一,医療 DX の推進は経済効率優先ではなく,質と安全を担保し,地域の実情に沿って進めること
一,患者各々に寄り添った「かかりつけ医」であり,国民のフリーアクセスを制限する「登録制」にはしないこと
一,少子化対策の財源として国民の健康,安心安全な医療,国民皆保険制度を守り維持するための財源を削減しないこと
以上,決議する。
令和5年9月3日
近畿医師会連合定時委員総会