2023年10月15日号
9月2日(土)各専門医会長との懇談会がウェスティン都ホテル京都で開催され,専門医会から16名,府医から26名が出席。松井府医会長の挨拶に続き,専門医会長からの自己紹介が行われた後,「骨太方針2023を読み解く」をテーマとして,日医常任理事の城守国斗氏より講演が行われた。また,専門医会長から事前に提出のあった意見・要望について意見交換が行われた。
日本医師会常任理事 城守 国斗氏
骨太方針2023について,診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定,かかりつけ医機能の制度整備,医師の働き方改革などの項目を中心に説明された。
~次期診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定~
骨太方針2023には,「次期診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定においては,物価高騰・賃金上昇,経営の状況,支え手が減少する中での人材確保の必要性,患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ,患者・利用者が必要なサービスを受けられるよう必要な対応を行う」と明記され,当初の原案からは若干緩やかな記載となったが,年末の予算編成に向けて予断を許さない状況が続く見込みである。
日医としては,これまでも物価高騰が医療機関の経営に甚大な影響を及ぼしているとして,政府に支援策を要望。昨年9月に6,000億円規模の新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金に加えて,本年3月には,本交付金の増額(1兆2,000億円)が決定され,推奨事業メニュー(7,000億円)において,「医療機関・介護施設等に対するエネルギー・食料品価格の高騰分などの支援」が事業者支援の筆頭に位置付けられた。
一方で,医療従事者等への賃上げ等への対応については,診療報酬・介護報酬という公定価格により運営する医療機関等は,物価高騰,賃上げを価格に転嫁することができないため,診療報酬による対応は重要であるとの認識のもと,財政措置を要望している。
少子化対策として必要となる追加財源(3兆5000億円)は,国民に実質的な追加負担を求めず,社会保障費の歳出削減で財源を捻出する方針であり,従来の1,800億円から2,000億円の圧縮に加えて削減される見通しであり,診療報酬改定の争点になる。
その他,令和6年度トリプル改定に大きな影響がある事項について,「入院時食事療養費の見直し」や「認知症薬(レカネマブ)の保険適用範囲」,「長期収載品の自己負担のあり方の見直し」,「後期高齢者の2割負担の範囲の見直し」や「国民健康保険の保険料上限の見直し」など厳しい攻防となることが予想される。
~かかりつけ医機能が発揮される制度整備の実効性をともなう着実な推進~
骨太方針2022には「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」と記載されていたが,骨太方針2023では「かかりつけ医機能が発揮される制度整備の実効性を伴う着実な推進」との記載になり,今後検討会が設置され,議論が進められる予定である。
日医は,令和5年2月15日の定例記者会見において,「かかりつけ医はあくまで国民が選ぶものである。国民にかかりつけ医を持つことを義務付けたり,割り当てたりすることには反対である」,「診療科別や専門性の観点から複数のかかりつけ医を持つことも多く,かかりつけ医は複数であることが自然である」など8項目を中心に考えを示しており,今後設置が予定されている会議体においても,この考え方を基本に主張する。
~医師の働き方改革の推進~
令和5年6月7日開催の内閣府第8回経済財政諮問会議で示された原案では,「医師が不足する地域への大学病院からの医師の派遣の継続を含む」と記載されていたが,大学病院からの強い要望を受け,「医師が不足する地域への大学病院からの医師の派遣の継続を推進する」との記載に変更されている。
医師の働き方改革では,医師の健康確保と地域医療の継続性の担保の2つを両立することが重要であり,医療の質の維持・向上という重要な課題にしっかりと取組むことが必要である。
そのような状況下で,規制改革推進会議(ナースプラクティショナーに関する議論)において,日本看護協会は,在宅現場において医師と連絡を取ることが難しいことを引き合いにして,看護師が診断・処方を行う新たな資格が必要と主張している。
日医としては,新たな資格創設のニーズが不明であること,新たな資格制度を創設せずとも現行の特定行為研修を推進することで解決可能なことと併せて,医療安全の観点からも認めることはできないと反対している。
骨太方針には記載されなかったが,規制改革実施計画に「限定された範囲で診療行為の一部を実施可能な国家資格であるナース・プラクティショナー制度を導入する要望に対して様々な指摘があったことを適切に踏まえるものとする。上記検討の間においても,離島・へき地等において特区制度を活用した実証の提案があった場合は,その結果を踏まえて所要の対応を行う」とされているため,今後も注視していく必要がある。
~医療 DX ~
医療 DX は,全国医療情報プラットフォームの創設,電子カルテ情報の標準化,診療報酬改定DX の3つの柱であるが,日医は,「拙速に進めて医療提供体制に混乱・支障を生じさせない」,「国民・医療者を誰一人取り残さない」,「医療機関のサイバーセキュリティ対策」など問題点を指摘するとともに,システム導入や維持費等の費用を国が負担するよう主張している。
マイナンバーカードと健康保険証の一体化について,紐づけ誤りなどのトラブルが生じたため,国民の不安が高まっていることに対しても,引続き丁寧な対応を要請している。
~医療政策実現のためには~
日医が求める医療政策を実現するためには,医師会組織率を高めていくことにより,医師全体の要望であると受け止められるとして,組織力強化とともに医政活動の重要性に理解を求めた。
今後も日医は医療現場の意見を厚労省に政策提言し,法改正が必要な場合には国会議員の協力を得て政府に働きかけをお願いしているとして,会員各位の協力を求めた。
各専門医会から,「会議室の使用」,「専門医会事務局の業務量」,「学術講演会の実施」,「専門医による専門診療の保険診療上の評価」,「ピロリ菌感染診断」,「乳幼児健診機会の増加」,「新生児マススクリーニング検査の充実」,「HPV ワクチンの接種率向上」等に関する意見・要望が出され,各担当役員より回答した。