「令和6年度診療報酬改定の課題と今後へ向けて」

 9月14日(土),各専門医会長との懇談会がホテルオークラ京都で開催され,専門医会から18名,府医から23名が出席。松井府医会長の挨拶に続き,各専門医会長から自己紹介が行われた。
 今回は江澤和彦日医常任理事を講師に招き,「令和6年度診療報酬改定の課題と今後へ向けて」をテーマに講演が行われた。その後,活発な意見交換および専門医会からの情報提供が行われた。

令和6年度診療報酬改定の課題と今後へ向けて

日本医師会 常任理事 江澤 和彦氏

江澤日医常任理事

 今回の令和6年度診療報酬改定について,中医協における協議の経過や支払側とのやりとりを交えて各点数の詳細を解説するとともに,今後の課題に対し,医師会としてどのように対応していくかについて提言がなされた。

~令和6年度診療報酬改定について~
 2024年度の予算編成に向けて令和5年11月に財務省の財政制度等審議会(以降,「財政審」)がまとめた「秋の建議」では,財務省の実施した機動的調査において「診療所の経営状況が良好である」との結果が示されたことを理由に,診療所の報酬単価を初・再診料を中心に5.5%程度引下げ,マイナス改定とすべきとの主張がなされた。これを受けて,日医はすぐに反論し,財政審が示した機動的調査の結果は新型コロナの影響で落ち込みの激しかった2020年度と比較して大幅に利益が上がったとする極めて恣意的なデータであるとして,物価高騰や賃上げに対応するためには大幅な診療報酬アップなしには成し遂げられないと主張したところから議論がスタートしたと振り返った。
 令和5年12月20日の大臣折衝を経て,令和6年度診療報酬改定率が「+0.88%」に決定したものの,中医協ではその配分の決定のみで,改定率や大臣折衝の内容の変更については権限がない上に,「0.88%」の内訳として「看護職員その他医療機関職種について,ベアを実施していくための特例的な対応」に「+0.61%」,「入院時の食費基準額の引上げの対応」に「+0.06%」,「生活習慣病を中心とした管理料,処方箋料等の再編等の効率化・適正化」に「-0.25%」等の附帯が明記され,非常に限られた範囲で配分の議論を強いられることになったと説明した。
 前回診療報酬改定時のリフィル処方をはじめ,この大臣折衝の附帯に明記されたものは必ず実行されるため,医療機関にとって不都合な内容を記載させないことが重要であるとし,実際に明記された場合には,実診療への影響ができるだけ小さく,医療現場に支障をきたすことがないようにという視点で協議に臨んでいるとした。
 今回の改定では,大臣折衝の附帯に「生活習慣病の管理料の再編」が明記されたことから,管理料のマイナス改定の議論は避けられず,いかに点数を守り,その影響を小さくするかが争点であったと振り返り,併せて支払側が主張した「外来管理加算の廃止」については,今回は守ることができたものの,引続き外来管理加算を標的として攻勢を強めてくる可能性が高いとの見方を示し,今後も適切に対応していきたいとした。

~今後の診療報酬改定に向けて~
 今回の改定の柱となっているベースアップ評価料に関して,その手続きが煩雑であるとして特に診療所での算定が低調であることから,より多くの医療機関において算定されなければ,次回の診療報酬改定では厳しい状況になることが予想されるとした。そのため,すべての医療機関で算定し,職員の処遇改善につなげていただきたいと述べ,施設基準の届出等については簡素化が図られているとの情報提供とともに,日医が配信している「ベースアップ評価料の届出に際して役立つ情報」の活用を呼びかけ,さらなる周知が必要であるとして協力を求めた。
 また,医療DXへの対応ついては,今後,様々な状況や医療機関での実態等をみながら進めていく必要があると述べ,イニシャルコストについては補助金が拠出されるものの,ランニングコストについては各医療機関任せとなっている現状を問題視し,引続き主張していく考えが示された。
 今後,次回診療報酬改定に向けて,長期処方およびリフィル処方,在宅医療,医療DXの状況等,令和6年度診療報酬改定の答申書附帯意見を踏まえた調査項目についての特別調査を通じて,今回の改定結果を検証した上で,医療現場からの意見や要望を踏まえて対応していきたいとした。
 最後に,今後の診療報酬改定の議論において医師会の意見を反映させていくためには,医政活動がますます重要であり,医師会として組織力で対応していく必要があると強調し,講演を締めくくった。

 その後の意見交換では,近年の診療報酬改定について,財政審の「建議」から議論がスタートし,その建議に医療側が応えるという構図になっており,財務省主導で議論が進む傾向が強まっていることに懸念が示されるとともに,患者と直接向き合う医療側からも現在の医療の問題点等をまとめた「建議」を同時期に発出してはどうかとの意見が上がった。
 江澤日医常任理事は,「機動的調査」をもとに財務省が示すデータがいかに恣意的であるかを説明しつつ,重要な案件ほど政治決着で決まることから,平素からの医政活動を通じて医師会が考える医療政策に対する理解の深化を図っていくことで,財務省の論調を封じていくことが大事であると述べ,改めて医政活動の重要性を訴えた。
 松井府医会長は,医師偏在を是正する方策として「地域別診療報酬」の導入が提案されていることについて触れ,医師過剰地域において1点単価を引下げることによって医師少数地域での開業を促すという考え方に改めて疑問を呈し,「医師の偏在対策」の名を借りた医療費抑制政策であると断じた。
 さらに,開業医が増えると医療費がかさむとの考えから,医師の新規開業に制限がかけられることに懸念を示し,これからの医療を担う若い医師たちの選択肢が制限されることがあってはならないと訴えた。こうした動きに対し,日医では,「組織強化」を課題として組織率の向上に取組んでいることを紹介し,各専門医会においても若い先生方の入会促進に協力を求めるとともに,若い医師たちを守るためにも,今後の医師偏在対策の議論の方向性を注視していく必要があるとした。

専門医会長からの情報提供

 眼科医会からは,「アイフレイル対策」の取組みを全国的に進めていくことが報告された。
 また,耳鼻咽喉科専門医会からは,「難聴」についての取組みを強化していくことが紹介され,各診療科の先生方に対して,患者への啓発パンフレットの配付に協力が呼びかけられた。

2024年12月1日号TOP